わたしを離さないで

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評判

わたしを離さないでの評価:

4.11/5点 レビュー 714件。 B ランク

Amazon書評・レビュー点数毎のグラフです

平均点4.11pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全1,119件 1,021〜1,040 52/56ページ
No.99
(5pt)

「残酷な運命」は普遍的に

残酷な運命に翻弄された若者たちの一生から描き出されるものは、広い普遍性をもっている。

大人になる過程の瑣末なできごといちいちに共感しつつ読み進めると、うすうす気づきはじめていた運命に直面する。
多くの人はアメリカには行けるにしても、映画スターにはなれない。
ある程度決められた運命のなかで生をまっとうするのは共通である。

介護人や提供者という役目を担う登場人物たち。
わたしたちはみな、いろんな意味で介護人であったり提供者であったりするのではないだろうか。

わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.98
(5pt)

楽しむために!

この作品を紹介するのには恐らく予備知識無しの状態が一番楽しめると思います。なにしろ分からない事が段々と、しかもゆっくりと時間をかけて理解してゆく事を楽しむ小説だからです。

私の場合は必ず裏表紙の内容説明や帯の推薦を読んでから買うかを決めるのですが、この作品にはそれすら無い方が良かったです!

もちろん世界観も登場人物もそして物語も、どれも満足のいく水準ですけど、じわじわと理解してゆく事の快楽をぜひ体験してみてはいかがでしょうか。きっとヘ−ルシャムに私たちの幼少時代の何かをあなたも垣間見ます、ずっと忘れていたけどまだ思い出せる何かを。

そして最後は涙の流れない悲しみがあなたを待ってます。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.97
(5pt)

楽しむために!

この作品を紹介するのには恐らく予備知識無しの状態が一番楽しめると思います。なにしろ分からない事が段々と、しかもゆっくりと時間をかけて理解してゆく事を楽しむ小説だからです。

私の場合は必ず裏表紙の内容説明や帯の推薦を読んでから買うかを決めるのですが、この作品にはそれすら無い方が良かったです!

もちろん世界観も登場人物もそして物語も、どれも満足のいく水準ですけど、じわじわと理解してゆく事の快楽をぜひ体験してみてはいかがでしょうか。きっとヘ−ルシャムに私たちの幼少時代の何かをあなたも垣間見ます、ずっと忘れていたけどまだ思い出せる何かを。

そして最後は涙の流れない悲しみがあなたを待ってます。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.96
(5pt)

リアルなフィクション

驚く程、登場人物の感情の抑揚が押さえられ、淡々と描かれている。
物語は「わたし」の目を通して語られるが、読者は途中で、背景の現実に気付く。
感の良い方なら、かなり早い段階で、気付いてしまうだろうと思う。

「わたし」やトミーは、既に、読者が気付いている現実を追う。
そして、徐々に驚くべき事の断片をつかんでゆくが、意外な事に、登場人物の感情は、ほとんど揺れない。
ある意味きわめて従順だ、とも言える。

私なら、トミーと手に手を取り合って、どこか遠くへ逃げてしまいたいところだ。
そういう事を防ぐのが、この教育の目的の一つなのか?

むろん物語はフィクションであるが、技術的には不可能ではない。
倫理的には許されないが、金と権力を持っている、よこしまな人間が、こんな事を行わないとも限らない。
特に、世界的レベルでは、行われている可能性もあるのではないか、と、要らぬ危惧を抱く。

介護者としての「わたし」はどんな心境だっただろう?
最終ページは、特にやりきれない。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.95
(5pt)

リアルなフィクション

驚く程、登場人物の感情の抑揚が押さえられ、淡々と描かれている。
物語は「わたし」の目を通して語られるが、読者は途中で、背景の現実に気付く。
感の良い方なら、かなり早い段階で、気付いてしまうだろうと思う。

「わたし」やトミーは、既に、読者が気付いている現実を追う。
そして、徐々に驚くべき事の断片をつかんでゆくが、意外な事に、登場人物の感情は、ほとんど揺れない。
ある意味きわめて従順だ、とも言える。

私なら、トミーと手に手を取り合って、どこか遠くへ逃げてしまいたいところだ。
そういう事を防ぐのが、この教育の目的の一つなのか?

