(短編集)

伝奇集

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伝奇集の評価:

4.12/5点 レビュー 41件。 A ランク

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平均点4.12pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全84件 41〜60 3/5ページ
No.44
(4pt)

円環の廃墟が良い

作家のための作家。もし「小説」(文学)に自分は興味があり、それなりに詳しいと自負するような人であるならば一読はすべきだろう。形而上学的な作品となるので、人によっては哲学書でも読んでるような気分になるかもしれない。

 解説より、
「すなわち神の探求であり、存在の究極的な意味のそれにほかならない。真偽の必ずしも明らかでない博識、シーリアスな象徴体系、知的なユーモア、エキゾチックな背景、神秘的な雰囲気といった、ボルヘスの短編の世界をつらぬく特質」
 とあるが、せいぜい10ページ(20枚弱)ほどの短編の中に、色々な要素が噴出し、物語世界は広がり、収縮する。小説とは、読者の中に現れる一つのイメージだと言えると思うが、ここには確実にボルヘス独特の小説世界がある。

*********

 円環の廃墟は、一般的には芸術家の創作という営為であり、生の探求と反復という隠喩だということだが、一番完成度が高いと思った。

「最初、夢は混沌としていたが、間もなく、いわば弁証法的なものとなった。よそ者は、焼け落ちた神殿にどことなく似た、円形の階段教室の中央にいる自分を夢にみた。黙りこくった大勢の学生が階段席を埋めていた。(中略)男は学生たちに解剖学や宇宙形状額、魔法などを講義していた。」
といった簡潔だが、特殊な文体で、失敗の先の成功、そして終わりという創造の営為が語られていく。
伝奇集 (岩波文庫) Amazon書評・レビュー: 伝奇集 (岩波文庫)より
4003279212
No.43
(4pt)

円環の廃墟が良い

作家のための作家。もし「小説」(文学)に自分は興味があり、それなりに詳しいと自負するような人であるならば一読はすべきだろう。形而上学的な作品となるので、人によっては哲学書でも読んでるような気分になるかもしれない。

 解説より、
「すなわち神の探求であり、存在の究極的な意味のそれにほかならない。真偽の必ずしも明らかでない博識、シーリアスな象徴体系、知的なユーモア、エキゾチックな背景、神秘的な雰囲気といった、ボルヘスの短編の世界をつらぬく特質」
 とあるが、せいぜい10ページ(20枚弱)ほどの短編の中に、色々な要素が噴出し、物語世界は広がり、収縮する。小説とは、読者の中に現れる一つのイメージだと言えると思うが、ここには確実にボルヘス独特の小説世界がある。

*********

 円環の廃墟は、一般的には芸術家の創作という営為であり、生の探求と反復という隠喩だということだが、一番完成度が高いと思った。

「最初、夢は混沌としていたが、間もなく、いわば弁証法的なものとなった。よそ者は、焼け落ちた神殿にどことなく似た、円形の階段教室の中央にいる自分を夢にみた。黙りこくった大勢の学生が階段席を埋めていた。(中略)男は学生たちに解剖学や宇宙形状額、魔法などを講義していた。」
といった簡潔だが、特殊な文体で、失敗の先の成功、そして終わりという創造の営為が語られていく。
ボルヘス「伝奇集」 Amazon書評・レビュー: ボルヘス「伝奇集」より
4828840125
No.42
(4pt)

円環の廃墟が良い

作家のための作家。もし「小説」(文学)に自分は興味があり、それなりに詳しいと自負するような人であるならば一読はすべきだろう。形而上学的な作品となるので、人によっては哲学書でも読んでるような気分になるかもしれない。

 解説より、
「すなわち神の探求であり、存在の究極的な意味のそれにほかならない。真偽の必ずしも明らかでない博識、シーリアスな象徴体系、知的なユーモア、エキゾチックな背景、神秘的な雰囲気といった、ボルヘスの短編の世界をつらぬく特質」
 とあるが、せいぜい10ページ(20枚弱)ほどの短編の中に、色々な要素が噴出し、物語世界は広がり、収縮する。小説とは、読者の中に現れる一つのイメージだと言えると思うが、ここには確実にボルヘス独特の小説世界がある。

