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大地の牙 満州国演義 六



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【この小説が収録されている参考書籍】
大地の牙 満州国演義六 (新潮文庫)

大地の牙 満州国演義 六の評価: 4.53/5点 レビュー 15件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.53pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全15件 1~15 1/1ページ
No.15:
(2pt)

資料の説明のために、小説はあるのではないはずですが・・・・

第3巻・4巻・5巻と資料を上手く駆使して単なる説明にならず、登場人物が描写されており、時々同じ様な場面の繰り返しにはなりますが、物語の展開が上手く流れていました。満州侵略という戦争状態が舞台ですから、遠慮なく人が殺されますし、主人公である兄弟達の周囲も時には残酷な状態になり、人が死にます。当然のことでしょう。資料をよく読み込み、なんとか物語の中に組み込もうとしている執筆姿勢は理解出来ます。おかげで、満州事変から満州国成立の謀略の過程が、下手な歴史書以上によくわかりました。実在した様々な人物を登場させているのも新しい発見で参考になります。
 ところが、第2巻は資料を基に物語が展開されておらず、説明臭くなってしまっていました。それと同様にこの第6巻も資料の説明が主体となり、その間に登場人物と事件が、しかも、今までと同じ様な事件が繰り返されて取って付けた様に描かれています。言い換えれば資料を説明するため、資料をなぞったぬり絵の様な作品展開となっていると感じるのは自分だけでしょうか?大河小説として五味川純平氏の「戦争と人間」以来の大作と期待していますが、五味川氏の作品が陥ったのと同じ傾向が伺えます。そうなると誠につまらない。この巻はノモンハン事件を取り上げていますが、そこで三男の三郎を中心にもう少し登場人物を動かすことは出来なかったのか?長男太郎の情事にしても、もっと相手の中国女性を描写出来ぬのか?次郎が間垣氏に逆襲するシーンの様な場面を、もっと作れぬものか?四郎も、うろちょろを繰り返させるだけで、なんだかこの人物を描く必要あるの?としか感じられません。
 加えて男は誰もが、やたらと煙草を取り出し燐寸で火をつけ灰皿でもみ消すシーンと、酒を「舐める」シーンは相変わらずで、加えてやたらと会食し飯を注文するシーンが目立ちます。週刊誌連載ですから、場をつなぐためでしょうか?ちょっと芸がないのではと感じてしまいます。
 「~ではない・~ではなかった」と書く代わりに「~じゃない・じゃなかった」というくだけた口調の文章は、ここまで続くと、どうもこの作者の性格からくるものらしい様で、依然としてそれだけが違和感を感じます。加えて登場人物が最初はフルネームで紹介されるのですが、主人公の太郎・二郎・三郎・四郎は兎も角、他の人物もすぐに下の名前だけで描かれるのは、誰だったっけ?と前の見返すことがしばしばなのは、自分だけでしょうか?どうしてそういう風に描くのかもはっきりとわかりません。どうもこれらの文体は作者独特のものらしく、それが個性ある文体なのか、ある種の悪文なのか、最終巻を読むまでは判断が出来ませんが、兎も角、ある意味で歴史書として、最近には珍しい大河小説として、最後まで付きあうつもりです。次巻以後は、もっと面白くなりますように!
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No.14:
(4pt)

小説としては四兄弟の存在感が薄い

南京陥落(1937・12)の直後から米内光政内閣の成立(1940・1)までをカバーしている。この凡そ2年の間に、内閣は近衛(第一次)から、平沼、阿部、米内と目まぐるしく変わっている。大陸の日本軍は南京に次いで武漢、広東を占領し、蒋介石と対立する汪兆銘の新政府樹立を画策する。しかし、1939年5月に満蒙国境のノモンハーンで、ソ連・蒙古の連合軍と衝突し手痛い敗北を被る。しかも、その渦中に独・ソ不可侵条約の成立が伝えられ、中国大陸の戦線は膠着し始める。

