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おはよう、愚か者。おやすみ、ボクの世界
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おはよう、愚か者。おやすみ、ボクの世界の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全9件 1~9 1/1ページ
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とある少年が恐喝犯としてSNSに晒され、彼の逃亡劇が始まります。 今風な設定なんかは良いかなと思います。 しかし肝心のお話が。 前作は悪くなかったのですが、今回はイマイチでした。 | ||||
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人を選ぶのは間違いありません。しかしそれでも読んでみてほしいですね。自分は前作に続きハマりました… 内容については他の方が書く通りです。 | ||||
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デビュー作の前作で作者の松村先生のファンになったので、この作品も買いました。 内容は、1人の男子高校生が中学生のグループから合計三千万円もの大金を恐喝した事件の顛末を、2人の人物の視点で描いたミステリー/サスペンス作品です。 一方の主人公は、大金の恐喝を行っていたとされる陸上部の男子高校生・大村音彦。 もう一方は、恐喝された男女グループの通う中学の、恐喝事件とは無関係のはずの剣道部女子・榎田陽人。 前作同様、追う側と、追われる側の視点を交互に描き、事件の真相に迫ってゆくスタイルになっています。 以下は物語の概要です。 深夜、かつて後輩だった中学生の男子達に電話で呼び出された主人公・大村が、指定された待ち合わせ場所の会館前へ行くと、何故かその男子達が何者かに暴行を受け重傷を負って倒れていた。 そこへ運悪く会館の警備員が見回りで現れ、大村は暴行犯と間違われる。 咄嗟に逃げ出した大村だったが、無関係の暴力事件の犯人とされ、そして狙いすましたように突然SNSに流されたデマ情報の為に犯人と決めつけられ、様々な人間から追われることとなってしまう。 そして、そのデマを流した人間は榎田という大村の見知らぬ女子中学生だった。 榎田は大村に恐喝を受けていたとされる女子中学生グループを率いて、大村音彦を破滅させるための周到な計略を立てていた・・・。 大村はその事実を知り、なぜ榎田は暴行事件を偽装してまで自分を追い込むのかの理由を知るため、榎田への接触を求めて行動を開始する。 果たして大村は女子グループが榎田に話す通り本当に恐喝を行っていたのか? なぜ女子グループとは無関係のはずの榎田陽人が執拗に大村を追い詰めるのか? それがこの小説が冒頭で提示する謎です。 ちなみにタイトルの『おはよう、愚か者。おやすみ、ボクの世界』の〈ボク〉ですが、これは大村の一人称ではなくヒロイン榎田陽人の一人称です。 転校の多い榎田は、あえて自分を〈ボク〉と名乗る変人キャラを演じることで友達を作らず、自分から孤独を生むことで、逆に友達のいない孤独に慣れようとするタイプの人物です。 (これは自分から悪人になることで悪人呼ばわりされることを肯定しようとした『泥棒日記』のジャン・ジュネ的な発想ですね) ネタバレになるので内容には詳しくは触れませんが、私は読んでいて、この榎田という人物の立ち位置に興味を持ちました。 恐喝を受けていたとされるクラスメイトのグループの企てる大村への復讐に協力する事に決めた榎田。でも、そこには彼女達を助けてやりたいという純粋な思い以上に、じつは心の中では、芯を持った孤高な自分でいたいという彼女のエゴのような欲求の方が強くあった。 榎田陽人の行動はつまり、恐喝を受けていると言うグループの人間のようなリスクが全くなく、この事件への加担の責任がないという立場だからこそ、個人的な目的でコミット出来るという姿勢。 すなわち、完全に興味本位の部外者の態度です。 作者の松村先生がどういう意図で榎田をそのような立ち位置に置いたのかは分かりませんが、他者に関わりながらも徹底的に無関係であるという榎田陽人の生き方は、そもそも無責任を許されているという意味で、じつはもっとも身勝手な立ち位置ではないかと思いました。 (そう考えるとデマに扇動されて大村を襲撃してくる不良や、おもしろがってSNSでデマを拡散する人たちも似たようなポジションにいます) 物語の結末を含めて読むと、テーマの一つには、個人の行動の責任というのもあるのかも知れないな、と私は思いました。 