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サイレント・アイズ



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サイレント・アイズの評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

色々盛り込み過ぎて半ば迷走気味

本作品ほど、クーンツは傑作を物するのに仕損じたと大いに感じたことはない。

物語の構造は単純だ。幼き頃に虐待を受けたアグネスが授かった子供バーソロミュー。彼は量子力学を理解し、体現する神童であり、奇跡の理を知っていた。10代にしてレイプされたセラフィムはその子供エンジェルを産む。この子もまたバーソロミュー同様、奇跡の理を知る子供であった。
一方彼らが産まれた同じ頃、自分をこよなく愛する妻を衝動的に崖から突き落とし、事故に偽装して死なせた男ジュニア。彼はこの後、狂気の論理で殺人を重ねて行く。
そしてその彼を殺人鬼とみなし、付き纏う刑事ヴァナディアム。ジュニアは自分を潜在的に脅かすバーソロミューを探し、また死してなお、脅かすヴァナディアムから逃れながら殺戮の旅を続ける。そしてこの4者が数奇な運命を重ね、ブライトビーチで邂逅するとき、ある奇跡が起きる。

クーンツの長所として

①ページを繰る手を休ませない物語の展開の早さ
②読者を退屈させない斬新なアイデアの数々
③どんなに窮地に陥ってもハッピーエンドに終わる

という3点が挙げられるが、今回はこのうち③を特化して物語を閉じればかなりの傑作になったのではないだろうか?なぜテーマを1本に絞れなかったのか?

物語の終盤で形成されるアグネス・ランピオンを中心にしたファミリーの歴々のそれぞれが重ねた人生の悲哀、喜びなどを描くことに専念した方が、ミステリ性・エンタテインメント性は落ちるものの物語の深みはかなり上がっただろう。
今回最も印象に残ったのはアグネスの再婚相手となるポール・ダマスカスのエピソードで、ポリオで全身麻痺に侵された妻との死別するシーンはかなり胸を打った。またジュニアがいなくなってから語られるアグネス・ファミリーのその後がこの小説で一番醍醐味を感じた。最後の最後で数々の奇跡がバーソロミューに対し、実を結ぶ巧さもクーンツならではだと思う。だからこそジュニア・パートが宙に浮くような印象を強く受けるのだ。

余談だが物語中でジュニアの独白で語られるアクション映画・小説の鉄則が面白かった。暴走列車が尼僧を乗せたバスと激突したときにカメラないしペンが追うのは尼僧の生死ではなく、あくまでも暴走する列車の行方であるということ。これがエンタテインメントの鉄則であり、小説作法なのだと改めて認識した次第。
やはり西洋人の作家だなあと感じたのはジュニアが寝言で知りもしないバーソロミューの名を連呼することに対する答えを論理的に用意していたというところ。恐らく日本のホラー作家ならば説明のつかない超常現象めいたことを種にするだろうが、クーンツはしっかりとその理由についても論理的に用意していたのが興味深かった。

正直な話、今回は物語がどのような展開を見せるのかが全然検討がつかなく、これがページを繰る手を止まらせないといったようないい方向に向かえば文句なしなのだが、迷走する様を見せつけられているようにしか受け取れなく、何度も本を置こうと思った。1965年から2000年にかけてのバーソロミューの半生を描くサーガという趣向なのは解るけれども1,200ページ以上をかけて語るべき話でもなかったというのは確か。最後の最後でじわっとさせられるものがあったけれども終わりよければ全て良しとはいかず、やはりそれまでが非常にまどろこしかった。クーンツ特有の勿体振った小説作法がマイナスに出てしまった。

最後に重箱の隅を1つ。ジュニアが看護される看護婦相手に連想を起こす映画『ナイン・ハーフ』は1986年の作品であり、連想をする1965年には上映もされていない。実はこの矛盾のために今回は結構白けてしまった。


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Tetchy
WHOKS60S

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