こうした時代背景の中を、満州と中国に根を下ろした敷島家の四兄弟はどう生きていたのだろう。満州国自体が傀儡国家なのだから、太郎は外交部のトップだと言っても何も出来ることは無い。国内外の激動に対し、自身の見解を持っている様には見えない。新設の満州建国大学の友人を訪ねたり、青少年義勇軍の訓練所を訪れたり、ハルビン郊外の豊満ダムの建設現場に動員されている苦力を見たりしているが、彼が何らかの意図をもって行動している様には見えない。恐らく、後に問題となる石井部隊、ソ連参戦で悲劇的な運命を辿る青少年達のストーリーの布石を打っておこうとする著者に「操られて」動いている様にしか見えない。なお悪いことに太郎は、中国人の住み込みの女中の一人のために家を建ててやり妾として囲う。馬賊を止め軍の特務機関の仕事を請け負って来た次郎は、祖国の独立を目指すインド人やナチスの迫害を受けているユダヤ人の満州への受け入れを画策するユダヤ系の記者と交流し、彼らの為に「よごれ役」を引き受ける。ただ、これまで四郎と会ったことのなかった彼が、特務の間垣の言いなりになって記者を止め、慰安婦の検黴(けんばい)に従事させられている四郎を苦境から救う場面は感動的だった。

この巻での三郎の活動は、満州と朝鮮の国境に近い通化から入った山岳地帯に展開する共産ゲリラ抗日連軍によって誘拐された日本人技師の救出と掃討を中心とする。その戦闘で部下を失い本人も捕虜となるが、日本軍を脱走し共産軍に加わった昔の部下に救けられる。この掃討作戦中にノモンハンでの衝突を聞かされ現場に向かう。日本軍5万9、000が出兵しながら近代化されたソ連軍の能力を見誤ったために、7、300の戦死、8、000の負傷、1、100の行方不明という大損害を蒙る。この無謀な戦が関東軍の一参謀辻政信少佐が計画し、陸軍の中央にこれを止めるものが居なかったという著者の批判は、戦後、常識となった解釈に従っている。しかし、著者は、これを三郎ではなく、一緒に現場を目撃した特務中尉床波の口を通じて言わせている。三郎の見解は、太郎の場合と同じように隠されている。四郎は兄次郎の尽力で、新京にあって甘粕正彦を理事長に迎えたばかりの満映に入社する。若い頃、無政府主義に傾倒していた彼が、満州まで来て、主義者の大杉栄一家を殺した甘粕の下で働くというのは皮肉な運命だ。しかし、彼だけではない。同じ劇団に所属した昔の友人達も満映に転がり込んでいて、11年ぶりに出会った松平映子と同棲する。

この巻の冒頭で、著者が同盟通信の記者香月の口を藉りて、世論や新聞が軍部をも押し切る怖さを強調するところ(p.13)、従軍文士の作品に、火野葦平以外は「軍部へのおもねり」があると感ずる太郎(pp.262-3){太郎としては珍しい}を描いたところ、慰安所を開こうと乗り込んできた業者の鯨岡の言い分等が面白かった。
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No.13:
(5pt)

このレビューに目を触れる方なら、

周りがどう喚こうが最終巻まで突き進むはず。峠は越えた、奮闘を祈る。
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No.12:
(5pt)

ファシズムとは普通選挙から生まれ、選挙民の感情を満足させるために他国との戦争を必要とする

「ファシズムとは普通選挙から生まれ、選挙民の感情を満足させるために他国との戦争を必要とする」石原莞爾の帰国で五族協和の夢潰える。現場の独走でノモンハン事件。内地では国家総動員態勢進行。ドイツへの傾斜強まる。
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No.11:
(4pt)

屍山血河、北進、南進

「ファシズムは普通選挙によって計らずも産み落とされた魔性のシステム」であり「政治の実施は国民の意思および利害の調和平均点を求める」ことにであるが「強引に創りあげた満州という国家ではその気になりゃ何でもできる。内地じゃ考えられないことがね」という特殊な環境の中で、外務官僚、暗殺者、憲兵隊員、満映社員となった四兄弟が、自覚のあるなしにかかわらず、それぞれの立場で壮絶な運命に飲み込まれる本作もついに3分の2読了。