*********

 円環の廃墟は、一般的には芸術家の創作という営為であり、生の探求と反復という隠喩だということだが、一番完成度が高いと思った。

「最初、夢は混沌としていたが、間もなく、いわば弁証法的なものとなった。よそ者は、焼け落ちた神殿にどことなく似た、円形の階段教室の中央にいる自分を夢にみた。黙りこくった大勢の学生が階段席を埋めていた。(中略)男は学生たちに解剖学や宇宙形状額、魔法などを講義していた。」
といった簡潔だが、特殊な文体で、失敗の先の成功、そして終わりという創造の営為が語られていく。
ボルヘス「伝奇集」 Amazon書評・レビュー: ボルヘス「伝奇集」より
4828840125
No.41
(4pt)

円環の廃墟が良い

作家のための作家。もし「小説」(文学)に自分は興味があり、それなりに詳しいと自負するような人であるならば一読はすべきだろう。形而上学的な作品となるので、人によっては哲学書でも読んでるような気分になるかもしれない。

 解説より、
「すなわち神の探求であり、存在の究極的な意味のそれにほかならない。真偽の必ずしも明らかでない博識、シーリアスな象徴体系、知的なユーモア、エキゾチックな背景、神秘的な雰囲気といった、ボルヘスの短編の世界をつらぬく特質」
 とあるが、せいぜい10ページ(20枚弱)ほどの短編の中に、色々な要素が噴出し、物語世界は広がり、収縮する。小説とは、読者の中に現れる一つのイメージだと言えると思うが、ここには確実にボルヘス独特の小説世界がある。

*********

 円環の廃墟は、一般的には芸術家の創作という営為であり、生の探求と反復という隠喩だということだが、一番完成度が高いと思った。

「最初、夢は混沌としていたが、間もなく、いわば弁証法的なものとなった。よそ者は、焼け落ちた神殿にどことなく似た、円形の階段教室の中央にいる自分を夢にみた。黙りこくった大勢の学生が階段席を埋めていた。(中略)男は学生たちに解剖学や宇宙形状額、魔法などを講義していた。」
といった簡潔だが、特殊な文体で、失敗の先の成功、そして終わりという創造の営為が語られていく。
伝奇集 (岩波文庫) Amazon書評・レビュー: 伝奇集 (岩波文庫)より
4003279212
No.40
(5pt)

円環する幻の迷宮

(他の者たちは図書館と呼んでいるが)宇宙は、真ん中に大きな換気孔があり、きわめて低い手すりで囲まれた、不定数の、おそらく無限数の六角形の回廊で成り立っている。・・・という「バベルの図書館」の冒頭部分の、カッコでくくられた部分から「宇宙は」までを読んだとき、感動のあまり、なんだかしらないけれど、叫びたくなった。図書館や書籍に関するベストセラーは多々あるが、こんなに端的に書籍の魅力を表現した作家は他にいないのではないか?と思う。
ボルへス自身、本の魅力に取り憑かれた人で、幼年期は父の蔵書に囲まれて過ごし、晩年はアルゼンチン国立図書館の館長に任命された。これも果てのない(ように感じられる)巨大な図書館が登場する、ウンベルト・エーコ著『薔薇の名前』に登場する盲目の図書館長は、ボルへスがモデルだといわれている。図書の作家、書籍の作家、そんな印象が強い。

ミステリやSF小説において、結末で冒頭に戻されて、えんえん同じ小説を読み続けなければならない、という仕掛けは、現在では「ありがち」な結末の一つで、単なる仕掛けとしてパズルのように使われると「ああ、またこれね・・・」と、うんざり、まったく何の味わいもないのだけれど、ボルへスの短篇は物語が発する世界の空気が濃い霧のようにたちこめているので、読み始めるや一寸先も見えなくなってしまい、読者は美しい円環の迷宮に囚われて逃げられなくなってしまう。

