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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数617

全617件 401~420 21/31ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.217:
(7pt)

異色の北欧警察小説

デンマーク生まれで、ヨーロッパで人気を呼んでいるという「捜査官ラウン」シリーズの第一作。ストーリーが明快で読みやすい、ハードボイルド風味のサスペンスである。
ある事情から無期限休職処分を受け、自己憐憫と酒に溺れる自堕落な日々を過ごしていたコペンハーゲン警察の刑事ラウンは、友人のバーテンダーから「二年前から行方不明になっている、リトアニア出身の若い女性マーシャを探してほしい」と頼まれた。気乗りしないラウルだったが、酒に釣られて依頼を引き受け調査を始めてみると、どうやらマーシャが売春組織によってスウェーデンに連れて行かれたらしいことを突き止める。スウェーデンに行って調査を進めようとするラウンの前には、凶悪な東欧マフィアが立ちふさがってきた。さらに、若い女性を狙った連続猟奇殺人の犯人がマーシャに接近してきていた。警察というバックを持たず、しかも外国で単身で活動するラウンがマーシャを助け出すことができるのだろうか・・・。
警察官が主人公ということで警察小説に分類されるのだろうが、休職処分の最中とあって、組織的な捜査ではなく個人として活動するしかないため、私立探偵的小説的な展開になっている点が、従来の北欧警察小説とは異なっている。さらに、東欧マフィアだけでなく連続猟奇殺人のサイコパスまで登場するサイコ・サスペンスの要素もあり、いろんな料理が盛り沢山のワンプレート・ランチの様相を呈している。それでもすいすい読めるのは、ドラマ脚本家としてキャリアを積んできた著者ならではだろう。主人公だけでなく、脇役にも個性的な人物を配しているので、シリーズ化されたときが楽しみである。
いわゆる北欧警察小説を期待すると肩透かしを食らうだろうが、私立探偵もののバリエーションとしては良くできたエンターテイメント作品であり、多くのミステリーファンにオススメできる。
凍てつく街角
No.216:
(7pt)

宮部みゆきの時代物ファンにオススメ

「作家生活30周年を迎える宮部みゆきの集大成的な作品」とか、「21世紀最強のサイコ&ミステリー」という売り文句が先行し過ぎた作品。
現代を代表するストーリーテラー宮部みゆきだけに、物語の展開や膨らみには文句はないのだが、ミステリーとしては犯行の動機や手段に無理があり過ぎる。もちろん、時代怪奇小説として割り切れば、とても面白い作品であることは間違いない。
宮部作品の中でも、時代もの、怪奇ものが好きな方にはオススメする。
この世の春(上) (新潮文庫)
宮部みゆきこの世の春 についてのレビュー
No.215:
(7pt)

スコット&マギーは脇役だった

ハンドラーのスコット巡査&警察犬マギーのコンビがデビューした「容疑者」の続編という売りだが、正確には私立探偵コール&パイクシリーズ(未読)の16作目と言う方が当たっている。
メリル・ローレンスという女性から「行方不明になった同僚のエイミーを探してほしい」と依頼されたコールは、少ない手がかりを追って、ロスの小さな住宅を訪れたのだが、家は真っ暗だった。そのうち、警察のヘリコプターが周辺を照らし、パトカーも集まって逃亡者の追跡がはじまり、コールが訪ねた家から不審な男が逃げ出してきた。その男を捕まえようとしたコールは、逆に警察から事情聴取され、容疑者と見なされてしまった。時を同じくして、逃亡者を追って同じ家にたどり着いたスコットとマギーは、不審な男に遭遇したのだが疑問に思うことは無かった。ところが、すぐあとにマギーが、その家で逃亡者が殺害され、大量の爆発物が隠されていたのを発見した。
謎が多いエイミーを不審に思ったコールは、相棒のパイクとジョンに協力を求めて調査を進め、息子をテロで殺されたエイミーがある危険な計画を立てていることに気がついた。一方、不審な男の唯一の目撃者として捜査に協力していたスコットは、マギーともども不審な男から命を狙われるようになった。コールとスコットは、警察から不信感を持たれながらも、それぞれの思惑と使命感に駆られて事件の真相を究明しようとする・・・。
主役はあくまでもコール&パイクにジョンが加わった探偵側で、スコットとマギーは主要登場人物ではあるが、あくまで脇役であり、スコットとマギーの活躍を読みたいと思っていると肩透かしを喰らう。とはいえ、構成もストーリーも良くできた作品で、コール&パイクシリーズのファンにはもちろん、私立探偵小説ファンにはオススメだ。