もちろん四兄弟だけでなく、後世に名を残した政治家、軍人、文豪、芸人はもちろんのこと、世界中すべての国民がこの渦から逃れることは不可能な状況下でこの先どんな結末を迎えてしまうのか?船戸文学最高峰の煌きを味わえるのもあとたったの3冊となってしまった。
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No.10:
(5pt)

いよいよノモンハン(しかし、記述はあっさり目)

序盤の三巻そして中盤の三巻が本巻をもって経過しました。時代の奔流に否応なしに巻き込まれた敷島四兄弟の物語。描写の細密さと濃厚さで頭を完全にガツンとやられてしまった感じです。(いやそれとも、アルコール度数が高い上質のお酒を呑んで、酔ってしまったかのよう?)他の書籍を手に取れない状態となってしまいました・・・・・・

「すべてを叩き潰せという声はますます大きくなる。新聞もそれを煽って部数を伸ばす。軍部はそういう世論にあるときは阿(おもね)り、あるときは利用して強硬路線を一瀉千里に突き進もうとする。それがファシズムというものだよ。ファシズムは大正十四年の普通選挙によって計らずも産み落とされた魔性のシステムだと言ってもいい」(12頁)
「満州事変は関東軍主催、大阪毎日新聞後援とさえ言われた。発行部数二十万程度の東京の一地方紙だった読売新聞は一気に百万を越える国民紙に成長した」(221頁)。
「太郎は苦笑いしながらもう一度洋館のなかを眺めまわした。ここが思う存分、十九歳になる丁路看の肉を愉しむ場所となるのだ。その手順はすでに考えてある。理由をつけて、路看を馘首にするのだ」(282~3頁)。
「忘八と書いてくつわと読むんだよ。仁、義、礼、智、忠、信、孝、悌の八徳を忘れた人でなしって意味だ」(298頁)。
「たったいま馘首した丁路看は明日からあそこに住むことになる。もはや桂子や夏邦祥の眼を気にすることなく思う存分、あの若い肉を愉しめるのだ。罪の意識はもちろん消えはしない。しかし、賽は投げられたのだ、もうなるようにしかならないだろう」(304頁)。
「全身に丁路看の肉の余韻が残っている。弾む乳房、吸いつくような肌。寝台のうえでの路看の動きはいまやまったく遠慮がない」(327頁)。
「外蒙古軍はスターリンにたいする強烈な恐怖心によって鍛えられてる ・・・ 植田謙吉関東軍司令官ですらが、辻政信参謀の鎧袖一触論に騙されてるとしか言いようがない。盧溝橋事件のときの対支一撃論と似たような結果が生じつつあるんです。満州事変の成功体験が関東軍司令部にも小松原兵団にも冷静な判断を失わせてる」(380頁)
「アメリカ経済を大恐慌以前の状態に戻すためには軍需産業の全面展開が必要になって来る。はっきり言いましょう。ルーズベルト大統領は日本との戦争を待っている」(392頁)。
「鄭蘋茹という女がいる。父親は上海高等法院主席検察官・鄭鉞。母親は日本人。評判の別嬪です。・・・ 蘋茹の魅力は愛くるしい顔だけじゃない、大柄で肉感的なんです。丁默邨がそういう女に目が眩むのは当然でしょう」(517~8頁)
「腹のうえで白い裸体が浮き沈みしている。・・・ 丁路看の肌は汗ばんでいた。敷島太郎は弾む乳房を両手で押しあげるように揉みしだいた。腰の動きがしだいに速まって来る。太郎は耐えきれずに精を放った。小太りの肉が崩れ落ちて来た。ふたりで唇を合わせた。口を吸い合ったまま体を反転させ、路看の股間から男根を引き抜いた。時刻は一時になろうとしている。外務局政務処に戻るのは一時半ごろでいいだろう」(526頁)。
「汪兆銘が重慶を脱出してから蒋介石はふたたび反共姿勢に転じた。・・・ 理由は政権を離れた汪兆銘から共産党への対処が甘過ぎると避難されつづけて来たためだろう。その同調者の動きを封じるためには汪兆銘以上の反共政策を採る必要があった。・・・ これで張学良の西安事件による第二次国共合作は完全に崩壊したと言っていい」(531頁)。
「満人が軍警を就職口として確保するためには楊靖宇が生きててくれなきゃ困るんだ。・・・ 満人連中が日本人上官を殺して楊靖宇はまだ生きていることにするかも知れん。その危険があるんで、西谷警佐はすぐに首を切り落とし、首だけをまずここに運ばせるんだろうよ。それしか考えられん」(577~8頁)
「全九巻の大長編なのに一気に読まされてしまうのは、四兄弟の視点で語る構成が当時の日本を多方面から、そしてまるごと描くことに成功していることもあるけれど、この作家が人間観察に優れていて、起伏に富んだストーリーを構築しているからだ、ということも強調しておきたい」(609頁、北上次郎解説)。

