レビュー一覧

bamboo さんのレビュー一覧

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書評・レビュー点数毎のグラフです

平均点5.89pt

レビュー数54

全54件 1〜20 1/3ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。

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No.54
(2pt)

ザ・荒唐無稽

今まで読んだなかで指三本にはいるほど駄作でした。設定が意味不明な上に文体がまったく好みに合いません。
この作者は物理トリックが売りとの評判らしいですが、少なくとも本作では現実味がなく、設定も含めて一から百まで意味不明でした。
果ては登場人物の名前の珍妙さも鼻につく始末でした。台詞も厨二病じみています。

これがメフィスト賞を授賞したのが信じられません。メフィスト賞は選考者が作者とともに手直しすると聞いたことがありますが、誰もこの突飛で取っつきづらい内容と文体に苦言を呈さなかったのでしょうか。
読中ずっと頭に疑問符が浮かんで、ただただ異形で趣味が悪いと感じられて不愉快でした。
北山猛邦:「クロック城」殺人事件 (講談社文庫 き 53-1)
北山猛邦『クロック城』殺人事件 についてのレビュー
No.53
(4pt)

設定に少し無理がある

マリアと漣シリーズ3作目。前作を読んでからしばらく間がありましたが楽しく読めました。シリーズならでは、過去作のキーワードが出たりしていて、ファンサービスが感じられます。

一種奇妙な少女と男性との出会い、直後の爆発の描写から始まります。少女は言葉足らずで世間のことを知らない様子で、興味を湧かせる始まりで好印象でした。
そこから日は流れ、マリアと漣の捜査官コンビが富豪・ヒューの所有する高層タワーを訪れます。容疑は稀少動物を購入したというもので、二人は別行動しながら情報を求めていきます。一方、ヒューに招かれた男女が建物に囚われ、一人ずつ殺されていく描写。大きく分けて二つのシーンが交互に展開されていにます。
それから重要なのはキーワード・グラスバード。ヒューのコレクションであるグラスバードを目の当たりにした人は、皆心を奪われます。犯人が誰であるかを推理すると同時に、人々を魅了するグラスバードの正体を探るのが物語のメインとなります。

かなり好印象な内容に感じられました。前述したファンサービス、命を狙われるという恐怖心の描写、とあるミスリード、、、。
ところが解決パートはいただけなかったです。結果として本書における死亡者は激増し、極めつけはラスト。登場人物の死亡をみすみす許したマリアと漣の無力っぷりに呆れ果ててしまいました。事件の解明パートも強引に感じられマイナス評価でした。
もう一つのミスリード(こちらはグラスバードの正体に関係します)も、薄々察することができます。ミステリ小説に目の肥えていなくても大半の方は容易に推測できるでしょう。

いかにも地頭の良い人が書いたという内容で、少し小難しいきらいがあったのもあり☆4としました。内容は忘れましたが前作よりはおもしろかった印象です。
市川憂人:グラスバードは還らない (創元推理文庫)
市川憂人グラスバードは還らない についてのレビュー
No.52
(5pt)

ねじれた家族により生み出された殺人鬼

本書は、主人公の探偵が、恋人に頼まれて彼女の祖父の不審死を調査する内容となっています。死亡した男は資産家で、後妻が真っ先に警察に疑われました。ところが死亡した男は恨みを買いやすい性格に難ありの人物なので、探偵は彼に動機をもつ一族9名+αを調べていくというのがメインです。
過去の事件を調査していく内容で、正直、『そして誰もいなくなった』等の華々しい名作とは毛色の違う作品でした。終盤、物語に興味を持たせるガジェットとなる事件が起こるのですが、そこに至るまでが冗長に感じられ、緊張感なども薄味だったのがマイナス評価です。加えて、探偵役を任された主人公が、この人物は命を狙われる可能性があるから気をつけろと忠告されながらみすみす次なる事件を許してしまっている始末で、お粗末だと思いました。

意外な犯人と、なぜ犯人が殺人鬼となったのかの理由が考えさせられるものがあった点を考慮し、☆5とします。
アガサ・クリスティ:ねじれた家 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
アガサ・クリスティねじれた家 についてのレビュー
No.51
(6pt)

