モンマルトルのメグレ
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モンマルトルのメグレの総合評価:
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メグレが活躍する本を結構読んだが、本作が一番面白かったな。パリの怪しい夜の雰囲気が良く描かれていて、物語に引き込まれた。年若いラポワントの純情、うう、悲しい。。 | ||||
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白亜のサクレクール寺院、画架を立て客の似顔絵を描いて生計を得る貧しい画家の群がるテルトレ広場は、確かにモンマルトルの昼間の顔だ。だがここ夜の18区は、パリ有数の歓楽街であり犯罪多発の地域でもある。この地の素顔をもっともよく知るシムノンは、どんな物語を届けてくれたのだろうか。 みぞれ降る深夜、キャバレー<ピクラッツ>のヌード・ダンサー、アルレットが署を訪れた。「二人ずれの客が、今日さる伯爵夫人を襲い所持する宝石を奪うという密談をやっていた。一人はオスカルといった」と訴え出た。彼女は素面ではなかったし、空をつかむ話だったため署では話半分に聞き置き、彼女を本庁司法警察局に回送した。翌朝本庁での聴取になると、なぜか彼女は一転昨夜はへべれけに酔っていたからよく覚えていないと供述を後退させた。だが帰宅した彼女は絞殺され、近隣に住む通称伯爵夫人も死体となって発見された。メグレは急きょキャバレー<ピクラッツ>に陣取り、捜査を開始する。 モンマルトルの夜の世界に生きる人々は、各人それぞれに不幸な転落の過去を背負っている。そして金と愛欲、酒と薬物の渦の中でもがいている。殺された若い踊り子にも、更生を熱心に説得する恋人がいた。(メグレの若い部下、ラポワント刑事だった。)新たな人生を夢見て、彼女は執拗な「オスカル」の手を逃れようとしたのだが、かなわなかった・・・ かっての南仏でのぜいたくな暮らしから転落し酒と薬におぼれる「伯爵夫人」、年若い夫を失うのを恐れ、男の浮気に耐えるキャバレー支配人の妻、自身薬中の町医者、男色の若者・・・それぞれがリアルに描写されている。が、肝心のオスカルの人間像が明確でない。 さて本作では、常に鬱屈を抱える所轄の「不愛想なロニョン刑事」が登場する。事件には本省のメグレ一派が出張ってくるため、陽の当たる役割が与えられず、常に地味な張り込みに回される。事件解決後もメグレは彼の任務を解くのをすっかり忘れてしまい、ロニョンは命じられた現場に立ち尽くし寒さに震えている。 若いラポワント刑事はその夜、彼の初恋と決別し、犯人を射殺するという初めての経験をした。キャバレーのステージには、アルレットに代わって新たな踊り子がたっている。不慣れなしぐさにお客はどっと笑った。メグレはラポワントも笑っているものと思って、ふと刑事の顔を見やり、彼の頬を伝う滂沱たる涙を見た・・・ 私の大好きな作品の一つ。皆さんもどうぞ。 | ||||
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パリのキャバレーの踊り子が殺人の計画を聞いたと警察に情報提供にくるが・・・というお話。 今回もいつもと変わらず、無駄のないきびきびとした展開で話が転がっていく作品。これまたいつもと同じように登場人物が端役に至るまで記憶に残る印象深いキャラクター造形をしており、流石だと思いました。それと、いつも冷酷非情に犯罪者を追い詰めるメグレですが、今回の最後に示す部下への思いやりに泣けました。こういう情緒的な部分も本作の読み処になっております。 昔、ミステリマガジンでシムノン追悼号を作った時、識者が四人メグレ物ベスト5を選んでいましたが、四人でかぶっていたのが唯一この作品だったと記憶があります。違っていたらすいません。まだ全部読んでいませんが私も今の所ベストかも。機会があったら是非。 | ||||
