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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数620件
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2019年の翻訳ミステリー大賞を受賞した「11月に去りし者」から5年ぶりの新刊。最低賃金の仕事でダラダラ暮らしている若者が、ふと見かけた虐待の跡が残る幼い姉弟を救うために奮闘する青春ハードボイルドである。
ディズニーのまがいものの遊園地で最低賃金の仕事に就き、友人とマリファナを吸って日々を過ごしている23歳の負け犬・ハードリーは、市役所の窓口で並んでいる時に、足にタバコの火傷の痕が残る幼い姉と弟を見かけた。気になったハードリーは児童保護サービスに伝えるのだが、彼らの反応は鈍く、ほとんど動こうとしない。役人の怠慢にうんざりしたものの、そのまま見過ごせないと思ったハードリーは自分で調査を開始する。姉弟の母親の名前を探り出し、高級住宅地にある家を突き止め、弁護士である父親がDVを行っているのではないかと結論つけた…。 落ちこぼれの23歳の若者が不幸な親子を助け出すヒーローに成長する素人探偵ストーリーだが、王道のP.I.ものとは異なって、主役が頼りないのが読みどころ。さらに主人公を助ける周囲の人物たちがそれぞれに個性的で魅力的。特に前半はコミカルなエピソード続きでユーモア小説風なのだが、終盤になると一気にサスペンスフルになる展開の妙が上手い。物語の幕引きはやや唐突で、賛否両論あるだろうがインパクト大である。 現代を感じさせる、軽めのハードボイルド好きの方にオススメする。 |
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2023年〜24年の文芸誌連載の加筆、改題作品。幻の作品と思われた映画のフィルムが発見されたのきっかけに、定年退職した老人が自分も関わった50年前のベルリン映画祭での出来事を回顧し、人探しをするノスタルジックな人探しドラマである。
大前提として映画好きであること、時代に翻弄される人生に共感できることが、本作を楽しむ条件となる。突然現れた若い女性から「あなたは、わたしの祖父ですか?」と始まる、現代での人探しと、それをきっかけに1976年のベルリンでの人間模様を紐解いていく過去のヒューマンドラマが交互に語られていく構成で、ミステリー的要素は最後の種明かし部分だけ。 ミステリーを期待すると肩透かしだが、主人公と同年代で歴史的背景をすんなり理解できる人には、ノスタルジックな青春物語としておススメできる。 |
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AA(アルコホーリック・アノニマス)ならぬAA(アサシンズ・アノニマス」に通い、不殺の誓いを立てた世界最高の暗殺者が命を狙われ、ニューヨーク、シンガポール、ロンドンと逃げ回りながら襲撃をかわして行く、なんとも不思議でもどかしい設定のアクション・サスペンスである。
オーソドックスな暗殺者ものであれば、いかに鮮やかなテクニックを駆使してターゲットに接近し目的を遂げるか、あるいは襲い来る敵に反撃するかが読みどころだが、本作は「絶対に相手を殺さない」誓いという手枷足枷があるため、殺意を持って襲ってきた敵を殺さないで倒すという、不可能に近いアクションが最大のポイント。しかも、世界一の暗殺者として成功してきたため殺すことの快感を知っており、本能的な殺害衝動が身に付いているという厄介なキャラクター設定で、読む側の予測を裏切り続ける展開が連続する。なかなかスムーズに読み進められない奇想天外な構想で、読者を翻弄するのが読みどころではある。 色々ひねり過ぎの感もあるが、これまでにないユニークな暗殺者ものとして一読の価値ありと、おススメする。 |
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アメリカでは2005年に刊行された「泥棒ドートマンダー」シリーズの第12作。不運の犯罪プランナー・ドートマンダーと仲間たちが、大富豪の留守宅から秘蔵の美術品を盗み出すコミカルな怪盗物語である。
故買屋・アーニーから持ち込まれた話は、「もう数年に渡ってカリブ海の地中海クラブで逃避生活を送っている大富豪・フェアウェザーのN.Y.のペントハウスには高価な美術品などがある。それを盗み出せば売却金額の70%を渡す」というものだった。乗り気になったドートマンダーは早速、いつもの仲間に声をかけ、アジトにしている酒場の奥の部屋を使おうとしたのだが、部屋の前には人相の悪い二人組が居て部屋を使えなかった。よくよく話を聞くと、代替わりした新しいオーナーが無能でマフィアの関係者に乗っ取られそうになっているようだった。そこでドートマンダーたちは、窃盗の前にアジトを取り返すことにした。同じころ地中海クラブではフェアウェザーが誘拐されたのだが、すんでのところで脱出し、ペントハウスへ戻ることにした。かくして、ドートマンダーたちは侵入した無人のはずの邸宅で、フェアウェザーと鉢合わせることになった…。 怪盗たちの立案と実行、被害者の能天気な言動が絡み合うスラップスティックが読み進めるほどにじわじわと効いてくる。派手ではないし、深みのある話でもないが、その分、罪もない。暇つぶしには最適な気軽なエンタメ犯罪小説としておススメしたい。 |
