樅ノ木は残った

評判

樅ノ木は残ったの評価:

4.36/5点 レビュー 100件。 B ランク

Amazon書評・レビュー点数毎のグラフです

平均点4.36pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
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全166件 101〜120 6/9ページ
No.66
(5pt)

まさに、樅ノ木は残った

《 傾いた陽が斜めからさして、透明な碧色(みどりいろ)にぼかされた山なみの上に、蔵王(ざおう)の雪が鴇色(ときいろ)に輝いていた。朝見たときの青ずんだ銀白の峰は、冷たくきびしい威厳を示すようであったが、いまはもの静かに、やさしく、見る者の心を温めるように思えた。》山本周五郎『樅〔もみ〕ノ木は残った』上巻(新潮文庫)
《山の尾根へ登ると、空は鼠色(ねずみいろ)の厚い層雲に掩(おお)われ、西のほうに一とところ、低く、朱と金色に縁取られた雲の切れ目があって、それが、丘陵のうち重なる広い山なみを、その稜線(りょうせん)だけ錆(さ)びたはがね色に、染めていた。》山本周五郎『樅〔もみ〕ノ木は残った』上巻(新潮文庫)
《「そうだ、対等ではなかった」と甲斐は口の中で云った。「追う者と追われるものに、対等の条件ということはない、今日の勝負はおまえが勝っていた、おまえはみごとにやった。あのばか者がいなければ、おまえはおれを仕止めたかもしれない、くびじろ、さぞ無念だったろう、勘弁しろ、くびじろ」
 甲斐は眼を拭(ふ)きながら、躯をずらせて、大鹿の上へうち伏した。そうして、強いけものの躰臭に顔を包まれたまま、やがて、甲斐は気を失った。》山本周五郎『樅〔もみ〕ノ木は残った』中巻(新潮文庫)
《馬を曳(ひ)いた農夫がゆきちがい、三頭の黒い牛を追って来た牛方(うしかた)とゆきちがった。三頭ともみごとな黒牛で、埃(ほこり)をあびているのに、その毛はびろうどのように艶(つや)つやと光り、そしてどの牛もずっしりと重おもしく、王者のように重おもしく、ゆっくりと歩き、通りすぎるときに、その一頭は、小さな眼で、七十郎を見た。》山本周五郎『樅〔もみ〕ノ木は残った』中巻(新潮文庫)
《「……刺客というものには、多くのばあい扇動者(せんどうしゃ)がある、なにが真実であるかをみきわめる能力がなくて、血気にはやる人間は少なくない、そういう者はたやすく人に動かされ、すぐ壮烈な気分になって、どんなことでもやってのけるものだ」》山本周五郎『樅〔もみ〕ノ木は残った』中巻(新潮文庫)
《 人は誰でも、他人に理解されないものを持っている。もっとはっきり云えば、人間は決して他の人間に理解されることはないのだ。親と子、良人(おっと)と妻、どんなに親しい友達にでも、――人間はつねに独りだ。》山本周五郎『樅〔もみ〕ノ木は残った』下巻(新潮文庫)
《 眺めているうちに、白いものはしだいに多くなり、そのため、くろぐろと枝を張った樅ノ木が、はっきりその姿をあらわすように思えた。》山本周五郎『樅〔もみ〕ノ木は残った』下巻(新潮文庫)
《 雪はしだいに激しくなり、樅ノ木の枝が白くなった。空に向かって伸びているその枝々は、いま雪を衣(き)て凛(りん)と力づよく、昏(く)れかかる光の中に独り、静かに、しんと立っていた。》山本周五郎『樅〔もみ〕ノ木は残った』下巻(新潮文庫)
 お家大事という愚かしいイデオロギーがいっさいを支配する、崩れゆく封建社会のなかで、時代のヒーローとみえた七十郎さえもむなしく斃れてゆく、そんな重苦しい世の中のなかで、甲斐だけが独り、みごとにその愚かしいイデオロギーを生ききった、美しくさえある。そのことでお家大事というイデオロギーの愚劣さをこれでもかとばかり、みごとに易刔してみせた。愚劣といえば、尊王攘夷、現人神、……血気の若者ばかりか老若男女を使嗾する愚かしいイデオロギーは枚挙にいとまがない。しかし、独り作者だけが醒めているわけではない。現代人の読者をも決してそんな場所に安住させておかない、山本周五郎という作家はやはり大変な作家だ、まさに、樅ノ木は残った、のである。
樅ノ木は残った (上) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (上) (新潮文庫)より
4101134642
No.65
(2pt)

