タイトル「開かせていただき光栄です」(Dilated to meet you)とは、彼等が苦労して手にいれた解剖遺体を前に、こう言ってメスを入れるジョークである。 注書きにせずに文中で丁寧にも「Dilated to meet you」<Dilate=広げる>は「Delighted to meet you」(お目にかかれて光栄です)を言い換えたものであると説明してある。私はここまで読んできて、そんなはずはないとおもいつつ、この作品はもともと英国作家の手になる原書があって皆川博子氏が翻訳したものだと錯覚しそうになった。日本の小説家だったら、オリジナルの作品でこんなややこしい英語のジョークは使わないものだ。 登場人物のあだ名にしてもそうなのだ。饒舌(ルビでチャターボックスと記述されている)クラレンス。肥満体(ファッティ)ベン。骨皮(スキニー)アル。捻れ鼻トピー。鉄の罠アボット。日本人なら、たとえば「おしゃべりクラレンス」、「太っちょのベン」と名づけるところだ。いかにも原典があってそれを直訳したかのように見える。6人の弟子たちが解剖中に歌うアルファベット順のざれ歌も文字通り直訳としか思われない。 しかし、この意図されたぎこちなさが私を18世紀のロンドンに同化させるという素晴らしい効果を発揮している。どうですか?本物の英国作家が書いた本物の英国のお話。それを翻訳したように見えるでしょう!と。しかも物語には15世紀の古文体を今に再現できる天才少年が登場するのである。これは著者自身のユーモア精神にほかならない。氏はその茶目っ気をおおっぴらにみせ、みずから楽しんで創作したに違いない。とにかくいたるところ用意周到のワザがあるのだ。これがあの怪奇趣味のお人かと、その転身ぶりに驚かされました。
久しぶりに気持ちのいい作品だった。良著。
物語の舞台は18世紀後半のロンドン。
貧富格差が大きく、正義でさえ金で買えてしまう醜い時代背景。
まだまだその社会的地位が高くなかった医療界、その中でも宗教的理由からか卑下されていた解剖医達が主人公。
日の当たらない職業に従事する仕事バカ達だが、みな優秀、だがみなどこか不器用でみな程よく不幸だったりする。
誰もが容易に感情移入できるタイプだ。愛すべきバートンズの面々。
この作品の好感度が高い第一の理由だ。
そして、解剖学という馴染みがなく取っ付きにくいテーマながら、専門用語の羅列で困惑させることもなく、その描写により不快感を与えてしまうこともない。
難解なテーマをライトに描いていて読みやすい。しかし軽くはないのだ。作者の表現力が高いのだろうと思う。
▼以下、ネタバレ感想