(短編集)
精神分析殺人事件
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古い本の整理をしていたら本書が出てきて、内容が少し気になったので読み始めると 最後まで一気に読んでしまった。読みやすい文体とその面白さに引きつけられたのだ。 昭和46年から47年にかけて小説誌に掲載された五編を収録した短篇集だが、何れも 精神の病理研究をテーマにしている。「精神分析」「催眠術」「精神分裂」「麻薬分析」 「児童心理」の各殺人事件を、精神医学・心理学・犯罪学の観点から事件解決に導く 筋書きである。ヴァン・ダインのファイロ・ヴァンスものや、江戸川乱歩の『心理試験』 など、犯罪者の心理に事件の鍵を置く小説は珍しくないが、本書の五編は練られた プロットと作者の心理研究が活かされており、作風の暗さと合わさって、面白かった。 表題の『精神分析殺人事件』には虫をとらえて残酷な遊びに熱中する孤独な少年を 描いているが、これは作者の自画像らしい。長編『真昼の誘拐』にも同様の児童が 登場する。『催眠術殺人事件』は催眠術を利用して殺人を代行させるという、仰天の トリックが用いられるのだが、現実に可能なのか気になる。『精神分析殺人事件』は 精神異常を装って罪をまぬがれる完全犯罪を企図し、それに成功した男が入院した 病院で地獄をみるという皮肉な作品である。精神医療の現場への告発ともいえよう。 | ||||
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タイトルに惹かれて買いました。 構成も良いし、読み易いけど、深みが無い様に感じます。 ミステリーって感じだけど、深く考えはさせられない。 | ||||
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本書は1972年11月光文社から出版されたもので、その後、複数の出版社から再出版されています。5作目の「児童心理殺人事件」は、本短編集が編集されるのに伴い「殺意の虚像」から改題されたものです。全作とも殺人事件です。 「精神分析殺人事件」 埼玉県北部のK市に八反田という村がある。その村の八反田小学校に奇妙な遊びをする子供がいた。宮本高という少年は、草原で捕まえたバッタやキリギリスを、モグラの穴の上に石の板を渡して作った、小さな屠殺場で、先ず羽を毟る。次に尖った石で頭を切り、胴を取り、バラバラに分解した虫の死骸を穴の中に埋めていく。高は、その順序を儀式のように忠実に守りながら、忍耐強さで飽きもせず続けていた。二人の刑事は、その話を井川英一という短大講師から聞いた。刑事たちが、八反田小学校の教諭、中原みどりが殺された事件の捜査で八反田村に来た時である。中原みどりは、学校の近くの桑畑で、下腹部を鋭利な刃物のようなもので刺されて殺された。井川から、その少年の存在を知った時、二人の刑事は、その少年が犯行に関わっているのではないかと直感した。だが、これは幼少な少年に、罪を擦り付けるため、頭脳優秀な大人によって仕組まれたものだった。二人の刑事は、少年に罪を着せようと企んだ醜い男を捜し出した。 「催眠術殺人事件」 神奈川県A市で、鋭利な刃物による殺人事件が発生した。刺されたのは、市内の佐久間家具センターの経営者、佐久間宗一だった。刺したのは、妻の晴美である。発見したのは、お手伝いの石倉野枝だった。不審な物音を聞いた時、夫婦の寝室から出てきた、晴美が血の付いた刃物を持っていたのである。現場に駆け付けた、所轄署の捜査員は、晴美から事情を聞こうとしたら困ってしまった。晴美は、事件の事も、自分の名前も夫の名前も、以前の記憶も全く無くなっていたのだ。仕方なく、晴美の身辺を捜査した刑事は、市内の開業医、立川医院に頻繁に通院している事が分かった。