ちなみに文体や描写に関しては、自然な文章とスピード感が重視されていてとても前作よりも読みやすくなっています。 ただ、前作の『ただ、それだけでよかったんです』はテーマが前面的に押しだされていて、どちらかと言うと夏目漱石やドストエフスキー文学に接近するような作風だったのですが(特に登場人物のKは、漱石の『こころ』のKを思わせる思考不能な他者という存在として描かれています)、 今作はエンターテインメントに寄せて書かれたようだったので、次回作ではまた重厚な物語を書いて欲しいと思いました。 それと本編には関係の無いことですが、ヒロインの榎田陽人はイラストのクールなビジュアルも含めて、個人的には好きなキャラでした。 前作『ただそれ』を読んでない人は、そちらもぜひ! | ||||
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読んでいて、ため息をつきたくなるくらいにすばらしい物語でした。 何度も何度も裏切られました、ここまで仕組まれていたとは... 前作「ただ、それだけでよかったんです」にも楽しませていただきましたが、今作もすばらしい作品です。 是非読んでみてください。 あーあ、また騙された。 | ||||
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前作「ただ、それだけでよかったんです」(以下ただそれ)に続く二作目です。 「ただそれ」の時と同じくこの作品も人を選ぶ作品です。 私は、こういう雰囲気の小説が好きなので、好きな話でした。また、「ただそれ」の時より読みやすかったと感じました。 今回も登場人物にろくなのいないです(笑) まあ、まともだと言えるのは表紙の女の子の榎田でしょうか…彼女も親友のためとはいえかなり凄いことしてますが… ミステリー要素の方ですが、ほとんどの方が半分読むと黒幕&トリックがわかると思います。「ただそれ」の時もそうですが、ミステリーを楽しむというよりは、登場人物の人間性を楽しむ方が楽しく読めると思います。 それにしても主人公の二人最強だな(笑) | ||||
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今作は、依存気味の少女二人がカギとなって、前作で言うと、紗代です。 個人的に、前作より絵が増えていることが気になります | ||||
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個人的には、デビュー作よりこちらの方が好みです。 普段このようなサスペンス(?)は読まないのですが、デビュー作の内容が衝撃的だったので、こちらも読みました。主人公達が置かれている状況としては、こちらの方が好みです。私はもうアラサーですが、中高生の時に読んでいたら、もっと良い意味でのショックを受けたかもしれません。 | ||||
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前作『ただ、それだけで良かったんです』で電撃大賞を受賞した松村 涼哉先生の新作。 前作と比べて構成力は上がってますが、キャラへの共感度がやや落ちた印象。ですが、基本的な作風、読者を引き込む力は変わっていません。 前作との比較も含め感想、良かった所、悪かった所、その他諸々述べていきます。 主軸となる主人公二人について 大村音彦(おおむらおとひこ) 物語冒頭で濡れ衣を着せられ逃走劇を繰り広げることになる主人公。表紙の後ろの方。陸上部所属の高校二年生。序盤は訳も分からず逃走する彼に同情の目を向ける読者も多いでしょう。彼については意図的に情報が伏せられてるため、途中から終盤になるまでスタンスが分かりづらくなっています。なので途中からはもう一人の主人公である榎田陽人に共感する人が多くなると思います。 榎田陽人(えのきだはると) 物語冒頭で偽情報を発信した主人公。表紙の前の方。剣道部の中学三年生。話の展開上、こちらがメイン主人公となります。こんな名前ですが、女の子です。一人称「ボク」です。前作の主人公、菅原拓を女の子にして剣道少女にした印象を受けました。付け加えるなら「特別な存在」になりたいと思っています。思春期特有の精神疾患ですね(笑)。背景には幼少期より転校続きで友達がリセットされ続けたため、人間関係を疎ましく思うようになり、剣道に打ち込んで自分から孤独であることを望んだ経緯があります。特別になりたいと願い、周りの安っぽい特別さを気取る同年代を見下しています。自他とも認めるスカした女子ですが、最低限の良識や他者に暴力を振うことを忌避する感性は持っているため、ダメ人間や救いようのないクズが目立つ本作においては常識人です。 