仮想儀礼

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仮想儀礼の評価:

4.43/5点 レビュー 102件。 B ランク

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平均点4.43pt

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全173件 121〜140 7/9ページ
No.53
(2pt)

新興宗教ビジネスはちょろいのか?

篠田節子作品で読ませるのは、私見では一に『女たちのジハード』であり、『夏の災厄』がこれに続く。

高評の嵐のような本作については、途中で退屈して投げ出してしまった。
まず思ったのは、えげつなさも含めて、これよりは新堂冬樹の『カリスマ』のほうが上ではないか? 
この2つは、同じように新興宗教を取り上げてはいるが、なるほどテーマは異なる(過激な新興宗教教祖のパーソナリティを描く新堂作品と普通の人々が新興宗教にはまるお話)。
とは言え、新興宗教群像のエンタメモノとしては、新堂に面白さがあろう。好き好きと言われれば話はおしまいだが。何も別に新堂作品を褒めるわけではないが、篠田の本作を持って「ヒューマニズム」や「社会派」を云々されても困ってしまうのである。

たとえば、ドン・デリーロの『マオ2』のような集団的な宗教的熱狂への描写があるわけではない。ふと顔を出す狂気が支配する恐怖もほとんど描かれないし、描かれても中途半端だ。銭儲けを目的とした落ちぶれた一般人が、新興宗教をビジネスとして始めてしまうという設定なのだから、それでもよいとは言える。それはよいとしても、宗教ビジネスが覗かせる人間のおかしさの描写にしても際立っているところはひとつもない。それに、ビジネスであればもっと過酷な面があると思うがなあ。まずもって、上下2巻は長すぎるのである。

それでも、貫井徳郎あたりのゆるーい因果モノ(『乱反射』など)あたりと較べれば、大人にも読めるものかもしれないので星2つ。大甘ではあろうが。
仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.52
(5pt)

虚業のリアル

怖い。

 新興宗教に限らず、宗教というものが全く信用できないウチが、この作品はどうしても読んでみたくなって購入しました。

 公務員だった男が作家になる夢につけ込まれ、気がつくと家族も職も失ってしまう。唆した男を責めながら目撃してしまった9.11、ワールドトレードセンタービルディングが崩壊する中、二人は「宗教」を事業として起こすことにする。

 ゲームブックと各種宗教の組み合わせた事業としての癒し、宗教を求める様々な人、どんどんと大きくなっていく宗教団体、そして小さな綻びからの転落。宗教の持つ胡乱さと、それをどうしても求めてしまう人の思い。
 ステロタイプな登場人物が、逆に作り物じゃなく思えてしまえて、とんでもなく怖い。

 上下巻900ページにも及ぶ長編は、グッと鷲づかみにされるほどの強烈さで一気に読み進められて、教団がふくらんでいくと過程に高揚し、転げ落ちていく過程に恐怖を覚えてしまう。ジェットコースターのように揺さぶられ続けて読み終えてしまった。
 穏やかそうに見えるラストでも、信者に潜む心の内がやっぱり怖い。
仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.51
(5pt)

宗教はこころをもてあそぶのか、それとも、心を救うのか

環境にメスを入れるのが工学技術
心のメスを入れるのが宗教
工学技術が環境を改善する一方では、破壊もする。
宗教も心を癒し育てる一方では、心を破壊もする。
宗教の2面性を見事に描ききった好著

仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.50
(3pt)

お薦めです

本書の構成は、俗の敗者が、聖を利用して俗に反撃を試みたところ、一旦は勝利するもののまたたくまに反撃をくらって、再び一敗地にまみれるという単純なものです。少なくともエピローグの前までは。しかし、最後の数頁で勝負は逆転します。聖中の俗、転じて俗中の聖が忽然として立ち現れるのです。
 掉尾の一文字を書き下した時、本作家の脳裡には一体どのような感慨がよぎったのでしょうか?もうひともうけできるという欲でしょうか?あるいはどういった批評が下されるのかといった不安なのでしょうか?
 そうではないと思います。おそらくは、人として普通に生きるということの尊さといったものが特別の光に彩られるというわけではないにしても、何かしら言葉で掌握できる範囲を遥かに超えた深いたなびきのようなものを帯びつつ静かに流れてゆくのを茫然として見送っていたのではないでしょうか。私にはそう感じられます。
 久しぶりに「文学とはヒューマニズムである」という言葉を思い出すことができました。

仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.49
(5pt)

ビジネスとしての宗教は成り立ちうるのか

本書は「読み始めたら止められない」極めて優れた娯楽小説であり、読後感も決して悪くない。
支払った「お代」以上のものを返してくれる、ちゃんとしたエンターテインメントだ。

しかし、本書を読み終わった読者は、それぞれに考え込むことになる。
この「豊かなあまりに人と人との関係が薄くなった世の中」で、「サービス業としての宗教」というものが成り立つのか?という問いに対するひとつの回答を著者は本書で示したと言える。

著者による回答は極めて説得的だが、人によっては違う回答もあるだろう。
少なくとも本書の主人公が言うように、現代は過去とは違う。
「昔の宗教は確かに存在理由があった」「家は貧乏、嫁ぎ先じゃいびられる、子供は病気で死んじまう。そういう女なんかに、神様が憑いた。」「しかし今じゃ、退屈した人間が自分の精神を玩具にして、宗教はそのためのワンダーランドだ。笑わせてくれるなよ。」(上巻93頁)

本書は、そういう時代の宗教とは何なのかについての、思考実験であるとも言える。

本書を読んで高橋和巳の「邪宗門〈上〉 (朝日文芸文庫)を猛烈に読み返したくなった。「宗教が宗教らしかった時代」、日本が貧乏にまみれていた時代の新興宗教の物語である。実に残念なことに絶版となっているが、図書館には必ずある本なので借り行くつもりだ。戦前の日本の想像を絶する貧苦の中から立ち上がってくる宗教のパワーを、これほど迫真性に満ちて描いた作品は、他にはない。
仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.48
(5pt)

人々が宗教に求めるもの

宗教団体設立の理由がそれぞれ異なるように
信者がその宗教に求めるものもそれぞれだろうし
信者が増え、組織が大きくなればその方向性も変わっていく。

主人公が遊び半分で始めた宗教団体もどきが
あらぬ方向に暴走していく展開となっています。

随所に見られるシニカルな常識人の主人公の
教祖らしくない俗世的で現実的な判断がけっこう笑えます。

いやはや、信者の人生を引き受けるのは並大抵のことではないですね。
結末は哀しいけれど、不思議な爽快感がありました。

仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.47
(5pt)

テーマに気遅れするより、読書の醍醐味を取るべき

「信仰は金を産む」の帯が印象的な上巻469頁は、ネットから始めた新興宗教が大教団になってゆこうとする過程が着々と描かれてどうにも引いてしまう。
それは宗教という実体の無い所から金を産もうとする人模様を、如何わしく思ってしまうからかもしれない。
「自分たちで作り、立ち上げた宗教だから、その神は自分の手の内にある。しかしそれを信じた人々の感情や行動は、決して自分の手の内にはない。人の心は得体が知れず、制御もできない。」168頁の正彦の胸の内は、この作品をも表現している。
人間の心の脆さと宗教の関係を正彦が冷めた視線で見ながら布教していく始まりは面白く読めるのだが、教団が大きくなり破綻の幕開けのような事件で終わるこの上巻から下巻に手を伸ばすには気力が必要な内容だ。
だが、上下巻読み終わった状況から上巻の紹介となると、ここまでの作品を読まずに終わるのはもったいないと思う。読み応えある力量作品を読書の醍醐味として味わったことがある人ならば、昨今の作品には無い重量感あるこの作品に手を出して損は無い。

仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.46
(5pt)

あなたにとって心の拠り所は?

