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Tetchy さんのレビュー一覧

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レビュー数87

全87件 81~87 5/5ページ

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No.7:
(3pt)

どうしたんだ、シミタツ!?

雨の降る夜に拾った女、というドラマの1シーンを切り取ったかのようなベタな始まり方をする本書。しかし物語はなんとも行き当たりばったり感が拭えず、消化不良。シミタツ節もこれといって特に感じず、どうしたんだ!?と叫ばずにはいられない凡作。
題名からどうしても読んでいる最中にカーペンターズが流れてしまうのだが、全く内容とは関係がない。
オンリィ・イエスタデイ (新潮文庫)
志水辰夫オンリィ・イエスタデイ についてのレビュー
No.6:
(3pt)

世間の感覚と合わないのだろうか?

この『グリッツ』もレナードのレナードの傑作の1つとされている。

マイアミ・ビーチ警察のヴィンセント・モーラは強盗に撃たれ、プエルトリコで療養中だったが、そこである女性アイリスと懇意になる。一方、以前モーラが刑務所にぶち込んだテディが出所し、復讐を企んでモーラの身辺をうろつくようになった。
やがてアイリスはモーラの制止も聞かず、カジノ・ホテルへホステスになるために向かうが、2週間後、ビルから不審な転落死を遂げる。

確かにいきなり主人公が撃たれる導入部は一気に物語に放り込まれ、怪我の静養中の主人公を襲う殺し屋の存在などハラハラする要素もあるが、なんせこの主人公がやたら女にモテるので、あまり感情移入できない。
タフではあるが、それほどいい男に見えないだけどなぁ。
レナード物では珍しく刑事が主人公なのだが、その特長を十分に活かしているようには思えず、いつものレナードストーリーが繰り広げられるだけだ。
面白くなる予感はずっとあったんだけど、その予感だけで最後まで行ってしまった、つまりレナード作品にありがちな肩透かしを食らった、そんな感じだ。
どうもレナード作品に関しては世間の傑作という下馬評と私の求めている物とは大きな隔たりがあるようだ。残念。

グリッツ (文春文庫)
エルモア・レナードグリッツ についてのレビュー
No.5:
(3pt)

どうしてここまで捻るのか

『このミス』の過去のランキングを見ると、ランクインしたレナード作品の多くは文藝春秋社から出版されたものが多い。文春文庫のレナード作品を手に取ったときは扶桑社→創元推理文庫→HM文庫→角川文庫と渡り歩いてようやく本道に入った感があったものだ。
文春文庫のレナード作品は本作で出てくる主役の1人スティックが出てくるその名も『スティック』という作品が刊行番号が1番となっているが、当時私がレナードに手を出した時点で既に絶版となっており、これについては未だに入手できていない。数年後、私が海外に赴任して初めてその作品と遭遇する。先人の残した書籍の山にあったのだ。その感想については既に述べているのでそちらを参照されたい。
で、本作は文庫刊行番号2番の作品で、『スティック』の1つ前の作品となる。つまり原書の刊行は『スワッグ』の後に『スティック』となっているわけだ。エルキンズの作品の時にも述べたが、日本の出版社は手っ取り早く固定客を掴むために、その作家の有名作やベストセラーの作品を最初に訳出するという、シリーズ物を順番に読むことを好む読書好きにとっては非常に嫌な販売戦略がある。商売の原則から云えば、確かにそれが正しいのだろうけど、書籍販売が文化事業の一環であるとの認識から通常の商売の原理をそのまま適用するのとはちょっと違うところがある。まあ、この辺について語ると返本精度や価格固定販売にまで論が広がる恐れがあるのでこの辺で止めておこう。

ひょんなことで知り合った自動車泥棒スティックとフランク。一番手っ取り早く大金を稼ぐ方法を考えていたフランクはまた“成功と幸福をつかむための十則”という独自の成功哲学を持っていた。そして大金を稼ぎ、なおかつその十則を適用した酒店やスーパーを標的にした武装強盗を2人で組んで乗り出すことになる。
これが予想以上に上手く行き、たちまち生活が豊かになる2人。やがて野心家のフランクはさらにでかい勝負に出ようと特別なプランをスティックに明かすのだが、それが運命の分かれ目だった。

この武装強盗というアイデアはなかなか面白く、彼らがたちまち小金持ちになっていくあたりは痛快だった。しかし物語はレナードのこと、このままでは行かず、またもや予想外に、ひねって歪んで展開する。
ピカレスク小説としてこのまま描いて欲しかったというのが本音だが、それをレナードに求めてはやはりいけないのだろう。
また主人公の1人フランクに、感情移入できなかったのも私が本作の評価を低くすることにもなった。なんせ私のお気に入りキャラ、チリ・パーマーを読んだ後だから、その落差が激しかった。