そして、院長の立川力松が、晴美に佐久間を殺すように催眠術をかけていた事が疑われた。更に、ある合言葉で記憶が無くなってしまう事も晴美の様子から分かった。念入りに催眠術を掛けていたことが推測された。だが、余りにも非科学的で、捜査員は、犯罪を立証するため、通常の捜査とは全く違った苦労を強いられる事になる。 「精神分裂殺人事件」 精神に異常が有れば、刑事罰に付さないのは通例だが、この話は、それを逆手に取った話。木村民男には、精神分裂病的な強迫症状があった。医者から胃潰瘍だと言われても、胃癌だと思い込んでしまう。妻の志保子から下手ねぇ、と言われただけで、自分の存在を否定されたと思い込み、男として不能になってしまった。それ以来、志保子のすること全てが、自分に対する悪意だと思ってしまった。木村は、裕福な家庭の生まれで、数億円の資産があった。木村は、志保子が自分を殺して、資産の全てを相続しようとしている、とまで思い込むようになってしまった。志保子に離婚を申し出るが、数億の資産があるのだから、志保子は、応じるはずが無かった。そこで、木村は、志保子を殺さねばならないと思い込んだ。都合の良い事に、自分には、精神的な疾患がある。罪に処されることは無いだろうと思った。そして、殺人を実行した。逮捕された木村は、医師の診断の結果、志保子が木村を殺そうとしている、という強迫観念が高まったための犯行であると診断された。刑罰は免れたが強制的に精神病院へ入院させられた。だが、これが木村の誤算だった。そこは、三畳ほどの病室にベッドがあり、扉は、鍵が掛かっている。小窓が有るが、万一の時、飛び降りなど出来ない様に開閉できない。刑務所の独房と一緒だった。しかし、刑務所には刑期がある。終われば出られる。ところが、病院には、刑期は無い。精神鑑定医二人の意見が一致しない限り、退院出来ない。殺人を犯した精神疾患者を精神鑑定医が、容易く退院させるはずが無いのだ。 「麻薬分析殺人事件」 利根川中流の一帯で、連続強姦殺人事件が、発生した。行方不明になっていた女性の遺体が、次々に発見された。犯人は、三谷順平(36)。被害にあった女性は、間島信子さん(18)、大井君子さん(17)、吉野朋美さん(19)、野本ミチ子さん(23)、大石恵美子さん(19)の五人だった。取り調べに応じた三谷は、訊問に対し徹底的に拒否的でありふざけていた。初めのうちは、犯人の悪意によるものと思われていた。だが、精神神経科医、佐伯教授に分析を依頼した結果、三谷が分裂症の性格異常者に近い病者である事が分かった。さらに、犯行後のヒステリー性のひとつである“ガンゼル状態”になっている事が分かった。“ガンゼル状態”の特徴は、簡単な質問に対して、わざとデタラメな答えを言う事である、例えば、馬の足は六本、指は四本とか。三たす二は七という答え方、それと、知らないと惚ける事だった。精神異常と詐病の判断が難しい。そこで三谷を市民病院に移し麻薬を使って取り調べる事にした。佐伯教授によると、麻薬と言っても一種の睡眠薬なのだが、注射して調べると被検者の心理抑圧が緩和されて、かなり正直な答えをすることが多くなるのだと言う。そこで、睡眠薬の一種アミタール(学名・イソアミルバルビタール酸ソーダ)が、三谷の静脈に注射された。これは、自白を強要する拷問と紙一重の方法なのだが、三谷は、別人の様に話始めた。ようやく、自供し始めたが、どうしても野本ミチ子さんの供述だけが得られなかった。不審に思った捜査員たちは、そこに第三の殺人事件があった事に気づき突き止めていく。 「児童心理殺人事件」 本作は、「殺意の虚像」を、この短編集のタイトルに連ねるため改題されて収録されたものです。中原圭司は、私立女子高校の教師をしている。この日は、団地の自室で、副業で始めた受験参考書の執筆をしていた。その時、部屋の下の方から子供たちの賑やかな声が聞こえてきた。それは、中原の部屋のベランダに止まっている油蝉を勇敢な子供が、昆虫網を持って登っているのを応援している声だった。