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非澄 さんのレビュー一覧

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レビュー数7

全7件 1~7 1/1ページ

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No.7:
(7pt)

絶え間なき心理戦

原題は“The Man In The Moonlight”。
元祖精神科医探偵ベイジル・ウィリング博士のシリーズ第2弾が本邦初訳で登場。シリーズのメインキャストの「あの人」が今作で初登場。魅力的な容疑者のひとりのため知らずに読んだ方が(ミステリとしては)楽しめるが、知っていたら知っていたで感慨深いものがある。

フォイル次長警視正は立ち寄った大学で殺人計画の書かれたメモを拾う。なにかの悪戯かと思われたが、直後構内で行われていた奇っ怪な心理学実験の最中に拳銃が消えてしまう。気になったフォイルがその晩再び大学を訪れると、予感が的中して生化学の教授が遺体となって発見された。日中フォイルと顔を合わせていたその教授は「絶対に自殺はしない」と断言しており、また現場から逃げ去ったとされる犯人の目撃証言は悉く食い違っていた。嘘をついているのは誰か? 動機は一体なんなのか? そして謎に包まれた被害者の過去とは? ウィリングはその観察眼で次々と謎を暴いていく。

解説の鳥飼氏と言いたいことの多くが被ってしまうが、このウィリング博士ものの作品はいろいろなテイストのミステリが混じっている。特にサスペンステイストの強い作品と、正統派の本格ミステリが評価を得ることが多く、今作のベクトルはどちらかと言えば後者である。今作の一番の魅力は綿密に描かれた登場人物たちの腹の探り合い。作中延々と心理戦が続いており、ユニークな登場人物の魅力が引き立つ要因となっている。また心理学(或いは精神医学)的な何かを取り入れたとされるミステリは古今東西枚挙に遑がないが、それらには首を傾げたくなるようなものも多い。その点今作はなかなかに誠実な出来のように思われる(もちろん無理くりこじつけていて説得力がない部分もないとは言わないが)。ド派手は展開はないものの、本格の名手マクロイ、さすがの安定感である。

探偵役に個性がなさ過ぎるという指摘もあるし、事件自体も地味だったりするが、意外な手がかりに奇妙な事件、めまぐるしく変化する時代背景を色濃く受ける美しい筆致、不思議な中毒性があってまだまだ止められそうにない。
月明かりの男 (創元推理文庫)
ヘレン・マクロイ月明かりの男 についてのレビュー
No.6: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

濃厚な「不可解さ」が○

80年代アメリカ(U国)を舞台にしたシリーズ第2弾。ジェリーフィッシュ事件(前作『ジェリーフィッシュは凍らない』参照)以来閑職に回されていた漣&マリア。ある日、ふたりは共通の知人からブルーローズの調査を依頼される。当時開発することは不可能とされていた幻の青い薔薇。同時期に開発を発表した博士と牧師のふたりの面談を終え、マリアたちは帰路に着いた。
しかしすぐさま面談者のひとりが遺体で発見され、マリアたちは再び事件の調査へ向かうことに。
博士らの開発した青い薔薇は本物なのか? 挿話される「虐待に耐えかねた少年」の見たものとは? そして密室状態の温室で発見された遺体とメッセージの意味するものとは? 数々の謎が一気に解決に結びつくシリーズ第2弾。

科学的な解説がふんだんに盛り込まれており、相変わらずの重厚感である。それでも解決編を見ればなるほどと納得のいくレベルで、理系ミステリとまではいかない絶妙な匙加減である。事件もそうだが、存在し得ないはずの青い薔薇の秘密や、物語の節々で見え隠れする実験体の影、読者の頭をパンクさせるほどの謎のてんこ盛りが、最後まで読まずにいられなくなる魅力と言えるだろう。トリックもあるあるネタとオリジナルのネタの混ぜ方が見事である。

一方、前回は途中から登場した主役コンビだが、今作は冒頭から軽快な漫才を連発しており、海外舞台の作品を敬遠する人にも親しみやすい(漣のマリアに対する嫌味は完全に日本(J国)のノリである 笑)。
優秀で頭脳明晰な漣と、ズボラだが気概があり、ここぞというときの突破力のあるマリアはいいコンビである。

ただ難点としては、今回の犯人の犯行がここまで複雑である必然性はないように思われること。おかげで不可解さが増しておもしろくなっているのは事実なのだが。
前作と比べると結末のインパクトには欠けるが、それでも次回作を期待したくなる完成度である。このシリーズは今後も注目したい。
ブルーローズは眠らない (創元推理文庫)
市川憂人ブルーローズは眠らない についてのレビュー
No.5: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