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本屋大賞作家の初のサスペンス巨編!って売り文句はちょっと強引。ヒューマン・ストーリーとしては良くできている作品なので、いじめの加害と被害に焦点を絞った方が良かったと思う。
山で身元不明の老人の死体が発見されるオープニングはミステリーだが、真相を解明するプロセスがミステリーとしてはシンプル過ぎる(偶然の重なりで謎が解かれていくので緊張感がない)。エンディングのエピソードもミステリーやサスペンスではなく、人間の気付きのお話でしかない。 繰り返すが、ヒューマン・ストーリーとしては良くできており、オススメしたい。 |
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2022年から23年にかけて毎日新聞に連載された長編小説。叔父を殺害したとして起訴された青年が、裁判を通じて自分の父の冤罪をすすぐという法廷系ミステリーである。
母子家庭になった自分を親身になってサポートしてくれた大恩のある叔父を殺害したとして起訴された日高英之。才気煥発で真面目に働いていた青年がなぜ、そんな人道に反する罪を犯したのか。しかも、日高は頑強に否認し、裁判でも徹底して無実を訴え警察、検察と争った。というのも、日高には15年前に無実を訴えながら老女殺害の罪で服役し、死亡した父の無念を晴らすという秘めた目的があったからである。自らを有罪判決の危険に晒しながら権力の犯罪に立ち向かう日高の捨て身の闘争は実を結ぶだろうか…。 何度となく逆転無罪を生み出しながら何の反省も見られない警察、検察に対する怒りが根底にあり、ただしそれをストレートに出すのではなく、二転三転する裁判劇でエンタメ化したところが読みどころ。欲を言えば、同じようなエピソード、セリフが何度か繰り返されるところがなければ、もっとスピーディーで読み応えがあっただろう。 帯には「リアルホラー」とあるが、決してホラーではない。力が入った法廷劇としてオススメする。 |
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このところ邦訳が順調に刊行され、日本でも徐々に人気が高まってきたコーベンの最新作。我が息子を殺した罪で服役中の男が、息子が生きているのではないかという証拠写真を見せられ、脱獄して息子を取り返すアクション・サスペンスである。
3歳の息子・マシュウが自宅で殺害され、父親・デイヴィッドが逮捕された。自分はやってないのだが「マシュウを守れなかった」責任を痛感するデイヴィッドは、あえて無実を主張することなく終身刑で服役していた。5年が経過した頃、離婚した妻の妹・レイチェルが面会に訪れ、マシュウらしき子供が映った写真を見せられる。「マシュウは生きている」と確信したデイヴィッドは家族同然に付き合ってきた刑務所長の助けも借りて脱獄し、マシュウの存在と事件の背景を解明しようとする。警察やFBIの厳しい追及を避けながら、決死の思いで徒手空拳の挑戦を続けたデイヴィッドがたどり着いたのは、思いもよらない策謀と裏切りの物語だった。 死んだはずの息子が生きている、その可能性だけで父親はここまで危険な道を進むのか、という熱いストーリー。デイヴィッドの一途さに圧倒される反面、事件の背景や動機、ストーリー展開エピソードが軽薄で、最後まで物語に没頭できなかったのが残念。ネットフリックスでドラマ化決定したようで、確かに映像化されると良さそう。 孤軍奮闘するヒーローもののファンにオススメする。 |
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1986年から2022年まで、さまざまな媒体に掲載された身辺雑記集。子どもの頃の思い出からギャンブル、交遊、自作の解説までバラエティに富んだ内容で、短いながら随所に黒川博行ワールドの成り立ちがうかがえる。黒川ファンにオススメ。
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イギリス女性作家のデビュー作。お金に不自由なく暮らしている29歳の人気インスタグラマーが実は非道な男たちに復讐する殺人者だったという、ダークでユーモラスな風俗小説である。