最後の方に置かれた「それにしても、桂子は義母・真沙子つまり桂子の姉に雰囲気が似て来たような気がする」(465頁)との敷島四郎の観察は読みが深そうである。
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No.9:
(5pt)

いしかわ

支払い後、思っていたのより早く届いたため、おどろききました。
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No.8:
(5pt)

全巻読了、何という船戸の力量!

この巻だけ店で買えなかったので注文しました。つい先日全巻読了。満州の実態がまるでそこにいるかのような実感をもって感じられます。それにしてもガンを患っているなかでこの力作を完成させたことに感動します。日清日露戦争、あるいはその前の秀吉の朝鮮攻め、尊皇攘夷から始まる日本の拡張路線が行き着く一つの到達点が満州国だったのではないでしょうか。大袈裟でなく国民必読の書です。
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No.7:
(4pt)

団塊むさし

大変面白く我々が、習わなかった近現代史もよく分かる。今現在も同じ道を進もうとしているみたいで、若い人に是非
読んでもらいたい。7巻を早く売り出して頂きたい。
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No.6:
(5pt)

昭和13年冬の天津から昭和14年春の新京まで。四人の敷島家兄弟は満州・中国の大地に血に塗られた歴史を刻み、時代の奔流に抗いつつも流されていく。

「事変」という名の戦争の時代。女優岡田嘉子のソ連亡命や独ソ不可侵条約締結などのトピックを挿みながら中国北部から中部に拡がる戦火の中で、太郎は外交官の矜持だけを維持しつつ実のところ満人少女との激しい情事に溺れ、次郎は一旦捨てたはずの殺人鬼の世界に戻り、三郎は軍務にはげみ抗日連軍の追跡とノモンハン事件の戦場に、四郎は次郎の助けで慰安所管理の苦業から逃れ満映に転職し、次郎以外は発展を遂げる満州国の中心新京に集まるのだが。陸軍中野学校や平房の関東軍防疫本部に言及されるのは物語の今後の展開にどのように関わるのか興味は尽きない。

戦略を欠き暴走したノモンハンの戦闘の真相はソ連秘密史料が開示されているので別にゆずるが、本書に描かれた戦場の悲惨は間違いない。

例によって軍事史の側面からのコメントでは、軍用の東京瓦斯電気製造のちよだ四輪自動車以外にも民間用のフランス製ルノー車が登場、また当時としては極めて珍しいチェコ製タトラ車も。しかしノモンハン事件で日本軍の89式加濃砲は確かに参戦したが対空火器として利用されたかのような記述は誤りであり、ソ連空軍の新鋭「チャイカ爆撃機」も完全な間違い(p399)。また伝単を撒く「97式偵察機」は、神風号を原型とする97式司令部偵察機(キ15)ではなく97式軽爆撃機(キ30)と取り違えたのではないか(p553)。
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No.5:
(5pt)

