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(短編集)

怪しい人びと



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怪しい人びとの評価: 6.25/10点 レビュー 4件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.25pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ちょっとしたトリックが秀逸

書き下ろし全7作品を収めた短編集。
どれも一ひねりしたトリックというか、仕掛けが効いた味のある小品ばかり。短編ながら起承転結があり、最後の種明かしに納得感がある。
旅行中のお供に、休日の昼下がりに、ちょっとした読物が欲しいときに最適だ。

iisan
927253Y1
No.1:
(7pt)

結局、人の心なんだよね

題名が示すように主人公が出くわす「怪しい人びと」が織り成す奇妙な事件を綴った短編集。

「寝ていた女」は会社の同僚たちにホテル代わりに小遣い稼ぎで自分の部屋を貸すことにした男がある日家に帰ると寝床に女が寝ていて、その女が誰が相手だったか解らないから調べて欲しいと奇妙なお願いをされる、というもの。
本編でも語られているが、往年のハリウッド映画『アパートの鍵貸します』をモチーフにした作品で、東野氏らしい着想の妙が光る。温故知新の好例ともいえる作品で、小遣い稼ぎの部屋貸しが犯罪に利用されることになるとは実に上手い。なんか実際ありそうな話だ。

次の「もう一度コールしてくれ」は老人宅に強盗に押し入った2人組のうちの一人がある家に隠れる。その家主には過去に因縁があって・・・という話。
なかなか語り手の男が南波勝久なる男の家に強盗の逃亡中に押し入った意図が解らず、暗中模索しながら読んでいたが、過去の2人の因縁というのが予想外の物。
人生を分けた試合の判定の真実も実に考え抜かれており、なかなか読ませる。

非常に親近感を覚えたのが「死んだら働けない」。
工場内で起こる密室殺人。私自身工場勤務をしていただけに非常に臨場感と現場の雰囲気、そして登場人物の心情が判る作品だ。なんだか他人事とは思えない作品だった。

「甘いはずなのに」は新婚旅行でハワイに向かう夫婦の話。
女性の、愛する者に信じてもらえない哀しさが作品に深みを与えていると思う。

「灯台にて」は幼馴染2人が学生旅行の時に持ったある秘密の話。
優越感と劣等感を持つ友人2人というシチュエーションは『宿命』などで東野の得意とする設定なのだが、劣等感を持つ側が相手を見返そうとすることで生まれる事件というのは面白い。
東北の日本海にある灯台で灯台守に泊まるよう強要された主人公が陥る状況は容易に解るが、これにライバルを加えたのがミソ。正に2人だけの墓まで持っていくべき秘密だ。

「結婚報告」はかつての友人から送られてきた結婚報告の手紙が意外な展開を見せる。
同封された写真の顔が友人の顔を違うとなれば整形かと思うが、東野氏はそんな安直な方法を取らない。しかしちょっと書き流したような作品だ。

最後は唯一外国を舞台にした「コスタリカの雨は冷たい」。
これは舞台をコスタリカなど発展途上国にしたことで説得力が増す真相だ。しかし一見海外旅行中の災難を書いただけのような作品の中に強盗事件の周到な手がかりと意外な犯人を持ってくるあたりに東野圭吾氏のミステリマインドを感じる。

過去の東野作品を匂わすようなテイストを盛り込んだ短編集で収録された作品はよくよく気づいてみると1編を除いて全て一人称叙述の作品だ。つまり主人公の視点で語られている。事件に巻き込まれた人物が抱える心理状態や違和感が主体となっている。つまり短編集の題名である「怪しい人びと」とは主人公を取り巻く人たちなのだ。

しかし本書で語られる事件そのものに目新しさはないだろう。これぞ東野圭吾だ!と快哉を叫ぶような大トリックやどんでん返しがあるわけではない。
しかし明らかになる事件に関係する人それぞれの心の持ちように東野氏ならではのエッセンスが込められているのだ。

「寝ていた女」の犯人の本性、「もう一度コールしてくれ」の元審判南波の昭和人間的厳格さ、「死んだら働けない」のワーカホリック係長に辟易する犯人の心理、「甘いはずなのに」の容疑者が本当のことをあえて云わない心持ち、「灯台にて」の幼馴染の主人公二人の精神的優劣性がもたらした事件といったように謎の真相に至った心理の綾が読みどころだといえる。

個人的ベストは「灯台にて」。このブラックなテイストと読後感はなかなかいい。ある筋からの話によれば、なんと経験談とのこと。迫真性があるわけだ。
そして工場勤めの経験ある私の主観を交えて「死んだら働けない」が次点となる。また「甘いはずなのに」も印象に残った。

しかし軽めの短編集であることには間違いなく、加えて東野の読みやすい文体もあって、印象に残りにくい作品になっている。物語の世界に引き込む着想と展開は素晴らしく完成度が高いだけになんともその辺が惜しいと思う。

出張の新幹線の車中で暇つぶしに読むのにもってこいのキオスクミステリだ。


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Tetchy
WHOKS60S

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