しかしフランクという名前も多いな、レナード作品には。

スワッグ (文春文庫)
エルモア・レナードスワッグ についてのレビュー
No.4:
(3pt)

まだまだ発展途上の作品

レナードの作品にはある一定のテーマパターンがあって、その1つには夫婦関係というものがある。『マイアミ欲望海岸』では既に夫婦という関係が失われた後で、その呪縛に縛られる未亡人が物語の中心だったが、外から見るには何不自由ないと思われる夫婦、家族の間は実は冷え切っていて、そこに非日常性、つまり事件が介入することで今まで知らなかった自分、もしくはかつてそうであった自分を取り戻す、というのが隠れたテーマになっている。
で、この『ザ・スイッチ』はまさにその典型。

不動産会社を経営して裕福ながらもその関係は冷え切ってしまっていた夫婦。その妻が前科者2人組に誘拐される。2人の悪党は巨額の身代金を要求するが、事態は思わぬ方向へ進む。

まあ、冷え切った夫婦の片方が誘拐され、巨額の身代金が要求された時に夫はどうするかという、非常に人間くさいところを上手く突いたところが面白い。今の日本人ならば案外同調するところがあるかもしれないが、個人主義の発達したアメリカ人ならではの展開というところか。
そしてこの事件をきっかけに妻も変わる。題名どおり「スイッチ」が入るが如く。身内しか解らない夫の秘密を暴き、逆に攻め側に転じるのだ。
こういう物語のツイストこそレナードの真骨頂。しかしまだこの作品では本領が発揮されていないように感じた。

本書に出てくる悪党オーディルとルイスは後のレナード作品にも登場する。この三文悪党がけっこう気に入ったらしいが、私自身はどうにもピンとこなかった。はったりばかりが強くて、一本芯が通っていない、いわゆる背骨の無い連中だなぁというのが漠然とした印象。レナード作品に登場する悪党には妙なこだわり、マニアックな趣味という物を備えていて、それがキャラクター造形に一役も二役も買っているのだが、この2人にはそれが希薄。
誘拐事件をこのように展開するレナードの妙には感心はしたが、キャラクターが弱かった。『キャット・チェイサー』の後、続けて読んだ2作があまり琴線に響かなかったので、このときの私の心には微妙な空気が流れていたのだった。

ザ・スイッチ (サンケイ文庫―海外ノベルス・シリーズ)
エルモア・レナードザ・スイッチ についてのレビュー
No.3:
(3pt)

恐らく復刊はないだろう

フェル博士シリーズでは後期に属する作品で、比較的地味な作品である。私がカーの諸作を集めだした時はたまたま店頭に並んでいたが、現在では絶版で入手困難となっている。

大学で起こる数々のいたずら事件が次第にエスカレートし、しまいには殺人事件まで発展してしまう。しかもそれが密室殺人だというから正に純度100%のカーミステリと云える。
さらにカーはこの密室事件に更なる味付けを加えている。それはこの密室事件がウィルキー・コリンズが書き残した書簡に書かれた状況とそっくりだというのだ。

大学で頻発するいたずら騒動といえば、セイヤーズの傑作『学寮祭の夜』を思い浮かべるし、またいたずら騒動が事件の端緒になるという点では、同じくカーのHM卿シリーズであるバカミス『魔女の笑う夜』が挙げられる。
これら2つの作品は傑作・駄作と作品の質は違うものの、それぞれ印象強い特徴を持っているが、本作はなんとも上に書いた色々な趣向を盛り込んでいる割には凡庸であり、盛り上がりに欠ける。その最も大きな要因となっているのが解りにくい密室トリックの解説である。識者によれば本書のトリックの解説には明らかに訳者による勘違いの誤訳があり、それが読者の混乱を招いているそうだ。私もカーが今回やりたかったトリックは凡そ理解できたものの、果たして本当に出来るのかと懐疑的なところがあった。本稿を書くに当り、ネット書評家の感想を当ったが、それで合点が行ったくらいである。

