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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数212

全212件 81~100 5/11ページ

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No.132: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

天久鷹央の推理カルテの感想

専門的な医療知識を活用した謎でありながら、雰囲気はライトかつキャラクターものとしてサクッと楽しめる医療ミステリ。医療モノの重い雰囲気はありません。シリーズ化しやすいですし、著者の読みやすい文章も後押して、これは人気出るだろうなと感じました。

個人的に思う所として、1話目の天久鷹央の印象から超人的で完璧な名探偵像を得て神格化していましたが、3話目『不可視の胎児』にて、完璧ではない一面が見えてしまったのはちょっと残念でした。ある意味人間的ですが医者かつ名探偵の立ち位置なら完璧な人にしておいて欲しかったです。4話目の『オーダーメイドの毒薬』は本書全体を通して綺麗に決まった作品でした。大きな驚きや刺激が得づらいのが物足りないですが、読みやすさとライトに楽しめる医療ものとして今後も期待な作品です。

▼以下、ネタバレ感想
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天久鷹央の推理カルテ 完全版 (実業之日本社文庫)
知念実希人天久鷹央の推理カルテ についてのレビュー
No.131: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

HELLO WORLDの感想

作者のおちゃめな毒が緩和されており従来ファンは少し寂しい気もしますが、良い意味では大衆向けな優しいテイストで読後感も良い作品。

著者ファンなので過去作が頭によぎりながらの読書。
中盤まで読んで感じたのは、これって作者同じ?という気がかり。なんというか味が薄い。野﨑まど作品ってもっと尖がっているというか惹き付けて虜にさせる中毒があった気がしましたが、本作はなんかよくあるラノベ。いや、よくあると言ってしまいましたが、面白くないわけではない。でも"野﨑まど"の作品として期待すると違う気がする。そんな作品。
映画になる作品ですが、"野﨑まど"の原作を映画化するのではなく、映画化した話を"野﨑まど"が小説化した手順でしょうか。きっと後者で一般向けの為に成分が薄まった気がします。

さて、タイトルの『HELLO WORLD』。プログラム業界では新しい言語を習得する時に、最初に実行して動作確認するワードです。新しい世界へようこそ。本作は過去作の『know』に近しいSF世界を舞台とした青春恋愛小説です。映画原作という視点でみると、近年の『君の名は。』に近しい年代の青春恋愛物語にもう少し濃いSF要素を入れて別系統にした作品作りを感じました。また、野﨑まど作品と言えば終盤にひっくり返るどんでん返しのサプライズ。作品によっては裏目にでる程、雰囲気を変えて賛否両論を巻き起こす為どんな結末か不安を感じましたが、本作はいい具合のプラスなサプライズでした。要素としては恋愛要素に比重があります。映像映えしそうなシーンも多く改めて映画原作かつティーンエイジャーに好まれると思いました。

ヒロインは著者らしい女性キャラだなとか、狐面とか神の手とか、過去作を感じる所もあり、なんだかんだで楽しく読みました。本作から著者作品に入り気に入った方は、SF寄りなら『know』、青春寄りなら『[映]アムリタ』へと繋げていくと著者作品をより楽しめます。

▼以下、ネタバレ感想
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HELLO WORLD (集英社文庫)
野﨑まどHELLO WORLD についてのレビュー
No.130: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

殺人犯 対 殺人鬼の感想

孤島のクローズド・サークル。児童養護施設内で起こる連続殺人事件。
犯人視点の倒叙ミステリでもある。いざターゲットを狙い部屋に忍び込むと既に何者かによって殺されていたというシチュエーション。自分以外にも殺人を犯すものがいる。
登場人物は胡散臭い面々。暴力団の子供、2重人格の子、探偵気取りの子供、などなど。館の見取り図まであって本格ミステリの雰囲気はバッチリでした。

80年代後半の新本格ミステリネタが豊富に盛り込まれています。初見なら大層びっくりするネタもある事でしょう。著者の本格好き健在です。ここでこのネタが来るとは思いませんでした。ただ新本格好きの既読者はこれが既視感と感じるかも知れない為、そこは好みの別れどころかと思います。うまく隠蔽していた為、巧さに感動です。