長かった、、、

登場人物それぞれが複数の呼び名(役職含む)を持ってるもんだから、ただでさえ人の名前を覚えられない自分にはかなり厳しかった。

10年ほどの時間があれば、人は変わる。子供は大人になり、家無しは道を見つける。
そんななかで頑なに変わらず沈黙を保つ主人公。彼に感情移入することは難しいだろう。読者は傍観者にしかなれない。


樅ノ木は残った (下) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (下) (新潮文庫)より
4101134669
No.64
(2pt)

長かった、、、

登場人物それぞれが複数の呼び名(役職含む)を持ってるもんだから、ただでさえ人の名前を覚えられない自分にはかなり厳しかった。 10年ほどの時間があれば、人は変わる。 子供は大人になり、家無しは道を見つける。 そんななかで頑なに変わらず沈黙を保つ主人公。 彼に感情移入することは難しいだろう。 読者は傍観者にしかなれない。
樅ノ木は残った (下巻) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (下巻) (新潮文庫)より
4101134022
No.63
(5pt)

以って瞑すべし・・・・山本文学の粋。

世に名高い「伊達騒動・寛文事件」を題材に、「伽羅先代萩」の敵役、仁木弾正のモデルとなった【原田甲斐宗輔】の生き方を描いた作品です。久しぶりに熱中して読み進めました。山本周五郎氏の代表作のひとつにして、戦後の歴史文学の金字塔です。無論、これは小説なので史実とは違うのかもしれません。「お家騒動」から主家を護るため、主人公・原田甲斐は事変の解決へのシナリオを冷静に長い時間を掛け熟成させるように作り上げてゆきます。もはや時代は「泰平」、かつての兵馬弓箭の戦国の世ではありません。やがて甲斐はある結論に達し、当初の目的を成就します。ここまで来て「樅の木は残った」のタイトルがはじめて腑に落ちましたね。実に大きいお話でした。本作は英雄譚ではなく立身出世物語でもありません。テーマとしては重く、経験を重ねた処世の厳しさや、毀誉褒貶の外に立ち本懐を遂げる事の難かしさ人心の移ろいやすさ・・・・といった内容です。時代を超えて山本周五郎作品が読み継がれる理由もここにあるのでしょう。再読、再々読とその都度、新たな発見がありそうです。これを契機に山本作品、読破したいものです。
樅ノ木は残った (下) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (下) (新潮文庫)より
4101134669
No.62
(5pt)

いわぬはいうにまさる・・・・原田甲斐の行間。

複雑な構造の藩主・綱宗の逼塞・・・、この首謀者のひとりが時の大老「下馬将軍・酒井忠清」です。幕藩体制を強固にするため、雄藩は些細な事をあげつらわれ、改易・除封の憂き目に遭っていました。伊達の連枝、兵部宗勝との縁組も巧妙に仕組んだ罠と云えるでしょう。混迷する仙台・伊達藩に在って超然と泰然と原田甲斐は呼吸を計るように事件に関与してゆきます。原田甲斐は船岡城の館主で「着座」という(いわば親藩ですね)家柄に生まれます。何やら赤穂事件の大石良雄のようです。普段の沈着ぶりとは対照的に描かれるのが【くびじろ】とのくだりです。この猛々しさが甲斐のバックボーンなのでしょう。本性といってもいい。事に臨んで、右往左往するのが人の常ですが、この原田甲斐、非常事態になればなるほど、冷静でいられるようです。読み進めていくうちに、この人の非凡さや人としての行間のようなものが際立って来て敵・味方を問わず、影響を与えてゆきます。余韻のようなものでしょう。それにしても山本周五郎氏の筆力、見事です。
樅ノ木は残った (中) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (中) (新潮文庫)より
4101134650
No.61
(5pt)

「伽羅先代萩/伊達騒動」の敵役、原田甲斐とは・・・・?