ザ・ご都合主義

読み始めの印象はとても良かったです。小説家を目指し、日々執筆に努力する青年のキャラクター性は気に入ったし、その後のドタバタも結末を予想させない展開で好印象でした。
ただ結末はザ・ご都合主義。これに尽きると思います。ご丁寧に、本書を江戸川乱歩賞に応募し、最終選考に残ったはいいものの、辛くレビューされた評論まで掲載されており、同意見でした。だからその点で評価すれば☆4くらいでしょうか。

ただ、山本安雄名義の作者の自著解説を読み、たしかにこの作品が江戸川乱歩賞を授与すればこの作品が完結するなと納得しました。受賞することで物語が完結するわけですから、物語の外枠の意味で考慮すれば評価が高くなります。なのでオマケして☆6としました。(少し評価が甘いかな―)
まだ未読の方からすれば、何を言ってるかわからないと思います。とりあえず本書は、他の小説と違い、ストーリー性だけで一概に評価できない技巧が凝らされているといえます。
少し複雑な構成ですが、とても読みやすい文章でしたし、なにより自著解説を含めて凝った作りになっていました。
折原一:倒錯のロンド 完成版 (講談社文庫)
折原一倒錯のロンド についてのレビュー
No.50
(5pt)

SFじみた構成を上手くリーガルモノに落とし込んだ力は高評価

舞台はとある高校。そこは、校則がかなりユニークであり、主人公である男子生徒は困惑します。髪型、服装は自由、生徒の自由性を重んじますと校長は言い、ただし犯罪は厳禁ですと付言されます。そのために生徒たちは法律書を持たされ、教室には犯罪をする者がいないかチェックするための防犯カメラが設置されています。主人公のいるクラスの生徒たちはそのことを当たり前のことと受け入れています。
ですが、どうやら異様なのは学校だけでなく、この町も同様らしく、、、。
SF的物語の設定、タイトルの『魔女の原罪』、そして度々台詞に出てくる"魔女"、"魔女裁判"。SFなのかと思いきや、途中で事件が起こり、上手く最後は法廷ものに落とし込んでいます。透析もこの物語で重要なキーワードとなっており、医療モノの要素もあり、いろいろなジャンルを楽しめる作品といえます。

作者が弁護士だけあって、法律的観点からこの物語の違和感を説明できた力はプラス評価です。
ただ残念なことに、登場人物が"なぜ、そうしたのか"いわゆるホワイダニット的視点で、かなり致命的にマイナス評価でした。無教養な人物がそうしたのならまだ納得するとしても、こんな非科学的で非情なことをするだろうかと。その点が受け入れられず、評価は大幅減です。

本来なら☆4にしたいところですが、以前レビューした『幻告』よりは読みやすかったので、差をつける意味で☆5とします。
五十嵐律人:魔女の原罪 (文春文庫 い 117-1)
五十嵐律人魔女の原罪 についてのレビュー
No.49
(6pt)

一風変わったSF感動物語

本作は、序章で現在の物語を、そして大半がSF要素のある活劇物語を描く構成となっています。
主人公は宮本拓海。妻と共に病室の廊下で息子の病態を見守っています。息子は、伴性遺伝の難病で長く生きられない病気を持って産まれ、案の定、まだ若くして病床で臥せっている状態です。
時生(トキオ)と名づけられたその息子を見守るうち、拓海は妻に語りかけます。俺は昔、こいつに会ったことがあるんだ――。
そんな不思議な語りから始まり、拓海がまだ23歳のとき、出会った不思議な少年との長い物語が描写されていきます。

冒頭はいかにも東野圭吾っぽい物語の始まりと思いました。ところが徐々に読み進めるうち東野っぽさのない、荒削りな物語だなという印象を持ちました。
登場する人物たちはそれぞれ個性があり高ポイントでした。ろくに就活しようとせず、恋人の収入にたかり、いつか自分は大きなことを成し遂げると考える拓海。読んでいるうち、なんてバカな奴なんだと呆れますが、反面、金のために詐欺をする仕事に我慢できない正義感や、持ち前の愚かしさがトキオのリアリスティックな考えと反し、いいコンビだと思いました。
物語の謎は、突然消えた恋人の行方を追うことと、拓海の出自が徐々に明らかになることです。恋人の行方を探すうちに怪しげな男たちに捕まってしまったりと、かなりボリュームがありました。
なかなか話が進展しない部分が目立ち、そこがマイナスポイントでした。ミステリ要素がなかったことも物足りなかったです。途中で謎解きめいたものがありますが、子供騙しのようなものでした。