好みについて。児童養護施設内が舞台な為、登場人物達は小中高生です。殺人犯・殺人鬼と呼ばれる為の恐ろしさ、場の恐怖が感じられなかったのが残念でした。2重人格のキャラ含め、少しコミカルというか非現実的です。孤島のクローズド・サークルもので猟奇連続殺人ならもっと恐怖や緊迫感を感じたかった次第。著者の作品をいくつか読んできましたが恐怖や緊張・焦りなどの感情に響くようなものってまだないかも。版元違いで"殺人鬼"というタイトルなので、そういう雰囲気を期待してしまったのかもしれません。面白かったのですが、少し軽かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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殺人犯 対 殺人鬼 (光文社文庫)
早坂吝殺人犯 対 殺人鬼 についてのレビュー
No.129:
(7pt)

夜の淵をひと廻りの感想

異色な警察官物語。著者初読書。
交番勤務のシド巡査。自分のいる街で知らない事があるのは気に入らない。住人の生活スケジュール、給与明細までなんでも情報は欲しい。同僚には一歩間違えれば犯罪者のストーカーと言われる。そんな人物が主人公。設定も面白いが、場の表現や語り口調が面白い。雰囲気はコミカルなのですが扱う事件はサイコホラーや怪奇小説に近い。事件と表現の温度差を楽しく感じました。
読んでいて感じる雰囲気は、平山夢明の狂気や江戸川乱歩の幻想をシド巡査のコミカルさで包んでマイルドにした感じ。
9つの短編集の中では『新生』が好み。ただ、単品として楽しめたという分けではなく、順番に読んでシド巡査や場の雰囲気を捉えたうえで読む『新生』は狂気や虚無感を感じました。真相もちゃんと現実的にまとまっているのでわかりやすい。
幻想的で結局なんだったのか分からないエピソードもあるので、好みが分れる作品だと思う。個人的には新鮮な読書で楽しめました。
夜の淵をひと廻り (角川文庫)
真藤順丈夜の淵をひと廻り についてのレビュー
No.128: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

シンデレラ・ティースの感想

歯医者さんミステリ。
お仕事系・日常の謎作品が得意な著者作品は読んでいて心が温まります。

物語は、過去のトラウマで歯医者が大嫌いな女子大生が、親戚が務める歯医者で受付のアルバイトをする事になってしまった話。お仕事ミステリとして巧いのは、知識のない読者と主人公を合わせている所にあります。歯医者さんには医者と受付の他に、どんな人がお仕事しているのか?アルバイトとして入った主人公目線で現場が見えるのが面白い。そして登場人物達が基本優しく、とても雰囲気がよい職場なので読んでいて癒されます。

ミステリとしては訪れる患者さんの行動・心理を紐解いていく感じです。カウンセリングに近いかもしれません。行動や発言などから、患者の悩みや状況を察してケアするような感じです。
読んでいて嫌な気持ちにならないミステリというのは万人に薦めやすい。この路線の著者の作品はどんんどん読んでみようと思います。
シンデレラ・ティース (光文社文庫)
坂木司シンデレラ・ティース についてのレビュー
No.127:
(7pt)

嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん1 幸せの背景は不幸の感想

なかなか変態(誉め言葉)な作品でした。
ジャンルはミステリに分類されるかな。精神が崩壊した人物達の物語を中二病&ラノベテイストで繰り広げつつ、誘拐監禁虐待の重い雰囲気を混ぜ込んだ中で恋愛ヒロイン要素もプラス。というような感じ。
シリーズ化されていますが、本書1巻で完結しています。
癖のある文章とラノベ雰囲気が好みの別れ所。世の評判としても賛否両論で感想がバラバラですね。

語り手のみーくんについては西尾維新の戯言シリーズに出てくるいーちゃんを彷彿させました。西尾維新を読んでいる方はその雰囲気の方へ意識を持っていかれます。とても上手く活用されています。
ラノベ雰囲気がなければ、精神異常者の物語としてサイコ物やホラー小説とも感じられます。という事で設定だけみるとどこかで触れた事があるような作品とも思えるでしょう。本書の味は多少乱雑で中二病的な文章で描かれた異常者達の物語であり、文章と設定が相乗効果で上手く混ざり現代的な奇妙な味と感じる作品でした。