良かった点 ・構成力の向上。前作で伏線らしい伏線もなしに唐突に設定が出てきたり、急展開している箇所が見受けられましたが、今作は『何かある』と匂わせつつ進むため、まとまりができている。 ・台詞回しの改善。前作で作者に言わされているような言動をキャラがしている時がありましたが、今回は抑えめになっていました。そういった部分が無いとは言いませんがエンタメとして盛り上がる外連味のある台詞の範囲内に納まっていたため気にならなかったです。無論、個人差はあるでしょうが。 ・前作と同じく読者を引き込む序盤の煽りと展開、そして、情報が開示されるたびにキャラを取り巻く状況やキャラの印象が変わる展開。今作は特に二転三転するため、メリハリが効いている。その上、前述の通り無理の無い展開に仕上がっている。 ・前作は文章表現が所々おかしかったり、設定だけで具体的な描写や説明がなく『これ、必要か?大きく見せるために誇張してね?』『ここの部分、ちゃんと説明入れてほしい』な部分があったが今回は気を付けているのか改善が見られる。無論、全てではないが。 ・キャラ描写のリアリティ。ティーンエイジャーの心理描写や『ああ、こういった奴いるよな』といったリアリティのあるキャラ描写。これもこの作者の十八番の部分。 悪い点 ・前作の二番煎じ感。構成力自体は上がっていますが、二人の主人公による回想を交えた視点変更で進むストーリー及び情報の開示とともにキャラの印象、状況が変わる展開が前作と同じであるため、二番煎じという印象がどうしてもぬぐえない。特に○○者だと思われていた人物が実は○○者だったなどの部分が被ってしまっている。作風も同じく、ダークでビターな青春物という点でも似通っているため余計に。最も作風に関しては作者の味とも取れるが。 ・やや現実離れした設定。①あらすじにある3023万円の恐喝②とあるキャラのケンカの強さの説得力③中盤に出てくる今回の事件のきっかけになった過去の事件の三つ。①に関しては作中である程度納得のいく解答が示されますし②についても体は鍛えているため後は才能があった云々と思えば納得できなくもないです。もう一人、強さを持ったキャラとして榎田陽人(女の子です)もいますがこちらは剣道で全中上位の実力と言われているため、創作としては十分な説得力があります。ただ、③はキャラの行動理由と物語のきっかけとしてハッタリを利かせるための演出として必要とされたのでしょうが少々過剰になっていると言いますか、キャラの行動理由として説得力は持てても現実的に考えてちょっと無理がある気がします。前作の『人間力テスト』もやや現実離れしていましたが、よくあるスクールカーストを顕在化させて誇張するための設定という感じでしたし、話の主題や根幹となる雰囲気を出すために必要だったと理解しています。ですが、今回の③については『どうしてもその設定で通す必要があったか?』と問われると疑問が残ります。ここを上手く処理できていれば、と思わずにいられません。 ・キャラの共感度がやや下がった。前作はスクールカーストの息苦しさや主人公の菅原拓の求めてやまない理想やボロボロになりながらも進む姿に共感を覚えましたが今作はそういった要素が前作と比べて薄いのでやや共感度が下がりました。ただ、前作で言うところの拓のポジションである今作主人公の榎田陽人の心理やスタンスは十分共感も理解もできるものでした。あくまで前作と比較してです。 ・キャラの台詞がやや説明口調になっている箇所がある。前作のダメだった部分として改善しようとしているのはわかります。説明が必要なシーンでもあるのですがまだぎこちなく感じます。後半にとある演説があるのですがこれは良い点で述べた外連味ともなっているため、評価が難しい。また、登場キャラクターに一気に台詞を言わせて事の真相を語らせている部分がありますが、ここは作者の特徴と捉えるべきか、下手な演出と捉えるべきか。 感想(ややネタバレ) 今作も前作と同じくダークでビターな青春ストーリーです。ただ、ミステリーとして前作よりも上手くなっています。あくまで軽いミステリーの域を出ないですが。 主人公の陽人ですが彼女の役回りは探偵にして狂言回しの道化です。作中でも言われているように直接的には今回の事件に関わっていない部外者です。破滅が約束された段階で舞台に上がり、残酷そのものの真実を暴き、結果、自身の行動が何の意味もなかった、どころか、自分が見下していた安っぽい特別さを気取っている連中、引いては事件のきっかけとなった依存心を抱えたダメ人間どもの暴走と何も変わらないことを痛感し傷だらけになります。多くの人間が普通に生きていれば少しずつ分かってくるであろう『特別な存在』などいない、自分はそんなものになれないという現実を最悪の形で突きつけられました。