約束 (創元推理文庫)
ロバート・クレイス約束 についてのレビュー
No.214:
(7pt)

いろんな意味で、珍品である

ドイツを含む北欧、東欧系のミステリーがいろいろ紹介されているが、本作品はなんとポーランド・ミステリーである。「ポーランドのルメートル」(訳者あとがき)と呼ばれる作者の本国では人気を博している「検察官テオドア・シャツキ」シリーズの第三作にしてシリーズ完結編が本邦初登場という、苦笑したくなるような事情を抱えてのデビューである(シリーズ第一作、第二作も近々刊行の予定とか)。
工事現場で白骨死体が見つかった。しょっちゅうドイツ占領時代の白骨が見つかっていたことから、事件性は無いと楽観視していたシャツキ検察官だったが、検死の結果、遺体は10日前まで生きていたことが判明し、さらに、白骨には複数の人間の骨が含まれていたことから、本格的な捜査を進めることになった。遺体の身元が判明し、白骨化した過程もほぼ明らかになったのだが、犯行の動機や犯人の手がかりがまったく見つからず、捜査は混迷を深めるばかりだった。さらに、家庭内暴力を訴えてきた女性をすげなく追い返したシャツキ検察官は、部下にその対応を批判され、心配になって女性の家を訪ねると彼女は暴力を受け瀕死の状態で横たわっていた。二つの事件の重圧に苦しむシャツキ検察官を、さらにとんでもない悲劇が襲ってきた・・・。
基本的には犯人探しミステリーだが、シリーズ作品らしく主人公や主要な登場人物のキャラクターにも重点が置かれ、さらに舞台となるポーランド北部の小都市の描写にも力が入れられている。「まさに面白さてんこ盛り」(訳者あとがき)なのだが、全方位に欲張り過ぎていて、イマイチ乗り切れない作品だった。犯行の残忍さはサスペンスフルだが、それに比べて捜査の展開がのんびりし過ぎていて、衝撃の結末を迎えても、まったくスリルとサスペンスが感じられなかった。さらに、主人公のユーモアがちょっとズレて(国民性の違いかも)いるのももどかしい。
北欧やドイツ系の警察ミステリーのファンにはかろうじて合格点だと思うが、ルメートル・クラスのサスペンス・ミステリーを期待したら肩すかしを喰うだろう。
怒り 上 (小学館文庫)
ジグムント・ミウォシェフスキ怒り についてのレビュー
No.213:
(7pt)

