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きみの血を



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きみの血をの評価: 4.33/5点 レビュー 9件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.33pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全9件 1~9 1/1ページ
No.9:
(5pt)

やがて見えてくる主人公の姿に衝撃を受ける、手ごわい怪異譚

在日米軍基地で兵士のジョージ・スミスは郵送しようとした書簡の文面を質された途端に異常行動をとり始める。ジョージは上官を殴りつけた結果、本国アメリカへ送還されて精神科医のフィリップ・アウターブリッジ軍曹の診断を受けることになる。果たしてジョージが出そうとした手紙には何が書かれていたのか…。
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 この小説はアウターブリッジ医師と、彼にジョージの診断を命じたアル・ウィリアムズ大佐の間に交わされる往復書簡、そしてジョージ自身の手記を中心に構成されています。
 シオドア・スタージョンといえば、ここ10年ほど『不思議のひと触れ』などの新訳などが出て日本でも再び注目を浴びるようになったSF作家、幻想作家です。ですが、この『きみの血を』は、古なじみであることをうかがわせる医師と大佐の手紙のやりとりを読んでいても、どこがSFなのか、なにが怪異譚なのか、そもそもお話は一体どこへ向かっていくのか、なかなか判然としません。そうこうするうちにジョージ自身の不幸きわまりない生い立ちが綴られはじめ、両親の死や叔母夫婦に引き取られた幼少期などは同情に値するとは思うものの、これまた何がこの物語の要諦であるかが不透明なままです。

 むしろこの語り手たちが――物語の開巻部で「これは作り話(フィクション)」だと声高らかに宣言していたとはいえ――<騙り手>でなのではないかという疑念が読み手の私の中に徐々に湧き上がってくるのが分かります。<フィクション>を前にして読者が当然持ち合わせるべき心構えを根底から否定されるような不思議な気分に襲われます。

 そして終盤、ジョージがしたためた問題の手紙の文面が明らかにされるのですが、その内容自体はさして読者に驚きを与えないでしょう。むしろジョージが年上の逢引相手であるアンナとの間でどのような行為に及んでいたのかが、それとなく示唆されるくだりに至って、そのおぞましさに衝撃を覚えるはずです。その行為はこの小説のなかでは明確には書かれていません。そのことをアンナから聞き取ったルーシー・クイッグリー譲の報告書簡に暗に示されるだけ――「この行為は二十八日の周期でもたれます。ジョージはきっと、動物的な嗅覚によってそれを嗅ぎあてたのでしょう。」(217頁)――ですから、このくだりを読み逃すと物語の核心を取りこぼすことになります。

 この小説がアメリカ本国で発表されたのは1961年です。当時このジョージの行為-―念のために言うと、吸血行為ではありません――を法的に厳しく罰していた州は多かったはずです。今もってこれを禁じている州がわずかに残っているとも聞いています。そうした法律のない日本でもその行為は異常なものとみなされるでしょうが、禁断の行為だからこそ、それはどことなくタナトスと背中合わせであるがゆえの甘美なエロスを感じさせる要素があるのかもしれません。<異常>が与えてくれる甘美を描くこの小説は確かに異様ではあるけれども、実は<生>を賛美する、すぐれた寓話なのではないかという気がしてきます。なかなか手ごわい怪異譚です。

 最後に、翻訳について付記しておきたいことがあります。
 頁を繰り始めてすぐ、この翻訳が異常ともいえるほどに読みやすい、流れるような和文で綴られていることに気づきました。翻訳者の山本光伸氏の名にはお目にかかった記憶がありませんでしたが、検索してみたところ、独自の翻訳学校を設立されたベテラン翻訳者だと知りました。同氏には『誤訳も芸のうち―文芸翻訳は一生の仕事足りうるか』と『R・チャンドラーの『長いお別れ』をいかに楽しむか―清水俊二vs村上春樹vs山本光伸』という翻訳論(ともに柏艪舎刊)に関する著作があるそうで、機会があればぜひ手にとってみたいと思いました。
きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)Amazon書評・レビュー:きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)より
4150011478
No.8:
(4pt)
【ネタバレあり!?】 (1件の連絡あり)[]  ネタバレを表示する

真相はグロいが、ウマいなぁスタージョン。

あまりにも特殊な吸血鬼物ですね、これは。まず構成から変わっていて、ラストの真相が明かされるところまで吸血鬼も登場しなければ、それらしい場面も出てこない。事件を探る軍医と陸軍大佐との往復書簡や、渦中の人物による手記などが綴られていくのですが、とりたてて何も起こらないんです。しかし、何かある。どこかおかしい。裏に何か大きなものが隠れている。真相がどうなのか早く知りたい。しかし読ませますねえ。めっぽう読ませる。そしてラストの1対1の診断場面。いやあ、こういう事だったのかあ。なんかスゴイよ、この小説。薄い本で、大きな山場もなく、派手な装飾もない。しかし、なんだこの迫力は。すべての謎が氷解して、ようやく見えてくる手記の真相。けっこうグロいことになってんじゃん。これ、生理的にうけつけない人も多いんじゃないでしょうか。でも、それが生々しく描写されずに読者の想像に委ねてあるところが、この本のミソなんですね。う~ん、ウマいなあスタージョン。
きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)Amazon書評・レビュー:きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)より
4150011478
No.7:
(3pt)