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メグレもの中期のこの一作ですが、わりと評価されていたのは、性風俗の汚濁のなかでほんのひととき、夢想花のように咲いて無残に散った純愛が、ちょっと胸迫るものがあったからかもしれません。ストリッパーで売春する淫蕩放縦な娘は、そうとは知らないのだがじつはパリ司法警察本部の刑事である、一途な若者の真摯の求愛をうけて、あるかなきかの善に駆られたかのようにとある殺人計画を密告しようとします。酔いが醒めてみればお笑いぐさとじぶんでもわかるその行為でしたが、娘は殺されてしまう。娘の身分偽った、華やかで放恣でそして荒みきった人生を決定的に支配した謎の男の影がしだいにあきらかになってきます。モンマルトル界隈に居つきながら、住人の範疇からも、犯罪者の分類からものがれて、だれからもしかと察知されていないこの男はいったいいかなるものなのか。メグレは卑猥な写真を私領してしまうし、ちょっとだけ迷って昼間からブランデーをきこしめし、ストリップバーを捜査本部にすえるなど、かなり逸脱した行為に耽るあたり、シムノンの筆は確信的にやっているともおもうのですが、それがいつもながらのメグレの人間味、人間観察眼、捜査方法といえばそうともいえる。いやメグレはその犯罪現場の時空、関係者のまとう雰囲気、街の空気、天候とよりそい、ときに一体化したなにものかになって、犯人にただつきまとい、あるいは刑事をつきまとわせ、みずから法を犯すことも辞さない、というよりほとんど常習犯のような自然さ、巧みさでそれをやってのけてしまうという捜査術からすれば、確信もなにもないというべきなんでしょう。初期傑作『男の首』では脱獄を幇助し、同『サン・フォリアン寺院の首吊り男』では置き引きをやる。 残念なのは、シムノンが書いたおそらくもっとも極悪人といってよい謎の男が、その過去はいつもながらにきっちり明かされるとはいえ、モンマルトルの豪華な隠れ家、その屋内でも二重生活をしているらしい、おそろしく孤独なその相貌が結局のところ、具体的に描写されていないところです。なぜかれは周囲の目にみえなかったのか(わたしには『男の首』の、あたかも『罪と罰』のラスコリーニコフに匹敵したその犯人像を越えるものと、ちょっと期待させられました。ちなみに『サン・フォリアン』はドストエフスキーでいえば『悪霊』です。シムノンは自覚的にやっているでしょう)。そしてなぜ娘の密告沙汰をすばやく知ることができたのか。ミステリーとして一編の核となるこの謎を、シムノンはあっけらかんと省略してしまうのです。 とはいえ、わたしにとってこの作品がいまでも強く印象ぶかくあるのは、いわば本庁刑事らにたいする、所轄の街警察のいち刑事の人間描写がじつにみごとだから。いつも本庁のメグレに殺人事件を取りあげられて、もちまえの沈痛な顔つきに不遇の屈託をかくしている所轄の刑事ロニョンがそれです。 《(メグレも本庁刑事の)同僚たちも、もっとロニョンに親切にしてやってもよさそうなものだが、こればかりはどうにもならない面がある。いつも破局のにおいを追いかけているような、彼の悲痛な表情を目にすると、ついつい肩をすくめてやりすごすか、ニヤリとしてしまいたくなるのだ。彼がいつのまにか悪運と不機嫌にたいする嗜好を持ちはじめているのではないかと、メグレは心ひそかに憂慮していた。それがいつとはしれず悪癖となってしまい、たとえば老人が愚痴のたねにするために気管支カタルを温存するように、後生大事に、その悪癖をかかえこんでしまっているのではないか。》 メグレがその一因を、ロニョンの細君が「彼の生活を愉快なものにする内助の役に立っていない」からだと思案したりするわけですが、だからといってなにか忠告したりするわけでははない。ただしメグレの認識では、ロニョンとじぶんとの決定的な差異は、内助にある(だけ)としていることです。こういうシムノンの眼には、どくとくに酷薄で親身なものがあります。そしてこの作品を忘れがたくする決定打がラストの一文です。モンマルトルの街角で小雨に濡れそぼって寒さに凍えるその姿が、悲痛げで滑稽で。 | ||||
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