坂の途中の家

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評判

坂の途中の家の評価:

3.72/5点 レビュー 137件。 B ランク

Amazon書評・レビュー点数毎のグラフです

平均点3.72pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全175件 141〜160 8/9ページ
No.35
(5pt)

圧倒的な心理描写

角田光代さんの待望の新刊。
主人公里沙子の心理描写で話が進められていますが、
裁判が進むにつれて、
被告人水穂の境遇や心理に自分自身を投影している里沙子の様子、
こんな人、現実的にいるなと思うリアルな人物描写や、心理描写に
違和感なくぐいぐい引き込まれ、いつのまにか自分をも重ね合わせている
ことに息苦しさを覚えるほどでした。

一見したところ、ふつうにみえる夫婦や親子関係に他人からは窺い知れない、
当事者同士ですら無意識に行ってしまっている歪んだ愛情表現を
見事に描ききっていると思います。

昨今クローズアップされている母親と娘の関係ですが、
こちらも考えさせられるような描写がいくつもありました。
フィクションでありながら、現実社会には誰にでも起こりうるのではと
思われる身近な人間間の関係性を見事に描ききっている点でも圧巻です。
坂の途中の家 Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家より
4022513454
No.34
(5pt)

孤育ての息苦しさ

主人公がマイナス思考すぎる、全体的に重苦しい、という意見を聞くのですが、
<孤育て>状態の私にとっては、作中の重苦しさは、育児中に常に感じていた息苦しさそのもので、最終的には主人公が自分で考えを纏められ、裁判という場で発表できた、痛快な小説でした。

主人公目線の一本調子で読み進められる一方で、登場人物の設定や、細部の構成が見事で、読み返すたびに違った発見があって、巧いなあと思ってしまいます。

周りに求められていることを敏感に感じ取る、それを全うしなければならないと思う、模範的でありたい、諍いを恐れる、察してほしい…
里沙子や水穂が、夫や裁判員たちや、読者からもズレていってしまうのは、こうした無垢な<女の子>らしさが原因なんだと思います。

ともすれば、ご都合主義やフェミニズム的な話になりそうですが、
角田先生が書いたからこそ、意味のあるテーマだったと思います。
子育て中の方はぜひ。
坂の途中の家 (朝日文庫) Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家 (朝日文庫)より
4022649089
No.33
(5pt)

孤育ての息苦しさ

主人公がマイナス思考すぎる、全体的に重苦しい、という意見を聞くのですが、
<孤育て>状態の私にとっては、作中の重苦しさは、育児中に常に感じていた息苦しさそのもので、最終的には主人公が自分で考えを纏められ、裁判という場で発表できた、痛快な小説でした。

主人公目線の一本調子で読み進められる一方で、登場人物の設定や、細部の構成が見事で、読み返すたびに違った発見があって、巧いなあと思ってしまいます。

周りに求められていることを敏感に感じ取る、それを全うしなければならないと思う、模範的でありたい、諍いを恐れる、察してほしい…
里沙子や水穂が、夫や裁判員たちや、読者からもズレていってしまうのは、こうした無垢な<女の子>らしさが原因なんだと思います。

ともすれば、ご都合主義やフェミニズム的な話になりそうですが、
角田先生が書いたからこそ、意味のあるテーマだったと思います。
子育て中の方はぜひ。
坂の途中の家 Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家より
4022513454
No.32
(4pt)

良き親であろう、善き人であろうと思いつつ、余裕がなくなるとすぐにかっとして、その怒りをコントロールできなくなる。わかってるんだけどね。

子を持つ親の一人として、子育てにおける苦悩、焦り、悩みや喜びと後悔がリアルに描かれ、それが自身の経験を思い出させ、読んでいて非常に息苦しさを感じるほどです。
 自分ではどうにも抑えようがない苛立ちによって子どもに冷たく当たってしまい、後から冷静に振り返ると、なぜそんな小さな子どもに対してそんなにイライラする必要があったのかと罪悪感にとらわれ、次はもっと優しく接してあげようと思っているのに、さっき思ったばかりの思いが新たな苛立ちで消え、また罪悪感に陥る。
「良き親であろう、善き人であろうと思いつつ、余裕がなくなるとすぐにかっとして、その怒りをコントロールできなくなる。いつもならたしかに持っているはずの思いやりや気遣いがとたんにできなくなる。」
 そしてそのことは本人も「わかってるんだけどね」。
 分かってるんだけど・・
 この心の動きがとてもリアルで、その気持ちがストレートに伝わります。
 だからこそ、本作は読んでいて苦しくなる。
 