やっと、この作品に辿り着いた・・・・という感じです。
山本周五郎・・・・この大家の作品を読むのはこれが初めてです。
先立って村上元三氏の「田沼意次」を読了しました。良かったですね。
主人公の田沼意次は貪官汚吏の代名詞として、日本史上では永く悪役の
扱いを受けていた人物です。しかし実際は疲弊する米中心の経済を転換し
対ロシアとの外交をも射程に入れるという実に慧眼の政治家。
明治維新の魁とも言うべき施策を正当に評価した作品でした。

本作の原田甲斐も田沼意次のように、後世の評価は甚だ芳しくないものでした。
4代将軍家綱の時世、島原の乱も収束し徳川幕藩体制も根付いて来た頃の事です。
藩祖は「遅れてきた信長」伊達政宗。その3代目綱宗に騒動が起こります。
世に云う「伊達騒動」に取材した作者畢生の名作であると共に、人気、内容共に
時代を超えて、必ず上位にランキングされる出色の歴史小説でもあります。

穏やかで寡黙な人柄にも関わらず人を惹きつけて止まない原田甲斐宗輔。
どうも作中の人物の台詞が‘口語体’なので少し違和感があるのですが、
緻密に伏線を張り巡らせ読み手を巻き込んでゆく構成力は見事なものです。
心情描写は最小限に抑えつつこの伊達騒動に絡む人物たちの配置も絶妙です。
山本氏の解釈と筆力で原田甲斐がどのように描かれてゆくのか・・・・

次巻以降が楽しみです。
樅ノ木は残った (上巻) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (上巻) (新潮文庫)より
4101134014
No.60
(5pt)

「伽羅先代萩/伊達騒動」の敵役、原田甲斐とは・・・・?

やっと、この作品に辿り着いた・・・・という感じです。山本周五郎・・・・この大家の作品を読むのはこれが初めてです。先立って村上元三氏の「田沼意次」を読了しました。良かったですね。主人公の田沼意次は貪官汚吏の代名詞として、日本史上では永く悪役の扱いを受けていた人物です。しかし実際は疲弊する米中心の経済を転換し対ロシアとの外交をも射程に入れるという実に慧眼の政治家。明治維新の魁とも言うべき施策を正当に評価した作品でした。本作の原田甲斐も田沼意次のように、後世の評価は甚だ芳しくないものでした。4代将軍家綱の時世、島原の乱も収束し徳川幕藩体制も根付いて来た頃の事です。藩祖は「遅れてきた信長」伊達政宗。その3代目綱宗に騒動が起こります。世に云う「伊達騒動」に取材した作者畢生の名作であると共に、人気、内容共に時代を超えて、必ず上位にランキングされる出色の歴史小説でもあります。穏やかで寡黙な人柄にも関わらず人を惹きつけて止まない原田甲斐宗輔。どうも作中の人物の台詞が‘口語体’なので少し違和感があるのですが、緻密に伏線を張り巡らせ読み手を巻き込んでゆく構成力は見事なものです。心情描写は最小限に抑えつつこの伊達騒動に絡む人物たちの配置も絶妙です。山本氏の解釈と筆力で原田甲斐がどのように描かれてゆくのか・・・・次巻以降が楽しみです。
樅ノ木は残った (上) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (上) (新潮文庫)より
4101134642
No.59
(5pt)

以って瞑すべし・・・・山本文学の粋。

世に名高い「伊達騒動・寛文事件」を題材に、「伽羅先代萩」の敵役、
仁木弾正のモデルとなった【原田甲斐宗輔】の生き方を描いた作品です。
久しぶりに熱中して読み進めました。山本周五郎氏の代表作のひとつにして、
戦後の歴史文学の金字塔です。

無論、これは小説なので或いは史実とは違うのかもしれません。
「お家騒動」から主家を護るため、主人公・原田甲斐は事変の解決へのシナリオを
冷静に長い時間を掛け熟成させるように作り上げてゆきます。もはや時代は「泰平」、
かつての兵馬弓箭の戦国の世ではありません。やがて甲斐はある結論に達し、
当初の目的を成就します。ここまで来て「樅の木は残った」のタイトルがはじめて
腑に落ちました。