ボルへスの小説の魅力は、一人で静かに読むのも、もちろん素晴らしい経験になるのだが、驚きの結末や迷宮のありようを、他の読書人に説明し「語る」とき、それがさらに輝きを増すという不思議さにあると思う。
多分、彼の小説は、読んだ者の想像力の箍を外してしまうのだ。そうして、千差万別、個人の脳の迷宮に入り込んで、アウトプットするとき個々の空想を知らずくっつけてくる。なので、語れば語るほど壮大に面白く感じられる、という「起爆的」な物語なのだ。

ネットでボルへスを調べていたら、「ボルへス会」なるものを見つけた。説明によるとこの会は「ボルヘスの知的で幻想的な作品に魅せられ、職業や関心事などのジャンルを越えたメンバーからなる異色の集まり」とのこと。
なるほど、と思った。そう、語り合いたくなるのだ。そして読者たちは「ボルへス」という円環のなかで永遠に幸福に迷い続ける。
ボルヘス「伝奇集」 Amazon書評・レビュー: ボルヘス「伝奇集」より
4828840125
No.39
(5pt)

円環する幻の迷宮

(他の者たちは図書館と呼んでいるが)宇宙は、真ん中に大きな換気孔があり、きわめて低い手すりで囲まれた、不定数の、おそらく無限数の六角形の回廊で成り立っている。・・・という「バベルの図書館」の冒頭部分の、カッコでくくられた部分から「宇宙は」までを読んだとき、感動のあまり、なんだかしらないけれど、叫びたくなった。図書館や書籍に関するベストセラーは多々あるが、こんなに端的に書籍の魅力を表現した作家は他にいないのではないか?と思う。
ボルへス自身、本の魅力に取り憑かれた人で、幼年期は父の蔵書に囲まれて過ごし、晩年はアルゼンチン国立図書館の館長に任命された。これも果てのない(ように感じられる)巨大な図書館が登場する、ウンベルト・エーコ著『薔薇の名前』に登場する盲目の図書館長は、ボルへスがモデルだといわれている。図書の作家、書籍の作家、そんな印象が強い。

ミステリやSF小説において、結末で冒頭に戻されて、えんえん同じ小説を読み続けなければならない、という仕掛けは、現在では「ありがち」な結末の一つで、単なる仕掛けとしてパズルのように使われると「ああ、またこれね・・・」と、うんざり、まったく何の味わいもないのだけれど、ボルへスの短篇は物語が発する世界の空気が濃い霧のようにたちこめているので、読み始めるや一寸先も見えなくなってしまい、読者は美しい円環の迷宮に囚われて逃げられなくなってしまう。

ボルへスの小説の魅力は、一人で静かに読むのも、もちろん素晴らしい経験になるのだが、驚きの結末や迷宮のありようを、他の読書人に説明し「語る」とき、それがさらに輝きを増すという不思議さにあると思う。
多分、彼の小説は、読んだ者の想像力の箍を外してしまうのだ。そうして、千差万別、個人の脳の迷宮に入り込んで、アウトプットするとき個々の空想を知らずくっつけてくる。なので、語れば語るほど壮大に面白く感じられる、という「起爆的」な物語なのだ。

ネットでボルへスを調べていたら、「ボルへス会」なるものを見つけた。説明によるとこの会は「ボルヘスの知的で幻想的な作品に魅せられ、職業や関心事などのジャンルを越えたメンバーからなる異色の集まり」とのこと。
なるほど、と思った。そう、語り合いたくなるのだ。そして読者たちは「ボルへス」という円環のなかで永遠に幸福に迷い続ける。
伝奇集 (岩波文庫) Amazon書評・レビュー: 伝奇集 (岩波文庫)より
4003279212
No.38
(2pt)

翻訳以前の問題

確かに鼓さんの直訳は読みにくい。日本語表記のおかしな点も散見される。

 哲学者マイノンクが「メイノング」になってるわ、「いかさまな者」って「いかさま師」のこと?
 「モーロ人」って普通「ムーア人」だろ。

 でも、本書の最大の問題点は翻訳以前の問題、つまりボルヘスの原作にあると見た。

 一言で言うと「固有名詞が多過ぎる」のである。殆どの日本人が聞いたこともないような南米やヨーロッパのかなりマイナーな人名や書名がやたらと引用されるのである。一種の衒学趣味なのかも知れない。小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』にも共通の悪趣味である。