ある意味、というか普通に本作一の被害者です。前作ではまだ、救いとなる存在がいましたが、今作には都合のいい救いなど用意されていません。前作同様、話が始まった時点ですでにバッドエンディングが確定しています。陽人だけでなく、多くの人物が不幸になりました。 ただ、整合性のある破滅でもあるため、綺麗に物語は幕を閉じます。後味が悪いと感じる人もいるでしょうがこれで良かったと個人的には思っています。 結局、多くのものを失った彼女が最後に得たものは自分が特別でもなんでもないという事実と自分たちは傷つけ合いながら生きていくしかないという悟りだけです。 たった一つの冴えたやり方はどこにもない、冷たい方程式に支配された現実を生きていけ。自分たちにはそれしかないのだ。 ここからは勝手な憶測ですが初期構想ですと多分、陽人は男だったのではないかと思います。ですが、煮詰めていくうちに整合性を上手くとるために結果、女になったのではないかなぁ、と。実際、最後のとある演出など女の子にすることで上手くいったところもあるので英断だったと思います。 話は十分面白かったですが、前述の悪かった点を考慮に入れ、作者のこれからの成長にも期待する意味で星4つとしました。 作者はずっとこの路線で行くのか、それとも何らかの転換を見せるのか。次回作はまだ、決まっていないとのことですが松村先生、独自の味を出しつつ頑張ってもらいたい。 | ||||
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デビュー作「ただ、それだけでよかったんです」が各方面で賛否両論の大きな反応を引き起こした松村涼哉の二作目。相変わらずタイトルだけ読むと 独特の雰囲気を感じさせてくれる作家さんであり、その読者へのアプローチの巧さに何だか分かっていながら騙されている様な不安を感じつつ拝読 物語は一人目の主人公、大村音彦がある晩中学時代の陸上部の後輩、北崎に呼び出されて滝岡市の中心街からやや外れた文化センターに出向く 場面から始まる。とある事情から北崎たちにリンチを受けるのではないかと警戒しながら文化センターに着いた音彦が目にしたのは惨たらしい殴打の跡を 全身に刻み込まれた北崎とその友人雨宮と木原、そしてその傍らに転がされた一本の特殊警棒だった。慌てて北崎を抱き起こし誰にやられたのかと問う 音彦に北崎が答えたのは「大村音彦」のただ一言。何故北崎が自分を暴行の犯人扱いするのか訳が分からない音彦だったが不意に警備員が現れた事で その場から逃走してしまう。近くの神社の境内に身を潜めた音彦は滝岡南高校陸上部の仲間である江守を呼び出すが、やってきた江守は音彦を信じると 告げた上でSNSで爆発的に拡散している「enokida haruto」というユーザーによる一つの書き込みを突き付ける。その書き込みは先ほど大村音彦が 自分の友人に暴行を加えた事、そして音彦がこれまで散々彼の友人たちに恐喝を繰り返し3023万円という途方もない額の金を巻き上げた事を告げる 内容の物であった。江守に暴行には覚えが無いと主張する音彦だったが神社に警官が姿を露わした事で江守ともども再び逃走する羽目に 時間は少し巻戻って視点はもう一人の主人公・榎田陽人が北崎たち三人のクラスメイトを特殊警棒で散々に打ち据えて倒れ伏した三人の姿を目の前に 別の場所で待機している仲間に「北崎たちが大村音彦にやられた」と電話で連絡を入れる場面へと移り変わる。高級住宅街にあるクラスメイト三澤の家に 移った陽人は待機していた三澤や安城に近くで潜んでいた陽人に気付いた音彦が急に暴れ出して三人をボロ雑巾の様にしてしまったと説明するが、 三澤や安城は音彦を絶対に潰してやるとますますいきり立つ。興奮する二人に切り札である動画をアップするタイミングを指示しつつも彼女たちを 結局は北崎たち同様に裏切り、その上で大村音彦を追い詰める決意を固めるが… うーん…よく出来ているんだよな、これ。手に取る動機となったタイトルからラストシーンまで凄くよく計算されているんだよな、本当に。ただここまで計算 されてしまって一切の「遊び」を排除してしまうと小説を読んだという印象じゃなくて、予めこのラストに持って行くと決められたコースの上をボールが転がる ピタゴラ装置でも見せられたような印象になってしまう。ろくな構成も無しに行き当たりばったりに書かれた様な作品は話にならんが、こうまで作者の意図が 明白に表れた構成の作品は「読んだ」というよりも「読まされた」という読後感が残ってしまい、それはそれで別の問題になるんだよな…難しい所だが 物語の方は自分を呼びだした筈の中学時代の後輩たちがボロボロにされた姿を突き付けられた音彦が、タイミングを見計らったようにSNS上で拡散された 自分が中学生に暴行を加え、それ以前には恐喝で三千万円以上を巻き上げたという情報によって部活仲間はおろか、街ですれ違う全ての人間が敵に なって行くような状況に追い詰められながら夜の町を逃げまどう形で進む。