続巻のあらすじを見ると引き続きミステリの展開が予想されて楽しみではあるのですが、文章に癖があり読むのに気力が消費されるので時間をおいて手に取れたらと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 完全版 幸せの背景は不幸 (メディアワークス文庫)
No.126:
(7pt)

やり残した、さよならの宿題の感想

小学生のひと夏を描いた作品。
この著者はライトな雰囲気にミステリ仕掛けを取り入れる作風ですね。1作目は七不思議で本作も不思議な伝説が出てきて少しファンタジー寄り。それらを踏まえて素敵な青春物語を描いています。1作目同様に終盤のまとめがとても惹き込まれました。
個人的好みとしては、中盤までは小学生の夏休みの生活に大きな起伏がない為に少し退屈でした。ただ、後半からの結末と読後感が良いです。これは1作目と同じ。著者の傾向が分りまして他の作品も読もうと思います。好みです。
本書は殺伐さがない小学生が舞台なので、小中学生向けのライトなミステリとしても紹介できます。
夏休みらしい友達との思い出。楽しさと切なさ含めて綺麗にまとまった作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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やり残した、さよならの宿題 (メディアワークス文庫)
小川晴央やり残した、さよならの宿題 についてのレビュー
No.125: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

十二人の死にたい子どもたちの感想

自殺サイトを介して集団自殺を目的に廃病院に集まった12人の少年少女。自殺を実行しようと思う矢先、予定外となる13人目の少年の死体が発見される。
彼は何者?何故死んでいるの?自殺なの?殺されたの?このまま集団自殺してよいのか?...と議論していく流れ。
最初の印象は映画『十二人の怒れる男』ですね。そのパロディで日本では『12人の優しい日本人』という作品があります。本書もこの流れを汲んでいる1作となります。これらの作品が好きな人は全体像や結末を感じながらの読書となります。予想や流れを知っている事については良し悪しありますが、それ系の作品です。

本書の難点を先に述べると、12人の登場人物および舞台の把握がし辛い事。序盤は誰が誰で何処に何があってというのが頭に入らなくて大変でした。
映画では人物と舞台が視覚的に認識できるので12人ものの把握がし易いのですが、それが小説となると著者の力量や苦労を感じますね。近々映画化されるという事なのでそれは良い流れで面白そうだと思います。

本書はミステリ的な推論・議論が展開されますが、そこがメインというわけではなく、集まった少年少女の葛藤やドラマを感じる青春小説の印象を受けました。自殺をしたくなる程追い詰められた少年少女。学校という閉鎖空間で相談や頼れる人物が得られず、独り悩み苦しんでいる者達の集いです。予期せぬ死体の発見を切っ掛けに、想いを少しづつ吐出し、どうせこの後死ぬんだからと悩みもぶちまける。それぞれの死にたい悩みを聞いた反応は12人もいるので、同情する人、そんなことで?と呆気にとらえる人物も出てくる。隣の芝を青く感じたり、客観的に見えたり、価値観の違いを感じさせてくれます。12人の多人数設定が活かされる巧い作りだと思いました。同年代付近の学生の読者には、悩みの捉え方、考え方、こういう例もあるんだよと感じさせられるでしょう。ミステリ的な死体の議論と共に、少年少女の苦悩の議論を重ね合わせた構成がなかなかでした。

読後感は良かったのですが、中盤までしっくりこず。もっとドロッとした深みや感情むき出しの展開が欲しかったかな。少年少女の若い世代ゆえか素直な展開でした。
十二人の死にたい子どもたち (文春文庫)
冲方丁十二人の死にたい子どもたち についてのレビュー
No.124: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

閻魔堂沙羅の推理奇譚 点と線の推理ゲームの感想

閻魔堂沙羅の推理奇譚の第4弾。シリーズものですが1巻読んだ後はどの巻から読んでも問題なしです。2018年で4冊一気に刊行したのは凄い。
今回の1話目『向井由芽編』は読者応募の犯人当てクイズが開催されました。
本シリーズの構成は問題編⇒推理編⇒解答編⇒後日談という構成なので問題編だけWEBに公開され、犯人当てクイズ企画が行われたのです。推理を楽しむ作品なので、読者への挑戦ものが好きならこのシリーズは楽しめます。