二階の部屋の中原は、立ち上がり何気なくベランダから顔を出した。すると、子供が落ちたらしく、地面に倒れていた。中原は、すぐに部屋を出て、子供の落ちた場所へ駆け付けた。外傷もなく、口や鼻からも出血していない。だが、打ちどころが悪かったのか、気を失っている。救急車を手配すると、近所の部屋からも人が集まってきた。母親らしい女が、半狂乱で取りすがり理由を聞いた。すると他の子供が、あのおじさんがコラッて怒ったから、シンちゃんが驚いて落ちた、と言うのである。大人たちの非難の視線が、中原に集中した。だが、中原が顔を出した時には、子供は落ちていたのだ。コラなどとは、言わない。中原は、自分に向けられた疑いを晴らさなければならなくなってしまった。子供は、まだ二階のベランダに着いていない。すると、それは一階で行なわれていた何かである。手を放すほど驚いたものは何か?中原と妻の二人によって謎は解決され、周囲の人からの疑いも晴らされた。しかし、子供が見たものは、殺人現場であった事は、落ちた子供には、知らされなかった。 | ||||
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本書は1972年11月光文社から出版されたもので、その後、複数の出版社から再出版されています。5作目の「児童心理殺人事件」は、本短編集が編集されるのに伴い「殺意の虚像」から改題されたものです。全作とも殺人事件です。 「精神分析殺人事件」 埼玉県北部のK市に八反田という村がある。その村の八反田小学校に奇妙な遊びをする子供がいた。宮本高という少年は、草原で捕まえたバッタやキリギリスを、モグラの穴の上に石の板を渡して作った、小さな屠殺場で、先ず羽を毟る。次に尖った石で頭を切り、胴を取り、バラバラに分解した虫の死骸を穴の中に埋めていく。高は、その順序を儀式のように忠実に守りながら、忍耐強さで飽きもせず続けていた。二人の刑事は、その話を井川英一という短大講師から聞いた。刑事たちが、八反田小学校の教諭、中原みどりが殺された事件の捜査で八反田村に来た時である。中原みどりは、学校の近くの桑畑で、下腹部を鋭利な刃物のようなもので刺されて殺された。井川から、その少年の存在を知った時、二人の刑事は、その少年が犯行に関わっているのではないかと直感した。だが、これは幼少な少年に、罪を擦り付けるため、頭脳優秀な大人によって仕組まれたものだった。二人の刑事は、少年に罪を着せようと企んだ醜い男を捜し出した。 「催眠術殺人事件」 神奈川県A市で、鋭利な刃物による殺人事件が発生した。刺されたのは、市内の佐久間家具センターの経営者、佐久間宗一だった。刺したのは、妻の晴美である。発見したのは、お手伝いの石倉野枝だった。不審な物音を聞いた時、夫婦の寝室から出てきた、晴美が血の付いた刃物を持っていたのである。現場に駆け付けた、所轄署の捜査員は、晴美から事情を聞こうとしたら困ってしまった。晴美は、事件の事も、自分の名前も夫の名前も、以前の記憶も全く無くなっていたのだ。仕方なく、晴美の身辺を捜査した刑事は、市内の開業医、立川医院に頻繁に通院している事が分かった。そして、院長の立川力松が、晴美に佐久間を殺すように催眠術をかけていた事が疑われた。更に、ある合言葉で記憶が無くなってしまう事も晴美の様子から分かった。念入りに催眠術を掛けていたことが推測された。だが、余りにも非科学的で、捜査員は、犯罪を立証するため、通常の捜査とは全く違った苦労を強いられる事になる。 「精神分裂殺人事件」 精神に異常が有れば、刑事罰に付さないのは通例だが、この話は、それを逆手に取った話。木村民男には、精神分裂病的な強迫症状があった。医者から胃潰瘍だと言われても、胃癌だと思い込んでしまう。妻の志保子から下手ねぇ、と言われただけで、自分の存在を否定されたと思い込み、男として不能になってしまった。