新人作家の作品なら☆7にしたところですが、東野圭吾という看板を鑑み、☆6と少し厳しく評価しました。
終盤、母親からの手紙を読んだ拓海にぶつけた時生の熱い言葉にはグッと来るものがありました。そこが一番感動しました。魂の込もったメッセージだったと思います。
最後のとあるアクシデントについては、少し内容が異なりますが『フォルトゥナの瞳』に似たオチでした。
少し厳しめなレビューをしましたが、心に残る名作なことにちがいありません。
東野圭吾:時生 (講談社文庫)
東野圭吾時生 トキオ についてのレビュー
No.48
(9pt)

方舟に似た設定、本作のほうが好みでした

ここ最近読んだなかで抜群に良作でした。
設定は核シェルターに閉じ込められた主人公を含めた四人の男女。誰が閉じ込めたかはわかっています。三か月前に死亡した女性の母親で、彼女は娘の死が四人の誰かによるものと確信し、睡眠薬を盛って閉じ込めたのでした。警察は車ごと海に落ちたことによる事故死と断定した。だから殺人のはずがない。そう思っていたはずの主人公たちですが、あの日何があったのか推理していくクローズドサークル・ミステリです。

近年評判をかっ攫った方舟と似たシチュエーションだと思いました。評価したとおり私は本作のほうが好みです。三か月前の嫉妬やら浮気といった人間の醜さのリアルな表現、閉じ込められた核シェルターから脱出を試みる足掻き、共に災難に見舞われたと思っていたはずの四人のうち誰かが殺人犯ではないのかという疑心暗鬼なと、丁寧に描写されています。なにより解決編の驚愕。見抜けなかったことに脱帽でした。

オチは方舟とまったく対照的です。まだ両者とも未読の方は二作とも読んで比較していただきたいです。
岡嶋二人:そして扉が閉ざされた 新装版 (講談社文庫)
岡嶋二人そして扉が閉ざされた についてのレビュー
No.47
(5pt)

密室の典型、魅力的謎だったけど解答が今ひとつ

ファイロ・ヴァンスシリーズの二作目。
カナリアというあだ名を持つ女優が部屋で殺害され、例によってヴァンスが、心理学的推理によって犯人を導く作品です。
警察を悩ませたのは現場が密室だったから。死体現場の家に入るには、電話交換手の目が光っており、証言によると家を行き来した人物はなし。裏口の扉は、アパートの管理人が鍵をかけており、死体発見時はしっかり鍵がかかっていた。
電話交換手の証言により浮上する容疑者たちを、ヴァンスが推理していきます。

魅力的な謎に思えましたが、真相はやっぱりなという感じでした。ただ、他の作品と違って、珍しいと思える点が幾つかありました。ヴァンスが指摘したポイントが、内容をよりミステリアスにさせていて良かったです。
途中、容疑者のうちの一人にヴァンスが心理学的アプローチで聴取する場面があり、そこなどはヴァンスのキャラクター性が活きていたシーンだと思いました。
でもどうせなら、たとえばヴァンスが得意とする心理学的罠にかけて犯人を追いつめてよかったかなと。
本作もいつかもう一度読んでみて復習しようと思います。
ヴァン・ダイン:カナリア殺人事件【新訳版】 (創元推理文庫)
ヴァン・ダインカナリヤ殺人事件 についてのレビュー
No.46
(6pt)

アリスと火村シリーズ開幕 

数年ぶりに読み返しました。
推理小説作家のアリスと、探偵を務める臨床犯罪学者火村英生シリーズの記念すべき一作目。二人の漫才のようなやり取りがおもしろく、文体も七割ほど軽妙であり、なかなか読みやすかったです。

肝心の密室については、他のレビュアーさんの意見どおり、平凡で使い古されたトリックであり、タイトルとは裏腹に拍子抜けでした。このストーリーのメインは、物理トリックではなく、なぜ被害者を殺したのかに力点が置かれていたように思います。その"なぜ"に関わる伏線も、やや強引な気がします。

それと、私が一番釈然としなかったのは、プロローグの描写でした。
冒頭起こる火事の描写が、この物語の核心に触れるかと思いきや、あまり関係なかったのがマイナス点です。火村の助手、アリスが、見当違いのミスリードをするために必要な描写だとは思うけれど、わざわざプロローグに持っていくほどのことかなと。

