■スポンサードリンク


死の開幕



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
【この小説が収録されている参考書籍】
死の開幕 (講談社文庫)

死の開幕の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

■スポンサードリンク


サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

ディーヴァーがまだ普通のミステリ作家だった頃

現代気鋭のヒットメーカー、ジェフリー・ディーヴァーの最初期の作品でルーン三部作とされるシリーズ物の第2作。
第1作は『汚れた街のシンデレラ』という邦題で早川書房から訳出されていたが、現在絶版。3作目は未訳と数あるディーヴァー作品の中でも不遇な扱いを受けているのがこのシリーズ。特に早川書房は早く復刊して欲しい(全くの余談だが、最近の早川書房の絶版の速さは驚くものがある。出版不況の中、余剰在庫を抱えるのはリスクであるのは承知しているが、出版業が文化事業だという意識の欠落が感じられる。トールサイズという独自の規格で本屋さんを泣かせてもいるし、最近すごくエゴとサーヴィスの低下を感じるのだが)。

さてジェフリー・ディーヴァーと云えばどんでん返しと云われているが、最初期の本書も正にそう。なかなか予断を許さない展開を見せる。

ハリウッドに数多ある映像プロダクションに勤める駆け出し社員ルーンが遭遇するポルノ映画館の爆破事件。その時たまたま上映されていた映画の主演女優シェリー・ロウに興味を覚え、この爆破事件のドキュメンタリーを撮ることを決意する。しかし爆破現場には<イエスの剣>なるテロ組織の犯行声明文が残されていて、続く犯行を予見させる。

ポルノ業界のみならず映像業界、しかもハリウッドスターが彩る華やかな銀幕の世界ではなく、弱小のプロダクション会社の日々を綴り、さらにそこに爆発物処理班の生活を絡める。

これら描かれる映像業界の内幕と爆発物処理班の日常そして爆発物処理の過程は確かに読み物として読み甲斐はあるものの、読書の愉悦をそそるまでには届かなかった。説明的で食指が動くようなエピソードに欠けた。あくまでストーリーを修飾する添え物の領域を出ず、プロットには寄与していない。
この辺はまだ作家としてのスキル不足を感じた。

また登場人物たちがステレオタイプで、あまり印象に残る人物がいないのが気になった。主人公のルーンは好奇心旺盛のやんちゃ娘タイプだが、読書中、なかなか貌が見えなかった。ルーンという中性的な名前のせいか、読む前はてっきり男性の主人公だと思っていたので、女性と解った時はびっくりした。ハウスボートに住むなど個性的な設定もあるが、作り物の感じは否めなかった。

彼女の相手役となる爆発物処理班のサム・ヒーリーやルーンが一連の爆発事件の容疑者として一方的に疑っているマイケル・シュミット、ダニー・トラウヴ、アーサー・タッカーもどこか類型的だ。

一つだけ鮮烈な印象を残すのは爆発事件の犠牲者となったシェリー・ロウだ。
爆発事件を彼女にスポットを当ててドキュメンタリーを作ることにし、ようやく撮影が始まった矢先に死んでしまったシェリーに共感を覚え、彼女の死の謎を追うことにしたルーンが辿る彼女の関係者から聞かされるシェリーの人となりはポルノ女優という卑しき職業に就きながらも気高く聡明さを感じさせ、掘り下げられるうちにその存在感が鮮烈さを増してくる。彼女の才能が類稀であることが解っていくにつれ、映像業界がポルノ映画、すなわちブルームービーへの強い偏見と嫌悪を抱いている現状と才能あるポルノ女優の恵まれない環境が読者の頭に次第に刷り込まれていく過程は見事だ。
それゆえにラストの余韻が生きてくる。詳しくは書けないのでこれくらいにしておこう。
しかし一方で他の登場人物の色合いがくすんで見えてしまったのは計算違いだったのではないだろうか。

といったようにこの作家が売れるようになった『静寂の叫び』やリンカーン・ライムシリーズを未読なので比較はできないが、若書きの印象を強く抱いた。

ただこの作者のミスリードの上手さは本書でも味わえる。後の作品の物と比べれば、それはあまりに当たり前すぎる手法かもしれないけれど。
逆に私はこの作品からどのように今、常に絶賛を以って新作が迎えられるようになったか、つまり“化ける”ようになったかを発表順に追っていくことで見ていこうと思う。

Tetchy
WHOKS60S

スポンサードリンク

  



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!