 主人公里沙子は裁判員裁判の補充裁判員として、我が子を殺したとされる母親をめぐる裁判で彼女の境遇に触れるうち、ある種の恐怖を感じる。
 この事件は何もかも特殊に思えるけど、実はそうではなく、もっと自分たちと近しいことなのではないかと感じていることでこわくなる。自身の子どもに対する日々の実情に重ね合わせ、本件が決して他人ごとではないと感じさせられ、ますます苦しくなっていく里沙子と気持ちに自分自身がシンクロし、こちらまで息苦しくなってしまうのです。
 読後感は決してすっきりとしたものではありません。もやもやしたものが残ります。
 それは本書がとてもリアルだからかもしれません。
坂の途中の家 (朝日文庫) Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家 (朝日文庫)より
4022649089
No.31
(4pt)

良き親であろう、善き人であろうと思いつつ、余裕がなくなるとすぐにかっとして、その怒りをコントロールできなくなる。わかってるんだけどね。

子を持つ親の一人として、子育てにおける苦悩、焦り、悩みや喜びと後悔がリアルに描かれ、それが自身の経験を思い出させ、読んでいて非常に息苦しさを感じるほどです。
 自分ではどうにも抑えようがない苛立ちによって子どもに冷たく当たってしまい、後から冷静に振り返ると、なぜそんな小さな子どもに対してそんなにイライラする必要があったのかと罪悪感にとらわれ、次はもっと優しく接してあげようと思っているのに、さっき思ったばかりの思いが新たな苛立ちで消え、また罪悪感に陥る。
「良き親であろう、善き人であろうと思いつつ、余裕がなくなるとすぐにかっとして、その怒りをコントロールできなくなる。いつもならたしかに持っているはずの思いやりや気遣いがとたんにできなくなる。」
 そしてそのことは本人も「わかってるんだけどね」。
 分かってるんだけど・・
 この心の動きがとてもリアルで、その気持ちがストレートに伝わります。
 だからこそ、本作は読んでいて苦しくなる。
 
 主人公里沙子は裁判員裁判の補充裁判員として、我が子を殺したとされる母親をめぐる裁判で彼女の境遇に触れるうち、ある種の恐怖を感じる。
 この事件は何もかも特殊に思えるけど、実はそうではなく、もっと自分たちと近しいことなのではないかと感じていることでこわくなる。自身の子どもに対する日々の実情に重ね合わせ、本件が決して他人ごとではないと感じさせられ、ますます苦しくなっていく里沙子と気持ちに自分自身がシンクロし、こちらまで息苦しくなってしまうのです。
 読後感は決してすっきりとしたものではありません。もやもやしたものが残ります。
 それは本書がとてもリアルだからかもしれません。
坂の途中の家 Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家より
4022513454
No.30
(5pt)

あっという間に

あっという間に読みきりました。子育て母の孤独に正面から向き合った内容も素晴らしいけどそれで終わらず、幅広くジェンダー論まで、考えさせられることが多かったです。
坂の途中の家 (朝日文庫) Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家 (朝日文庫)より
4022649089
No.29
(5pt)

あっという間に

あっという間に読みきりました。子育て母の孤独に正面から向き合った内容も素晴らしいけどそれで終わらず、幅広くジェンダー論まで、考えさせられることが多かったです。
坂の途中の家 Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家より
4022513454
No.28
(5pt)