 やたらと海外での評価が高いので、多くの日本人読者は読む前から名前負けしてしまうんでしょうなあ。

 確かに、20世紀前半に書かれたにしては相当時代に先んじていた作品群だったとは思う。でも、今じゃ純文学、SF、エンタテインメント小説を通じて、この人の影響を受けた作品がいくつもあるので、むしろボルヘスの手法が陳腐化したとも言えよう。

 例えば、同じ短編集でも読後のインパクトの強さでは、グレッグ・イーガン『祈りの海』の方がよほど上で、読み易さ、小説としての面白さも勝っていたと感じられた。

 結局、ボルヘスって、名前でコワモテしている歴史上の小説家と捉えるべきではなかろうか、と思った。
ボルヘス「伝奇集」 Amazon書評・レビュー: ボルヘス「伝奇集」より
4828840125
No.37
(2pt)

翻訳以前の問題

確かに鼓さんの直訳は読みにくい。日本語表記のおかしな点も散見される。

 哲学者マイノンクが「メイノング」になってるわ、「いかさまな者」って「いかさま師」のこと?
 「モーロ人」って普通「ムーア人」だろ。

 でも、本書の最大の問題点は翻訳以前の問題、つまりボルヘスの原作にあると見た。

 一言で言うと「固有名詞が多過ぎる」のである。殆どの日本人が聞いたこともないような南米やヨーロッパのかなりマイナーな人名や書名がやたらと引用されるのである。一種の衒学趣味なのかも知れない。小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』にも共通の悪趣味である。

 やたらと海外での評価が高いので、多くの日本人読者は読む前から名前負けしてしまうんでしょうなあ。

 確かに、20世紀前半に書かれたにしては相当時代に先んじていた作品群だったとは思う。でも、今じゃ純文学、SF、エンタテインメント小説を通じて、この人の影響を受けた作品がいくつもあるので、むしろボルヘスの手法が陳腐化したとも言えよう。

 例えば、同じ短編集でも読後のインパクトの強さでは、グレッグ・イーガン『祈りの海』の方がよほど上で、読み易さ、小説としての面白さも勝っていたと感じられた。

 結局、ボルヘスって、名前でコワモテしている歴史上の小説家と捉えるべきではなかろうか、と思った。
伝奇集 (岩波文庫) Amazon書評・レビュー: 伝奇集 (岩波文庫)より
4003279212
No.36
(3pt)

人の格

ある本のコラムでボルヘスの「記憶の人、フネス」の一部を読んだ。そして、深い思いに捉われた。
それはこうだ。「しかし、私は彼はあまりものを考えることが出来なかったのではないかと思う。考えるということは物事の細かい違いを忘れることであり、一般化することであり、また抽象化することである。フネスの溢れるばかりの記憶の世界にはそれこそ実際にあったことほぼそのままの詳細しかなかったのである」。
そこで、全編を読みたくなり訳書を購入したが、インパクトが異なる。もう一つの訳書があったのでそれも購入したが、これも違う。
どうやら、コラムを書いた人が訳したようだ。
また、最近富士講六世食行身禄の伝記小説を読んだが知らないままがよかったという経験がある。
訳者、小説家が作家、人物の高みに達していないのだ。自己のレベルにおいてしか見えていない。
ジャック・ラカンもそのような状況にあると思う。ラカンの翻訳ものよりラカン派の秀でた日本人医者の著作のほうがよく解る。そういうものだろう。
ボルヘス「伝奇集」 Amazon書評・レビュー: ボルヘス「伝奇集」より
4828840125
No.35
(3pt)