以前にレビューしたブラジル蝶の謎よりはおもしろかったですが、やはり今作も平凡な話の印象です。
有栖川有栖:46番目の密室 (講談社文庫)
有栖川有栖46番目の密室 についてのレビュー
No.45
(4pt)

法廷×SF 時を遡り、主人公は父親を助けられるか

裁判所書記官の青年を主人公とする、SFと法廷モノを掛け合わせた作品の本作。主人公は、父親が犯罪者だという触れられたくない過去を持っていました。ある日、タイムスリップして現在と過去を行き来し、もしかしたら冤罪の疑いのある父親の無実を証明しようと、奮闘する物語です。
かなり凝った内容だなというのが第一感想です。タイムスリップの条件、過去を変えれば未来が変わること等々、頭がこんがらがる内容に感じました。何度か読み返さないと物語が細部までわからないかなと、そのくらい複雑な内容でした。

文章は読みやすかったです。一文が簡潔、余計な文章が少なく修飾語も控えめでした。作者さんが弁護士のためでしょうか、文章が堅く、無機質な印象を受けました。
主人公のキャラクターも高評価です。裁判所書記官という、小説であまりフォーカスされないキャラを主人公に据えるユニークさ、主人公が法曹関係の仕事に就こうと思った動機のおもしろさなど、なかなか良く描けてます。裁判の雑学が所々で書かれていて、勉強にもなりました。一回の公判が意外と短いこと、被告人に偽証罪は適用されないことなど、新しい発見がありました。
一方で、過去にタイムスリップして行なったことが現在に影響するというのが理解が難しかったです。タイムスリップして過去をやり直したことが未来に影響を与えたとしても、現在は変わらないのではないかと。過去に行ってやり直しして、現在に戻ると、主人公は一人暮らしのはずなのに彼女と同棲していたり、読んでいて頭がこんがらがること請け合いです。さらに、物語は複雑になっていき、父親に無罪判決が出たら別の悲劇が待っているので、またやり直そうとしたり、他にもタイムスリップする人が現れたり、、、。

SF好きだからと安易に手を伸ばせるタイプではないです。賢い人が頭の体操として描いてみたという感じです。物語を理解できるのは、同じく賢くて作者と波長の合う読者。
一回読んだだけだと評価は低めですが、二度読みして細部まで理解できれば、もう少し評価は上がるかもしれません。
五十嵐律人:幻告 (講談社文庫)
五十嵐律人幻告 についてのレビュー
No.44
(3pt)

期待が徐々に萎んでいき、二転三転する話がどうでもよくなってくる

この作者さんの本を読むのは以前にレビューした『スイッチ』に次ぎ二作目となります。発表は三冊目。『時空版』はおもしろそうな内容なので、先に本作を読んでみました。
本作もテーマは興味を惹かれました。他界した作家である姉の遺作が、自殺肯定派に利用され、自殺肯定派VS主人公である弟含めた否定派が討論したりする内容から始まり、ミステリ色を帯びてきたりします。目新しいテーマなので、どんなふうに物語が展開しておくのかワクワクしながら読んでいきましたが、、、。

感想は見出しどおりです。肝心の自殺肯定派VS否定派の討論が、空虚に感じられました。話を早く展開させたいからか、あっさりしていた、というか空虚な議論だった、というか。自殺否定派の意見が一つしかなく、それもかなり低レベルに思えました。
もちろんジャンルはミステリなので、そんな議論は些末だからいいじゃないかという意見もあるでしょうけど、少しずつ期待が萎んでいきます。
それに、スイッチのときにレビューしましたが、文体が性に合わなかったです。軽い文体がラノベ感があって残念でした。

とあるトリックは高評価でした。新型コロナを話題に出さなくてよいというアマゾン評価がありましたが、とあるトリックが、主人公が真相に至るキッカケともなっていて、必要な要素だったと思います。コロナによる若者の苦しみも、まあまあ上手く書いてあり、メッセージ性があって良かったです。

けど、読み終わって脱力しました。警視が出てきたり、しかもその警視がリアリティないキャラクターで突飛だったり、いろいろと好みに合いませんでした。
潮谷験:エンドロール (講談社文庫)
潮谷験エンドロール についてのレビュー
No.43
(8pt)

