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不眠症



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不眠症の評価: 8.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(8pt)

サイコパスから街を守るのは不眠症の老人男女2人だった。

物語の舞台はキャッスルロックに並ぶキングの架空の町デリー。そう、あの大著『IT』の舞台となった町だ。

勿論その作品とのリンクもあり、“IT”に立ち向かった仲間の1人マイク・ハンロンは図書館々長となっている。

さて上下巻約1,280ページに亘って繰り広げられるこの物語はスーザン・デイという中絶容認派の女性活動家の講演を招致することでデリーの街が中絶容認派と中絶反対派に二分され、そして彼女がデリーの街に訪れるXデイに起こる惨事を主人公が食い止める話だ。

通常ならばまだ生まれぬ赤ん坊の命を絶つ中絶容認派の方が過激な思想集団のように思えるが、なんと本書では中絶反対派の方が容認派達を「赤ん坊殺し」と蔑んで、過激派の如く、容認派の中核団体である女性救援団体<ウーマンケア>を襲撃するのだ。

しかし途中で物語はスピリチュアルな展開を見せる。そして見えてくる物語の構造を端的に云えば、次のようになるだろう。

デリーの街に蔓延る異次元の存在。彼らが解き放ったサイコパスから街を守るのは不眠症の老人男女2人だった。

冗談ではなく、これが本書の骨子である。

本書の主人公70歳の老人ラルフと68歳のロイスが立ち向かうのは不眠症とエド・ディープノーという男、そして彼にも見えるチビでハゲの医者だ。

まずエドという男はいわば“隣のサイコパス”ともいうべき存在で、妻キャロリンがいた頃はエドとヘレンの間にできた娘ナタリーを連れてきて、恰も本当の孫のように見せており、そしてお互いの家に誘って食事をする仲でもあった。さらにエドはキャロリンが最期の入院をしていた時にも足繁く見舞いに行くほどの献身さを見せたものだ。

しかしスーザン・デイという妊娠中絶容認派の女性活動家の件になると彼は一変してサイコパスへと転身する。デリーの街に講演に来るよう誘致する嘆願書に妻のヘレンが署名したことを知ると彼は烈火の如く怒り、彼女に暴力を振るう。しかしそれは彼のDVが発覚することになった、いわば失敗であり、それまでにも妻のヘレンに暴力を振っていたことが明るみになる。

常に微笑みを絶やさない、好青年ぶりを発揮するエド・ディープノー。
しかし彼もまたオーラの世界と云う異次元を見る能力者であり、デリーの街が持つ特別な≪力(フォース)≫を知覚する人物でもあった。

さて本書で述べられる主人公ラルフの不眠症。実は私にも当てはまることがいくつかあり、背筋に寒気を覚えた。

通常の人が7分から20分のうちに眠りに就くが寝つきの悪い人は最長3時間はかかるらしく、そして浅い眠りが続き、一晩中起きていたかのような錯覚を覚える。

ラルフは妻が生きていた時は6時55分に目を覚ましていたが、それが6時になり、やがてそれが5時台、4時台、3時台と早まっていく。そして目が覚めた後はもうどうしてもそれから眠ることはできなかった。

更に寝不足のため、ごく単純な判断を下すのが困難に感じ、そして短期記憶が減退していく。

これは私にも大なり小なり当てはまることで、特にぐっすり朝まで寝たいのにいつも5時台に尿意を催して目が覚め、その後は寝付けなくなる。

寝つきが悪く、果たして睡眠を取ったのか判然としないことが1年に一回はある。

そしてケアレスミスが多くなり、しかも短期記憶の欠損をしばしば感じる。
他者が報告したと述べていることを思い出せないこともあるのだ。

従ってラルフの抱える苦悩は肌身に染み入るほど私事として捉えることができた。
本当に不眠症は辛いのである。

そしてラルフとロイスが不眠症が重くなるにつれて見えだすオーラの世界に住まう異次元の存在、3人のチビでハゲの医者たちと称される者たちはラルフが例えるギリシア神話の「運命の三女神」、クロートー、ラケシス、アトロポスと名乗る。

ギリシア神話ではこの三姉妹は寿命と死を司り、運命の糸をクロートーが紡ぎ、それをラケシスが割り当て、そしてアトロポスが断ち切る。つまりこの糸の長さが割り当てられた人の寿命を定める。

一方本書の彼らはクロートーが大きな鋏を持ち、ラケシスと共に行動する。彼ら二人は≪意図≫のエージェントで死すべき時が訪れた、即ちあらかじめ意図された死を与える。

一方残りの1人アトロポスは錆びたメスを持つ≪偶然≫のエージェントでいわば不意に訪れる死を与える。つまり災害によって亡くなったり、事故によって死んだり、もしくは何者かに殺されたりといった「不必要な死」だ。

彼らは生物に繋がっている風船紐を断ち切ることで死をもたらす。クロートーとラケシスはアトロポスが選んだ生物に死をもたらすことを止めることができない。そして彼は自分が死をもたらす人物の持ち物を持ち去る。それは大切にしている何かである。
時々我々もいつも使っているものが突然無くなり、どうしても見つからない時があるが、その時はこのアトロポスが持ち去っているのかもしれない。つまりその時は自分に死が訪れているのかも!?

しかしアトロポスが風船紐―医者たちの言葉を借りれば生命コード―を断ち切っても死ななかった存在、それがエド・ディープノーなのだ。
それはつまり彼こそがデリーの街を二分する騒動や不安をもたらしたマスターコード、災厄の種であるとクロートーとラケシスは述べる

ラルフとロイスは次第にオーラが見える力を安定させていく。

まず彼らは不眠症を重ねることでどんどん若々しくなっていき、その結果周囲の人たちから不眠症が治ったと勘違いされるが、これは彼らが周囲の人たちのオーラを頂戴する能力を備えているからだ。

しかし彼らが吸うオーラとはいわば生命エネルギーなのだが、それによって吸い取られた人たちがたちまち老いてしまうとか調子が悪くなるわけではない。
この力についてラルフとロイスに教えていたのはチビでハゲの医者たちだが、彼らによれば2人が飲み込むオーラの量は海の中からバケツで海水を救うほどのもので全く影響はない。
まあ、よく考え付くね、こんな理屈。

妊娠中絶容認派のスーザン・デイのデリー来訪による妊娠中絶反対派の原理主義者エド・ディープノーとオーラの世界で人の死を扱う3人の医者。この2つの世界を行き来する不眠症の老人ラルフとロイス。

なかなか構造が見えにくい物語だったが、ラルフとロイスにオーラの世界を知覚し、そしてオーラを自由に操る能力が授けられたのはある任務のためだった。

『IT』で登場したキングが創造したキャッスルロックに次ぐ架空の街デリー。この街には他の街にない特有の見えざる力が働くようだ。

忘却と災厄の街。
この呼び名がデリーには似合うようだ。

私の不眠症が解消されないのと同様に、またも誰かが不眠症にうなされそうだ。

▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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