シリーズをより深く味わうために必読

ドイツを代表する人気シリーズ「刑事オリヴァー&ピア」の第2作。日本では、3作目、4作目、1作目に続く4番目の刊行である。
田舎町の市会議員で高校教師の男性パウリーが、バラバラ死体で発見された。パウリーは環境保護活動に熱心で過激な言動を繰り返していたため、さまざまな立場の人たちと対立しており、直近では道路の建設を巡って地元の議会や市長、業界などから憎まれていた。オリヴァーたちのチームが捜査を進めると、パウリーを殺したいという動機を持つ人物が次々に登場してきた。さらに、パウリーに心酔する若者のグループやパウリーの家族関係でも不審な動きが見られるようになり、捜査は混迷を深めるばかりだった・・・。
物語全体の構成、伏線の張り方は実に見事で、犯人探しの面白さにどんどん引き込まれていく。また、シリーズ物の重要ポイントである主要な人物のキャラクターや関係性が作り上げられて行くプロセスという点でも、シリーズ読者には非常に興味深い。ただ、事件の背景や動機、捜査などの本筋以外の部分、特にキャラクターを表現した部分が、他の3作品より多少劣っている感じがした。
本シリーズの愛読者には絶対のオススメ。シリーズ未読の方には、第1作「悪女は自殺しない」から読むことをオススメする。
死体は笑みを招く (創元推理文庫)
ネレ・ノイハウス死体は笑みを招く についてのレビュー
No.212:
(7pt)

過剰な技巧のオンパレードに幻惑された

1993年に刊行された折原一の代表作。ミステリーとホラーの構成要素を、これでもかと詰め込んだ重量級の作品である。
純文学と推理小説の新人賞を受賞したもののさっぱり芽が出ず、ゴーストライターとして生活していた島崎は、裕福な宝石商である母親から「息子の伝記を書いてほしい」と依頼された。高額な報酬に釣られて引受け、8歳で児童文学賞を受賞し神童と呼ばれながら作家として大成しなかった小松原淳の生涯を追い始めた島崎は、小松原淳の生涯につきまとう暗い陰に気付き、また不審な男の存在を感じた。さらに、何者かが島崎の仕事を妨害しようとしてきた。富士の樹海で行方不明になったと信じられてきた小松原淳は、本当に死んだのだろうか?・・・
最初に書いたように、作者が持っている技巧とモチーフを全部ぶち込んだような、力業の作品である。メインストーリー自体は単純で、仕掛けの大筋も途中で分かってくるので、技巧の部分をのぞけば、ミステリーとしては物足りない。また、登場人物が類型化されているのにもやや不満が残る。
ミステリーはトリックが命、という読者にオススメする。
異人たちの館 (文春文庫)
折原一異人たちの館 についてのレビュー
No.211:
(7pt)

こじらせたアラフィフ女子の騒動記(非ミステリー)

1986年に制作されたフランス映画「ベティ・ブルー」の原作者による長編小説。2016年に公開されたフランス映画「エル ELLE」の原作で、フランスでは有名な文学賞を受賞した作品である。表4の説明文や映画の売り文句ではサスペンスとかサイコ・スリラーとか言われているが、ミステリー作品ではない。
番組制作会社の共同経営者として成功したミシェルは、一人暮らしの自宅で目出し帽の男に強姦された。事件から立ち直ろうとするミシェルだったが、犯人らしき男からはミシェルを監視しているようなメールが届き、ミシェルは自衛のために護身具を購入する。その一方、ミシェルの周辺では元夫、息子、母親らがさまざまなトラブルを引き起こし、ミシェル自身の不倫相手も無理難題を持ち込むなど、心理的に安泰な日々は失われるばかりだった。そんなとき、強姦犯人がまた彼女に襲いかかってきた・・・。
サスペンス、スリラーであれば、ミシェルが犯人を撃退するプロセスが中心になるはずだが(当然、そういう展開を期待して読み始めたのだが)、作品の主眼は犯人との対決ではなく、ミシェルの生き方に置かれている。その生き方というのが、まさに「こじらせ女」を地で行くもので、賛否両論(というか、読者レビューでは「否」がほとんどだが)を引き起こすやっかいものである。
ミステリーとしてではなく、フランスのアラフィフ女性の生き方を垣間みる作品として読むことをオススメする。
エル ELLE
フィリップ・ジャンエル ELLE についてのレビュー
No.210:
(7pt)

時刻表ミステリー?