SF×ホラー 設定はベタだけど文章に惹き込まれました

主人公の青年、成瀬純一はある日、事件に巻き込まれたことをキッカケとして性格が変容します。かつての穏やかで優しい性格が徐々に凶暴化していき、彼に何が起こったのかわかっていく物語です。
『変身』というタイトルですが、某作品と異なり主人公の姿形は変わりません。変わるのは性格と嗜好。かつては絵を描くのが好きだったはずが絵に興味を失い、乱暴な男に変容するのです。徐々に性格が変わっていく描写や、残虐な描写など、とても惹き込まれました。初めて読んだたとき、とても怖い内容と思いました。今回再読したときも感想は同じで、東野圭吾の全作品のうち半分くらい読んできたなかで、ホラー要素がピカイチだと思いました。

要素としてはSF2:ミステリー1:ホラー7といった感じです。メインは成瀬に何が起こったのかという謎を基に物語が進行しますが、種明かしの前に察する読者は多いと思います。同氏の『分身』同様、わかりやすい謎だなと思いました。分身同様、科学者の好奇心が恐ろしい事態を招く物語です。

本作は初期に出版されたもので、今と比べると後半の荒削りな描写が少し目立ちました。完全に異常犯罪者となった青年の逃避行がドタバタしていて、最後の最後まで丹念に描写してほしかったのがマイナスポイントでした。
文章力はさすがで、特に主人公の思考が変容していくさまや、一人称の変化など、高ポイントな面も多いです。 

作者の関心事である脳の原点だろう本作、久しぶりに怖さを堪能できてお勧めです。

東野圭吾:変身 (講談社文庫)
東野圭吾変身 についてのレビュー
No.42
(5pt)

殺人犯はどこでミスをしたのか

『皇帝と拳銃と』に次ぐシリーズ第二弾である本作。前作と話の繋がりはないので、本作から読みはじめても問題ないないです。
このシリーズは、刑事に追い詰められる犯人視点で物語が進む倒叙形式です。衝動的だったり計画的だったり、いずれにせよ上手くやり遂げたはずの犯行がどう見破られるのかが注目ポイントでしょう。

シリーズを通しての主人公役を務めるのは刑事二人。現実の刑事とは人物像がほど遠く、一人は死神のような容貌魁偉、もう一人はアイドル並みにルックスの良い刑事で、かなりユニークな設定かと思います。死神のような見た目の刑事が上司で、彼を表す文章は様々、死神だったりゾンビだったり、葬儀に参列する弔問客に喩えられます。そんな刑事から追及されるので、犯人の穏やかならぬ心情が伝わってきます。
ただ、本書も前作同様短編集なのですが、どの章においても刑事を死神と喩えており、幾分退屈になってきます。表現を変えども、死神のような奇妙なルックスという読者のイメージは変わらないだろうから、少しくどいと思いました。また、どの事件においてもパターンが似通っていて、退屈に感じさせる要素の一つです。
犯行→犯人への聞き込み→第三者Aへの聞き込み→犯人への聞き込み→第三者Bへの聞き込み→犯人への聞き込み、、、が続くのです。
本シリーズにおける見どころの一つが、死神刑事(名前は乙姫というこれまたイメージギャップを狙った名前)が、犯人に最初に会った瞬間から目をつけていて、どこが見破られたポイントだったのが物語の最後に明かす形式なので仕方ないにせよ、刑事二人が事件の謎に直面し苦労する描写がないので、これも退屈にさせる理由でした。

本作に収録してあるのは『愚者の選択』、『一等星かく輝けり』、『正義のための闘争』、『世界の望む静謐』で、なかでも表題作に関しては犯人を特定した論理的推理、あっと思わせる伏線回収が上手だと思いました。ただ、残念ながら総じて凡作の域は出ず、☆5という無難な点数となってしまいました。
ところで、それぞれの章ごとのタイトル、なかなかオシャレで好みでした。解説を読んで知ったのですが、前作を含めて本作も、それぞれのタイトルが、おるものを指しているのだそうです。
だとすれば、続編が出る可能性が高いとのこと。次のシリーズ作品が出たときには、かなりエッジの利いた変化球を期待したいです。
倉知淳:世界の望む静謐 (創元推理文庫)
倉知淳世界の望む静謐 についてのレビュー
No.41
(5pt)

