(短編集)
憎悪渓谷
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本書は1972年3月サンケイ新聞社出版局から初出版されたもので、1995年12月徳間文庫から再出版されたものです。6作目の「闇の欠陥」は、犯人探しのクイズになっています。小説の中に瑕疵が有るので、それを探しなさいという趣向の面白い作品です。 「憎悪渓谷」 石井明人が、級友の梨本順也の紹介で、K渓谷奥ノ湯旅館へ向かったのは、十月である。K渓谷へ入る道は、悪路で一般人を寄せ付けない難所だった。それが最近、難所にトンネルが開通し、日本中から観光客や登山客が押しかけるようになった。奥ノ湯旅館では、大量におしかける宿泊客に対応するため、大学生のアルバイトを呼び寄せた。臨時雇いとして業務を手伝ってもらう。大学の夏休みと冬休みが、奥ノ湯旅館の繁忙期と同じ季節なのも都合が良かった。石井も、その一人だったが、思いもかけない殺人事件に巻き込まれてしまう。奥ノ湯旅館206号室で、アルバイトの大場弥一(22才)東京城北大学経済学科(2年)の死体が発見された。部屋は、凄惨な血の海だった。地元署の捜査員が駆け付け、捜査が開始された。通りすがりに殺人が起こる立地でも無いため、当然、犯人は、内部の従業員に絞られた。石井の他に、田宮昌子(20才)東京T女子大国文学科(2年)、坂本正太(23才)浪速大学英文学科(4年)、吉野清子(21才)名古屋明城大学英米文学科(3年)、井戸弘(23才)東京城南大学法律学科(3年)、山本静子(20才)東京A女子大家政学科(2年)の六名である。この中から犯人探しが始まる。六人の一人、山本静子は、クィーンやカーの古典推理小説が大好きで、社会派の推理小説や、企業悪の暴露小説や、捜査報告書の様になってしまったものは嫌いだった。これは、森村氏が自分の作風を自虐的に言ったものだ。本作品は、本職の警察官、刑事が活躍するのでは無くて、アルバイト大学生六人が推理しながら犯人探しをする形になっています。いつもの社会派的な感じとは、違っていて面白い。 「蟻の競争」 T大法学部出身で在学中に司法試験に合格したほど法律に詳しい浅田伸男は“大日モータース”に入社した。大日モータースは戦時中飛行機メーカーH航空機の流れをくむ“大日精機”が自動車メーカーへ転身したものだった。本社の浅田は同期入社で出身校も同じ大庭常久から「経済研究会」に出席しないか?と誘われる。大庭は常に浅田をライバル視していたので浅田はあまり気が進まなかった。三金会は毎月第3金曜日の夜に集まることから付いた名前だ。森村氏は他の作品でも度々登場させている。ただの飲み会程度と思って出席した浅田だが、それは松原副社長の松原派の集まりだった。しかし、社内には松原派の他、現社長の大野派と専務の大門康次の一派があった。三派は時期社長の座を狙って相手方の派閥の足を引っ張り合うことだけを考えている。蟻の努力にも劣る、恐ろしくも情けない人間たちの集まりだった。 「稚い殺意」 “星渓寮”は、菱井商事の中堅管理職用の社宅である。都心から一時間の武蔵野の面影の残る閑静な環境の地域にある。日本の代表的な商事会社の幹部職の寮だけあって、至れり尽くせりの設備である。都心のデラックスホテルにも劣らない。各戸3LDK、セントラルヒーティングの暖房と冷房で、広いリビングを備え、地域の人は“菱井御殿”と呼んでいる。課長代理の早野智彦の一家は、大阪支社から東京本社へ転勤となり、専用住宅に空きが無く“星渓寮”へ入れられた。そこから悲劇が生じた。課長以上でなければ入居できないのに、早川が入って来たから先住居者は、面白くない。社宅の厭らしさは、夫の会社での地位が、家族間にもろに反映するところにある。課長夫人は、部長の奥さんに頭が上がらない。ヒラの子は、課長の子の家来となる。それらの関係は、社宅にいる時だけでなく、近くのスーパーや病院でたまたま会った時でも変わらない。子供たちが、学校や幼稚園に行っても上下関係は、継続される。子供の遊びというものは、本来サド的なものがある。苛める対象があると最高に面白い。早野の長男、辰夫が通う幼稚園に、課長の息子、則男がいた。社宅(会社)での上下関係が起こした幼い幼稚園児の悲劇の物語。 「厄除け社員」 大石電機の社長、大石長衛は、人事課長に北川を“お守り”にしようと言いだした。大石は、近代的な企業の経営者でありながら、多大な“御幣かつぎ”(つまらない縁起や迷信を気にかける)である。占いだの数霊だの方位だのと非科学的な判断を無視できない。北川恭一には、不思議な能力があった。小学生の頃に、四台のバスで近郊へ遠足に行った時、がけ崩れに巻き込まれ、三台は岩石に吞み込まれたのに、北川が乗ったバスは無事だった。高校生の時、友人たちとスキーツアーに行った時には、大きな雪崩が発生し仲間と共に巻き込まれたが、この時も北川だけが助かった。大石電機に入社して、販売代理店の招待旅行の交通機関の担当になった。北海道へ向かう飛行機に参加者を誘導するのにてこずり、予定の飛行機に乗れなかった。参加者は、北川を激しく責めたが、予定の飛行機は、エンジントラブルで墜落してしまったのだ。他にも、こういった事例は、たくさんあった。そこで、大石は、北川を自分の出張に連れて行けば、万一の事故から身を守れると思ったのだ。社長と一緒に全国を周り、時には、海外にも渡航する。