本作は英雄譚ではなく立身出世物語でもありません。テーマとしては重く、
経験を重ねた処世の厳しさや、毀誉褒貶の外に立ち本懐を遂げる事の難かしさや
人心の移ろいやすさ・・・・といった内容です。
「諦観」・・・・それは決してひとりよがりではなく、毅然たる勇気のもとに
全てを引き受けた人物だけに許される境地。読み応えが有りました。

時代を超えてこの作品が読み継がれる理由もここにあるのでしょう。
再読、再々読とその都度、新たな発見がありそうです。
樅ノ木は残った (下巻) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (下巻) (新潮文庫)より
4101134022
No.58
(5pt)

あまりにも愚直な男の生き様

あまりにも愚直で哀しい。
しかし、男としてこんな日本人はもういないのだろうか。
深く感銘をうけ、涙が止まらなかった。
樅ノ木は残った (下) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (下) (新潮文庫)より
4101134669
No.57
(5pt)

あまりにも愚直な男の生き様

あまりにも愚直で哀しい。 しかし、男としてこんな日本人はもういないのだろうか。 深く感銘をうけ、涙が止まらなかった。
樅ノ木は残った (下巻) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (下巻) (新潮文庫)より
4101134022
No.56
(4pt)

伊達騒動の始り。原田甲斐が背負った役割は途方もなく重くつらいものであった。

原田甲斐の自問自答は重くて深い。
 「人は『つかのまの』そして頼みがたいよろこびの代りに、絶えまのない努力や、苦しみや悲しみを背負い、それらに耐えながら、やがて、すべてが『空しい』ということに気づくのだ。」

 伊達騒動をめぐるうわさや憶測、その罠を軸に、柿崎道場、甲斐と宇乃との会話、妻律とのやり取りなどを織り交ぜ、物語はゆるやかに展開していく。
樅ノ木は残った (上巻) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (上巻) (新潮文庫)より
4101134014
No.55
(4pt)

くじびろとの闘い、雅楽頭との丁々発止、原田甲斐の面目躍如ここにあり。

原田甲斐の自問自答は重くて深い。 「国のために、藩のため主人のため、また愛する者のために、自らすすんで死ぬ、ということは、侍の道徳としてだけつくられたものではなく、人間感情のもっとも純粋な燃焼の一つとして存在して来たし、今後も存在することだろう。――だがおれば好まない、・・・たとえそれに意味があったとしても、できることなら「死」は避けるほうがいい。そういう死には犠牲の壮烈と美しさがあるかもしれないが、それでもなお、生きぬいてゆくことには、はるかに及ばないだろう。」 中巻の冒頭は、山男原田甲斐とくじびろ(鹿)との闘いから始まる。一方、幕府老中酒井雅楽頭と伊達兵部の密約を盾に、兵部の横暴ぶりは止まるところがない。雅楽頭と二度目に会う場面は固唾をのまずにはいられない。
樅ノ木は残った (中) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (中) (新潮文庫)より
4101134650
No.54
(4pt)

伊達騒動の始り。原田甲斐が背負った役割は途方もなく重くつらいものであった。

原田甲斐の自問自答は重くて深い。 「人は『つかのまの』そして頼みがたいよろこびの代りに、絶えまのない努力や、苦しみや悲しみを背負い、それらに耐えながら、やがて、すべてが『空しい』ということに気づくのだ。」 伊達騒動をめぐるうわさや憶測、その罠を軸に、柿崎道場、甲斐と宇乃との会話、妻律とのやり取りなどを織り交ぜ、物語はゆるやかに展開していく。
樅ノ木は残った (上) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (上) (新潮文庫)より
4101134642
No.53
(4pt)

「耐え忍び、耐え抜くこと」、ただ主家大切という一義のために。

 新八がおみやに言う、「侍というものは、自分や自分の家族よりも、仕える主君や藩のほうが大事なんだ。・・・けれども、おれたちにはあんな生きかたはできない。あの人たちからみれば、おれやおまえは堕落した賤しい人間だろう。おれたちからみれば、あの人たちはどこかで間違っている、この世にありもしないもののために、自分や家族をいさんで不幸にしている、というように思える。」
 甲斐が舎人に言う、「――意地や面目を立てとおすことはいさましい、人の眼にも壮烈にみえるだろう、しかし、侍の本分というものは堪忍や辛抱の中にある、生きられる限り生きて御奉公することだ、これは侍に限らない、およそ人間の生きかたとはそういうものだ、いつの世でも、しんじつ国家を支え護立てているのは、こういう堪忍や辛抱、――人の眼につかず名もあらわれないところに働いている力なのだ」
 下巻について、あらすじを書くのは野暮であろう。
樅ノ木は残った (下) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (下) (新潮文庫)より
4101134669
No.52
(4pt)