母親の孤独

まだ途中までしか読んでいないのに気持ちが高ぶって書いてしまいました。レビューの中には、角田さんにはお子さんがいないから母親の気持ちが分からないのだろう、というようなものがありましたが、そんなことはありません。子供に腹を立てて無視してしまい、ひどい自己嫌悪におそわれ、これも虐待なのだろうかと思ったり、産後母乳のことで追いつめられたり・・・どれも自分のことのように思えました。そのつもりでなくても、母親は色んな立場の人たちから追いつめられるのです。そのほとんどが、悪意なく放たれた言葉だと分かってはいても、母親の孤独が深いとやはり落ち込み追いつめられます。看護士、保健師、保育士、園長、家族、同僚。主人公と同じように自分の子供が赤ちゃんだった頃を思い出しながら読んでいます。
読み終えて・・・乳児が母親によって死に至らしめられたことよりも、心理的に追いつめられることに戦慄を覚えました。モラハラってこういうことなのか、と。我が子を死なせた妻と離婚するつもりはない、という夫。これは怖いと思いました。そして、他人からは決して理解されないという絶望感。自分には気持ちを吐き出せる親友なり同僚がいて救われたと気付きました。傷つけるのも人なら、ほんの細やかな言動で救ってくれるのも人。自分以外のお母さんたちはみんな優しく、子供を感情的に怒鳴ることもなければ、箸の持ち方、服のたたみ方、文字の教え方も上手く、栄養たっぷりの手作りの食事をあげてるんだろうなと、本気で母親は考えてしまいます。また、ちょっとした言葉がそれを助長してしまうのです。もっとそれを知って欲しいです。そうしたらこの登場人物のように追いつめられる母親が減るのでは?
坂の途中の家 (朝日文庫) Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家 (朝日文庫)より
4022649089
No.27
(5pt)

母親の孤独

まだ途中までしか読んでいないのに気持ちが高ぶって書いてしまいました。レビューの中には、角田さんにはお子さんがいないから母親の気持ちが分からないのだろう、というようなものがありましたが、そんなことはありません。子供に腹を立てて無視してしまい、ひどい自己嫌悪におそわれ、これも虐待なのだろうかと思ったり、産後母乳のことで追いつめられたり・・・どれも自分のことのように思えました。そのつもりでなくても、母親は色んな立場の人たちから追いつめられるのです。そのほとんどが、悪意なく放たれた言葉だと分かってはいても、母親の孤独が深いとやはり落ち込み追いつめられます。看護士、保健師、保育士、園長、家族、同僚。主人公と同じように自分の子供が赤ちゃんだった頃を思い出しながら読んでいます。
読み終えて・・・乳児が母親によって死に至らしめられたことよりも、心理的に追いつめられることに戦慄を覚えました。モラハラってこういうことなのか、と。我が子を死なせた妻と離婚するつもりはない、という夫。これは怖いと思いました。そして、他人からは決して理解されないという絶望感。自分には気持ちを吐き出せる親友なり同僚がいて救われたと気付きました。傷つけるのも人なら、ほんの細やかな言動で救ってくれるのも人。自分以外のお母さんたちはみんな優しく、子供を感情的に怒鳴ることもなければ、箸の持ち方、服のたたみ方、文字の教え方も上手く、栄養たっぷりの手作りの食事をあげてるんだろうなと、本気で母親は考えてしまいます。また、ちょっとした言葉がそれを助長してしまうのです。もっとそれを知って欲しいです。そうしたらこの登場人物のように追いつめられる母親が減るのでは?
坂の途中の家 Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家より
4022513454
No.26
(5pt)

既視感

母親となった者ならば、感じざるを得ない「既視感」。それを、これほど深く精緻な描写で語られると、単なる感情移入で読み進んでいくだけでは済まされないような気に
すらなった。
誰に?
主人公である理沙子に。被告人席の水穂に。理沙子の夫の陽一郎に、陽一郎の父母に。そして理沙子と同じく裁判員制度に参加している人々に。
誰しもがごくごく普通の市井の人々だ。被告人本人、そしてその家族ですら、きっと。
世の全ての人々にある歪んだ優越感、悲壮感、そして心から手に入れたいと願う平凡な日々の幸福感が、後半猛烈なスピードで様々な登場人物の口から吐かれていく。それを、主人公理沙子の思考を通して丁寧に折り畳まれていく。