さて、今回クイズに応募した身でして、何度も繰り返し読んだので思い入れが強いです。正直な所、クイズとしてみると手がかりが希薄なのと、犯人特定のロジックが論理的ではなく登場人物の思いつきとそれが正しい前提なので納得し辛いです。詳しくはネタバレで書きますが、P75からの数行における容疑者選定は突然過ぎて後付けを感じてしまいます。推理の前提条件が被害者が知っている事からなのに対して、知っている情報ではなく推測の想像となっています。かつその想像が正しい前提で話が進むのです。これは深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』のような疑惑を感じる次第。。。

と、応募クイズとしてみると不満を感じる所ではありますが、物語としては面白くまとまっています。安定の面白さでした。
本書は短編2作+番外編(沙羅の日常)。いつもは短編3作なので少し物足りなさもあります。
番外編に関しては、沙羅の日常が見える楽しさとともに品が無くなっていく様に困惑ですが、沙羅のキャラはいいですね。ツンと優しさと説法の加減が魅力的です。

色々思う所を書いているわけですが、不満で文句というわけではなく、それだけ作品を楽しんでいるという事を誤解なくお伝え。推理が楽しめる小説は面白い。次回作も楽しみです。

ネタバレで自身の応募内容など書きます。

▼以下、ネタバレ感想
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閻魔堂沙羅の推理奇譚 点と線の推理ゲーム (講談社タイガ)
No.123:
(7pt)

忘却のレーテの感想

記憶ネタのホラーミステリ。
記憶を消すことができる新薬『レーテ』。その臨床試験の為に集められた被験者達が閉ざされた施設で7日間過ごす話。
各章は1日の出来事が描かれる。被験者は毎日記憶がリセットされる為、各章の初めは、同じような目覚め、同じような会話が繰り返される。が、そこで事件は起きる。そしてそれを眺める読者は前後日の不整合に違和感を感じていく……。
これは著者の持ち味が出ている作品で楽しめました。
デビュー作の『バイロケーション』のホラー&SFミステリから始まり『リライト』以降は繰り返しもの作品が世に出てきたわけですが『リライト』以降のシリーズ作品は分り辛く好みからどんどん逸れて行った為、著者作品を敬遠していました。
本作は単体作品なので久しぶりに手に取った次第。
読んでいて何が起きているのかわからない。記憶喪失者の毎日を眺めている読者。読者は全貌が見えている立場なのに前後の食い違いを感じ取り、読者自身も記憶が曖昧になる。なんだこれ?という良い意味で嫌な感覚が巧い。同じ事を繰り返している筈なのに何かがおかしい。『リライト』で味わった奇妙な感覚が、記憶喪失ネタの本作でも味わえます。
この奇妙な味わいを作風とみるか、文章力とみてしまうかで好みが分れる次第ですが、本作はなかなか楽しめました。
大仕掛けがあるわけではない。読み終わってしまえば理解しやすい単純な話。でも読書中はさっぱり意味不明で混乱。記憶ネタのホラーミステリとして面白い作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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忘却のレーテ (新潮文庫nex)
法条遙忘却のレーテ についてのレビュー
No.122:
(7pt)

異セカイ系の感想

メフィスト賞受賞作。かなり尖がっている奇抜な作品でした。

ライトノベルではお馴染みの『異世界転生』ジャンルを用いたメタフィクション小説。作者・読者・現実世界・空想世界を認識し、影響まで起こせるような構造設定となっています。この世界観の作り方がとても巧い。
あらすじにある通り、主人公は小説投稿サイトに小説を投稿している作者。自分の作品世界と現実世界を行き来できる現象に出くわします。自分の作品のどの章からでも入れるというわけではなく、序章から時間軸に沿って転生できます。自分の書いた小説通りに話が進行するので未来がわかる神様視点の作者。姫と良い関係を築いている所で、姫の母親が黒騎士に殺されてしまうシーンを書いている事を思い出します。姫を悲しませないように、現実世界へ戻り小説投稿サイトの編集機能で内容の変更を試みるわけですが、ここの構成はSFやセカイ系作品でおなじみのタイムパラドックス・過去改変物なのです。
現代的な要素を用いて、やりつくされた感がある古典の再構築というのはとても素晴らしく刺激的でした。で、単純な過去改変作品というわけではなく、現実世界・小説世界を認識する作者。そして投稿サイトの存在や本書を読む読者の世界などなど、世界の階層構造が本書によって一体化するような不思議な作品だと感じました。メタ構成の作品は世の中いろいろありますが、本書は現代的な要素を用いた新しさを生み出しています。