引き込まれる面白さ

4兄弟のそれぞれの立場での、この時代を、非常に、興味深くえがいてある、いよいよ、世界大戦勃発か?
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No.4:
(5pt)

十年の譜

ある人物のセリフで、この物語が始まって十年が経過したことが知らされる。本書を通読するのは二回目だが、イベントが途切れないためか、数年しかたっていないようにも感じる。
本書、史実ではノモンハン事件まで。展開上三郎の見せ場が多い。

解説は北上次郎。
本書に対する解説の枠にとらわれない「船戸愛」が語られていて心地よい。
解説では、船戸の直筆原稿が意外に(?)端正な字で記されていて驚いたというエピソードが紹介されていた。
私も東京・ミステリー文学資料館の「船戸与一展」で、まさに『満州国演義』の原稿を実見したことがある。
整然と原稿用紙の枡目に並んだ字は端正ながら、力強く感じられたことを思い出した。
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No.3:
(5pt)

そうする以外無かったのか?

私たちは近現代史を学ぶ時間が殆どありません。戦争体験者は多くを語らず、又、真実を知るべくも無かったでしょう。多くの資料を集めて描かれた本作は、敷島兄弟を除きほぼ真実だと思います。当時の政治及び軍部の考えが、その暗さ卑劣さが今の世の中に似た感じがします。用心しましょう。
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No.2:
(5pt)

満州国演義にはまる

満州国演義1巻からこの6巻まで一気に読みました。次も楽しみです。
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No.1:
(4pt)

昭和13〜14年を多面的に描出した迫真の侵略ドラマ

第5巻が出版されて2年余りが経過した。この間に目先を変えた『新・雨月』を上梓したものの、どうなっているかと心配していたが、なるほど、これだけの豊富な素材を緻密に組み立てるにはそれだけの時間が必要だったのだと思わせる、期待を裏切らない第6巻だ。
満州クロニクル、大陸侵略史の断面。昭和13年〜14年を750枚のボリュームで多面的にとらえ、迫真のドラマにしている。
密度の高い2年間なのであり、劇的なエピソードもふんだんに披露されるのだが、何よりも私は史実の大筋についてすら「何も知らなかった」のだと愕然とする思いでこの作品に没頭していった。

「満州を独立国として育成し、民族協和の理想郷とすることで大陸における日本の権益を安定確保する。そして内乱が続く中国に対しては統一国家を認め、国交改善を図り、戦争を回避、経済提携を強化することで列強に優位する国際的立場を確立する。」所詮は覇権主義のひとつにすぎないのだが、こういう考え方があったようだ。
軍部では満州事変の英雄である石原莞爾の一派であり、政府内では英米関係を重視するものたちである。
そして昭和13年はこの考え方が雲散霧消する年であった。

第一次から第三次の近衛声明がこれを象徴する。軍閥の残党を首領とする傀儡政権(王克敏の臨時政府、梁鴻志の維新政府)ではなく蒋介石(重慶の国民政府)に次ぐ実力者・汪兆銘を抱きこむ新政権擁立が戦略の目玉であるがその謀略もはかどらない。日中戦争は中国の抵抗強く、攻めるに攻めきれず、引くに引けない泥沼化の道をたどることになる。
国際政治の場では親英米派が後退しドイツ・イタリアとの接近が加速していく。昭和14年、物語の後半は独ソ不可侵条約、ソ連とノモンハン軍事衝突、ドイツのポーランド侵攻に始まった第二次欧州大戦勃発と国際情勢は緊迫の度を強め、これらに対する日本の政府・軍部の混乱振りが詳述される。