人の格

ある本のコラムでボルヘスの「記憶の人、フネス」の一部を読んだ。そして、深い思いに捉われた。
それはこうだ。「しかし、私は彼はあまりものを考えることが出来なかったのではないかと思う。考えるということは物事の細かい違いを忘れることであり、一般化することであり、また抽象化することである。フネスの溢れるばかりの記憶の世界にはそれこそ実際にあったことほぼそのままの詳細しかなかったのである」。
そこで、全編を読みたくなり訳書を購入したが、インパクトが異なる。もう一つの訳書があったのでそれも購入したが、これも違う。
どうやら、コラムを書いた人が訳したようだ。
また、最近富士講六世食行身禄の伝記小説を読んだが知らないままがよかったという経験がある。
訳者、小説家が作家、人物の高みに達していないのだ。自己のレベルにおいてしか見えていない。
ジャック・ラカンもそのような状況にあると思う。ラカンの翻訳ものよりラカン派の秀でた日本人医者の著作のほうがよく解る。そういうものだろう。
伝奇集 (岩波文庫) Amazon書評・レビュー: 伝奇集 (岩波文庫)より
4003279212
No.34
(5pt)

読者を迷宮に誘い込む魅惑的短編集

架空の書物・人物・事物の評伝という形式で作者自身の思惟を奔放に綴って読者を迷宮に誘い込む短編集「八岐の園」、練達した小説技巧でカミュ「追放と王国」を彷彿とさせる短編集「工匠集」の二部構成から成る作品。

「八岐の園」では、読み手が持つ宇宙観、哲学体系、時間の概念などを揺るがす。例えば、時間についてはその均一な連続性を否定する以下の様な言辞もある。

  「未来は現在の願望としてしか現実性を持たず、
   過去も現在の記憶としてしか現実性を持たない」

記憶、時間、循環性は繰り返し語られるモチーフである。本についての以下の言辞も面白い。倉橋由美子氏「スミヤキストQの冒険」を想起させる。

  「世界には唯一の(基底)本しか存在せず、全ての現存する本は
   その無限分岐の結果である」

叙述形式は古代伝承的でもあり抽象論理的でもありカフカ的でもあり幾何学的でもある。これらが渾然一体となって読む者を包む。輪廻など東洋思想にも触れている。

「工匠集」では、南米特有の狂騒的リズム感とシニカルな視線が混淆した世界が展開される。作者がポーやチェスタトンを読み込んでいるのは驚きで、小編の多くにミステリ的構成や計算が施されている。読み応え充分であり、読者を迷宮に誘い込む魅惑的短編集だと思う。
ボルヘス「伝奇集」 Amazon書評・レビュー: ボルヘス「伝奇集」より
4828840125
No.33
(5pt)

読者を迷宮に誘い込む魅惑的短編集

架空の書物・人物・事物の評伝という形式で作者自身の思惟を奔放に綴って読者を迷宮に誘い込む短編集「八岐の園」、練達した小説技巧でカミュ「追放と王国」を彷彿とさせる短編集「工匠集」の二部構成から成る作品。

「八岐の園」では、読み手が持つ宇宙観、哲学体系、時間の概念などを揺るがす。例えば、時間についてはその均一な連続性を否定する以下の様な言辞もある。

  「未来は現在の願望としてしか現実性を持たず、
   過去も現在の記憶としてしか現実性を持たない」

記憶、時間、循環性は繰り返し語られるモチーフである。本についての以下の言辞も面白い。倉橋由美子氏「スミヤキストQの冒険」を想起させる。

  「世界には唯一の(基底)本しか存在せず、全ての現存する本は
   その無限分岐の結果である」

叙述形式は古代伝承的でもあり抽象論理的でもありカフカ的でもあり幾何学的でもある。これらが渾然一体となって読む者を包む。輪廻など東洋思想にも触れている。

「工匠集」では、南米特有の狂騒的リズム感とシニカルな視線が混淆した世界が展開される。作者がポーやチェスタトンを読み込んでいるのは驚きで、小編の多くにミステリ的構成や計算が施されている。読み応え充分であり、読者を迷宮に誘い込む魅惑的短編集だと思う。
伝奇集 (岩波文庫) Amazon書評・レビュー: 伝奇集 (岩波文庫)より
4003279212
No.32
(5pt)