おなじみ北海道警シリーズの第8作。人情もの+時刻表ミステリーっぽいところが、シリーズの中では新味さを感じさせる。
小島百合巡査部長は、工具類を万引きした小学生を補導し、大通警察署に連行しながら、署内から逃走されるという失態を犯した。責任を感じた小島が四苦八苦して連絡を取った少年の母親は半ば育児放棄状態で、小学生の行方は不明のままだった。同じ日、園芸店の侵入盗捜査に赴いた佐伯警部補は、盗まれたのが爆弾の原料になる硫安と分かり、緊張する。園芸店近くのコンビニの防犯カメラから目星をつけた車を洗って行くうちに、JR北海道の保線データ改ざん事件で解雇された男が浮上した。しかも、男はキャンピング用に改造した車で万引き小学生と一緒に移動しているらしいことが判明した。男の狙いは、何なのか? どこに爆弾を仕掛けようとしているのか? 佐伯、小島たちと機動捜査隊が必死に追いかけるのだが、男はすでに爆弾を仕掛けていた・・・。
安定した面白さではあるが、主犯の男の造形がいまいちのため、ぞくぞくするようなスリルに欠けるし、タイムリミットものには必須のサスペンスもやや物足りない。佐伯と小島の男女関係と同様に、やや緩くて緊張感が無いと言えば、言い過ぎだろうか。
シリーズファンにはもちろん、軽めの警察小説ファン、時刻表ミステリーファンにはオススメだ。
真夏の雷管
佐々木譲真夏の雷管 についてのレビュー
No.209:
(7pt)

最初から最後まで、暗くて重い

シドニー州都警察殺人捜査課シリーズの第2作。フランクとエデンの2人の刑事が主役の警察小説であり、エデンの養父・ハデスの過去が明かされるノワール小説でもある。
シドニーで行方不明になった3人の若い女性。シドニー郊外にある、怪しいコミューンの農場にいたことがあるという共通点に着目した警察は潜入捜査をすることになり、エデンが潜り込み、フランクが監視チームを率いることになった。一方、闇の稼業からの引退を決意したハデスだったが、何者かに監視されていることに気付き、エデンを通してフランクに監視者を突き止めるように依頼した。
危険な任務を引受けたエデンは、無事に帰って来られるのか、エデンのサポートとハデスの依頼の2つの任務をこなさなければならなくなったフランクは、両方を同時にこなして行けるのか。現在の厳しい捜査の進展と並行して語られるのは、「冥界の王」ハデスの誕生までの暗くて凄惨な物語である。
全編、暗くて思い物語で、読み通すにはかなりの体力が必要だし、読後感も爽快さとはほど遠い。それを覚悟のうえで読むことをオススメする。
楽園 (シドニー州都警察殺人捜査課) (創元推理文庫)
No.208:
(7pt)

やや時代を感じるが、傑作

森村誠一が1973年から74年にかけて週刊誌に連載した、著者得意のホテルものに分類される社会派ミステリーである。
超高層ホテルの若きホテルマン・山名は、密かに憧れていた女性客が殺されたことから、同期の佐々木と二人で事件の真相を探ろうとする。その謎を解く鍵になったのは、ホテル内で殺害された新聞記者が山名に極秘で託したネガフィルムだった。
女性殺害事件の謎解きを主軸に、ホテル内でのトップの権力争いが絡み、さまざまな登場人物が錯綜する複雑なミステリーであるが、同時に、当時としては珍しかった超高層ホテルの内幕を暴露した娯楽小説でもある。従って、現在の読者にはやや古臭く感じられるのは仕方ないが、支配する者と支配される者の関係、サービスを提供する側とされる側にある差別などに対する筆者の厳しい視線は、いささかも古びてはいない。
落ち着いたストーリー展開の社会派ミステリーファンにはオススメだ。

鍵のかかる棺〈下〉 (徳間文庫)
森村誠一鍵のかかる棺 についてのレビュー
No.207:
(7pt)

みんな純情なの? 悪人なの?