ロンドンの高級住宅地から優雅な独身生活を発信し、フォロワー数百万人という人気インスタグラマーのキティ・コリンズ。同じような境遇の仲間との贅沢な日々をネットに上げ、いいねの数を誇るだけの馬鹿女のように見えるのだが、実は女性に暴力を振るう男たちが許せず、様々な手段で殺害していく凄腕の殺し屋でもある。という、何とも凄まじいヒロインがユニークで、これまでにないユーモラスでノワールな作品として異彩を放っている。 殺す相手が一人、二人ならダークなミステリーになるのだが、次から次へと殺していくことで愉快な物語に変化し、読後感は悪くない。 ユーモア・ミステリーのファンにオススメする。 |
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著者お得意のお金を巡る悲喜こもごもの物語6話。第1話で専業主婦が爪に火を灯して貯めたへそくりで買ったルイ・ヴィトンの財布を次々に手にした、30代後半、就職氷河期世代の登場人物が繰り広げる、ちょっとリアルでユーモラスで悲しいエンタメ作品である。
主題となるのはマネーリテラシー、主婦や安サラリーマン向けの節約雑誌、蓄財雑誌に常に取り上げられている情報だが、原田ひ香のストーリー構成の上手さで楽しめる作品になっている。 デフレを脱却しないうちにインフレに襲われている今の日本をあらわにした作品と言える。 |
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1954年に発刊された時の原題は「Black Friday」だがルネ・クレマン監督で映画化されたため、映画と同じタイトルが付けられたというノワール・サスペンス。警察に追われて逃げてきたフィラデルフィアで殺人の現場に遭遇し、犯人たちに捕まってアジトに連れ込まれた青年・ハートが犯人たちの強盗計画に加わるという巻き込まれ型だが、ハート自身も犯罪者であり善悪を問う物語ではない。寒風吹き荒ぶ街で倫理観なく漂うギャングたちのハードボイルドな関係がメインだが、いかんせん70年も前の話で時代のズレが隠しようもなく、ちょっと退屈。
映画を観た方が原作との対比を楽しみたいならオススメする。 |
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脚本家として経験を積み重ねてきた英国作家の小説第1作。2023年のCWAスティール・ダガー賞受賞作にふさわしいアクション・サスペンスである。
これまでナンバーワンとされて来た16が突然姿を消したため、現役では世界トップクラスの殺し屋になった17。ベルリンでいつも通りの仕事を終えたところに、ハンドラーから新たな指示を受け、何とか任務を果たしたのだが、いつもと違う仕事の内容に違和感を抱いた。さらに、次にハンドラーに会った時に提示されたのは、伝説の男・16の暗殺だった。簡単に殺せる相手ではない。躊躇する17だったが、ここで引き受けないと、業界内で17が弱気になっていると言われ、今度は18を狙う殺し屋に命を狙われることになる…。 ということで、最初から最後まで凄腕の殺し屋同士が死闘を繰り広げるシンプルな物語である。背景にはスパイ陰謀らしきもの、人格形成に影を落とした家族の物語の側面も見られるのだが、それはあくまで舞台背景で、本筋は徹底したアクション・サスペンスである。 冒険活劇、殺し屋もの、ハードボイルドのファンにオススメする。 |
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快調に刊行されている「ワニ町シリーズ」の第8作。今回は町の女性が被害に遭ったネットのロマンス詐欺をめぐって、いつもの3人が大暴れするお馴染みの安定したアクション・コメディーである。
独身中年女性がロマンス詐欺で大金を失ったことを耳にした3人組、保安官助手・カーターに釘を刺されたのは無視して犯人探しをスタート。犯人を誘き出す囮作戦を始めたのだが、途中で町一番の善人と言われる女性が殺害される事件が起きた。単純な強盗事件のようにも見えたのだが3人が真相を探って行くと、どうやらロマンス詐欺に関係があるようだった…。 まあ、いつもの調子のドタバタ・アクションで最後はびっくりする真相に辿り着くのだが、これまでの流れとはちょとだけ異なるのはフォーチュンが自分の仕事や生き方に疑問を持ち始めたこと。常に偽りの生活を続けるのに疲れたのか、これまでとは違う生き方を考えるようになる。その意味ではシリーズの転回点になる作品である。本国・アメリカではすでに28作まで出ている人気シリーズだが、本作がチェンジ・オブ・ペースになるのか興味深い。 シリーズファンには必読、シリーズ未読でも軽く読めるユーモア・サスペンスとしてオススメする。 |
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イギリス人ミステリー作家の日本デビュー作。香港警察の警部がニューヨーク警察の依頼でニューヨークのアイリッシュ・マフィアに潜入捜査する、複雑系?ノワールである。