正直な所、最初の数ページの文章の砕け具合を読んだ所では好みに合いそうにないと感じる読者は多いと思います。立ち読みでサラッと数ページ読んで違うと思って買われなさそう。そんな出だし。ラノベやファンタジーの「設定」に許容がある必要もあります。ただ、奇想の変わった作品に触れてみたい方にはアリかと思います。
その他思う所として、読書中は舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』を思い出しました。駆け抜ける世界のごちゃまぜと、細かい事を気にさせないで一気に収束させちゃう流れ。あんな感じをライトに楽しめた作品でした。好みは人それぞれですが、奇抜な『メフィスト賞』をとても感じさせる作品で記憶に残ります。なんだかんだで凄いものを読んだ気がして面白かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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異セカイ系 (講談社タイガ)
名倉編異セカイ系 についてのレビュー
No.121: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

掟上今日子の備忘録の感想

久々の西尾維新。キャラ造形や設定作りが巧いなと改めて思う。
ドラマ化やらで何かと耳にしていたのですが未読でした。文庫化されたので手に取りました。

前向性健忘症で眠ったら記憶が戻ってしまう探偵の掟上今日子と、頻繁に事件に巻き込まれる隠館厄介。探偵&助手の定番フォーマットですが、記憶障害の女の子探偵&巨漢の大男という設定や対比の面白さが新しさを感じます。キャラの名前についても西尾維新らしいと感じてしまう所が、個性の確立で凄いと改めて思いました。

5編からなる連作短編集。
1話目『初めまして、今日子さん』については、最初なので作品傾向の認識から始まります。キャラや物語設定紹介+軽めの事件。研究データの紛失事件という事で殺伐としない日常の謎といった所。
純粋に推理を始めるかと思いきやアンチミステリというか古典的な犯人特定法を用いるので、読者はこの作品がどういう種別のミステリなのか戸惑うと共に、ありきたりではない先の展開に興味が沸くかと思います。
2話目も日常の謎傾向の短編。3~5話は連続した物語。全編読んで感じるのは『記憶』というガジェットを一貫して扱っている事。キャラ設定についても、行動心理についても、事件そのものについても関わってきます。こういう拘りはとても好感です。

語り部の隠館厄介について。性格が戯言シリーズの"いーちゃん"を感じました。最終話の行動が正にそう思いますとともに、一筋縄では行かないと予感させる今後の物語展開にも期待が持てます。
全体的に殺伐さがない日常の謎寄りの探偵物語です。続編の文庫化も待ち遠しいです。

▼以下、ネタバレ感想
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掟上今日子の備忘録 (講談社文庫)
西尾維新掟上今日子の備忘録 についてのレビュー
No.120: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

がん消滅の罠 完全寛解の謎の感想

かなり骨太な医療ミステリでした。
『このミステリーがすごい!』大賞作品に対する個人的なイメージはもっとライト層向けでミステリも軽い印象だったのですが、本書は本格医療小説+社会派+ミステリという感覚です。
表題となっている、癌が何故消滅したのか?という謎は序盤で仮説として明かされます。その後も謎が展開されてますが、方法は読者が思いつくような一発ネタトリックではなく、医学的な知識を用いたものなので謎解きを楽しむというより、医療現場を知れるような物語です。
医療小説ですが、出てくる言葉は専門用語過ぎず、読者がついてこられる塩梅なので、知的好奇心をくすぐる感覚で楽しめました。
癌とはそもそも何か?医療保険とは?検査では何が起きているか?それらに関わる人たちの物語として楽しめ、社会派小説としての訴えも感じられました。