9・11同時多発テロのニュースは、生放送で見ていた我々には、余りにも衝撃的で、生々しいものであった。そのニュースを見ながら「第四次産業=虚業としての宗教」を商売として思いつく。しかも、教団名は、「聖泉」:昔の彼女の出身校、「真法」:司法試験を目指したゼミの名から命名するといった、ふざけた出発。
 以下、成功に至るまでは、中島らもの『ガダラの豚』のように、時々吹き出しながら、楽しく読める。篠田節子の長編はすべて読んだが、こんなにユーモアのセンスあったっけ?と思うほど、似非宗教が戯画的に描かれる。
 時に心の傷を生の意味として、トラウマ乗りの「生きづらい系の若者」と、教団をワンダーランドのように転々とする「おばさん連中」との女同士の対立や、ユーザー主導型の宗教が、急展開する成功談より面白く読める。
 なぜなら、似非宗教をインチキ商売としてやるには、主人公は余りにも、「良心的過ぎる」のだ。彼の内的葛藤も、相棒の女に甘すぎる優しさも面白い。「永遠のマザコンである日本人」ときっぱり言い切ってしまう所もさすが。
 かけこみ寺のように入信する者、近親相姦によるトラウマを引き摺る者など、五人の女性の過去が丁寧に描かれる。虐待の記憶が現実なのか捏造なのか、ひいては、過去と現在の我々の存在の在り方に一石を投じてくれる問い、等々。900ページに及ぶ必然性も肯ける。
 闇の政治家やマスコミとの戦いも去ることながら、教祖の教えを深化、血肉化させる女性たちが、一気にラストへと収斂していく系譜が、私は一番楽しんで読めた。
 新興宗教団体をカルトと危険視する精神構造(正直、私にもある)は、実は、マスメディアや偏った教育によって洗脳されたものであり、「西洋的合理主義の行き詰まりから、機能不全に陥った現代社会」において、何を心の拠り所として生きていくか、極めて大きな問題提起をしてくれている。

仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.45
(5pt)

信仰という商品を売る第四次産業、それが宗教だ!

この部分で、まずビックリ…。
信仰心など全くなく、金儲けのためだけに宗教団体を作る。
ニセ宗教が、どうやって金儲けをしていくか。
仏像を手作りしたり、安い材料で何となくそれらしく見せたり…と、地味な二人の作業。
こんなので儲かるの?と思いつつ読み進めると、徐々にではあるが様々な人々をひきつけて、団体は発展していく。
この上巻の過程は、なかなか面白く読みました。
仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.44
(5pt)

仮想宗教のリアル

ほとんど思いつきで創作した宗教団体が、その「教祖」の思いもよらないような力や出来事に導かれるかたちで飛躍的に発展し、やがて危機に陥っていく様を描いた力作小説である。架空の宗教の創作、そしてその維持と展開の際に、既存の宗教の教理や教団の運営システムなどが豊富に参照され、主人公、というか著者がよく勉強していることを窺わせる。実名が出てくる場合もあるので、これは現代における宗教事情の勉強にもつながる有益な本だなと思った。
しかしそれ以上に興味ぶかいのが、この宗教団体を拡大させていく、信者たちの姿である。「生きづらい」系の若者たち、現世利益を求める中高年、他の新宗教団体やカルトから脱会してきた人々、超能力の獲得を希求する少年、精神の安定と金儲けの一挙両得を願う経営者やビジネスマン、人生の無常に目覚めた資産家、落ち目になり宗教に活路を見出す文学者、等々、ややステレオタイプ的ながら、しかし誠にリアリティあふれる人間たちが次々に登場し、それぞれのスタイルでこの宗教団体にかかわり、時に大問題を起す。
この人間たちの言動が実に身近に感じられるからこそ、本書はあくまでも「仮想」の現実を記述した作品でありながら、非常に説得力があり、そこに現代社会を生きる我々の偽らざる心情を発見してしまうのである。
仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.43
(5pt)

新興宗教団体の虚実を描き切った力作!