罪を贖うように不幸になる四人の目撃者

田舎町で起こった少女の死を出発点として物語は始まります。殺されたのは都会から越してきた少女、エミリちゃん。
4人の友だちとプール際で遊んでいたところ、男に声をかけられます。困っているから誰か一人、助けてくれないか。エミリちゃんが指名され、時間が経てど戻ってこないことを心配した一人が見に行くと、変わり果てた姿のエミリちゃんが、、、。
かなり胸くそ悪い事件で幕を開け、湊かなえらしい作品と思いました。物語の本筋は、エミリちゃんを連れ去った男を目撃した四人の少女ら、彼女らがエミリちゃんの母親から償えと言われ、その後どういう人生を選んだのか。
第一作の『告白』同様、視点人物の台詞や手記形式で物語は進みます。

四人の少女には、すべて不幸が訪れます。そのなかにも胸くそ悪いエピソードが豊富で、イヤミスの女王と呼ばれるだけのことはあります。なかでも『くまの兄妹』は、かなり後味が悪い話でした。

そして最後、エミリちゃんの母親視点の語り。ここが一番の見どころです。都心から田舎へ、仕事の都合で引越し、地域ギャップにより周囲と馴染めない葛藤、娘を無惨にに殺され発狂した心情などなど、丁寧に描写されていました。と同時に、なぜエミリちゃんが狙われたのか知ります。ここが、本書での驚かせポイントでしょう。

四人の少女に不幸が連鎖した理由がそれっぼく描かれていましたが、こじつけっぽく思えたのがマイナスでした。それと、スカッとした騙されたという感覚も覚えなかったのもマイナス点です。
エミリちゃんの母親の心境の変化も理解しがたかったです。そもそも、わずか小学生の少女らに、面と向かって「償え」と言うのもやり過ぎだと思いますが、、、。
レビューを見れば、いろいろと深い考察をされている方がいて、なるほどなと思いました。本書に描かれていない裏のストーリーを考察していて、深読み必至の小説かもしれません。

今回が二度目の再読となりまして、最初に読み終わってから何年も経ち、ストーリーを忘れているところがあったので、新鮮な気持ちで読み進めました。ただ、三度目の再読はもうないでしょう。かなり重たい話なので、イヤミスに飢えてる方はどうぞ。
湊かなえ:贖罪 (双葉文庫)
湊かなえ贖罪 についてのレビュー
No.40
(5pt)

雪の密室〜トリックは足跡にあらず

辺りは雪一面、死体の第一発見者の足跡しかない、いわば雪上の密室。数多くある雪の密室の古典ミステリです。
現代のミステリ作品にも数多く影響を与えている雪上の密室という題材、私は足跡そのものにトリックが仕掛けられているのかと疑って読み進めました。金田一少年の事件簿や名探偵コナンにあるような、足跡に細工をするものが脳裏にあったからです。
ですが本作のトリックの主眼は実は足跡そのものになく、真相に驚きました。同じ題材を扱っていてもトリックが被らないように作家は苦心するので、おもしろいと思うと同時に、アイデアの被らないように作るのは大変だろうなと思いました。

本作も、『ユダの窓』同様、H.M卿が活躍する話です。H.M卿の甥視点でストーリーが進み、終盤に差し掛かったところでH.M卿登場、推理を披露するという流れです。
本作においても、翻訳物の欠点のためか、文章がわかりづらい箇所が多い印象でした。また、誰が話してるのか見失うことも多かったです。そのため話の全容は理解しづらかったですが、メイントリックになるほどと思いました。

本書を知ったきっかけが法月綸太郎氏の『雪密室』でした。本書の真相に触れてるため、未読の方はご注意くださいと但し書きされていて気になっていたので、ようやく『雪密室』の該当部分を読み直すことができました。
まだ2作とも読んでない方は、本書から読み始めるのをお勧めします。
カーター・ディクスン:白い僧院の殺人【新訳版】 (創元推理文庫)
カーター・ディクスン白い僧院の殺人 についてのレビュー
No.39
(6pt)

呪いのビデオ〜死を回避するオマジナイは何か

昨年、鈴木光司氏の刊行した『ユビキタス』の内容に興味が湧き、本作を手に取ってみました。ユビキタスのインタビューで、単なるホラーに留まらず超次元的な世界を描いたらしく、怖さのみを追求する作家ではないのだなと知りました。ユビキタスを読む前に他の作品も読んでみようと思い、デビュー作である今作を手に取った次第です。