この折り畳んでいく過程を男性読者がどう感情移入できるのかは、正直わからないと思った。
それは「母性」云々という話ではない。女性の社会進出によって、選択肢の少なくない昨今の「育児」という現実問題は、男性の想像力を遥かに超えた壮絶なものが
ある。今、話題になっている「日本、死ね」というツイートも一体男性のどれほどが一緒に声をあげて闘う事を望んでいるのか?
「育児」は、「家庭」は、今も尚、女性だけが「母性」「良妻賢母」の名の下に背負うべきだ、という考えは実はもっと根深いのかもしれない。
主人公理沙子のこれからの選択肢がいかようにも考えられるラストもよかった。
坂の途中の家 (朝日文庫) Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家 (朝日文庫)より
4022649089
No.25
(5pt)

既視感

母親となった者ならば、感じざるを得ない「既視感」。それを、これほど深く精緻な描写で語られると、単なる感情移入で読み進んでいくだけでは済まされないような気に
すらなった。
誰に?
主人公である理沙子に。被告人席の水穂に。理沙子の夫の陽一郎に、陽一郎の父母に。そして理沙子と同じく裁判員制度に参加している人々に。
誰しもがごくごく普通の市井の人々だ。被告人本人、そしてその家族ですら、きっと。
世の全ての人々にある歪んだ優越感、悲壮感、そして心から手に入れたいと願う平凡な日々の幸福感が、後半猛烈なスピードで様々な登場人物の口から吐かれていく。それを、主人公理沙子の思考を通して丁寧に折り畳まれていく。

この折り畳んでいく過程を男性読者がどう感情移入できるのかは、正直わからないと思った。
それは「母性」云々という話ではない。女性の社会進出によって、選択肢の少なくない昨今の「育児」という現実問題は、男性の想像力を遥かに超えた壮絶なものが
ある。今、話題になっている「日本、死ね」というツイートも一体男性のどれほどが一緒に声をあげて闘う事を望んでいるのか?
「育児」は、「家庭」は、今も尚、女性だけが「母性」「良妻賢母」の名の下に背負うべきだ、という考えは実はもっと根深いのかもしれない。
主人公理沙子のこれからの選択肢がいかようにも考えられるラストもよかった。
坂の途中の家 Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家より
4022513454
No.24
(5pt)

現代社会の歪み

極めて今日的な社会問題を的確に描いた作品でした。裁判員という特殊な事象に誰の身に降りかかるかという不安を誰しもが抱いているし、そこに被告の立場にもなりうるかもしれない二重の重圧の中で裁判員裁判に臨んだヒロインの恐怖にも似た感情は読者にも十二分に伝わるものがあります。
坂の途中の家 (朝日文庫) Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家 (朝日文庫)より
4022649089
No.23
(5pt)

現代社会の歪み

極めて今日的な社会問題を的確に描いた作品でした。 裁判員という特殊な事象に誰の身に降りかかるかという不安を誰しもが抱いているし、そこに被告の立場にもなりうるかもしれない二重の重圧の中で裁判員裁判に臨んだヒロインの恐怖にも似た感情は読者にも十二分に伝わるものがあります。
坂の途中の家 Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家より
4022513454
No.22
(4pt)

ある日陥るかもしれない怖さがあった

多くの方の感想にあるように、かなり感情移入できる小説。特に、主人公と同じ境遇の人だけでなく、立場の違う人や実際子育ての経験のない人でも、容易に感情移入出来てしまうところが凄いです。それは、題材が大きな社会問題であることや、何より作者の舞台設定や文章力、表現力の巧みさに関係するものだと思います。