さて後年カーは『血に飢えた悪鬼』でウィルキー・コリンズ自身を探偵役にしたミステリを著している。知っている方は多いと思うがウィルキー・コリンズは最初期の最長推理小説として名高い『月長石』の作者だが、この偉大な先達に対してカーは独自に研究をしていたのかもしれない。今となっては想像の領域を出ないが。
最初に長らく絶版となっていると書いたが、それは多分に上に書いた誤訳によるところが大きい。が、しかし改訳して復刊すべきほどの作品かと問われれば今まで述べたように首を傾げてしまう。恐らく当分この作品が復刊されることはないだろうと思われ、そうなると私の持っている本書はコレクターからしてみれば貴重な1冊となり、なんだか妙にこそばゆい感じがしたりしているのである。

死者のノック (ハヤカワ・ミステリ文庫 5-11)
ジョン・ディクスン・カー死者のノック についてのレビュー
No.2: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(3pt)

デビュー作にしてカーのエッセンスたっぷり

カーのデビュー作で、カー初期の作品で主役を務めていた探偵アンリ・バンコランが主人公。人狼の異名を持つ殺人鬼の噂漂うパリを舞台にした、カーの怪奇趣味が横溢した作品だ。奇妙な題名だが、これは人狼と呼ばれる殺人鬼が夜に犯行を起こしていたに起因する。

デビュー作にその作者の全てがある、とよく云われるが、正にこの作品は正鵠を得ており、前述したカーの怪奇趣味、そして事件も密室殺人とその後のカーの作家業の本質が既に表れている。
当時私は文庫の発行順に読んでいた関係で、すでにこの作品を読む前にここまで感想を挙げてあるカーの諸作を読んでおり、自分なりにカーの(というか訳者の)文体に慣れ、またそれらが醸し出すカー独特の作品世界の雰囲気を掴んでいたつもりだったが、それでもなおこの作品はなんとも云い様の知れぬおどろおどろしさを感じ、難儀した記憶がある。小さい頃にテレビで観た横溝正史の『八ツ墓村』の重苦しさに似た感じとでも云おうか。しかも本作で主人公を務めるバンコランも悪魔のような雰囲気を備えているという非情さを持った人物で、それまで読んでいたフェル博士とは全く違ったキャラクター設定であることもこの思いに拍車を掛けたように思う。
またデビュー作だからか、妙に文章も力んだところがあり、精緻に描写するあまり、全体がよく掴めない所も多々あった。まあこれは訳が古いことも大きいのだが。

そんなこともあり、本作はあまり印象に残っていない。そのせいで私の中ではバンコラン自体、カー作品の中ではもっとも影の薄いキャラクターになってしまった。探偵らしからぬ非情さのみが強く心に残っているぐらいだ。
この作品も読み返すべきかもしれないなぁ。

夜歩く【新訳版】 (創元推理文庫)
ジョン・ディクスン・カー夜歩く についてのレビュー
No.1:
(3pt)

なにか合わないんだよなぁ。

シリーズ第2弾は長編。あのあと調べてみたら、どうやらこのシリーズは「人形探偵シリーズ」と云われているようだ(このサイトでは人形シリーズ)。

腹話術師朝永嘉夫に恋する保母の妹尾睦月、通称おむつの幼稚園の遠足に朝永と鞠夫の2人(?)が同行したところ、そのバスがハイジャックされ、事件に巻き込まれるという物。
園児の乗った車をハイジャック。日本でも昨今同種の事件が起きていたが、その緊張感はあまりあるものがある。私も三児の父親だけにこのような事件に巻き込まれた親御さんの心情は計り知れないものがある。

とまあ、ちょっと深刻に書いたが、実はそんな子を持つ親の心配とは裏腹に事件はハイジャックという緊張下とは思えぬほどのどかに進む。関西のお笑いをこよなく愛す作者ならではのボケとツッコミを交えながら進行するが、私個人的にはハイジャック物のようなリアルタイムサスペンスはこの作者には合わないと感じた。きつい云い方をすれば作者の技量が追いついていない。場と状況に流されるように、結局終ってしまった、そんな食べ足りなさを感じる作品だ。

で、このシリーズ、実は私はあまり好きではない。ストーリー云々というよりも主人公の朝永嘉夫にどうにも感情移入できないのだ。無口な自分の代わりに人形が雄弁にしゃべらせるというこの人物、一歩引いて見てみると実にアブナイ人間ではないか。これがどうも私には生理的に受け入れ難く、どうも入り込めなかった。
しかし私は付いていくと決めた作家は全作品読むので、その後もこのシリーズの作品は積読本として確保してある。もしかしたら読んでいくうちにこの思いも変わっていくかもしれないが、それはまたそのときにでも。

人形は遠足で推理する (講談社文庫)
我孫子武丸人形は遠足で推理する についてのレビュー