1995年、香港の中国返還を前にN.Y.に拠点を移そうとする香港マフィア・三合会は、N.Y.のチャイナタウンの中国人互助組織・協勝堂と手を組み、密輸したヘロインをアイリッシュ・マフィアに捌かせる計画を進めていた。それを阻止すべくN.Y.P.D.とDEAはアイリッシュ・マフィアへの潜入捜査を立案して王立香港警察に依頼し、29歳のアイルランド系の警部・カラムが選ばれた。潜入捜査官の経験はないカラムだが、三合会の首領から命を狙われていたこともあり、香港からN.Y.へ渡った。アイルランドから来たばかりの移民に化けたカラムはアイリッシュ・マフィアの末端と親しくなり、首尾よく組織が経営する会社に職を得た。そこから情報収集を進めるために組織上層部に接近するのだが、そこに待っていたのは命を削る過酷な試練の連続だった…。 香港、ニューヨークを舞台に中国系、アイルランド系マフィアが複雑に混じり合い、さらに警察と麻薬取締局が絡んでくるので、ストーリーを追うのが一苦労。さらに潜入のストレスにさらされるカラムの感情の揺れが激しく、物語世界に没入するのに苦労した。ニューヨークの麻薬密売組織の実態は知らないが、描写には極めてリアリティがあり、展開もスリリングである。 ノワールのファンにオススメする。 |
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「ウィル・トレント」シリーズの第14作。念願のサラとの結婚式を終え、新婚旅行で隔絶された山奥の高級ロッジを訪れたウィルが殺人に遭遇する、密室ミステリー風味の謎解きサスペンスである。
ウィルがサラのために新婚旅行先に選んだのは徒歩で2時間以上かけないと辿り着かず、ネットも携帯電話も通じない山奥にある高級リゾートロッジだった。その初日、甘い夜を過ごしていたウィルとサラだったが、夢をぶち壊す殺人事件に出会ってしまう。めった刺しにされた被害者はロッジのオーナー一族の娘でマネジャーのマーシーで、犯人はここに暮らす一族か今夜の宿泊客の中にいるはずだった。しかし、マーシーはロッジの経営を巡って一族の全員と対立しており、宿泊客も皆、何らかの秘密を隠しているようだった。密室でしかも誰も信用できない事態に苦心しながらウィルはサラの助けも借りて犯人を探すのだが、徐々に明らかになる事件の真相は、ウィルを打ちのめすものだった…。 クローズド環境で犯人を追及する密室ミステリーであり、新婚のウィルとサラが改めて家族、愛について思考を深めるヒューマン・ラブ・ストーリーでもある。ただ、その中身はカリン・スローターお得意の暗くて重い世界で、ロマンスの甘さはカケラもない。それでも最後に、わずかな救いは用意されていた。 カリン・スローター・ファンにオススメする。 |
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2021年10月、コロナ禍真っ最中に刊行された書き下ろし長編小説。爆弾テロ、監禁、誘拐などの物騒な事件が起き、他の人の明日が見える予知能力の人物が活躍し、作品中の小説の主役が現実社会に絡むという、ミステリー、サスペンス、SF、ファンタジーが渾然一体となったエンタメ作品である。
本作の読みどころはストーリー展開の面白さだけではなく、途中途中に挟まれる箴言や哲学談義、作者が得意な善悪、正義不正義の線引き、ちょっと残酷で乾いたユーモアにもある。つまり、ミステリーのようでミステリーではない、SFのようでSFではない、ファンタジーのようでファンタジーではない、いつもの伊坂幸太郎ワールドだ。 伊坂幸太郎ファンにオススメする。 |
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N.Y.のチャイナタウンで活躍する「リディア&ビル」シリーズの14作。2022年のPWAシェイマス賞の最優秀長編賞を受賞した軽やかで楽しいエンタメ作品である。
チャイナタウンのギャング組織の大ボス・チョイが心臓発作で亡くなり、チョイが所有する古い会館が姪である堅気で弁護士のメルに遺贈された。ところが、この地域では再開発計画が進められ、会館は高層ビル予定地になっていた。しかし古き良き街と仲間を守るためにチョイが売却要請に応じなかったために開発計画は中断されており、チョイの死は会館(地域)を守りたい人々と再開発を進めたい人々の対立に大きな影響を与えたのだった。突然、対立の渦中に巻き込まれたメルがリディアとビルに身辺警護を依頼して来たのだが、チョイの葬儀の翌日、後継者と目されていた幹部のチャンが死体で発見された・・・。 ギャング団の跡目争いにチャイナタウンの再開発、さらに濃密な中国人社会の人間関係が絡まって、物語は複雑に流れていく。しかし、リディアとビルのコンビは持ち前の人間力で様々な情報を集め推理し、隠されていた秘密に近づいて行く。犯人探しミステリーとしても読み応えがあるが、そこにマイノリティとして生きる人々の喜怒哀楽が見えるヒューマン・ドラマとしての面白さも加えられている。 重苦しくないP.I.ハードボイルド、今風のバディものがお好きな方にオススメする。 |