ジョン・ハートの長編第5作。前作「アイアン・ハウス」が面白かっただけに期待したのだが、ミステリーというよりアメリカ南部の人間模様を織り上げた人間ドラマで、ちょっと期待外れだった。
ノースカロライナ州の小都市の女性刑事エリザベスは、少女監禁犯2人を現場で拷問し射殺したとして州検事局から問題視され、停職中だった。犯人2人に18発の銃弾を撃ち込んだ理由の説明をかたくなに拒むエリザベスは、警察内部でも孤立化しつつあった。同じ頃、13年前に捜査中に知り合った女性を殺害した罪で服役していた元刑事ウォールが仮釈放された。ウォールを崇拝し、憧れていたエリザベスは彼の無実を信じていたのだが、ウォールが釈放された翌日、同じ手口で殺害された女性が発見され、警察はウォールを追い始める。
共に警察に追われる刑事2人と、監禁された少女、元刑事に殺された女性の一人息子が主役で、脇役には同僚刑事、刑務所長、弁護士などが配置され、それぞれに抱える心の闇、過去の陰が絡まって早大で複雑な物語が展開される。しかし、ミステリーとしては犯罪の動機、捜査手法などに疑問が多く、あまり出来がいいとは言えない。登場人物が全員、純情だから罪に関わってしまったのか、善悪を抜きにして行動するタイプなのか、めちゃくちゃ内省的でもあり、直情的でもあって、読んでいて混乱させられた。
「アイアン・ハウス」より「川は静かに流れ」や「ラスト・チャイルド」の方が好きという方にはオススメだ。
終わりなき道 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジョン・ハート終わりなき道 についてのレビュー
No.206:
(7pt)

瞬間湯沸かし器父娘の暴走捜査

スウェーデンを代表する警察小説・刑事ヴァランダー・シリーズの第9作。もうすぐ父親と同じイースタ警察署に勤務することになる娘のリンダが主役を勤める、シリーズ派生的な内容だが、舞台がイースタで登場人物も同じなのでシリーズ作品と言えるだろう。
警察学校を卒業し、故郷のイースタで警察官になるために帰ってきたリンダは、昔の友だちとの付き合いを復活させたのだが、幼なじみのアンナが突然行方不明になった。心配したリンダは、「お前はまだ警官ではない」という父の制止ものともせず、勝手に捜査まがいの行動をとり、何度も父親と衝突していた。そのころ、イースタ周辺では白鳥や子牛が焼かれるという不気味な事件が発生していたのだが、とうとう女性が惨殺されるという事件が発生した。アンナの部屋に勝手に入って日記を読んだリンダは、惨殺された女性の名前が日記に書かれているのを見て仰天する。二つの出来事がつながり始めたとき、そこに表われたのは、カルト集団の影だった・・・。
事件捜査が中心の警察小説ではあるが、主役が警官未満のリンダなので、これまでのヴァランダー・シリーズとはやや雰囲気が異なっている。事件の動機解明、犯罪捜査より、父と娘、あるいは親子の関係などの人間模様の方に目移りしてしまう。実際、事件捜査としてはありえないほど非常識な手法が、ヴァランダーの娘だということで許されているのは、かなり興ざめだった。
ヴァランダー・シリーズとしては出来が良くない作品だが、筆者の死亡により、シリーズ作品もあと2作しか読めないのかと思うと、ファンには必読である。
霜の降りる前に〈上〉 (創元推理文庫)
ヘニング・マンケル霜の降りる前に についてのレビュー
No.205:
(7pt)