むろん物語はフィクションであるが、技術的には不可能ではない。
倫理的には許されないが、金と権力を持っている、よこしまな人間が、こんな事を行わないとも限らない。
特に、世界的レベルでは、行われている可能性もあるのではないか、と、要らぬ危惧を抱く。

介護者としての「わたし」はどんな心境だっただろう?
最終ページは、特にやりきれない。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.94
(5pt)

現実の受容

世界というのは、5%の「死をも惜しまずに理想のためにまい進する人」と、10%のアメリカンドリーム体現者と、そして85%の「現実を、いや運命を享受する人」に分かれるのではないだろうか。

人間は最初から非常に不平等で不公平に生まれつく。死は誰にも訪れるが、そこにいたるまでの人生の大部分は自分がいまいる環境によってでしか選択することはしない。

作中の「彼ら(キャシーたち)」は生まれながら運命が決まっている。それに対して彼らはあくまでも従順にそれを享受し、変化、変貌の期待を薄くもちながらも、不可能であっても打開しようとはしない。介護者として、そしてその後は提供者として自分が歩む道を決して逸脱しようとはしない。

当初、読みながら「なぜ逃げ出さない?」と私は何度も思った。

ただ・・状況はちがっても、われわれだって生まれた環境から脱するのは簡単なことではない。たいていの人は望みながらも、ちょっとの変化を起こすことで自らを納得させる。
人間とは、普通の人々とはそういうものなのだ。

現実にはありえないSF的要素がありながら、彼らの悲劇的生き様に「運命の許容と受容」について中年になった自分とオーバーラップさせずにはいられなかった。

読んだのは昨年だが、今でも折を見て読み返してしまう名作だと思う。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.93
(5pt)

現実の受容

世界というのは、5%の「死をも惜しまずに理想のためにまい進する人」と、10%のアメリカンドリーム体現者と、そして85%の「現実を、いや運命を享受する人」に分かれるのではないだろうか。

人間は最初から非常に不平等で不公平に生まれつく。死は誰にも訪れるが、そこにいたるまでの人生の大部分は自分がいまいる環境によってでしか選択することはしない。

作中の「彼ら(キャシーたち)」は生まれながら運命が決まっている。それに対して彼らはあくまでも従順にそれを享受し、変化、変貌の期待を薄くもちながらも、不可能であっても打開しようとはしない。介護者として、そしてその後は提供者として自分が歩む道を決して逸脱しようとはしない。

当初、読みながら「なぜ逃げ出さない?」と私は何度も思った。

ただ・・状況はちがっても、われわれだって生まれた環境から脱するのは簡単なことではない。たいていの人は望みながらも、ちょっとの変化を起こすことで自らを納得させる。
人間とは、普通の人々とはそういうものなのだ。

現実にはありえないSF的要素がありながら、彼らの悲劇的生き様に「運命の許容と受容」について中年になった自分とオーバーラップさせずにはいられなかった。

読んだのは昨年だが、今でも折を見て読み返してしまう名作だと思う。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.92
(5pt)

抑えた表現の素晴らしさ

読み終わるのが勿体無いような、何時までも浸っていたくなるような、抑圧の効いた、最初から最後までまったく世界観がぶれない文体に脱帽です。この作品を読んでみて、昨今の日本の小説家の表現があまりにも直接的で強いかに気づかされました。淡々と、抑えた表現の中に誠実に書き綴られていく人間関係の厄介さ、成長していくことの辛さ、そして、抗えない運命の残酷さ。小説の王道をいくテーマと、現代(もしくは近未来)が抱えるテーマが見事に共存した傑作です。久しぶりに小説らしい小説に出会えました。そして、柴田元幸氏氏の解説がまた、短いながらも大変素晴らしいです。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.91
(5pt)