医療ミステリに関しては、あまり多くを読んだわけではないですが、本書は経験上かなり高品質な作品であると感じます。
近年のキャラ小説もしくはライト設定として医療を扱う作品ではなく、直球の医療小説ミステリとして優れています。著者がそもそも、国立がん研究センターや医療系出版社勤務の方なので、専門性はバッチリなのです。ミステリとしても楽しみましたが、医療の知らない事を知れて勉強になった感覚を得た作品でした。
がん消滅の罠 完全寛解の謎 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)
岩木一麻がん消滅の罠 完全寛解の謎 についてのレビュー
No.119: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

誰も僕を裁けないの感想

著者作品のイメージが良い意味で変わりました。

デビューからの3作品、〇殺、虹の歯ブラシ、RPGまで読んで、ネタや意図しないエロや悪ふざけ感が好みから逸れて行ったので手に取っていませんでした。
先日新作のAI探偵を読んで面白かった為、著者の作品を手に取り始めたわけですが、本書4作目は1~3の持ち味を生かしつつ大真面目に描かれたミステリであり、敬遠していた苦手要素が払拭された作品でした。

あらすじにある通り大きく分けて2つの視点が存在します。
1つ目は資産家の令嬢と恋に落ち彼女の家でこっそり夜を共にした所、主に見つかり社会的権力を駆使して淫行条例で逮捕されてしまう主人公。エロミスというジャンルを描く中で淫行条例を含めた話の展開は社会的なテーマを扱う側面を見せていきます。エロ×社会派。
2つ目はシリーズ主人公の上木らいちがメイドとして風車型の館に招待され殺人事件に巻き込まれるというエロ×館もの本格ミステリ。

小説において別視点の物語は後半何かしらで結び付くというお約束がありますが、本書はやられた系の驚きではなく話のまとめ方・結びつきが巧すぎて感心してしまう驚きを受けました。1つ目、2つ目、それぞれのお話はそれ程珍しいテーマではないです。著者も分かっておりこれらは読者へのわかりやすいサンプル。これはデビュー作『〇殺』の時からの悪戯心ですぐ見抜くでしょ?という気持ちが感じられます。
読んだ人にはわかると思いますが、著者はミステリという空想の世界設定を現実世界に当て込めるとこういう事が起きるという斬新な物語を生み出しました。これはとてもよかったです。

援助交際探偵・上木らいちというネタやファンサービス的だと思われていた要素が本書では意味を成している点も良かったです。

▼以下、ネタバレ感想
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誰も僕を裁けない (講談社文庫)
早坂吝誰も僕を裁けない についてのレビュー
No.118: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

六人の赤ずきんは今夜食べられるの感想

獣により赤ずきんが食べられてしまうという童話モチーフのわかりやすさ。帯に書かれている裏切り者の存在による謎解き要素の仕掛けあり。タイトルとキャッチフレーズが分かりやすく、表紙のイラストも良い感じである為、書店で目に留まり衝動買いした1冊。なかなかの掘り出し物でした。

知能を持った獣に襲われる絶望感、赤ずきん達の秘薬による攻防がメインとなるお話。童話のモチーフを絡めた能力もの×パニックホラーの作品ですが、世界観の設定がしっかり錬られており、ただのドタバタではなくファンタジー的な要素も意味のある存在として示される後半は面白く読めました。裏切り者については、誰がどうやって何の為に?と言った疑問が面白さに繋がり魅力的でした。
ミステリとして見ると心もとないですが、この手の作品での活用としてはとても効果的でした。

難を言うと設定と展開を眺めている気持ちでした。誰かに感情移入やドキドキ感という刺激は無かったです。
キャラクターで印象に残ったのがツバキずきんぐらいで、他は能力の設定のみでキャラを感じさせなかったのが残念。多少チューリップのお姉さん感はありますが、あまりキャラクターの印象は残りませんでした。もう少し人を感じさせられると、護ってあげたくなり、獣から逃げなきゃという使命感が増すかと思いました。
物語の設定がとても面白い故、そんな事を思いました。

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六人の赤ずきんは今夜食べられる (ガガガ文庫)
No.117:
(7pt)