昭和13年
1月  岡田嘉子・杉本良吉のソ連逃亡 共産主義への夢が破綻するエピソード
1月  近衛内閣第一次声明 「帝国政府は爾後国民政府を相手とせず」
3月  台児荘攻略戦で完敗
3月  南京に傀儡政権・中華民国維新政府を樹立
4月  国家総動員法公布
5月  徐州占領
7月  張鼓峰にて日ソ交戦
10月  広州占領
11月  近衛内閣第二次声明 「東亜新秩序」 日本が排他的に中国を独占する秩序
12月  汪兆銘 重慶脱出 近衛内閣第三次声明 「近衛三原則」 
昭和14年
1月  平沼騏一郎内閣
5月  ノモンハン事件勃発
5月  重慶空爆
7月  第二次ノモンハン事件 日満軍とソ蒙軍との戦闘 
8月  独ソ不可侵条約締結
8月  阿部信行内閣
9月  ドイツのポーランド侵攻 第二次大戦の勃発
9月  ノモンハン事件 日本完敗し9月休戦
11月  朝鮮、創氏改名制。
昭和15年
1月   米内光政内閣

支那事変は泥沼化する。軍中央はいい加減なところで鉾を収めようとする声もあるが、結局は世論に押し切られる。南京陥落の提灯行列、蒋介石、国民革命軍を叩き潰せの声はますます大きくなる。新聞もそれを煽って部数を伸ばす。軍部はその世論にあるときは阿りあるときは利用して強硬路線を一瀉千里に突き進む。それがファシズムというものだ。ファシズムは大正14年の普通選挙によって計らずも産み落とされた魔性のシステムだ。
船戸与一らしい冷酷な切り口だが一面の真理だと思う。マスコミに振り回される大衆、それに阿る政治家、民主主義が衆愚政治に陥りかねない状況に対する危機意識、そして実力政治家待望論、ファシズムにはなりそうはないが、今の混乱する日本と根っこのところで似てはいないだろうかと。民主主義とはなにかと冷静に再考しなければならない。
政治の実施は国民の意思および利害の調和平均点を求め、これを基調としてその運用を律するを常とす。統帥はこれに反し、最高唯一の意思を断固として万人に強制し、その生命を犠牲とし、敵の機先を制して間髪を入れざる間に勝敗を決せざるべからず
これは軍事機密「統帥参考(昭和7年)」の言葉として紹介されている。歴史はまさにこのとおりに動いたのだ。政治家の出番はなくなり、軍中央の意思が政府を無視して貫徹していった。

岡田嘉子・杉本良吉のソ連亡命、李香蘭こと山口淑子、吉本興業によるエンタツ・アチャコ、柳家金五楼らの戦地「笑わし隊」、徐州に向かう火野葦平の「麦と兵隊」、戦意高揚のために動員されたペン報国の文壇部隊(文壇の錚々たる大物ぞろい)、ターキーこと水の江滝子、戦地での文化活動の拠点である満映設立などわれわれの世代には幾分馴染みのある文化的エピソードが要所にうまくはめ込まれて、また格別の風味を出している。

児玉誉士夫らによるインド反政府軍への武器支援、石井四郎ら731部隊の毒ガス・細菌兵器の人体実験、ヨーロッパを追われたユダヤ人を満州へ受け入れる作戦などなど虚実混沌の軍事素材も全体構図のなかにしっかりと配置されている。

主人公の一人敷島三郎憲兵中尉は引き続き満州のゲリラ、抗日連軍との死闘に明け暮れる。純粋な軍人精神の持ち主である三郎はそこでいくつもの矛盾と向き合いながらも自己を貫徹しようとする。だから、悲劇に遭遇するのだが、これは現代人にも共感をあたえる人間ドラマだ。

元馬賊の頭領・敷島次郎のバイオレンスアクションも冴える。正邪混沌とするいくつもの秘密組織(アヘンマフィア、インド独立運動の工作員、ユダヤの工作員)の依頼を受け敵対する組織を攻撃、あるときは暗殺を的確にこなしていく。もちろん日本の侵略戦争と深くかかわりをもつ因果の詳細がストーリーの迫真性をいやが上にも高めているのだ。

いままで誰も書けなかった昭和史の描写手法にただただ圧倒される。
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