抑えた表現の素晴らしさ

読み終わるのが勿体無いような、何時までも浸っていたくなるような、抑圧の効いた、最初から最後までまったく世界観がぶれない文体に脱帽です。この作品を読んでみて、昨今の日本の小説家の表現があまりにも直接的で強いかに気づかされました。淡々と、抑えた表現の中に誠実に書き綴られていく人間関係の厄介さ、成長していくことの辛さ、そして、抗えない運命の残酷さ。小説の王道をいくテーマと、現代(もしくは近未来)が抱えるテーマが見事に共存した傑作です。久しぶりに小説らしい小説に出会えました。そして、柴田元幸氏氏の解説がまた、短いながらも大変素晴らしいです。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.90
(5pt)

この物語に出会えたことに感謝

よくある小中学校学園物として、物語は始まる。誠実に、丹念に、物語はつむがれる。だが、「提供」という不可思議な(しかしある予感を持たせる)概念が、次第に物語りに影を落とす。やがて、「ポシプル」という言葉が、予感めいた影に実態を与える。そして、とうとう「クローン」という、身もふたもない設定が明らかになる。
 でも、物語は急がない。ヘールシャムの提供者ジュニアたちが、自然に認識していく速度にあわせて、描写されていく。作者の素晴らしい計算。心憎いまでの抑制。イシグロの並々ならぬ力量を感じる。
 ルースは、よくいる女王様タイプのコンパ主役。いじめられっ子だったトミーも、生々しいキャラクター。だから、この物語の世界は、もうすでに主題を語っている。彼らは、腎臓や肝臓や心臓や網膜の単なる集合体ではない。数ページ読んだだけで、それは明らかだ。
 理屈ではない。この世界に理屈を言っても仕方ない。この世界はそこに存在する。私達は、今や苦役を終えて「提供者」となっていくキャシーに、ただ涙を流すだけだ。
 土屋政雄氏の邦訳はすばらしい。そもそも日本語で書かれたのではないかと思うような自然な語り口に仕上がっている。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.89
(5pt)

この物語に出会えたことに感謝

よくある小中学校学園物として、物語は始まる。誠実に、丹念に、物語はつむがれる。だが、「提供」という不可思議な(しかしある予感を持たせる)概念が、次第に物語りに影を落とす。やがて、「ポシプル」という言葉が、予感めいた影に実態を与える。そして、とうとう「クローン」という、身もふたもない設定が明らかになる。
 でも、物語は急がない。ヘールシャムの提供者ジュニアたちが、自然に認識していく速度にあわせて、描写されていく。作者の素晴らしい計算。心憎いまでの抑制。イシグロの並々ならぬ力量を感じる。
 ルースは、よくいる女王様タイプのコンパ主役。いじめられっ子だったトミーも、生々しいキャラクター。だから、この物語の世界は、もうすでに主題を語っている。彼らは、腎臓や肝臓や心臓や網膜の単なる集合体ではない。数ページ読んだだけで、それは明らかだ。
 理屈ではない。この世界に理屈を言っても仕方ない。この世界はそこに存在する。私達は、今や苦役を終えて「提供者」となっていくキャシーに、ただ涙を流すだけだ。
 土屋政雄氏の邦訳はすばらしい。そもそも日本語で書かれたのではないかと思うような自然な語り口に仕上がっている。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.88
(5pt)

現代科学文明への批判ではなく、生きることに真摯であるかどうかを問いかける小説として読

1990年代末の英国。「介護人」を務める31歳のキャシーは、ヘールシャムで過ごした青春時代を思い返す。特に仲がよかったルースとトミーの二人の友。彼女たち3人をはじめとする子供たちは「提供者」として生きるよう定められていた…。