金田一くんの冒険2 どくろ桜の呪いの感想

金田一小学生編の第二弾。
小学生読者をターゲットとしたミステリ作品として非常にバランスが良い作品だと感じます。

黒板に大きく描かれた落書き事件から始まり、『どくろ先生』『どくろ桜』と言った学校の七不思議を交えたイタズラ事件の謎を冒険クラブの金田一が挑むという流れ。小学生視点で考えれば、普段の学校内で起きた黒板の落書きだけでも事件ですし、"どくろ"の気味悪さに怖がったり、友達との調査は立派な冒険で、小学生の雰囲気をとても感じます。大人なら単純で気づきそうなネタなのですが小学生だからこそ不思議な怪談となる仕掛けのバランスがとても良かったです。『どくろ先生』のネタはこの点がとても巧いと思います。
一方難を示すと金田一知らずの大人が読んでも物足りない作品です。謎解き好きな小学生向けか、金田一ファンの読者がターゲットですね。
事件の結末や背景も、本作は後味よく綺麗に収束させているのも巧いです。

シリーズファンとしては千家君登場が感慨深い。
千家君は生徒会長とはいえ小学生とは思えない立派な振る舞いでした。ここは小学校から生徒会制度があるのか。とか思いながら読書。
相変わらずの金田一で楽しめました。

▼以下、ネタバレ感想
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金田一くんの冒険 2 どくろ桜の呪い (講談社青い鳥文庫)
No.116:
(7pt)

うまくまとまった投票系デスゲームもの

本格的な仕掛けがあるようなデスゲームではなく、ホラーやパニック系のB級要素のデスゲームなので、ミステリ寄りなデスゲームを望む人には不向き。
見た事あると言われそうな定番要素が多いのですが、それぞれの設定がよく考えられていて作品として巧くまとまっているので好みした。
人に薦めても良い反応はされなさそうだけど、個人的に良かったからいっか。そんな感覚。

まず、デスゲーム要素は『7名が犯した罪を告白し、それの主犯となる人物を投票せよ。』というもの。最多票の人物は死。
何故こんな状況になったのか? 過去に何があったのか?7名が記憶を頼りに自分たちが犯した罪を思い出す様子は、過去を検証するミステリっぽい雰囲気でよい。と同時に、デスゲームお約束の序盤の、これってイタズラだろ?という定番のおちゃらけた雰囲気から、友人の死を見てからのパニックへの展開、そして疑心暗鬼のコテコテのデスゲーム模様が分かり易くて〇。

登場人物名には、"赤星""緑子"青史"と言った具合にそれぞれ色が含まれている名前の為、人物の混乱がないのもよい。
また、結婚式の途中で拉致されたという状況設定が巧く、 人物達はドレスコードをして衣装で飾っているので視覚的な想像がし易いのが良い。
あと、偏見ではないが、女性の感情的なパニック、男性の論理的な場の納め方、男女の話の合わなさがリアルで面白かったです。

さて、先に良い所を挙げてみました。
ここまでのパッと見状況から、よさそうな作品だと期待される所ですが、世の中の知名度や評判が振るわないと思われる決定的な原因があります。
それは、人物達の性格がクズなのです。もう救いようがない人々。そして告白される罪が、いじめやレイプやらそういう類の話。そんな罪の告白を読まされるので、読者的には誰が死んでもいいや!という状況になるわけです。デスゲームにおいての心理戦を楽しむのではなく、観測者同様、場の被害者達を眺める感覚の読書です。
ここが好みの分かれ所な気がします。映像化もしやすそうですが性格と罪の内容で不満が発生しそうなのが残念。

ただ、ラストの展開は、それまで感じていた不満を解消できるので、これも敢えての狙いなのかなと作者の巧さを感じる次第です。
デスゲーム作品としては、読み易く、おかしな所もなく、グロさもない。物語として整った作品なので、デスゲームの初心者向けとしてはアリかと思いました。

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8番目のマリア (角川ホラー文庫)
美輪和音8番目のマリア についてのレビュー
No.115:
(7pt)

コップクラフト DRAGNET MIRAGE RELOADEDの感想

海外警察小説×ファンタジー作品。

手に取った切っ掛けは宝島社出版の『この警察小説がすごい!ALL TIME BEST』の中に異色なファンタジー作品が掲載されていた事。
ラノベもアニメも許容範囲ですし、表紙のおっさんと王女様?の雰囲気に興味を惹かれ読書。

