翼ある闇
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初版刊行(参考)
種別
長編
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204回
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あらすじ
外部リンク
評判
翼ある闇の評価:
7.00/10点 レビュー 15件。 A ランク
翼ある闇の総合評価:
6.95/10点 レビュー 62件。
感想一覧
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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いわゆる新本格ミステリ作家と一線を画したその特異な作風で巷間を賑わせているこの作家。予てより興味があったが、ようやくデビュー作である本作に着手できた。
一読した直後の感想としては、なんとも云えない感慨が押し寄せている。島田荘司氏の『水晶のピラミッド』を読んだ直後のよう、といえば判ってもらえるだろうか。
まず木更津悠也とメルカトル鮎という二人の探偵が同一の事件を扱う、この趣向が彼がデビューするまでの新本格一連の作品になかった趣向だ。今まで探偵の相手といえば、犯人を除き、警察であったが、ここにこの作品の斬新さがある(実は他にもあったのかもしれない。私が寡聞にして知らないだけで)。
そしてキリスト教、正しくはギリシア正教に彩られたペダントリーは小栗虫太郎氏の作風を思わせる。この作風・文章については後に述べよう。
そしてこの二人の探偵の間で繰り広げられる事件の解明が、何層にも入り組んだ真相を一枚一枚剥がすように明らかにされていく。そして最後には第3の探偵によって全てが明らかにされる。しかしそれは真犯人と探偵との間の秘密として闇に葬り去られるのだが。
この小説を読むのに、読者は予備知識を要求される。それは海外古典ミステリを読んでいることだ。でないとこの作品に散りばめられたペダントリー、特に連続殺人に込められたミッシング・リンクの妙は愉しみが半減するだろう。そしてこの一種ミステリマニアのための真相もエピローグにてある兆しがあったことを明かされる。
先に読後は島田荘司氏の『水晶のピラミッド』を想起させると書いたが、これは真の真相の手前に明かされる真相にものすごい魅力があったからだ。これは前代未聞の密室の解明とも云える空前絶後の真相だろう。
死者が甦る世界で死人を出すことの必然性を解いた山口雅也氏の『生ける屍の死』のロジックを遥かに凌駕する真相だ。しかし、作者はこれをいとも簡単に切り捨ててしまう。そんなこと、あるわけないだろ!と自嘲するかのように。
しかし、この驚天動地の真相を覆す最後の真犯人は不要だろう。
というのもここに来て逆に不可能性が増してしまったからだ。
そして麻耶氏はそれについて一切言及しないのだ。
犯人を設定して、意外なミッシングリンクを創案して、連続猟奇殺人で和えて密室事件をトッピングし、瑕となる現実味には触れず、適当に流しました、そんな感じで作られたようですわりの悪さを覚えた。
読者はミステリに何を求めるのだろう?
整然としたロジックの美しさ、驚愕の結末、まだ読んだ事のない未曾有の真相・・・。
この作品に関して云えば、表の真相とされるこの密室の真相こそがまさに未曾有の真相であり、私個人的にはこれが非常に面白かった。だからこそ評価は☆1つ減点なのである。
そしてサブタイトルにあるように本事件は探偵メルカトル鮎の最後の事件である。
謎めいた探偵を出しておき、シリーズが進むごとにその謎に包まれたヴェールを徐々に剥がしていくのがシリーズ物の常套だが、この作者はそれをデビュー作にして見事ひっくり返している。なんとも大胆不敵な趣向である。
そしてこの作家がかつて本格ミステリにおいてタブーとされていたことにあえて触れていることからも本格ミステリの可能性を更に開かんと意欲的・実験的であるとも云える。ネタバレになるのでどのタブーに触れたかどうかは云えないが、裏返せばこの作家が若くして本格ミステリに精通していることの証左となっている。
あと若干21歳のデビューに関して各所で驚愕と云われているが、どこに関してだろうか?
トリック?プロット?文章?
確かにトリック、プロットに関しては驚きはあるだろうがペダントリーに彩られた文章に関して云えば、頭だけで考えて作られた文章の域を脱しておらず、社会に出て触れるであろう、一般常識的な表現が欠如している。
つまりこの作者が十分衒学的であるのは認めるが、使い方が誤っているのに自覚的でない。単純に叙述すればいいところを敢えて普通に使わない単語を使用して、深みを持たせようとしているが、逆に知識の浅はかさを露見している。そしてこういう文章は21歳だからこそ書ける文章であって、逆に成熟すると恥ずかしくて書けない文章だ。実際私がそうだった。こんな持って回ったあらゆる知識を動員し、通常の表現に改革をもたらさんと一人気張って、勘違いの文章をばら撒いていた。
この辺は編集者ならびに出版社の校正部門が直してやらなければならない話なのだが、明らかに怠っている。講談社という大手出版社の仕事の杜撰さも白日の下に晒してしまった。
そして題名の『翼ある闇』。これは舞台となる蒼鴉城のモチーフでもある鴉のことだろう。この作家、数年後にまた『鴉』という題名の作品を書くのだが、よっぽど鴉が好きなのだろうか?
初めて読んだ麻耶作品。確かに一癖も二癖もある作家だ。その存在感はいまだワン・アンド・オンリーを貫いているようだ。次の作品をいつ読めるかは解らないが、また気になる作家が増えてしまった。困った事だ。
▼以下、ネタバレ感想