 「わたしを離さないで」の描写にはけれんみは一切なく、主人公たちは抗うこともなく自らの過酷な運命を静かに受け入れているかに見えます。SF的な設定をもつこの小説を遺伝子工学など医療技術が進んだ現代社会への警鐘と捉えようとする読者もいるかもしれませんが、ならばこそキャシーたちの意外なほどの無抵抗ぶりには得心がいかない思いが募るのではないでしょうか。

 キャシーたちのような「短命族」(と私はあえて呼びますが)と、彼らの犠牲のもとに生きる「長命族」(これもイシグロの言葉ではありません)とが対比された物語の中で私が強く感じるのは、命の優劣はその長短にはない、という至極当然のことです。

 その長短にかかわらず、命はいつかついえるものです。いかに短くとも充実した命を全うすることができるのであれば、その命はいたずらに長い人生より価値がある。だからこそイシグロは抑制した文章で、キャシーやトミーたちに平凡な人生経験---ほろ苦い三角関係や激しく豊かなセックス---を与え、終わりの日に向けて彼らなりに濃密な人生を歩ませようとする、そう私には思えるのです。

 鬱々とした老年の日々を送っているかにみえる「長命族」よりも、彼らのために生きることをアプリオリに決められた「短命族」のキャシーたちにこそ、輝く日々がある。その哀しいまでに美しい人生の果てが、文字通り最後の1ページに込められていて、この場面は幾度読み返しても倦むことがありません。

 SF的設定はあくまで書割にすぎません。この小説の眼目は、私たちが人生を深めようと日々どこまで努力しているか、それを問いただすことにあるのです。


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.87
(5pt)

現代科学文明への批判ではなく、生きることに真摯であるかどうかを問いかける小説として読

1990年代末の英国。「介護人」を務める31歳のキャシーは、ヘールシャムで過ごした青春時代を思い返す。特に仲がよかったルースとトミーの二人の友。彼女たち3人をはじめとする子供たちは「提供者」として生きるよう定められていた…。

 「わたしを離さないで」の描写にはけれんみは一切なく、主人公たちは抗うこともなく自らの過酷な運命を静かに受け入れているかに見えます。SF的な設定をもつこの小説を遺伝子工学など医療技術が進んだ現代社会への警鐘と捉えようとする読者もいるかもしれませんが、ならばこそキャシーたちの意外なほどの無抵抗ぶりには得心がいかない思いが募るのではないでしょうか。

 キャシーたちのような「短命族」(と私はあえて呼びますが)と、彼らの犠牲のもとに生きる「長命族」(これもイシグロの言葉ではありません)とが対比された物語の中で私が強く感じるのは、命の優劣はその長短にはない、という至極当然のことです。

 その長短にかかわらず、命はいつかついえるものです。いかに短くとも充実した命を全うすることができるのであれば、その命はいたずらに長い人生より価値がある。だからこそイシグロは抑制した文章で、キャシーやトミーたちに平凡な人生経験---ほろ苦い三角関係や激しく豊かなセックス---を与え、終わりの日に向けて彼らなりに濃密な人生を歩ませようとする、そう私には思えるのです。

 鬱々とした老年の日々を送っているかにみえる「長命族」よりも、彼らのために生きることをアプリオリに決められた「短命族」のキャシーたちにこそ、輝く日々がある。その哀しいまでに美しい人生の果てが、文字通り最後の1ページに込められていて、この場面は幾度読み返しても倦むことがありません。

 SF的設定はあくまで書割にすぎません。この小説の眼目は、私たちが人生を深めようと日々どこまで努力しているか、それを問いただすことにあるのです。


わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.86
(5pt)