子育てに追われる普通の主婦の理沙子は、事もあろうに自らと同年代の母親が被告の乳幼児虐待死事件の補充裁判員に選出されてしまう。裁判が進むにつれて、事件の背景や経緯が自らの環境と徐々にシンクロし、我が子への愛情に疑問を持ったり、自己否定等で精神のバランスが大きく崩れていきます。そのあたりが実にサスペンスフルで、主人公が裁判の判断と自らの気持ちにどう決着をつけるのかがドキドキします。

また、事件は決して許されるものではありません。が、そこには様々な事情があって一方的に言えるものでもない場合がある等、いろいろと考えさせられました。
坂の途中の家 (朝日文庫) Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家 (朝日文庫)より
4022649089
No.21
(4pt)

ある日陥るかもしれない怖さがあった

多くの方の感想にあるように、かなり感情移入できる小説。特に、主人公と同じ境遇の人だけでなく、立場の違う人や実際子育ての経験のない人でも、容易に感情移入出来てしまうところが凄いです。それは、題材が大きな社会問題であることや、何より作者の舞台設定や文章力、表現力の巧みさに関係するものだと思います。

子育てに追われる普通の主婦の理沙子は、事もあろうに自らと同年代の母親が被告の乳幼児虐待死事件の補充裁判員に選出されてしまう。裁判が進むにつれて、事件の背景や経緯が自らの環境と徐々にシンクロし、我が子への愛情に疑問を持ったり、自己否定等で精神のバランスが大きく崩れていきます。そのあたりが実にサスペンスフルで、主人公が裁判の判断と自らの気持ちにどう決着をつけるのかがドキドキします。

また、事件は決して許されるものではありません。が、そこには様々な事情があって一方的に言えるものでもない場合がある等、いろいろと考えさせられました。
坂の途中の家 Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家より
4022513454
No.20
(5pt)

既視感

母親となった者ならば、感じざるを得ない「既視感」。それを、これほど深く精緻な描写で語られると、単なる感情移入で読み進んでいくだけでは済まされないような気に
すらなった。
誰に?
主人公である理沙子に。被告人席の水穂に。理沙子の夫の陽一郎に、陽一郎の父母に。そして理沙子と同じく裁判員制度に参加している人々に。
誰しもがごくごく普通の市井の人々だ。被告人本人、そしてその家族ですら、きっと。
世の全ての人々にある歪んだ優越感、悲壮感、そして心から手に入れたいと願う平凡な日々の幸福感が、後半猛烈なスピードで様々な登場人物の口から吐かれていく。それを、主人公理沙子の思考を通して丁寧に折り畳まれていく。

この折り畳んでいく過程を男性読者がどう感情移入できるのかは、正直わからないと思った。
それは「母性」云々という話ではない。女性の社会進出によって、選択肢の少なくない昨今の「育児」という現実問題は、男性の想像力を遥かに超えた壮絶なものが
ある。今、話題になっている「日本、死ね」というツイートも一体男性のどれほどが一緒に声をあげて闘う事を望んでいるのか?
「育児」は、「家庭」は、今も尚、女性だけが「母性」「良妻賢母」の名の下に背負うべきだ、という考えは実はもっと根深いのかもしれない。
主人公理沙子のこれからの選択肢がいかようにも考えられるラストもよかった。
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4022513454
No.19
(5pt)

自分の日記なのかと

これは、私が書いた文章なのかと、そう錯覚した。

現在、自分も乳児を育てている。
とても可愛く、愛しく、虐待などは、もちろんしたことがない。
だけど、育児ってそれだけじゃない。
オムツを変えても、母乳を与えても、抱いてあやし続けても泣き止まないときがある。
一日中、家にいるにも関わらず、夕方ふと気がつくと、部屋はぐちゃぐちゃ。洗濯もまだだ。先に、夕食の準備をしなくちゃ、と、そんなときに限って、またぐずりだす。