それ以来、志保子のすること全てが、自分に対する悪意だと思ってしまった。木村は、裕福な家庭の生まれで、数億円の資産があった。木村は、志保子が自分を殺して、資産の全てを相続しようとしている、とまで思い込むようになってしまった。志保子に離婚を申し出るが、数億の資産があるのだから、志保子は、応じるはずが無かった。そこで、木村は、志保子を殺さねばならないと思い込んだ。都合の良い事に、自分には、精神的な疾患がある。罪に処されることは無いだろうと思った。そして、殺人を実行した。逮捕された木村は、医師の診断の結果、志保子が木村を殺そうとしている、という強迫観念が高まったための犯行であると診断された。刑罰は免れたが強制的に精神病院へ入院させられた。だが、これが木村の誤算だった。そこは、三畳ほどの病室にベッドがあり、扉は、鍵が掛かっている。小窓が有るが、万一の時、飛び降りなど出来ない様に開閉できない。刑務所の独房と一緒だった。しかし、刑務所には刑期がある。終われば出られる。ところが、病院には、刑期は無い。精神鑑定医二人の意見が一致しない限り、退院出来ない。殺人を犯した精神疾患者を精神鑑定医が、容易く退院させるはずが無いのだ。 「麻薬分析殺人事件」 利根川中流の一帯で、連続強姦殺人事件が、発生した。行方不明になっていた女性の遺体が、次々に発見された。犯人は、三谷順平(36)。被害にあった女性は、間島信子さん(18)、大井君子さん(17)、吉野朋美さん(19)、野本ミチ子さん(23)、大石恵美子さん(19)の五人だった。取り調べに応じた三谷は、訊問に対し徹底的に拒否的でありふざけていた。初めのうちは、犯人の悪意によるものと思われていた。だが、精神神経科医、佐伯教授に分析を依頼した結果、三谷が分裂症の性格異常者に近い病者である事が分かった。さらに、犯行後のヒステリー性のひとつである“ガンゼル状態”になっている事が分かった。“ガンゼル状態”の特徴は、簡単な質問に対して、わざとデタラメな答えを言う事である、例えば、馬の足は六本、指は四本とか。三たす二は七という答え方、それと、知らないと惚ける事だった。精神異常と詐病の判断が難しい。そこで三谷を市民病院に移し麻薬を使って取り調べる事にした。佐伯教授によると、麻薬と言っても一種の睡眠薬なのだが、注射して調べると被検者の心理抑圧が緩和されて、かなり正直な答えをすることが多くなるのだと言う。そこで、睡眠薬の一種アミタール(学名・イソアミルバルビタール酸ソーダ)が、三谷の静脈に注射された。これは、自白を強要する拷問と紙一重の方法なのだが、三谷は、別人の様に話始めた。ようやく、自供し始めたが、どうしても野本ミチ子さんの供述だけが得られなかった。不審に思った捜査員たちは、そこに第三の殺人事件があった事に気づき突き止めていく。 「児童心理殺人事件」 本作は、「殺意の虚像」を、この短編集のタイトルに連ねるため改題されて収録されたものです。中原圭司は、私立女子高校の教師をしている。この日は、団地の自室で、副業で始めた受験参考書の執筆をしていた。その時、部屋の下の方から子供たちの賑やかな声が聞こえてきた。それは、中原の部屋のベランダに止まっている油蝉を勇敢な子供が、昆虫網を持って登っているのを応援している声だった。二階の部屋の中原は、立ち上がり何気なくベランダから顔を出した。すると、子供が落ちたらしく、地面に倒れていた。中原は、すぐに部屋を出て、子供の落ちた場所へ駆け付けた。外傷もなく、口や鼻からも出血していない。だが、打ちどころが悪かったのか、気を失っている。救急車を手配すると、近所の部屋からも人が集まってきた。母親らしい女が、半狂乱で取りすがり理由を聞いた。すると他の子供が、あのおじさんがコラッて怒ったから、シンちゃんが驚いて落ちた、と言うのである。大人たちの非難の視線が、中原に集中した。だが、中原が顔を出した時には、子供は落ちていたのだ。コラなどとは、言わない。中原は、自分に向けられた疑いを晴らさなければならなくなってしまった。子供は、まだ二階のベランダに着いていない。すると、それは一階で行なわれていた何かである。手を放すほど驚いたものは何か?中原と妻の二人によって謎は解決され、周囲の人からの疑いも晴らされた。しかし、子供が見たものは、殺人現場であった事は、落ちた子供には、知らされなかった。 | ||||
