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手紙



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【この小説が収録されている参考書籍】
手紙
手紙 (文春文庫)

手紙の評価: 7.47/10点 レビュー 19件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.47pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全6件 1~6 1/1ページ
No.6:4人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

厳しいまでに心に響く警告の書

ひたすら切ない物語。
いったいどうしてこんなことになったのか?犯罪者の周囲を取り巻く人々、とりわけその家族の姿を描いた作品。

中心となるのは2人。兄弟2人で貧しいながらも暮らす武島剛志とその弟直貴。
人生の歯車が狂ったことで殺人するに至った武島剛志は状況の犠牲者であり、必ずしも悪人ではない。ただ生活が苦しかっただけなのだ。
そして人一倍の弟想いで弟の大学進学のために、輝ける明日のためにお金が欲しかっただけなのだ。

そんな兄の想いが犯罪という結果になり、それゆえに弟を苦しめることになるという運命の皮肉。この身のよじれるようなどうしようもなさが読んでいて非常に辛い。

その弟直貴はいつか大学を出て一流のメーカーに就職し、自分の知識を活かして世の中の役に立つ物を創ることを夢見ていたが、実際は毎日リサイクル会社で毎日資源ゴミにまみれている。
どうしてこんなことになったのか?こんなはずではなかったのに。

折に触れ殺人者の弟というレッテルが付きまとう。
担任の先生に紹介された居酒屋のバイトではどんな雑用も嫌がらず一生懸命に働き、店長にも気に入られるようになりながらも、その事実が判明すると辞めざるを得なくなったこと。
思いもかけない歌の才能を友人に見出され、メジャーデビューを目前にしながらもスキャンダルを恐れ、メンバーから外されたこと。
良家の御嬢さんの彼女が出来ながらも兄の手紙で全てが明るみになったこと。
就職しながらも兄の事が判明すると望まない配置転換をさせられたこと。
結婚し子供も出来、ようやく人並みの幸せを掴んだと思った矢先にまた周囲から遠ざけられるようになったこと。そしてその累がわが子までに及ぶようになったこと。

それらの節目節目で現れるのが兄剛志からの手紙。

家族からの手紙。本来ならば暖かい物なのに、直貴にとっては殺人者の兄剛志からの手紙は明るい未来を絶つ赤紙に他ならない。兄からの手紙が直貴の、人並みの生活をしたいという希望を挫くのだ。
この切なさはなんだろう?

しかしまた手紙によって直貴は救われる。ある事件をきっかけに就職した会社で配置転換を命ぜられ、意気消沈していた直貴を奮起させたのもまたある人物からの手紙だった。

そして直貴が自分の手紙が服役中の兄の心を救うことに気付かされる。そして直貴が家族を守るためにある決断を下すのも手紙であり、また兄の真意に気付くのも手紙だ。

手紙と云う小道具で人の心を動かし、淀みなく物語に溶け込ませる。
本当に東野氏はこういうやるせない物語を紡ぐのが上手い。

本書ではこの犯罪者の弟というレッテルを背負って生きてきた直貴の人生に対して答えが与えられるわけではない。
読者はこの直貴の境遇に胸を傷め、いつか本当の幸せが訪れるよう、願いながらも読むが東野圭吾氏はそんなお伽噺などは存在しないとまでに現代社会に生きる我々一般人の狭い心、安心を得て何も起きない日常を望む我々が持つ犯罪への関わり合いへの拒否を繰り返し繰り返し語る。

では本書で語りたかった事とは何なのだろうか?
私は次のように考える。これはメッセージなのだ、と。
家族に突然犯罪者が生まれる。これは誰にも起こり得る事態だ。そんな加害者の家族に訪れる厳しい現実の数々を描くことで対岸の火事と思っている我々に色んな障害を突き付ける。そしてそれらの障害を作り出すのが他でもない我々なのだということを作者は静かに訴えているのだ。

また一時の気の迷いで犯した罪が自分だけでなく、残された家族にどれだけの負債を抱えさせるのかをも克明に教えてくれる。
世間は事件を忘れても、その関係者が身の回りに近づけばおのずと思いだし、距離を置こうとする。それは一生付き纏う呪いのようなものだ。本書はそんな警句の物語。

直貴が下した兄剛志との絶縁は恐らく読者の多くが望まなかった決断だろう。でもそうせざるを得ない状況が今の社会には歴然と存在する。
誰もが理解し合い、笑ってお互い助け合う社会、本書にも出てくるジョン・レノンの“Imagine”の歌詞のような世界はまだほど遠い理想郷でしかないことを作者は遠慮なく語る。
毎日ニュースや新聞で色んな犯罪が報道されている。殺人事件もまたしかり。そんなたった5行や数十秒で語られる事件の背景には直貴と同じ境遇の人間が生み出されているに違いない。

私は本書を読んで感動しなかった。とにかくずっと身がよじれる様な思いをさせられた。「そして幸せに暮らしましたとさ」なんていうエンディングが現実社会ではないことを思い知った。
本書にはカタルシスはない。しかし錘のようにずっしり残る何かはある。
決して赦されない罪があるということを知り、それを肝に銘じなければならない。
そして私はわが子が中学生になったら本書を読ませようと思う。まだ見ぬ社会の厳しさをまだ純粋な心が残っているうちに教えるために。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.5:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

手紙の感想

デジタルなツールではなく、そろそろ万年筆で書いた手紙を出したくなってきました。

Haru Stingray
RFEPGY0B
No.4:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

犯罪者の家族の辿る運命とは


▼以下、ネタバレ感想

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ショボタン
G1380KCM
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

手紙

実際、犯罪者の家族はこんな境遇にたたされている方がたくさんいるんだろう。
犯罪を犯すことは本人だけでなく、周りの人をも一生重い荷物を背負わせることなんだとつくづく思う。
大好きな兄だったからこそ、主人公のつらさが痛い…
ラストのシーンは映画の場面が思い出されて泣きました。

マイン
U04SQ6XU
No.2:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

手紙の感想

この小説に書かれている主人公の境遇は、ひどいものである。それは、自分の努力ではどうしようもなく、自分の兄のために、批判されてしまう。しかも、それは、自分を思ってのことであり、それを、振り去ることはできない。人は追い込まれると、自分のことだけしか見れなくなり、他人を思いやる気持ちを忘れがちだが、それでも、誰かと関わりを持たないと生きていくことのできないものである。だから、人を傷つけるよりも、傷みを理解してあげることで、自分も癒されるのではないかと感じた。自分のために、相手にやさしく接することの大切さを教えてくれた気がする。

ビッケ
K1LY4PU3
No.1:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

ラスト2ページの感動


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あさみ
6TDFPU33

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