伊達騒動の始り。原田甲斐が背負った役割は途方もなく重くつらいものであった。

 原田甲斐の自問自答は重くて深い。
 「人は『つかのまの』そして頼みがたいよろこびの代りに、絶えまのない努力や、苦しみや悲しみを背負い、それらに耐えながら、やがて、すべてが『空しい』ということに気づくのだ。」
 伊達騒動をめぐるうわさや憶測、その罠を軸に、柿崎道場、甲斐と宇乃との会話、妻律とのやり取りなどを織り交ぜ、物語はゆるやかに展開していく。
樅ノ木は残った (上) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (上) (新潮文庫)より
4101134642
No.51
(4pt)

くじびろとの闘い、雅楽頭との丁々発止、原田甲斐の面目躍如ここにあり。

 原田甲斐の自問自答は重くて深い。
 「国のために、藩のため主人のため、また愛する者のために、自らすすんで死ぬ、ということは、侍の道徳としてだけつくられたものではなく、人間感情のもっとも純粋な燃焼の一つとして存在して来たし、今後も存在することだろう。――だがおれば好まない、・・・
たとえそれに意味があったとしても、できることなら「死」は避けるほうがいい。そういう死には犠牲の壮烈と美しさがあるかもしれないが、それでもなお、生きぬいてゆくことには、はるかに及ばないだろう。」
 中巻の冒頭は、山男原田甲斐とくじびろ(鹿)との闘いから始まる。一方、幕府老中酒井雅楽頭と伊達兵部の密約を盾に、兵部の横暴ぶりは止まるところがない。雅楽頭と二度目に会う場面は固唾をのまずにはいられない。
樅ノ木は残った (中) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (中) (新潮文庫)より
4101134650
No.50
(4pt)

「耐え忍び、耐え抜くこと」、ただ主家大切という一義のために。

新八がおみやに言う、「侍というものは、自分や自分の家族よりも、仕える主君や藩のほうが大事なんだ。・・・けれども、おれたちにはあんな生きかたはできない。あの人たちからみれば、おれやおまえは堕落した賤しい人間だろう。おれたちからみれば、あの人たちはどこかで間違っている、この世にありもしないもののために、自分や家族をいさんで不幸にしている、というように思える。」

 甲斐が舎人に言う、「――意地や面目を立てとおすことはいさましい、人の眼にも壮烈にみえるだろう、しかし、侍の本分というものは堪忍や辛抱の中にある、生きられる限り生きて御奉公することだ、これは侍に限らない、およそ人間の生きかたとはそういうものだ、いつの世でも、しんじつ国家を支え護立てているのは、こういう堪忍や辛抱、――人の眼につかず名もあらわれないところに働いている力なのだ」

 下巻について、あらすじを書くのは野暮であろう。
樅ノ木は残った (下巻) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (下巻) (新潮文庫)より
4101134022
No.49
(5pt)

樅ノ木は黙して語らず、ただ主人公を偲ぶ人たちがいた

伊達騒動での逆臣が実は主家存続を図った功臣だった?!著者山本周五郎の鮮やかな筆捌きは、極悪人の烙印を押された原田甲斐の深謀遠慮、臥薪嘗胆、孤立無援、艱難辛苦を壮大に描き切る。アウトドア志向の野性味溢れる型破りな武士としてこの人物を捉える点も異色で面白い。

周りの無理解、悪評に耐え忍ぶ姿が誰かに似ていると思ったら、元赤穂藩国家老大石内蔵助の名前が脳裡に浮かんだ。だが、御家断絶後の復讐劇(「忠臣蔵」)の主人公は、見事亡君の仇討ちという本懐を遂げたことで、後世に武士の鑑との名を残し得た。親族へのお咎めも後に許される。