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本書は1972年11月光文社から出版されたもので、その後、複数の出版社から再出版されています。5作目の「児童心理殺人事件」は、本短編集が編集されるのに伴い「殺意の虚像」から改題されたものです。全作とも殺人事件です。 「精神分析殺人事件」 埼玉県北部のK市に八反田という村がある。その村の八反田小学校に奇妙な遊びをする子供がいた。宮本高という少年は、草原で捕まえたバッタやキリギリスを、モグラの穴の上に石の板を渡して作った、小さな屠殺場で、先ず羽を毟る。次に尖った石で頭を切り、胴を取り、バラバラに分解した虫の死骸を穴の中に埋めていく。高は、その順序を儀式のように忠実に守りながら、忍耐強さで飽きもせず続けていた。二人の刑事は、その話を井川英一という短大講師から聞いた。刑事たちが、八反田小学校の教諭、中原みどりが殺された事件の捜査で八反田村に来た時である。中原みどりは、学校の近くの桑畑で、下腹部を鋭利な刃物のようなもので刺されて殺された。井川から、その少年の存在を知った時、二人の刑事は、その少年が犯行に関わっているのではないかと直感した。だが、これは幼少な少年に、罪を擦り付けるため、頭脳優秀な大人によって仕組まれたものだった。二人の刑事は、少年に罪を着せようと企んだ醜い男を捜し出した。 「催眠術殺人事件」 神奈川県A市で、鋭利な刃物による殺人事件が発生した。刺されたのは、市内の佐久間家具センターの経営者、佐久間宗一だった。刺したのは、妻の晴美である。発見したのは、お手伝いの石倉野枝だった。不審な物音を聞いた時、夫婦の寝室から出てきた、晴美が血の付いた刃物を持っていたのである。現場に駆け付けた、所轄署の捜査員は、晴美から事情を聞こうとしたら困ってしまった。晴美は、事件の事も、自分の名前も夫の名前も、以前の記憶も全く無くなっていたのだ。仕方なく、晴美の身辺を捜査した刑事は、市内の開業医、立川医院に頻繁に通院している事が分かった。そして、院長の立川力松が、晴美に佐久間を殺すように催眠術をかけていた事が疑われた。更に、ある合言葉で記憶が無くなってしまう事も晴美の様子から分かった。念入りに催眠術を掛けていたことが推測された。だが、余りにも非科学的で、捜査員は、犯罪を立証するため、通常の捜査とは全く違った苦労を強いられる事になる。 「精神分裂殺人事件」 精神に異常が有れば、刑事罰に付さないのは通例だが、この話は、それを逆手に取った話。木村民男には、精神分裂病的な強迫症状があった。医者から胃潰瘍だと言われても、胃癌だと思い込んでしまう。妻の志保子から下手ねぇ、と言われただけで、自分の存在を否定されたと思い込み、男として不能になってしまった。それ以来、志保子のすること全てが、自分に対する悪意だと思ってしまった。木村は、裕福な家庭の生まれで、数億円の資産があった。木村は、志保子が自分を殺して、資産の全てを相続しようとしている、とまで思い込むようになってしまった。志保子に離婚を申し出るが、数億の資産があるのだから、志保子は、応じるはずが無かった。そこで、木村は、志保子を殺さねばならないと思い込んだ。都合の良い事に、自分には、精神的な疾患がある。罪に処されることは無いだろうと思った。そして、殺人を実行した。