藪の中のもやもやが残念

ドイツでは大人気(日本で言えば、宮部みゆきクラス)のミステリー作家の長編小説。ミステリーとしてはやや薄味の家族ドラマである。
イギリスの片田舎で育ち、ロンドンでジャーナリストとして活躍していたロザンナは、ジブラルタルで結婚することになり、幼馴染のエレインを結婚式に招待した。ジブラルタルに向かおうとしたエレインだったが、濃霧のため飛行機が欠航し途方に暮れていたとき、親切な弁護士と出会い、一夜の宿を提供してもらった。翌朝、ジブラルタルに向かったはずのエレインは結婚式には現われず、行方不明となった。
5年後、ロンドン時代の上司から「失踪者」の記事を書かないかと依頼され、エレインの一件も含めて調査を始めることになった。空港でエレインを助けた弁護士・マークと会い、取材をすすめていると、「エレインがいる」という情報が寄せられた・・・。
エレインは、殺されたのか、自分から失踪したのか? これが最後まで隠され、物語は意外な結末を迎えることになる。巻末の紹介文には「最後の最後にあなたを待つのは、震えるほどの衝撃だ」とあるが、それほどのインパクトやサスペンスがある展開ではない。エレインの捜索、事件の真相も、ミステリーとしては平均レベルのできである。本作品の読みどころは、それぞれに問題を抱えている登場人物たちが揺れ動く様相を丁寧に描いた心理描写にある。宮部みゆきというより、湊かなえ的と言えば良いだろうか。
謎解きや犯人追跡のミステリーより心理ドラマの方が好き、という方にはおススメだ。
失踪者〈上〉 (創元推理文庫)
シャルロッテ・リンク失踪者 についてのレビュー
No.204:
(7pt)

すべてに正直な女?

欧米で大きな話題を呼び、映画化権も売れたという、英国の新人のミステリーデビュー作。華やかで奔放な悪女(ヒロイン)が天性の美貌と頭のよさで成り上がって行く、エロティックサスペンスである。
ロンドンの美術品競売会社に勤めるジュディスは、能力を発揮できないつまらない仕事にうんざりしていたのだが、ある日、自分が贋作ではないかと鑑定した絵画が競売にかけられることに疑問を持ち、背景を探ろうとして解雇された。当面の生活費を稼ぐために、バイト先のシャンパン・バーの指名客とリビエラへ行ったのだが、そこで、睡眠薬を飲ませた指名客が死亡してしまった。罪に問われるのを恐れたジュディスは、金を奪い、イタリアに逃亡する。そこで出会った大金持ちの豪華クルーザーに乗ることになったジュディスは、豪奢な生活と「なりたい自分になる」という欲望を満たすため、次々と犯罪を犯すことになった・・・。
主人公が悪女であり、犯罪を犯すことにさほど罪悪感を抱いていないことから反社会的で、しかもセックス描写が大胆なため、スキャンダラスな作品であることは間違いない。しかし同時に、女性が一人で完全犯罪を実行するサスペンスとしても良くできている。
好悪がはっきり分かれる作品であり、悪女に嫌悪感を抱く人にはおススメできないが、タブーに挑戦するストーリーが好みの方にはおススメだ。
真紅のマエストラ
L・S・ヒルトン真紅のマエストラ についてのレビュー
No.203:
(7pt)

妊婦が単身で巨悪に挑む!

いま、ヨーロッパで人気上昇中のスウェーデンの新進作家のデビュー作。ヨーロッパの不法移民をテーマにした社会派ミステリーである。
ジブラルタル海峡を挟んでアフリカが見える、スペイン最南端の町・タリファ。スウェーデンからの観光客で20歳のテレーセが羽目を外し過ぎた翌朝、海岸に流れ着いた黒人男性の死体を発見し、死体はアフリカからの不法移民が溺れ死んだものとして処理された。
ニューヨーク在住の舞台美術家アリーは、妊娠に気がついたが、喜びを伝えるべき夫は取材でパリに出かけており、10日ほどまえに電話があってから音信不通になっていた。フリージャーナリストの夫は、ヨーロッパの不法移民を取材しており、難しい局面に直面していたようだった。夫の身を案じたアリーは、一人でパリへ出かけ、夫を捜すことにした。
妊婦がたった一人で、しかも知り合いもいないパリで夫を探せるのか? 知恵と度胸で難局に挑むアリーの獅子奮迅の活躍が読みどころ。その背景になる不法移民を巡る闇の世界の存在も、サスペンスを盛り上げる。メインのストーリーから生まれるスリル、サスペンスはあるのだが、全体的にやや深みが無い印象を受けた。登場人物のキャラクター設定より物語のテーマを重視する作風のようで、妊婦が単身で組織犯罪と戦うという設定の割には、ヒロインに感情移入しずらかったのが、深みが無い印象につながったのだが、女性読者なら違った印象を持つだろう。
ヒロインが活躍するミステリー、社会派ミステリーが好きな読者にはオススメだ。
海岸の女たち (創元推理文庫)
No.202:
(7pt)