世界の真実に切り込むボルヘス流千夜一夜

アルゼンチンを代表する現代作家ボルヘスの17の短編が収められ、彼の代表作といえるバベルの図書館や 円環の廃墟なども含まれています。 表紙の気難しそうなおじさんがボルヘスその人ですが、その顔に負けず作品もかなり気難しく少々とっつきにくい 面があるのも事実です。 ですが、ラテンアメリカ的でありながら古今のあらゆる題材 (哲学、宗教、寓話)を料理する手腕は緻密ですばらしく、 何度も読み返すとその幻想的な世界に引き込まれる事は確実です。 時代の変化に影響されない碩学の力を堪能できる一冊と言えると思います。
ボルヘス「伝奇集」 Amazon書評・レビュー: ボルヘス「伝奇集」より
4828840125
No.31
(5pt)

世界の真実に切り込むボルヘス流千夜一夜

アルゼンチンを代表する現代作家ボルヘスの17の短編が収められ、彼の代表作といえるバベルの図書館や 円環の廃墟なども含まれています。 表紙の気難しそうなおじさんがボルヘスその人ですが、その顔に負けず作品もかなり気難しく少々とっつきにくい 面があるのも事実です。 ですが、ラテンアメリカ的でありながら古今のあらゆる題材 (哲学、宗教、寓話)を料理する手腕は緻密ですばらしく、 何度も読み返すとその幻想的な世界に引き込まれる事は確実です。 時代の変化に影響されない碩学の力を堪能できる一冊と言えると思います。
伝奇集 (岩波文庫) Amazon書評・レビュー: 伝奇集 (岩波文庫)より
4003279212
No.30
(5pt)

破局しているのは確かだが、決して破滅はしない。

モザイクのごとく入り組んだ一冊。圧倒的な想像力と、読者を幻惑させるトリックの数々には舌を巻くばかり。そして、この作品の
底流に流れているのは間違いなく作者ボルヘスの文学・哲学・神学に通じた博識さだろう。
表面上は前衛的・実験的でありながら、諦観の側面では完成してしまっているこの一冊に触れると、文学の持つ無限の可能性、
飽くことのない哲学の追求、宗教の持つ美しさと胡散臭さを突きつけられる想いだ。
「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」での発熱するような知的好奇心、「円環の廃墟」においての絶望的な退廃感の
真偽、「バベルの図書館」で垣間見る有限・無限の解釈、作者自身が作中何度も名を挙げているチェスタトンのユニークで逆説的な
作風をより神秘的に特化した「八岐の園」や「死とコンパス」などの推理興味あふれる作品。
ひねくれた論理が独特な「ユダについての三つの解釈」......兎に角書ききれないが、すべての短篇が、時間と空間を歪曲させるような
奇妙な味を有しています。むしろわざと歪曲させることに一本気な信念で立ち向かっているような感じがしてしまってならないのが
率直な感想ではないか。
また魔術的な文体がそれを加速させる。それも手伝って何度読んでも新しい発見がある事実。それでいて、すでにそれさえ知っていた
ような懐かしさは一体何なのか?

永遠に循環する読み物がここにある。
ボルヘス「伝奇集」 Amazon書評・レビュー: ボルヘス「伝奇集」より
4828840125
No.29
(5pt)