逮捕された木村は、医師の診断の結果、志保子が木村を殺そうとしている、という強迫観念が高まったための犯行であると診断された。刑罰は免れたが強制的に精神病院へ入院させられた。だが、これが木村の誤算だった。そこは、三畳ほどの病室にベッドがあり、扉は、鍵が掛かっている。小窓が有るが、万一の時、飛び降りなど出来ない様に開閉できない。刑務所の独房と一緒だった。しかし、刑務所には刑期がある。終われば出られる。ところが、病院には、刑期は無い。精神鑑定医二人の意見が一致しない限り、退院出来ない。殺人を犯した精神疾患者を精神鑑定医が、容易く退院させるはずが無いのだ。 「麻薬分析殺人事件」 利根川中流の一帯で、連続強姦殺人事件が、発生した。行方不明になっていた女性の遺体が、次々に発見された。犯人は、三谷順平(36)。被害にあった女性は、間島信子さん(18)、大井君子さん(17)、吉野朋美さん(19)、野本ミチ子さん(23)、大石恵美子さん(19)の五人だった。取り調べに応じた三谷は、訊問に対し徹底的に拒否的でありふざけていた。初めのうちは、犯人の悪意によるものと思われていた。だが、精神神経科医、佐伯教授に分析を依頼した結果、三谷が分裂症の性格異常者に近い病者である事が分かった。さらに、犯行後のヒステリー性のひとつである“ガンゼル状態”になっている事が分かった。“ガンゼル状態”の特徴は、簡単な質問に対して、わざとデタラメな答えを言う事である、例えば、馬の足は六本、指は四本とか。三たす二は七という答え方、それと、知らないと惚ける事だった。精神異常と詐病の判断が難しい。そこで三谷を市民病院に移し麻薬を使って取り調べる事にした。佐伯教授によると、麻薬と言っても一種の睡眠薬なのだが、注射して調べると被検者の心理抑圧が緩和されて、かなり正直な答えをすることが多くなるのだと言う。そこで、睡眠薬の一種アミタール(学名・イソアミルバルビタール酸ソーダ)が、三谷の静脈に注射された。これは、自白を強要する拷問と紙一重の方法なのだが、三谷は、別人の様に話始めた。ようやく、自供し始めたが、どうしても野本ミチ子さんの供述だけが得られなかった。不審に思った捜査員たちは、そこに第三の殺人事件があった事に気づき突き止めていく。 「児童心理殺人事件」 本作は、「殺意の虚像」を、この短編集のタイトルに連ねるため改題されて収録されたものです。中原圭司は、私立女子高校の教師をしている。この日は、団地の自室で、副業で始めた受験参考書の執筆をしていた。その時、部屋の下の方から子供たちの賑やかな声が聞こえてきた。それは、中原の部屋のベランダに止まっている油蝉を勇敢な子供が、昆虫網を持って登っているのを応援している声だった。二階の部屋の中原は、立ち上がり何気なくベランダから顔を出した。すると、子供が落ちたらしく、地面に倒れていた。中原は、すぐに部屋を出て、子供の落ちた場所へ駆け付けた。外傷もなく、口や鼻からも出血していない。だが、打ちどころが悪かったのか、気を失っている。救急車を手配すると、近所の部屋からも人が集まってきた。母親らしい女が、半狂乱で取りすがり理由を聞いた。すると他の子供が、あのおじさんがコラッて怒ったから、シンちゃんが驚いて落ちた、と言うのである。大人たちの非難の視線が、中原に集中した。だが、中原が顔を出した時には、子供は落ちていたのだ。コラなどとは、言わない。中原は、自分に向けられた疑いを晴らさなければならなくなってしまった。子供は、まだ二階のベランダに着いていない。すると、それは一階で行なわれていた何かである。手を放すほど驚いたものは何か?中原と妻の二人によって謎は解決され、周囲の人からの疑いも晴らされた。しかし、子供が見たものは、殺人現場であった事は、落ちた子供には、知らされなかった。 | ||||
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