すごいが好みは分かれる

直近のこのミスで1位を取ってそこらじゅうの書店で平積みになっていたので、見たことある人も多いかもしれない。

牧場智久という天才囲碁少年が探偵役を務めるシリーズの一作。今作は冒頭に殺人事件が発生するが、それをそっちのけで黒岩涙香という実在のジャーナリストが残した暗号に取り組む話となっている(一応事件は解決する)。「日本語の奇跡」と賞する人が多いのも頷ける話で、とにかくこの暗号群は「すごい」の一言。私のように国語が苦手な人間には絶対解けそうにない暗号だらけだが、殺人の謎なんてほっぽり出してさんざん驚かされる。これ書くのに何年かけたの? っていうくらいの力作である。
ただやはり良くも悪くもこのミス受賞作である。賛否の分かれるところもいくつか存在している。まず、設定が古い。今時こんな絵に描いたような少年名探偵が出てくる作品はないし、ワトソン役の女の子も然り。あってもいいと思うし、二十年以上続くシリーズとなるとある意味仕方ないのかもしれないが、やはり違和感がある(ここは人によるか)。
そして事件の扱いがひど過ぎる。暗号の他に黒岩涙香に関する豆知識、各種クイズ・パズルゲームが乱発され、もう事件がどうでもよくなるレベルである。挙句未解決に終わるクイズのせいで余韻もそちらに残されたまま。

個人的には日本語の奇跡を体感して欲しいし、クイズ・パズル好きにはぜひ読んでみてもらいたいと思う作品である。ただ、表紙とタイトルの取っつきにくさ、ミステリ好きには賛否の激しい事件の扱いも考えると、まあ、お好みで、というところかもしれない。

涙香迷宮 (講談社文庫)
竹本健治涙香迷宮 についてのレビュー
No.4:
(8pt)

最後の伏線回収が鮮やか

原題は“The Deadly Truth”。
近年立て続けに翻訳され注目を集めているアメリカの推理作家・ヘレン・マクロイの一作。精神科医であるベイジル・ウィリングを探偵役としたシリーズのひとつで、度の過ぎた悪戯で毎回騒ぎを起こしている悪趣味な美女クローディアが何者かに殺害される事件が描かれている。昨年発売の翻訳であるし、作中の時代はすでに近代的な文明を充分に作り上げているため、この作品を読むことはそこまでハードルが高いとは思われない。だから八十年近く前の作品というのはびっくりである。

さて「なぜこれほどまでの名手の作品が今の今までほとんど翻訳されずにきたか、不思議でならない」と日本の本格ファンを唸らせるマクロイだが、この作品は終盤ギリギリで一気に謎が明かされる構成となっている。
「あー、この作品そんなにおもしろくな・・・・・・ごめんやっぱ好きだわコレ」
が、素直な感想だった。最後の最後まで容疑者を搾らせず、終わりがけにいきなり「驚くべき証拠」で犯人を特定。その「驚くべき証拠」はきれいに伏線が張り巡らされているので確かにすごいのだが、それより他の小さな記述をかき集めて犯人を追い詰める流れの方が個人的には好みである。
ささやく真実 (創元推理文庫)
ヘレン・マクロイささやく真実 についてのレビュー
No.3:
(7pt)

トオリヌケ キンシの感想

加納さんの作品を読むのはおそらく10年ぶり。
今回も日常の謎系ミステリではあるのですが、もうその呼び名に違和感を覚えるくらい、別の「何か」である気がします。
周りから気付いてもらえない「生きづらさ」を抱えた人々がほぼ全編を通して登場。加納さん自身の闘病経験がこの作品を作り上げたのか、それとも私が長く読んでいなかった間にこういう作風に変わったのか、それはわかりません。

相変わらずのハッピーエンド率ですが、何故だろう目が潤んで…。
トオリヌケ キンシ
加納朋子トオリヌケ キンシ についてのレビュー
No.2:
(7pt)

面白かったけれど

まったく想像しない結末で充分に楽しめました。
が、難しい石膏の解説とやたら煩雑な人間関係に惑わされていたところもあるかも。そういう意味では少し面倒ではありました。
生首に聞いてみろ (角川文庫 の 6-2)
法月綸太郎生首に聞いてみろ についてのレビュー
No.1: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

これは……

名作、名作と高評価される作品はたいがい期待し過ぎてがっかりすることの多い私ですが、これはおもしろかったです。
あり得ないだろ~! と建物の設定にツッコむことは可能ですが、おかげで雰囲気が出ているのも事実。
大胆かつユニークなトリックで、『名探偵コナン』が好きな人は特に気に入りそうな気がします。
改訂完全版 斜め屋敷の犯罪 (講談社文庫)
島田荘司斜め屋敷の犯罪 についてのレビュー