破局しているのは確かだが、決して破滅はしない。

モザイクのごとく入り組んだ一冊。圧倒的な想像力と、読者を幻惑させるトリックの数々には舌を巻くばかり。そして、この作品の
底流に流れているのは間違いなく作者ボルヘスの文学・哲学・神学に通じた博識さだろう。
表面上は前衛的・実験的でありながら、諦観の側面では完成してしまっているこの一冊に触れると、文学の持つ無限の可能性、
飽くことのない哲学の追求、宗教の持つ美しさと胡散臭さを突きつけられる想いだ。
「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」での発熱するような知的好奇心、「円環の廃墟」においての絶望的な退廃感の
真偽、「バベルの図書館」で垣間見る有限・無限の解釈、作者自身が作中何度も名を挙げているチェスタトンのユニークで逆説的な
作風をより神秘的に特化した「八岐の園」や「死とコンパス」などの推理興味あふれる作品。
ひねくれた論理が独特な「ユダについての三つの解釈」......兎に角書ききれないが、すべての短篇が、時間と空間を歪曲させるような
奇妙な味を有しています。むしろわざと歪曲させることに一本気な信念で立ち向かっているような感じがしてしまってならないのが
率直な感想ではないか。
また魔術的な文体がそれを加速させる。それも手伝って何度読んでも新しい発見がある事実。それでいて、すでにそれさえ知っていた
ような懐かしさは一体何なのか?

永遠に循環する読み物がここにある。
伝奇集 (岩波文庫) Amazon書評・レビュー: 伝奇集 (岩波文庫)より
4003279212
No.28
(3pt)

記憶の人・フネス

ボルヘスは難解だ。いや難解と言うより、作品自体の言いたいことがわからないときが多い。これは多分に読み手の無知に由来すると思ってみよう。この『伝記集』もこの20年来、版を変え訳者を変えて何度か読み返しているが、わからないものが少なくない。

本書中、やはり印象に残るのが「記憶の人・フネス」だ。フネスはほとんど世界文学界の象徴的登場人物、ラスコーリニコフやスタヴローギン、バートルビーやエイハブらに匹敵する存在感を示している。これを読むだけでも本書の価値はあろう。フネスは異常なる記憶力を持っているが、それは記憶力を絶対の武器とする『神聖喜劇』の東堂太郎とは異なり、記憶した物事を決して忘れることが出来ないという病的症状をもった人物なのである。「フネスの存在は何を意味するか?」などといった反応はひとまず措いておいたほうがよい。人間とは不可思議なものである。

倫理的・道徳的厳格を求める危ない教条に対しては、文学こそが生きる糧になるということを思い知ることが出来る。そういう(倫理的・道徳的教条を主張する)小説も決して少なくはないが・・・・。そうした事態をも指して『神聖喜劇』の作家は「俗情との結託」と述べたのであろう。
ボルヘス「伝奇集」 Amazon書評・レビュー: ボルヘス「伝奇集」より
4828840125
No.27
(3pt)

記憶の人・フネス

ボルヘスは難解だ。いや難解と言うより、作品自体の言いたいことがわからないときが多い。これは多分に読み手の無知に由来すると思ってみよう。この『伝記集』もこの20年来、版を変え訳者を変えて何度か読み返しているが、わからないものが少なくない。

本書中、やはり印象に残るのが「記憶の人・フネス」だ。フネスはほとんど世界文学界の象徴的登場人物、ラスコーリニコフやスタヴローギン、バートルビーやエイハブらに匹敵する存在感を示している。これを読むだけでも本書の価値はあろう。フネスは異常なる記憶力を持っているが、それは記憶力を絶対の武器とする『神聖喜劇』の東堂太郎とは異なり、記憶した物事を決して忘れることが出来ないという病的症状をもった人物なのである。「フネスの存在は何を意味するか?」などといった反応はひとまず措いておいたほうがよい。人間とは不可思議なものである。

倫理的・道徳的厳格を求める危ない教条に対しては、文学こそが生きる糧になるということを思い知ることが出来る。そういう(倫理的・道徳的教条を主張する)小説も決して少なくはないが・・・・。そうした事態をも指して『神聖喜劇』の作家は「俗情との結託」と述べたのであろう。
伝奇集 (岩波文庫) Amazon書評・レビュー: 伝奇集 (岩波文庫)より
4003279212
No.26
(4pt)

膨大な書物の館の、短い物語。

'@神秘主義者たちの描く宇宙のかたち。
'A危機に直面する人々の脳裏にひらめく人生訓。

ボルヘスの文章には、'@と'Aが端から端まで敷き詰められています。これらが軽く流せる人でないと、この人の文章の本意を汲むことは難しいでしょう。
「作家のための作家」と呼ばれた所以です。