新興宗教団体の虚実を描き切った力作。
ただただ金儲けのためだけに作られた宗教団体が、いかにして発展し、かつ、崩壊してゆくのか、教祖の心の動きを中心に描いている。

作られた虚構でしかない団体が、信者を集め、その信者の盲信のゆえに、教祖の手を離れて暴走してゆく‥‥。
これと並行して、この団体を取り込もうとしたり取り潰そうとする外部の暗躍が。
非常にスリリングな展開が綴られてゆく。

宗教法人の会計のしくみなどを十分に取材していなければ意外と描けないような、そういった場面も出てくる。
また、行政の福祉関係の職員だった作者の体験が活かされているのではないか、という場面も、ところどろに効果的にちりばめられている。
いわば、社会的弱者がいかにして新興宗教団体に取り込まれてゆくか、ということをも描いているのだ。
むしろ、そこが本書の言わんとしているところなのかもしれない。

一気に読ませるだけの力がある。
いわゆる「カルト宗教団体」はこのように作られてゆくのかもしれないな、と思わせる、そんなリアルさにも満ちた作品となっている。

仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈上〉 (新潮文庫)より
4101484163
No.42
(5pt)

下巻はクラッシュ・ストーリー

どちらかといえば良識派の宗教集団が、崩壊暴走していくまでの転落を、丁寧な筆致でまとめあげた下巻。
オウム真理教やイエスの方舟、その他のカルト教団が起こした殺人・過失致死事件を巧みに織り込んでいて、既視感を覚える。
不吉な予感を覚えながらも、彼らの最期を見届けるまではページをめくる手が止まらない。
仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫)より
4101484171
No.41
(4pt)

「信じる」ことの無限のパワーと終局の恐怖

結構分厚い上下2巻の単行本を5日で読了。
1998年の著作「夏の厄災」以来、久しぶりに著者の作品を堪能させてもらった。

自らの過失によって職を失い行き倒れ寸前まで身を持ち崩した二人の男が、あこぎな金儲けを企んで新興宗教を立ち上げる。
そして本人達も戸惑うほどのスピードでそれが大きな宗教団体に成長し、やがて...。

身内の法事などを除き普段ほとんど宗教に縁の無い生活をしている自分にとって、怪しい新興宗教を取り巻く魑魅魍魎たちの世界がまず何よりも新鮮で惹き付けられた。
しかも、控えめながら克明な筆致によって著者はそのおどろおどろしい世界に見事なリアリティを与え、まるで実在するモデルを元にしたドキュメンタリーのような印象を読み手に抱かせる(卓越したその技法は「夏の厄災」でも遺憾なく発揮されていた)。

作品の核をなしているのは、「教祖」である男の心理描写だと思う。
宗教団体立ち上げ当初の脂ぎった野心から始まり、それは自信、躊躇、良心の呵責、達観、絶望と、様々に形を変えて変遷を繰り返す。
新興宗教という題材からすればオカルト的で軽薄な展開に陥りそうなものだが、その生々しい心理描写がこの作品に深淵で味わい深い厚みを加えている。

結局著者が語りたかったことは、「信じる」ということの無限のパワーと、それが究極の形をとった時の恐ろしさではないだろうか。
その人間心理の闇を見誤った「教祖」を襲う結末が、圧巻である。

仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫)より
4101484171
No.40
(5pt)

リアルで残酷でありながら、美しい理想。

とんでもなく過酷な状況に直面することによって、凡庸で卑俗な男が、現代では困難に思われる、純粋な宗教的境地にまで到達する。
 この枠組みは1998年に出版された同じ作家の手になる『弥勒』と同じです。
 しかし『弥勒』が日本人にとって明らかに別世界であるチベット周辺を舞台にしたのと異なり、本作は現代日本が舞台であるため、より一層リアルであり、読者は嫌でも自分をかえり見なくてはなりません。

 篠田節子の描く人物は、完全な善人でも完全な悪人でもなく、完全に愚かでもなければ、完全な賢者でもありません。まさに現実の人々の等身大モデル、あり得る我々です。
 にもかかわらず、主人公は否応もなく人間的成長を遂げてしまう。
 状況があまりにも過酷であり、それが避けようがなく、まさしく実際に起こりそうなことだから。

 とても残酷な話でありながら、この結末に、読者はある種独特の感動をえることになるでしょう。
仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫)より
4101484171
No.39
(3pt)

信仰とは?