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著者が得意とする罪と罰の葛藤を加害者家族の視点から描いた再生の物語である。
5歳の一人娘・美咲希を交通事故で亡くした過去を持つ翔子は、美咲希とほぼ同時期に生まれた姉の忘れ形見・良世を引き取って育てることになる。というのも、姉は良世の出産時に亡くなっており、しかも良世を育てていた義兄が猟奇的殺人事件を起こして逮捕されたからだった。翔子は美咲希の死後、夫とは別れた一人暮らしで、9歳の良世を施設に入れるには忍びないと苦渋の決断を下したのだった。過酷な背景ゆえか口も心も閉ざす「殺人犯の子」とどう生活し、どう育てるのか。親と子は関係ないと信じているものの世間の圧力や自分の無自覚な思い込みもあり、翔子は心が休まる時はなかった…。 人間の善と悪、親子・兄弟の愛情と憎悪、人と人の信頼と裏切り、さらにはネット社会の愚かさなど、物語はほぼ想定通りのエピソードとともに展開するのだが、主人公たちの思惑通りには流れていかないところに、本作の面白さがある。読者はもどかしさに苛まれながらも、最後の希望を信じて読み終えることになる。 明日に一縷の望みを感じられるヒューマン・ミステリーのファンにオススメする。 |
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イギリスの高齢者施設に暮らす老人たちの謎解きを描いて評判の「木曜殺人クラブ」の第3弾。お馴染みのクラブメンバー4人が10年前に起きた女性リポーター失踪の未解決事件を解決するユーモア・ミステリーである。
地元の人気ニュース番組でリポーターを努めていたベサニーは10年前、大掛かりな詐欺の重要情報を掴んだと連絡して来たきり、姿が消えてしまった。彼女の車は崖から海に落ちて大破していたのだが中にベサニーの死体は見つかっていない。この事件に目を付けたメンバーは、ベサニーの上司で人気キャスターのマイクに接触し、情報を集め始める。すると華やかな報道番組の裏には複雑な人間関係が蠢き、さらに詐欺事件に関係して収容されていた服役囚が刑務所内で殺害され、どうやら事件はまだ生きて動いているようだった。そんな最中に、エリザベスと夫のスティーヴンは謎のスウェーデン人に拉致され、エリザベスが諜報員時代に友人になった元KGB将校のヴィクトルを殺すように脅される・・・。 未解決事件だけでなく、エリザベスたちの誘拐まで重なってクラブメンバーは右往左往するのだが、いつもの通り強力な助っ人たちが手を貸してくれて物語は収まるべきところに収まっていく。その謎解きもなかなかの出来だが、本作の読みどころは何といっても後期高齢者たちの元気の良さ。知恵や知識だけでなく、しっかりと体力も気力も使って捜査を進めていくプロセスは頼もしい。またいつ通りのちょっととぼけた言動も楽しい。 楽しく読める謎解きミステリーをお探しの方に、自信を持ってオススメしたい。 |
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未解決事件を再捜査する警視庁特命捜査対策室・水戸部警部補シリーズの第3弾。27年前に起きた轢き逃げ死亡事故。被害者の姉から新たな証拠が提出され、水戸部が地元署交通課の捜査員と一緒に地道な聞き込みで真相に迫る警察ミステリーである。
万世橋警察署に相談に訪れたのは秋葉原の電気店の常務で「27年前に轢き逃げされた弟が身につけていたはずの時計が秋葉原の質屋で見つかった。事故現場で無くなっていたものなので、交通事故ではなくて強盗に襲われたのではないか」という訴えだった。当時、万世橋署の交通捜査係が担当し、事件とも事故とも判断できないまま未解決になったいた。轢き逃げ事故の後で誰かが時計を取って行ったのか、あるいは強盗に遭って倒れたところへ車が衝突したのか。水戸部は交通捜査課の柿本巡査部長とともに、時計の出どころを洗うところから捜査を始めた。他に物証も証言も無く、事件とも事故とも分からないまま、二人はひたすら地道な聞き込みを続けるのだった…。 27年も前の轢き逃げという地味な事件を、これだけの物語に仕上げたのは、さすが現在の警察小説の第一人者である。実直に関係者を訪ね歩く水戸部、それを鬱陶しく思いながらも次第に感化されて刑事らしくなっていく柿本の妙なバディ感覚も、シリーズの流れを汲んでいて読み応えがある。 ひたすら地味で、しかし味わい深い警察ミステリーとして多くの方にオススメしたい。 |
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