ジャパニーズホラーの代表ともいえる本作。映画を観たことがなく、長い黒髪を振り乱した女性の怨念とバトルする作品と思っていたので敬遠してました。けれど読み終わって、そういう内容ではないことを知りました。
主人公、浅川は、姪が不審死した同一時刻、同じ年頃の少年が異様な死を遂げたことに興味を持ちます。二人の死は心臓麻痺による突然死で事件性なし。けれど調べると他にも二人、計四人が同じ時刻に突然死していて、何があったのか調べていくストーリーです。

不気味な表紙、巷で怖いと評判の本作ですが、どちらかというと怖い描写は控えめでした。なのでホラー慣れしてない方も安心して読めます。けれど、登場人物の異常な嗜好、怨念と化した女性の壮絶な過去、異形など、何やら不気味な演出は多かったです。

ページ数は少ないですが描写が緻密で情景描写、心情が多めで高ポイントです。昨今の、台詞ばかり多用するラノベ作家に見習ってほしいところです。
ただ、肝心のホラー描写について、やや控えめ、もう少し背筋を凍らせる物語を希望してた身として、評価を落とし、☆6としました。
鈴木光司:リング (角川ホラー文庫)
鈴木光司リング についてのレビュー
No.38
(4pt)

魔神の仕業のような猟奇殺人オンパレード

読み終わって、どっと疲れる作品でした。
スコットランドのとある平和な村で立て続けに起こる猟奇殺人。人間業と思えない怪力で犠牲者はバラバラにされていたり、魔人を思わせる不気味な咆哮が聞こえてきたりと、かなり恐ろしい内容でした。
美点は、丹念に描かれた新約聖書の内容と、読者を驚かせようという作者の企みでした。力作だと思いました。
ですが正直、それらの良かったところを打ち消すほど、全体的に内容が好みではなかったです。
一つ、死体の一部が見つかって猟奇的だと警察が騒ぐ→新たな死体の一部が見つかったのループが多く、飽きが多かったです。
死体の一部の棄てられた場所が重要となってくるのですが、犯人を特定するものではなく、ふーんそれで?って感じでした。

読んでるあいだ抱いていた嫌な予感が当たりました。以前に読んだ『暗闇坂の人喰いの木』同様、謎や猟奇的殺人のオンパレードで惹きつけながら、真相はガッカリという作品です。
ダイイングメッセージも強引さが否めません。

島田荘司作品をある程度読んでいない方は評価が低くなると思います。私にはまだ早かったようです。
島田荘司:魔神の遊戯 (文春文庫)
島田荘司魔神の遊戯 についてのレビュー
No.37
(6pt)

シリーズ中、かなり異端な作品

エラリー・クイーンの国名シリーズを幾つか読んできましたが、本作はこれまでの作品と毛色が違うと思いました。
一つは、何をおいても事件の猟奇性。丁字路に磔にされた死体――それだけでも猟奇的じみてますが、その死体には頭部がありません。それまでのクイーンの作品でこれほどまで残虐な死体は出てこなかったので、かなり珍しいと思いました。
思えば、手術を受ける患者がオペ前に殺されていた『オランダ靴の謎』や、劇の最中に観客の一人が殺されていた『ローマ帽子の謎』同様、読者の好奇心を見事に誘う出だしだと言えましょう。
二つ目は、スリリングな要素。エラリーが、次なる犠牲を阻止しようと駆けめぐる描写に、かなり惹き込まれました。

エジプト要素がないから国名シリーズに相応しくないというレビューがありました。たしかに、現場はアメリカで、エラリーがエジプト要素を持ち出すも、結果的に関係ないという話が序盤で明らかとなります。けれど私が初めて読んだオランダ靴の謎で、オランダ要素が皆無とわかっていたので、そこはご愛嬌と、あまり気になりませんでした。むしろ、エラリーがエジプトの蘊蓄を並べたことが、結果的にオチに繋がっていて、なかなか凝ってるし遊び心を感じられます。