シナリオライターの一面を持ち、東京都職員をそのシナリオの夢で退職した鈴木 正彦と、その編集者だった女に優しい男矢口 誠が、失業と9.11によるショックから、思いついた宗教の事業としての側面。サービス業を虚業として捉えるならば、宗教は信仰という商品を扱う第4次産業だ、という考えのもとに教団を立ち上げます、あくまで儲けるために。宗教を手段として割り切った、収入を得る為のものとして。その土台はシナリオ作りで日の目を見ることの無かったゲームシナリオ。東京都職員あがりの鈴木は冷静な視点を持つ常識家だからこその教祖、実務にたけ、だが感情移入もしてしまう矢口がその世話人。オカルトと脅迫は無し、悩みの解決と気分の安定(決して精神の安定ではなく、気分の安定!)という宗教サービスに対してお布施という対価を受け取ることをまっとうとするある意味カウンセラーのような存在を目指した教団・聖泉真法会の行き着く先はどこなのか? 最初に2人が想定したユーザーは2種類、精神というか気分の安定を得るためにお金という対価を払っても良いという大人と、日常生活に退屈しきった<生きづらい>系の若者、この2種類が本当にお金を落としてくれるのか?また教祖とはどんな存在なのか?宗教が現代に必要とされるのはどんなものなのか?上下巻の分厚いけれど非常に読みやすい語り口の鈴木の1人称で語られる教団の盛衰史です。


教団の立ち上がりにおけるそのルーズさというか適当さ、また乞われることで成り立たせていく教義、しかしその教義も、常識人鈴木正彦教祖の言葉には決して変わったものはなく信心がなければ、教祖の言葉としないで聞くのでないなら、なんら問題の無い言葉ではあるものの、それが通用しないものが出てくるところに恐怖があります。鈴木教祖の言葉に、説得に、私coboは異を唱える場面はほぼ無かったと思います。非常に常識的、精神衛生上誰もが考え付く範囲内での言葉であるにも関わらず、教祖の言葉にそれ以上の価値を見出したい方々にとっては「そうもとれる」という誤差が生じていくのが、恐ろしいのです。


常識的な教祖が教団を大きくしていくことに恐れや畏怖を感じながらも、不思議な縁とはいえ絶妙なバランス感覚で補う矢口との間の人間関係がなかなか良かったです。かなり特殊な人もたくさん出てきますし、いるいる、というステレオタイプな登場人物も多いのですが、読み物として読ませるチカラは十分です。私は篠田さんの小説を初めて読みましたが、描写も構成も良かったです。扱う内容が宗教というものでなかなか掴みにくい物ではありますが、決してただのカルト教団の話しではなく、2重3重に落とし込む構図を作り上げています。一見カルトに見えるものでも、その実信者にとってはそこにしかいられない、かけがえの無い場所であることや、家族という監獄という関係性も特殊だけれどありえるのではないか?と。


宗教とは何か、救済とは何なのか、信仰のもたらすチカラと軽々しく扱えない人の心の行く先が気になる方に、オススメ致します。
仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫)より
4101484171
No.38
(5pt)

篠田節子に称賛

下巻の帯には「狂信が常識を食い破る」と太字で刷られている通り、狂気が下巻に充満している。が。その狂気が宗教だけに留まらない所に篠田節子の筆力が光る。
正直まやかしで作られた宗教が破綻していく展開は、教祖である鈴木正彦が逃げだいと切に願う心情に共感出来るくらい教団の内も外も崩壊してゆく。
怪しい宗教団体と世間から見なされた時、社会からの弾圧はここにも狂気が生まれるという恐怖が見事に描かれているのだ。
「空疎だからこそ、それを心底必要とする者が、まるで自らの鏡像と対峙するようにして、強固な中身を作り出していった」404頁の正彦が見た宗教の本質。
帯に書かれた正彦の叫び「もう勘弁してくれ、目を覚ましてくれ」は、読んでいる間私にも生じた感情になったくらいこの作品は重いしキツイ。
それでも読み終わった後評価が下がらなかったのは、締めである最後の一行で戦慄が走り、読んでいた間の嫌悪をも打ち消したからだ。
人間がいかに脆く弱い側面を持つのか私たちは知っている。
そこに読み応えある重量感ある作品を読む醍醐味を味わったことがある人なら、この作品を描ききった篠田節子に称賛を称えずにはいられない作品だと思う。

仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫)より
4101484171
No.37
(5pt)

「宗教」の真相へ

この下巻はすごい。「ゲーム」として捏造された「宗教」が、迫害されたコアな女性信者たちの間で完全な実体と化し、やがてその「教祖」の心身をも支配していく過程を刺激的なストーリー展開にのせ、説得的に描き出している。苦痛すぎる現実的な不幸からの逃走と狂気じみた妄想に、それらしい「教義」と「儀礼」が形を与え、やがて暴走していくとき、何が起るのか、その実情を著者は巧みに小説化した。
そうした息を呑むような「仮想現実」のなかで、しかしなお現実と虚構のはざまを行き来しつつ苦悩する主人公の姿が、誠に立派であった。自分の軽率な思いつきにより精神を呪縛され破滅していく人々を、最後まで引き受けるという責任の自覚が、ついには心底からの敬虔な「祈り」を彼に自然に行わせるに至る。あくまでも人間としての「常識」をまっとうしようとする誠実な態度が、結果として「常識」を超えた信心の次元を切り開く。
「宗教」とは何か。エンターテイメント小説という体裁でその真実に肉迫しようと試みかなり成功した、これは稀有な傑作である。

仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫)より
4101484171
No.36
(5pt)

ページを捲る手が止まらない!

発展を遂げた団体が、今度は破滅していく様を描いた下巻。
教祖の正彦の思いとは違う方向に、どんどん堕ちていく。
ここが凄い…。

いったいどうやって結末を迎えるのかと、ページを捲る手が止まりません。
信者からも見放され、落ちぶれて、また一文無しになる正彦を予想していましたが、そんな簡単には終わってくれませんでした。
正彦の思惑からどんどん離れ、信者の中でどんどんと違うものに成長し暴走していく。
想像以上に悲惨な最後でした。

新興宗教の様々な事件が起こるたび、感じていた疑問。
何故、人が宗教に頼り、落ち、狂っていくのか。
その様子がありありと描かれ、疑問の一部を解いてくれました。
本書に描かれた様々な信者たちの姿が非常にリアルに感じられたのは、著者の取材力と描写力の為せる技でしょう。

とにかく凄い作品でした。
上下巻、900ページ超ですが全く飽きることなく、一気に読みました。
仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫)より
4101484171
No.35
(5pt)

心が壊れてゆく恐怖‥‥

作られた虚構でしかない新興宗教団体。
しかし、そこで人間の営みが行なわれれば、虚構だったはずのものが否応なく現実となって、ひとりひとりを苦しめてゆく。
信者の盲信と暴走、それを止められずにどんどん追いつめられてゆく教祖。そして、ついには最悪の結末が‥‥。

心が壊れてゆく。
団体そのものが壊れる、ということ以上に、そこにかかわるすべての者の心が壊れてゆく。
それを深く描いた小説である。心理描写が非常に巧みであった。

ひとりひとりの登場人物の、リアルな描写も際立っている。
小説そのものも虚構ではあるが、すぐ目の前で現実にその場面が繰り広げられているような、ある意味で「ぞっ」とするような凄みのある小説だ。

仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈下〉 (新潮文庫)より
4101484171
No.34
(5pt)

下巻はクラッシュ・ストーリー

どちらかといえば良識派の宗教集団が、崩壊暴走していくまでの転落を、丁寧な筆致でまとめあげた下巻。
オウム真理教やイエスの方舟、その他のカルト教団が起こした殺人・過失致死事件を巧みに織り込んでいて、既視感を覚える。
不吉な予感を覚えながらも、彼らの最期を見届けるまではページをめくる手が止まらない。
仮想儀礼〈下〉 Amazon書評・レビュー: 仮想儀礼〈下〉より
4103133627