一方の原田甲斐はどうか。獅子身中の虫たる藩主一族の奸計に抵抗しつつ幕閣権力者に挑んだ結果、謀殺の事実を秘して乱心者の汚名を一身に引き受け倒れた。前門の虎、後門の狼からの攻撃に身をかわしながら、内憂外患の伊達藩六十二万石を護り抜き恥辱の死を迎える。累は親族に及び、原田家は断絶した。

いつの世も時の最高権力者と戦うことの無謀さは想像に余りある。敵は守りの弱点を突いてくる。敵の懐に飛び込みその奸智の上をゆく妙手を繰り出す困難さは、幾度も本書の主人公に無力感と焦燥感を強いたことだろう。対等に闘った筈の森の大鹿くびじろは唐突に猟師の鉄砲で撃たれる。これは何かの暗示なのか。

数少ない味方は病死し、もう一人は敵の策略に堪忍袋の緒を切らせた。堅忍不抜の主人公の仲間は消えた。そして、彼自身も…。北国の風雪に耐えた樅ノ木は黙して語らず、ただ原田甲斐その人を偲ぶ娘たちが確かに居たことを、手向け代わりに著者は書き記すだけだ。
樅ノ木は残った (上巻) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (上巻) (新潮文庫)より
4101134014
No.48
(5pt)

樅ノ木は黙して語らず、ただ主人公を偲ぶ人たちがいた

伊達騒動での逆臣が実は主家存続を図った功臣だった?!著者山本周五郎の鮮やかな筆捌きは、極悪人の烙印を押された原田甲斐の深謀遠慮、臥薪嘗胆、孤立無援、艱難辛苦を壮大に描き切る。アウトドア志向の野性味溢れる型破りな武士としてこの人物を捉える点も異色で面白い。
周りの無理解、悪評に耐え忍ぶ姿が誰かに似ていると思ったら、元赤穂藩国家老大石内蔵助の名前が脳裡に浮かんだ。だが、御家断絶後の復讐劇(「忠臣蔵」)の主人公は、見事亡君の仇討ちという本懐を遂げたことで、後世に武士の鑑との名を残し得た。親族へのお咎めも後に許される。
一方の原田甲斐はどうか。獅子身中の虫たる藩主一族の奸計に抵抗しつつ幕閣権力者に挑んだ結果、謀殺の事実を秘して乱心者の汚名を一身に引き受け倒れた。前門の虎、後門の狼からの攻撃に身をかわしながら、内憂外患の伊達藩六十二万石を護り抜き恥辱の死を迎える。累は親族に及び、原田家は断絶した。
いつの世も時の最高権力者と戦うことの無謀さは想像に余りある。敵は守りの弱点を突いてくる。敵の懐に飛び込みその奸智の上をゆく妙手を繰り出す困難さは、幾度も本書の主人公に無力感と焦燥感を強いたことだろう。対等に闘った筈の森の大鹿くびじろは唐突に猟師の鉄砲で撃たれる。これは何かの暗示なのか。
数少ない味方は病死し、もう一人は敵の策略に堪忍袋の緒を切らせた。堅忍不抜の主人公の仲間は消えた。そして、彼自身も…。北国の風雪に耐えた樅ノ木は黙して語らず、ただ原田甲斐その人を偲ぶ娘たちが確かに居たことを、手向け代わりに著者は書き記すだけだ。
樅ノ木は残った (上) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (上) (新潮文庫)より
4101134642
No.47
(5pt)

原田甲斐という人物

「人が虎を殺そうとする場合には,人はそれをスポーツだといい,虎が人を殺そうとする場合には,人はそれを獰猛だという.罪悪と正義の区別も,まあそんなものだよ」
 これは劇作家ジョージ・バーナード・ショーの言葉だ.
 個人的に原田甲斐が善人であったとか,悪人であったとかそういった歴史的評価には余り興味はない.そもそも視点を変えてしまえばどうとでもなるような議論に,どれほどの意味があるのか分からない.
 唯一つ言える事は,山本周五郎の描き出した原田甲斐という人物,そして彼を中心に紡ぎ出された物語は十分に感動に値するものであり,彼の生き様は落涙に値する.伊達家を守る.この誓いを守るためだけに,誰にも理解されずに孤独に戦い続ける彼の生き様をぜひ多くの人に読んでもらいたい.
樅ノ木は残った (上巻) (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 樅ノ木は残った (上巻) (新潮文庫)より
4101134014