音彦と語り手を交代しつつ並行して描かれるのは自分を「ボク」と呼び、 特別な存在で在りたいと願ってやまない女子中学生にして剣道の達人・榎田陽人(女の子です、注意!)が音彦を追い詰める為に募った仲間を利用し、 切り捨てながら音彦を追い詰めて行く姿である。追う・追われる関係の二人の存在は陽人のクラスメイトでいじめられっ子であった斉藤由佳を軸に動き、 やがて二人は対決の時を迎えるが、恐喝事件の裏には音彦と由佳が過去に経験した事件と、そこから生じた二人の関係が存在し…というのが主な流れ 話のベースにあるのは共依存関係。庇護の対象としている相手にとって「特別な存在」であるというアイデンティティが肥大しまくった結果コントロール不能 という状態に陥り、自分が利用されている事を半ば自覚し自分の行動が社会的に認められないと理解しつつも「特別感」の喪失を恐れるがあまり、脱出が 叶わない泥沼へとハマり込んだ二人の主人公の姿と、最終的に真実を突き付けられて苦い目覚めを迎えさせられるまでが描かれている 結末に救いが無い、という事で好き嫌いは明確に分かれそうな作品である事は間違いない。が、個人的にはこの流れで安っぽい救いなんか与えられても 話の構成が崩れるだけだから誰も救われず、苦い思いをしただけという結末自体には大いに賛意を示したい。特に転校が多く、他人に影響を受けずに 生きられる孤高の存在を目指し「特別な存在」でありたいと願い続けた女子中学生の陽人が周りを利用して音彦を追い詰めていると思い込み続けた上で 一番酷いしっぺ返しを受けて「ボク」という一人称に代表されていたアイデンティティが完全崩壊するまでをきっちり描いた作品はヒロインに甘過ぎる作品が 多いラノベ界では希少かと。タイトルがこのアイデンティティ崩壊劇を表現していると気付いた時には苦笑が止まらなかった。陽人が仕掛けた追跡劇の 中でボコボコにされながらも最終的には気付きながらも脱却できずにいた共依存関係から脱出を果たせた音彦が勝者と言えば勝者になるのかな? それでも相当に苦い勝利である事には違いないのだけれども 本当であればこの辺りで各登場人物のキャラクターについて語りたい所なんだけど、どうにもここがネックと言うか…。この作者さんにとって登場人物って 完全に「駒」でありピタゴラ装置で予め仕掛けられた仕組みに従い決まった順路を転がるボールみたいな存在でしかないんだよなあ。どうにも能動感と言うか キャラクターが一人でに動きだす様な存在感を欠いている。ライトノベルがキャラクター小説である、という指摘は随分昔からなされていると思うけども そういう意味ではアンチ・ラノベ的作風とでも言うべきか 中盤で音彦と三人目の主役とでも言うべき存在である斉藤由佳の過去がわざわざ黒バックに白抜き文字で描かれるんだけど、音彦と陽人の語りが 交代しながら進行する作品の中でここだけ由佳の独白になっている。それは良いんだが、この回想の中で小学生が大人を殺すという重大な事件が 起きるにも関わらず、どんな手法で、どんな状況でが完全に省かれているのは正直首を傾げざるを得ない。音彦と由佳のその後に関わる重大な事件 であるにも関わらず、そこを詳らかに描かないのはちょっとご都合主義臭く「そこはまあ、適当に読者の方で想像してください」と丸投げしている様な 作者の適当さが感じられた もっと酷いのは終盤で決定的な真実が明かされる場面なのだけど黒幕がよく喋ること!16頁にわたる独白、まさにワンマンショー!物語のどんでん返しが 黒幕の独り語りで展開されるって!主人公二人の空回りっぷりを強調したかったのかもしれないけど、これは無いわ 読者に訴えかけたいテーマは新鮮だし、そのテーマを物語にうまく落とし込んでいるとは思うけど、ラストに向かって収束する構成が計算され過ぎて 「遊び」の部分で齎される筈のキャラクターの能動感が完全に失われて登場人物に活き活きした印象が全く感じられないし、肝心の部分の作りが ボカされていささかご都合主義っぽさが出ている事は否めない。そして終盤の長語りはちょっとあり得ない。もう少しキャラクターを活かして登場人物が 真実に近付く部分を増やした方が良かったんじゃないだろうか?決して「つまらん」とは言わないけど、どうにもこれを小説と呼んで良いのか迷う様な作品 計算された作風を維持したまま、その計算の中に登場人物が生きた人間として感じられる様な「遊び」の部分を混ぜてくれる作家さんに成長してくれる事を 期待したい | ||||
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