高校生妊婦の「目には目を」

アメリカの女性ミステリー作家のデビュー作。拉致監禁された妊婦(高校生)が知恵と勇気で脱出を成功させた経緯を、17年後に回顧するという物語である。
登校途中に拉致され、一人で監禁されている女子高校生は、お腹の子供を売買する目的で誘拐されたことを知る。実は彼女は極めて特殊な科学的頭脳を持っていて、身の回りにあるものだけを使って犯人に復讐する計画を立て、実行するチャンスを虎視眈々とうかがっていた。そしてある日、計画を実行し、犯人を殺害して逃げ出すのだが、思いも寄らぬ事態に直面することになる。
一方、誘拐事件専門チームに所属するFBI捜査官は、自分の弟が誘拐された経験から誘拐犯を憎悪しており、個性的な相棒とのコンビでFBIの規則も無視して捜査にのめり込んで行く。
誘拐された妊婦とFBI捜査官のそれぞれの独白で、交互にストーリーが展開し、犯行の動機、いかれた犯人の心理、凄惨な犯行様態などが明らかになって行く。事件そのものは凄惨で醜悪なのに、読んでいて嫌悪感が少ないのは、ストーリーの重点が犯行ではなく、ヒロインの脱出に置かれているからである。とにかく、彼女の超人的な能力に驚かされるばかりである。
普通の翻訳ミステリーには必ず付いている登場人物リストが無いので不思議に思ったのだが、途中でその理由が判明すると、なるほどと手を打ち、編集部の配慮にニヤッとさせられた。
女性が監禁される小説としては「その女アレックス」というより、「クリスマスに少女は還る」に近いテイストと言える。
メソッド15/33 (ハヤカワ文庫NV)
シャノン・カークメソッド15/33 についてのレビュー
No.201:
(7pt)

チンピラとロックスターとマフィア

フランスの新鋭ミステリー作家の第2作。ミステリーというより、悪漢小説、成長物語的な犯罪小説である。
人気絶頂のフランスのロックスターがシチリア島で姿を消した。身代金の要求は無く、死体も見つからない、謎の失踪だった。が実は、その二年前に北フランスのカレーで2人のチンピラが、マフィアの金を盗んで逃走するという事件と、関係があったのだ。この二つの出来事を結ぶのが、金を盗まれたマフィアだった。チンピラとロックスターとマフィア、それぞれが欲望と人生をぶつけあったとき、物語は思わぬ方向に転がって行く。
主役となる人物が皆、泥棒というか犯罪に関わっている割には、暗さや凄惨さはない。かといって、ユーモラスな犯罪小説でもない。暴力や陰謀が繰り広げられるのだが、そのシーンが乾いているのである。それはきっと、チンピラ、ロックスター、マフィアのそれぞれが人生に何かを引きずっており、なおかつ自由な生き方を希求し、実現させようとしているからである。
文庫本で500ページの分量、元の文体の読みにくさ(訳文は上手い)もあって、読み通すには体力が必要だが、読んで損が無いことは確かだ。ミステリーというより成長物語ファンにオススメだ。
その先は想像しろ (集英社文庫)
エルヴェ・コメールその先は想像しろ についてのレビュー
No.200:
(7pt)