しかし、二人同時に事故にあった時、どちらが助かるかはハッキリしている。社長の誤算。 「七日間の休暇」 井川賢の生涯を綴った物語。前半と後半で二つの話になっています。井川には、父親がいなかった。母親のマサが、女手一つで井川を育てていたが、とても貧しかった。雑役婦や家政婦といった仕事では、社会で生きていくための十分な収入は得られない。幼少期の貧しい思いは、そのまま社会へのコンプレックスになった。学校へ通うのも、職に就くのも放擲した。日雇い仕事で賃金を得たが、金のあるうちは、働かない。無くなったら、又、働けば良いくらいに思っていた。責任も思考も要求されない日雇いの仕事。そんな生き方が、北川は、適した生き方だと思った。だが、十九才の時、北川に転機が訪れた。それは、昔、飯場で一緒に働いたことがある“サキ”と再会した事である。“サキ”と呼ばれていただけで、正確な名前は知らない。“サキ”は、当時の様子とは違っていた。健康そうに日灼けして、スーツを着ている。金もかかっていそうだ。“サキ”は、井川の身なりを見て、新しい仕事を井川に紹介した。井川は、“サキ”の変身ぶりから、裏社会に潜む仕事ではないかと訝しく思うが、“サキ”の言った事は、全く違っていた。それは、米軍の戦略物資輸送船の乗組員として働く事だった。話は、ベトナム戦争が起きていた時代の話だ。ベトナムへ戦略物資を運ぶ船に乗り込むのだ。給料は良い。一回の渡航で六十日。七日間の休暇をとって、二回目の航海に乗り込む契約をすれば、給料は、五割り増しになった。食事は、三食保障される。着る物も制服を与えられるので困らない。元々、社会に背けていた北川だったので、この新しい世界に興味を持った。“サキ”と共に、ベトナム行の船に乗り込んだ。ここまでが、前半の話。珍道中の話が、ユニーク。井川は、一回目の六十日の航海を終えて、日本に帰って来た。今まで持ったこともない大金を持って。横浜港に着いて、東京に出た。井川には、ある目的があった。それは、東京に聳える超高層ホテルの最上階に泊まる事だった。船旅で狭い船員ベッドで何日も寝ているうちに、両手両足を真っ直ぐ伸ばして寝てみたいと思った。それも、最高級ホテルのベッドで。金は、持っている。日雇い時代は、それらのデラックスホテルは、別世界の物だと思っていた。でも、今は違う。ところが、ホテルへ着いて宿泊を頼むと、満室だからと言って断られてしまった。それも、そうだ。予約も無しに、いきなり泊まれない。また、洗練されたスーツやドレスを着ている、ホテルの客たちとは、まだまだ身なりも異なる。別のホテルを探しても、又、同じ様な屈辱を味あわされるのは、耐えられない。失意のうちに夜の都心を行く当ても無く歩いていると、運も悪く雨が降ってきた。その時である、一台の車が雨の飛沫を弾きながら飛ばしてきたのだ。雨の夜にスピードを出して走る車に、憎しみの目を向けた。すると、その車の前に黒っぽいレインコートを着た女が、傘を傾けて道路を横断してきた。車は、ブレーキを掛けたが間に合わない。凶暴な獣が無抵抗の獲物に突っ込んで行った。悲鳴と物体のぶつかり合う無残な音がした。女は跳ねられた。ところが、車は、その機動性に物を言わせ、闇の中に遠ざかってしまった。轢き逃げだ。犯人を逃してしまったので、井川は、被害者の方へ駆け寄った。意識の無い被害者を抱き上げ、頬を軽く叩くと気が付いた。意識は戻った、だが、驚く事に、女はどこにも怪我が無いと言うのだ。それは、奇跡的に良かったのだが、困った事が起きた。それは、女が、自分の名前も住所も過去も、全ての記憶を喪失してしまっていた事だった。勿論、交通事故が原因である。持ち物の中にも、身元が分かるような物は、何も無かった。この事故がきっかけとなり、井川の女が記憶を呼び戻までの七日間のロマンスが始まるのです。なかなか記憶が戻らない女の姿がもどかしく、井川が、少しずつ女に好意を寄せていく姿が絶妙に書かれています。この女は、前半で伏線として登場しているのも巧妙です。森村氏は、恋愛小説作家では無いので、ラストは悲劇で終わりになっています。 「闇の欠陥」 この作品は、小説ではない。ひとつのクイズである。日本推理作家協会新年会総会の恒例行事である“犯人あてクイズ”として森村氏が書いたものです。昭和四十三年度より、前年の江戸川乱歩賞受賞者が出題することになっていて、森村氏が「高層の死角」で乱歩賞を受賞したため森村氏が書く当番になったもの。通常は、誰が犯人か?を推理するのだが、森村氏は、一風変わった手法をとった。それは、倒叙形式で初めから犯人は分かっている。犯人は、完全犯罪を実行するのだが、何処かに、手抜かり(ミス)があるから、それを探しなさいと言うもの。作家ならではの、ユニークな楽しみかたですね。話は、大手T自動車の御曹司の玉の輿に乗った友子が、邪魔になった交際相手を自殺に見せかけて殺害すると言うストーリー。万全に思える完全犯罪なのだが、二つの手抜かり(ミス)があるので、それを探しなさいと言うのが森村氏の主旨。一問五十点で二問正解者が百点と設定している。“あとがき”で数々の迷答、珍答が続出して会場は、盛り上がったと書いている。普段は、原稿用紙に噛り付いている作家さんたちが、和やかに楽しんでいる雰囲気が伝わってきました。私は、二問とも分かりませんでした。 | ||||
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