主人公の視点の背景を考えさせられる

小説の中盤で明かされる秘密自体は、そんなにショッキングなものではありません。他の人も言ってますが、粗筋や書評を見て「そうかも」と予想していたネタでした(20年以上前にコバルト文庫で読んだ新井素子さんの小説でも、同じネタを扱っていたのを思い出しました)。
 だから、そういうSF的味わいは2次的なものです。(ただ、この世界はカセットテープとかウォークマンとかとても古臭いものに満ちていて、下手すると80年代の英国では、と思わされます)。感じるべきは主人公キャシーの少女らしい瑞々しい感性や、得られたかもしれない大切なものをほんの少しの選択ミスから失ってしまうこと、それはもう取り戻せないと思い知ること、そんな喪失感、はかなさでしょう。非常に繊細な文章で描かれていて、傑作だと思います。
 ただ、実際的な話としては不思議に思います。主人公達は普通に会話し、車の運転をし、そして、外観も街で一般人に埋没できるもののようです。なのに、何故、自分達の運命に抗おうとしないのでしょう。教育のせいだけとは思えない。
 主人公の視点から語られるのでわからないのですが、やはり彼・彼女は知能その他で実は異なっていたのでしょうか。ヘールシャムで力が入れられていたのは詩・美術などの芸術分野です。わたしはエイブル・アートという言葉を思い出しました。この本の翻訳はとても美しい日本語ですが、もしかしたら、使われている熟語などは、英語だと、もっと平易な言葉なのではないでしょうか。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.85
(5pt)

主人公の視点の背景を考えさせられる

小説の中盤で明かされる秘密自体は、そんなにショッキングなものではありません。他の人も言ってますが、粗筋や書評を見て「そうかも」と予想していたネタでした(20年以上前にコバルト文庫で読んだ新井素子さんの小説でも、同じネタを扱っていたのを思い出しました)。
 だから、そういうSF的味わいは2次的なものです。(ただ、この世界はカセットテープとかウォークマンとかとても古臭いものに満ちていて、下手すると80年代の英国では、と思わされます)。感じるべきは主人公キャシーの少女らしい瑞々しい感性や、得られたかもしれない大切なものをほんの少しの選択ミスから失ってしまうこと、それはもう取り戻せないと思い知ること、そんな喪失感、はかなさでしょう。非常に繊細な文章で描かれていて、傑作だと思います。
 ただ、実際的な話としては不思議に思います。主人公達は普通に会話し、車の運転をし、そして、外観も街で一般人に埋没できるもののようです。なのに、何故、自分達の運命に抗おうとしないのでしょう。教育のせいだけとは思えない。
 主人公の視点から語られるのでわからないのですが、やはり彼・彼女は知能その他で実は異なっていたのでしょうか。ヘールシャムで力が入れられていたのは詩・美術などの芸術分野です。わたしはエイブル・アートという言葉を思い出しました。この本の翻訳はとても美しい日本語ですが、もしかしたら、使われている熟語などは、英語だと、もっと平易な言葉なのではないでしょうか。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.84
(5pt)

無慈悲で、残酷な世界

「日の名残り」と同じ作家が書いたとは思えない作品でした。押さえられた、抑制の効いた文体で、完璧なストーリー構成でした。個人的には、ブッカー賞を受賞した「日の名残り」より、こちらの作品の方が良かったと思います。

人格を認めらず、物体としてしか扱われないクローンたちが、その事実を再認識した時、何を考えたのでしょうか。キャスとトミーの別れのシーンは、淡々と書かれているがために、一層胸にくるものがあります。
科学技術が進歩し臓器移植の技術は進んでも、その提供者がいなければ何にもなりません。毎日の新聞でも、その不足ぶりや、トラブルが盛んに報じられます。それを考えると、この物語は、フィクションとばかりは言えない空恐ろしさを持って、迫ってきます。

マダムは言います。「科学が発達して、効率もいい。古い病気に新しい治療法が見つかる。すばらしい。でも、無慈悲で、残酷な世界でもある。そこにこの少女がいた。・・・心の中では消えつつある世界だとわかっているのに、それを抱き締めて、離さないで、離さないでと懇願している。」
この言葉が、この小説のすべてを語っているように思います。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.83
(5pt)