過去からの亡霊に揺らぐ、リゾートの夏

「エーランド島四部作」の完結編。今回も、古い因縁が現在を揺さぶるゴシック風味のミステリーである。
エーランド島で一大リゾートを経営するクロス家の末端に連なる11歳のヨーナスは、遊びに来たエーランド島でひとり夜の海にボートを漕ぎ出し、幽霊船に遭遇する。必死の思いで逃げ帰ったヨーナスは、高齢者ホームから自宅に帰り、一人でボートハウスで寝ていたイェルロフに助けを求めた。イェルロフはヨーナスの話を信じてくれたが、ヨーナスの父や伯父はヨーナスの話を無視しようとする。しかし、クロス家のリゾートでは不穏な事件が続発し、正体不明の怪しい男の影が見え隠れしていた・・・。
過去の因縁が引き起こした事件というのが、シリーズのいつものパターンなのだが、今回は70年近く前の出来事から物語が始まるというきわめてスパンが長い話で、しかも探偵役は杖が手放せない老船長イェルロフなので、ストーリーはきわめてゆっくりと展開する。季節が夏ということで、いつものエーランド島に比べると賑やかな登場人物やエピソードもあるのだが、基本のテイストは前3作と変わらない。老船長の人間味溢れる推理をじっくり楽しむのが、本作の読みどころだろう。
各作品のストーリーは独立性が高いので、本作から読み始めても問題ないが、できれば第1作「黄昏に眠る秋」から読み始めることをオススメする。
夏に凍える舟
ヨハン・テオリン夏に凍える舟 についてのレビュー
No.199:
(7pt)

成功者、権力者の孤独を笑う(非ミステリー)

精神科医・伊良部シリーズの第3弾。雑誌掲載の4作品を収めた短編集である。
伊良部医師のとぼけた味は相変わらずなのだが、今回は表題作「町長選挙」以外は患者(主役)のキャラが勝っていて、しかも「モデルはあの人」というのが容易に想像できて、前2冊ほど意表をつかれることがなかったのが残念。辛辣でユーモラスな奥田ワールドの持ち味がちょっとだけ薄くなった気がした。

町長選挙 (文春文庫)
奥田英朗町長選挙 についてのレビュー
No.198:
(7pt)

強い女の悲しみが哀感を誘う

「北海道警釧路方面本部刑事第一課 松崎比呂」のサブタイトルが示すように、女性刑事が主役の長編ミステリー。単行本を完全改稿した(表4の説明文)文庫版である。
17年前に釧路湿原で行方不明になった少年の姉・松崎比呂は刑事として釧路方面本部刑事第一課に勤務しており、湿原で他殺死体が発見された事件を担当することになる。被害者は札幌の自動車セールスマンで、青い目を隠すために常にカラーコンタクトを使用していた。被害者が釧路まで来たのはなぜか、殺害されたのはなぜか。17年前の弟の事件を担当したベテラン刑事の片桐とコンビを組み、札幌、小樽、室蘭と巡りながら、松崎比呂は被害者の身元を丁寧に洗っていったのだが、そこで現われて来たのは、終戦時の樺太から命からがら引き揚げて来た女の壮絶なドラマであった。
終戦時の樺太からの引き揚げ、17年前の失踪事件、そして現在の殺人という3つの出来事がつながっていくプロセスが見事である。全体の構成も、登場人物も上手くコントロールされていて、物語に破綻がない。ただ、全体的に文章が硬質で、エンターテイメントとしてはやや読みづらいところがあるのが残念だが、これこそ作者の持ち味とも言え、そこは好き嫌いが分かれるところだろう。
警察ミステリーとしても、女性が主役の社会派ミステリーとしても良くできており、多くの方にオススメできる。
凍原 (講談社文庫)