手をあげたりしたことはないが、そんなとき、心の中で、ものすごく汚い言葉で、乳児をののしっているときがある。

毎日、報道され続ける虐待のニュース。
それを見るたび、感じる怒り。
だけど、少しだけ思う。
この人、辛かったんだろうな、と。

虐待する人の気持ちが、少しでもわかるって、私はおかしいんじゃないだろうか。
昨日、悪態をついた自分と、虐待をした人とは、実はそんなに違わないんじゃないか。
そんなふうに考えて、そんな自分が、怖かった。

この本で、主人公が被告人の女にシンクロするように、自分は主人公に強くシンクロした。
そして、自分でもわからなかった自分のきもちが、そこには書かれていた。言葉になり、ああ、そういうことだったのか、と、すとんと落ちた。

主人公にとって、公判が人生に影響を与えたように、この本は私に、それを与えた。
今後、幾度も、この本を読み返すことになるのだろう。
坂の途中の家 (朝日文庫) Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家 (朝日文庫)より
4022649089
No.18
(4pt)

面白かった。多少のネタバレあります

初めっから終わりまで、もやもやとしてじりじりとして釈然としない、「反撃したいんだけど、糸口が掴めず、口を閉ざさざるを得ない」気持ち悪さにどっぷりと移入した。
終盤で、それは「彼の愛し方」であり、「母の愛し方」であるという「答え」の提示がなかったら、読後引っ張っただろう。
提示してくれたのがとても親切だと思ったw↑の様な愛は要らないが、それは「愛なんだ」というのが酷く理不尽に思えた。
夫が恐ろしく思えると共に、相手を見て態度を変える「子供」も恐ろしく感じてしまったのは、自分は子を持っていないからだろう。
自分の「普通」に疑いを持たない、善良な他の裁判員にも「恐ろしさ」を感じた。
丸々全部楽しませて頂きました。
坂の途中の家 (朝日文庫) Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家 (朝日文庫)より
4022649089
No.17
(5pt)

どこかの街でこの人たちは暮らしている、と思わせる。

角田光代さんの作品は、出版されたら即読む。そして読み出したら止まらず、数日どころか一日で読んでしまう。今回もそうだった。
裁判員裁判を題材にした社会は小説、と紹介されていたが、相手が女性だというだけで、無意識に巧妙に相手を貶め、自信をなくさせていく、ある種類の男性たちの存在の印象が強く残った。「私の中の彼女」でも同じことを感じた。
角田光代さんの小説は、物語だが現実感が強い。どこかの街でこの人たちが間違いなく暮らしている、と思わせる。だから、面白いし、こわい。
坂の途中の家 (朝日文庫) Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家 (朝日文庫)より
4022649089
No.16
(5pt)

引きずられてしまう

角田光代という作家は、誰もが心の底で思っている、言葉にならずに沈んでしまった澱のようなものをすくい取って、紡いで、文章にするのが本当に上手いと思う。
だから彼女の書く作品にはどこかに必ず自分がいて、あっちからこっちを見てるような気分になるのかもしれない。
どこにでもいる普通の主婦が裁判員に選ばれ、自分と同じように子育てをしていたはずの若い女性が、子どもを虐待死させてしまった裁判員裁判に臨む。公判を重ねるうちに、主人公は被告の女性と自分を重ね合わせ情緒が不安定になり、自分と周りを取り囲んでいる環境や子どもとの関わりに強い不信感とと不安を抱くようになる。
他の方が書かれているように、主人公があまりに自己否定的なため読んでいてさすがに引く部分もある。しかし、それを引いても余りある筆力。
読み終わったあとなぜか動悸が止まらず、強い不安感に襲われた。私の旦那と言葉を交わしてようやく、「あぁ、私の旦那はこんな人じゃない、私の家族のことじゃない」と肩の力が抜け、ホッとした。
心身ともに健やかで、自分にも家族にもとりあえず後ろ暗いところがない状態でないと簡単に引きずられてしまう作品だと思う。
恐るべし、角田光代。
坂の途中の家 (朝日文庫) Amazon書評・レビュー: 坂の途中の家 (朝日文庫)より
4022649089