彼の書く、感傷にひたる暇もない簡潔な文体はチェスタトン的で、読むのに少々骨が折れます。彼の描く世界は広大無辺でありながら、自壊する運命をも内包しており、実に複雑なのですが、ボルヘスは物語の骨子を「膨大な知識の独り語り」によって表現し、様々な世界をほんの10-20頁で語り終えてしまいます。短編一篇一篇が、伝奇SF一冊に相当する密度の濃さです。
――――――――――――――――――――――――
想像から人間を創り出し、消滅するまでの過程を描く「円環の廃墟」
イスカリオテのユダの行為についての論考群「ユダについての三つの解釈」
ほとんど要約のようで在るために、形而上の部分に比重が傾く推理小説「死とコンパス」
ひとつの言葉に対する仮定から広がる解釈が、現実世界と相反し合うまでを描く「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」
アカシックレコードのような「無限に続く図書館」の言語の混乱を描く「バベルの図書館」
などを含む、全十七篇。
――――――――――――――――――――――――
下に示したボルヘスの宣言文から、彼の小説作法が簡単に理解できると思います。いきなり核心に迫る外国語の新語句が現れるところや、全体を'まないと意味が分からないところ、そして、全体が'めた瞬間になるほどと思えるところが。

「二つの美学が存在する。鏡の受動的な美学と、プリズムの能動的な美学。前者に導かれて芸術は、環境もしくは個人の精神史の客観的な模写となる。後者に導かれて芸術は、自らを救い、世界をその道具とし、空間と時間という牢獄から遠く隔たったところで、独自のヴィジョンを創出する。これが<ウルトラ>の美学である。その意思は創造にある。宇宙に思いもよらぬ切子面を刻むことにある」
ボルヘス「伝奇集」 Amazon書評・レビュー: ボルヘス「伝奇集」より
4828840125
No.25
(4pt)

膨大な書物の館の、短い物語。

'@神秘主義者たちの描く宇宙のかたち。
'A危機に直面する人々の脳裏にひらめく人生訓。

ボルヘスの文章には、'@と'Aが端から端まで敷き詰められています。これらが軽く流せる人でないと、この人の文章の本意を汲むことは難しいでしょう。
「作家のための作家」と呼ばれた所以です。

彼の書く、感傷にひたる暇もない簡潔な文体はチェスタトン的で、読むのに少々骨が折れます。彼の描く世界は広大無辺でありながら、自壊する運命をも内包しており、実に複雑なのですが、ボルヘスは物語の骨子を「膨大な知識の独り語り」によって表現し、様々な世界をほんの10-20頁で語り終えてしまいます。短編一篇一篇が、伝奇SF一冊に相当する密度の濃さです。
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想像から人間を創り出し、消滅するまでの過程を描く「円環の廃墟」
イスカリオテのユダの行為についての論考群「ユダについての三つの解釈」
ほとんど要約のようで在るために、形而上の部分に比重が傾く推理小説「死とコンパス」
ひとつの言葉に対する仮定から広がる解釈が、現実世界と相反し合うまでを描く「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」
アカシックレコードのような「無限に続く図書館」の言語の混乱を描く「バベルの図書館」
などを含む、全十七篇。
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下に示したボルヘスの宣言文から、彼の小説作法が簡単に理解できると思います。いきなり核心に迫る外国語の新語句が現れるところや、全体を'まないと意味が分からないところ、そして、全体が'めた瞬間になるほどと思えるところが。

「二つの美学が存在する。鏡の受動的な美学と、プリズムの能動的な美学。前者に導かれて芸術は、環境もしくは個人の精神史の客観的な模写となる。後者に導かれて芸術は、自らを救い、世界をその道具とし、空間と時間という牢獄から遠く隔たったところで、独自のヴィジョンを創出する。これが<ウルトラ>の美学である。その意思は創造にある。宇宙に思いもよらぬ切子面を刻むことにある」
伝奇集 (岩波文庫) Amazon書評・レビュー: 伝奇集 (岩波文庫)より
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