人は生きる、それぞれの「自分勝手な解釈」で

SF的な形式をとりながら、人間のエゴイズムについて掘りさげた小説だなあと、私は思いました。『日の名残り』にも共通する、知り合いの思い出話を聞くような文章で、すんなり読み進んでいけますが、数ページでその異常さに気づき、それは章がひとつ進むごとに増していきます。「人間」でありながら人間ではないキャシーHたちと一緒に、彼らを生み出した「人間」の善良さに期待していくと・・。人間の善良さとはいったい何なのか。実は私たちも形を変えた「提供者」ではないのか。読み終わったあとも、読者にいろいろ考えさせる力を持った作品です。実は私も読み終わった夜、心がざわざわして、よく眠れませんでした。カズオ・イシグロの作品のなかでも、最も読みやすく、また、翻訳の土屋政雄さんの日本語が、私はとても好きでした。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517
No.82
(5pt)

無慈悲で、残酷な世界

「日の名残り」と同じ作家が書いたとは思えない作品でした。押さえられた、抑制の効いた文体で、完璧なストーリー構成でした。個人的には、ブッカー賞を受賞した「日の名残り」より、こちらの作品の方が良かったと思います。

人格を認めらず、物体としてしか扱われないクローンたちが、その事実を再認識した時、何を考えたのでしょうか。キャスとトミーの別れのシーンは、淡々と書かれているがために、一層胸にくるものがあります。
科学技術が進歩し臓器移植の技術は進んでも、その提供者がいなければ何にもなりません。毎日の新聞でも、その不足ぶりや、トラブルが盛んに報じられます。それを考えると、この物語は、フィクションとばかりは言えない空恐ろしさを持って、迫ってきます。

マダムは言います。「科学が発達して、効率もいい。古い病気に新しい治療法が見つかる。すばらしい。でも、無慈悲で、残酷な世界でもある。そこにこの少女がいた。・・・心の中では消えつつある世界だとわかっているのに、それを抱き締めて、離さないで、離さないでと懇願している。」
この言葉が、この小説のすべてを語っているように思います。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.81
(5pt)

人は生きる、それぞれの「自分勝手な解釈」で

SF的な形式をとりながら、人間のエゴイズムについて掘りさげた小説だなあと、私は思いました。『日の名残り』にも共通する、知り合いの思い出話を聞くような文章で、すんなり読み進んでいけますが、数ページでその異常さに気づき、それは章がひとつ進むごとに増していきます。「人間」でありながら人間ではないキャシーHたちと一緒に、彼らを生み出した「人間」の善良さに期待していくと・・。人間の善良さとはいったい何なのか。実は私たちも形を変えた「提供者」ではないのか。読み終わったあとも、読者にいろいろ考えさせる力を持った作品です。実は私も読み終わった夜、心がざわざわして、よく眠れませんでした。カズオ・イシグロの作品のなかでも、最も読みやすく、また、翻訳の土屋政雄さんの日本語が、私はとても好きでした。
わたしを離さないで Amazon書評・レビュー: わたしを離さないでより
4152087196
No.80
(4pt)

心が痛くて腫れ上がってる感じ・・

この本を読んだ夜、一睡もできなかった。トミーが最後にキャッシーに手をふった光景に脳みそが振り回されて心が痛くて腫れ上がってしまった感じだ。人としての尊厳を(だけは)与えられず最後は物を与える「物体」として葬られていく過酷な運命をすみやかに受け入れるために仕組まれた(?)ヘールシャムでの教育。いじめられっこだったトミーを救ったありのままでいいと教えたルーシー先生の言葉。そのトミーが自分の無残な最期を最愛の人に見せたくないためにとった態度、プライドと思いやりは人としてこそのものだし、崇高ささえ感じられる。彼らのような存在は決して作り出してはならない。科学の進歩が生み出す酷さ・・少しでも現実になる可能性があるのなら、それを打ち砕く警鐘となる一作になってほしい、ならなければいけないと思う。思わずのめりこんでしまった秀作である。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)より
4151200517