読んでみると、なるほどこれは警察小説です。警察組織の上司部下や、規律に縛られないハードボイルド風味の主人公の捜査模様。
もっと突飛なファンタジーを想像していましたが、土台は馴染みやすい警察小説。
よくある話を元に例えると、得体の知れない麻薬取引事件や、人種の違う少女と共にする主人公物語、地下社会や国同士の対立なんて要素が、非合法な妖精の売買取引や異世界の王女と捜査を共にすることになった主人公話という感じで、小道具をファンタジー色にして新鮮さを出している作品となります。

まぁ、特に先が気になる!とか、不思議な謎、仕掛けというミステリ的な要素は弱いです。誘拐事件(妖精)の捜査模様はあれど、異世界と繋がった世界観や、刑事と女騎士の進展の方が楽しく読めました。
SFのファーストコンタクト物で例えてしまいますが、言葉の問題や科学と魔術の相互理解や魔法と銃の戦いとか、互いにない技術・思想を用いた異文化交流の背景がしっかりしているので、単純なラノベとは一味違う骨太感がいいです。あと表紙絵の雰囲気凄く好み。2人のキャラが絵・文章ともに魅力的でした。

コップクラフト (ガガガ文庫)
No.114:
(7pt)

冷たい家の感想

ミニマリスト、IOTで管理された家、性犯罪、精神分析など、現代社会を盛り込んだ心理サスペンス。

冒頭から始まる近代的な家の設定に興味を沸きました。正方形の空間内には家財はほぼなく、テクノロジーによりドアの施錠や照明はもちろん、精神安定の音波発生や日々の健康管理のモニタリングなどが行われる家。突き詰めた便利さがある一方、監視された空間ともとれる不気味さが読書中不安な気持ちにさせます。
この家に過去に住んだエマと現在住むことになるジェーンの2つの物語が交互に展開されます。2-3ページ毎に切り替わるので読書の区切りがしやすく、物語の把握がしやすいのが良かったです。この交互に進む話の構成が面白く、過去と現在の異なる女性の物語なのに、同じようなストーリーが展開する作りに、何が起きているんだと先が気になりました。登場人物達が怪しさ満載であり、セリフから推測される出来事は嘘で真実とは限らない為、誰も信用できない不安感が凄かったです。
本作で個人的に魅力があったのは心理慮法士のキャロル。エマやジェーンが相談した悩みに対して的確な内容と言葉選びが凄く心理慮法士のプロを感じました。

『家』を用いて、何事も監視されたい・自己を表現したいという心理を、男女間と事件に結びつけて、クセのある物語に仕上がっているのが面白い。登場する人物達に対して読者が思い描く姿が二転三転するのは見事でした。

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冷たい家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
JP・ディレイニー冷たい家 についてのレビュー
No.113:
(7pt)

グッバイ・ヒーローの感想

著者4作目の読書。
作品傾向が見えてきましたが、著者作品は心温まる話が巧いですね。プチミステリでユーモアある読後感が気持ち良い作品が読みたい方には好まれます。

主人公はバンド活動をしているアルバイトのピザ宅配人。信念を持ってピザを届ける熱血な主人公は分かり易く気持ちよい。そんな彼が立て籠もり事件に巻き込まれてしまいます。
事件に巻き込まれはしますが作品雰囲気は殺伐としていなく、熱血主人公物のような困っている人を助ける!と言った雰囲気で気持ちよく読めました。

ふと思うのは、主人公の30歳で夢見るバンドマンで住んでいるアパートには母親が押しかけてきて親父との確執がある設定は必要だったのかな?無くてもよさそうな主人公のウィークポイントでした。親父譲りの人思いや、おっさんと絆を深める為や、ピザ屋にする為のアルバイト生活ゆえの設定から生まれたものなのかなと思いました。
違和感あるとは言え、出会ったおっさんとの話やバンドメンバーとの会話から感じる信頼感は、人の絆をとても感じるエピソード。事件パートや終盤の話もよい。タイトルの意味も上手くまとまって締める。ご都合主義でベタっぽい展開と思われるかもですが、安心して読める面白い作品でした。

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グッバイ・ヒーロー (講談社文庫)
横関大グッバイ・ヒーロー についてのレビュー