ただ、ミステリ要素としては、ありがちだなと辛めにレビューしておきます。当時は珍しい仕掛けだったのでしょうか。けれど本作の仕掛けが幾つもある推理小説において、結末を予想でき、やっぱりなと思った読者は多いと思います。
古典小説なのだから現代人に通じるドンデン返しを求めるのは贅沢と言われるかもしれませんが、少々強引かなと思いました。
古典ついでに言えば、監視カメラが数多く設置されてる現在、死体を堂々と道標に磔にする大胆さは、古典小説ならではの発想の柔軟さだと思いました。監視カメラやらあらゆる技術の進化が、現在のミステリ作家を苦労させるなと、同情しました。

ついでに、エラリーやら検事やらが警戒するなか、みすみす連続殺人を起こさせてしまったのがマイナス評価でした。
探偵といえど完璧でない、けれど、次に狙われる可能性がある人物を殺されるのは、間が抜けてると言わざるをえません。

本書は創元推理文庫で読みました。直訳のような堅苦しい文章ですが、角川版と違って表紙が好みなので、創元推理文庫を贔屓にしてます。国名シリーズの未読は『ギリシャ棺の謎』を残すのみ。他の国名シリーズも文庫化をゆっくり待ち続けてます。
エラリー・クイーン:エジプト十字架の謎【新訳版】 (創元推理文庫)
エラリー・クイーンエジプト十字架の謎 についてのレビュー
No.36
(8pt)

新しい形のクローズドサークル・ミステリ

殺人犯を犠牲にしなければ皆が脱出することはできない――事前情報なしで読んだので正体不明の人物に監禁されるデスゲームかと思いきや、かなりリアルな設定に目を見張りました。
とある宗教団体が昔作り上げた地下施設――方舟。突如発生した災害により脱出不可能となった人物たち。浸水による全滅はのタイムリミットは刻々と訪れ、その前に脱出しなければならないけど、その為には、出入り口を塞ぐ大岩を一人が地下に落とす必要があり、落とした人物はその大岩が障害となって脱出できなくなる。誰を選択するか。そんな折に殺人が発生する。当然ながら犠牲は犯人が負うのが相応しい。
なかなか凝った設定でした。

本作を評価したのは、その特殊設定と、犠牲者(犯人)を絞る論理的な推理、そして、なぜ、第一の殺人を犯したのかという問に対する説明でした。地下施設に閉じ込められた人物たちの、生存欲求やら、猜疑心もリアルで、見ものでした。
本書は、最後にドンデン返しがあるということで有名で、私は結末を予想しながら読み進めました。
実は犯人は違うんではないか、突然地下施設を訪れた三人の家族は謎だし、本書において探偵役を務める主人公の従兄弟は明らかに怪しいし、なかなか翻弄される作品でした。
未読の方のためにネタバレは無論伏せますが、結末はあまり好みではありませんでした。消化不良といった感じです。

たしかに、なぜ殺人を行ったのかという問にはすべて答えられています。けれど、これほど無慈悲なことができるだろうかという素朴な疑問です。自らが助かるためという究極的な生存欲求でしょうか、本書では殺人鬼的に扱っていますが、かなり人物像とギャップがあり、違和感が拭えませんでした。
おもしろい設定で論理的な推理、意外な犯人、、、と、魅力的な要素はありますが、ちょっと消化不良でした。
まだ未読の方は、登場人物が無事に生還できるか、誰を犠牲者に選択するか、固唾を飲んで読み進めることをお勧めします。
夕木春央:方舟 (講談社文庫)
夕木春央方舟 についてのレビュー
No.35
(7pt)

真相は陳腐。けれどギミックに唸らされる小説

本書は冒頭から不可解な謎が提示され、ページを捲る手が止まらなくなる魅力的な小説です。様々な不思議な出来事、複雑な人物関係、証言の矛盾が提示され、一体この小説は、どんな結末を迎えるのだろうと楽しみながら読み進められました。
真相はやや拍子抜けさせられました。魅力的なマジックを見て、種明かしされてこんなことだったのかと呆れ、拍子抜けするのに近しい感覚です。ですが、伏線がしっかり張られており、力作だと思いました。本書は一人称視点でフロッピーに書かれた日記形式であり、きちんとギミックの役割を果たしているので感心させられます。
本格的な謎解き小説を期待すると肩透かしを食らいますが、構成の緻密さ、人物の描き分け等、工夫が凝らしてある作品です。
以前に読んだ同氏の『オルファクトグラム』よりは好みでした。
井上夢人:プラスティック (講談社文庫)
井上夢人プラスティック についてのレビュー