流血の理由

実は、他のスタージョンの短編集を途中で投げ出してしまった前科
を持つ私ですが、本作は普通に楽しめた気がします。
私にとって本作は、ジョージの行動-コップを握り潰して自らの血
をすするに至った謎の真相にせまるミステリーとして読めました。
彼は本当にヴァンパイアなのか、それとも精神を病んでいるのか、彼の著した(達者でありながらどこか不完全な)回想録と、軍医に
よる心理テストによって徐々に明らかにされていきます。
ピュアな物語であると同時にダーク。ホラーでありミステリー。
独特の雰囲気が印象に残る作品です。
きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)Amazon書評・レビュー:きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)より
4150011478
No.6:
(5pt)

すっげぇクール! です。

いやあもう、困るね、こういう洗練された作品読んじゃうと。困る困る。めっぽう面白くて、なおかつ、その面白さを他人に伝えようとするとネタバレになってしまう、というのも困る一因なのだが、それ以上に、この作品が非常にユニークな存在であり、作品の存在自体が、ジャンルとかカテゴライズとかをキャンセルしまくっているから、非常に説明がしづらい、というのもある。
 このあたりの老練さは、流石にスタージョンってところですか。 サイコ・ホラー? まあ、その要素もあるけど。
 吸血鬼物? 間違いではないはな。
 ミステリ? 謎解きは、あります。
 入り組んだ構成の現代小説? そういう側面もある。 そして、そのどれとも微妙に違う、という感触もあるんだよなあ。 ページ数の半分以上を占める、「ジョージ・スミスの回想録」は、一見地味で起伏がない半生記のように読めるんだけど、前後の挿入される「精神科医」と「大佐」の書簡とかから、なぜその「回想録」が書かれることになったのか、実際に書いているの人は誰なのか、その「回想録」にある「欠落」とはなにか? とかいった情報が行間にじわじわと沁みてきて、「ジョージ・スミス」という人間のそれまで見えなかった「実像」が徐々に明らかにされていく様子とか、このあたりの「暗示/明示」の匙加減といったら、もう、「メチャ巧!」の一言に尽きる。
きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)Amazon書評・レビュー:きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)より
4150011478
No.5:
(4pt)

ラスト1行のためにある作品

軍の兵士が恋人に出した手紙が検閲にひっかかり、
彼は医師のカウンセリングを受けることになる・・・・彼の不思議な生い立ちが不思議に思えない。
スタージョンの書き方が見事。
ラストは不思議で奇妙で印象深い。
きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)Amazon書評・レビュー:きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)より
4150011478
No.4:
(3pt)

献血しよう!

ヴァンパイアものでも、ホラーでも、サイコサスペンスでも、変態小説でもないです。
ゆるーい小説です。往復書簡の形式がどうも読みにくいのかな。
確かに奇妙な読後感は残りますが。
きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)Amazon書評・レビュー:きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)より
4150011478
No.3:
(5pt)

解きあかされなかった、いくつかの謎について

ジョージ・スミスの森での行動を読んでいて、わくわくしながらある本のことを思い出した。その本とは、去年、臨床例部分の邦訳が出たクラフト・エービングの「変態性欲の心理」だ。サディズムに分類される変態たちは、森の中で少女や少年や女たちを、次々に襲って、体を引き裂き、内臓や血をむさぼり、精液を迸らせる。しかし、その変態たちとジョージ・スミスの行動は、似ているようで何かが違う。そして、やはり、本の中の精神科医もエービングとジョージ・スミスの関連性と相違性に思考をめぐらせていたことがはっきりしたとき、ジョージ・スミスの行動の謎解きが一気に行われていく。ただし、謎解きの行われていない謎もいくつか存在している。また、たぶん、最後のほうのいわばフロイト流の解釈は!、スタージョンのサービスあるいは冗談であるはずだ。スタージョンは、エービングが「フロイトとは無縁」とはっきり書いているではないか。
それはいったい、なんなのか? それは、この本を読んだ人が自分で解釈するしかないのだろう。ヴァンパイアとは何か? 「わかってもらえない」「みんなとは違う」--それだけではフリークスと変わりはない。「ヴァンパイアにとっての血とは何か?」に対する答えが必要なのだ。そう。この本を読む楽しみは、それがなんなのかを、自分で探すことなのだ。
きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)Amazon書評・レビュー:きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)より
4150011478
No.2:
(5pt)

一見普通の小説、だかしかし...。ジャンルミックス・ミステリの古典的名作

スタージョンは今では古典といって過言ではない『人間以上』『夢見る宝石』の作品で知られるSF・ファンタジー作家です。しかし、本書はこれら作品とは一味違ったものになっています。本書は風間健二氏による文庫版解説にあるように、一読しただけでは退屈な普通の小説のようですが、実はニュータイプ・バンパイアものであり、『信頼できない語り手』によるミステリでもあります本書の核心は一見すると退屈なジョージ・スミスの独白にあるのですが、ここにすべての複線が巧妙に仕組まれています。問題の手紙の内容も、ジョージ・スミスの「倒錯したセメ?!??ス」の内容も最後になるまで明らかにされません。この意味で、きわめて質の高いミステリに仕上がっており、ジャンルミックス・ミステリや「信頼できない語り手」による叙述ミステリに興味のある方にはお勧めの一品です。
きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)Amazon書評・レビュー:きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)より
4150011478
No.1:
(5pt)

一見普通の小説、だかしかし...。ジャンルミックス・ミステリの古典的名作

スタージョンは今では古典といって過言ではない『人間以上』『夢見る宝石』の作品で知られるSF・ファンタジー作家です。しかし、本書はこれら作品とは一味違ったものになっています。
本書は風間健二氏による文庫版解説にあるように、一読しただけでは退屈な普通の小説のようですが、実はニュータイプ・バンパイアものであり、『信頼できない語り手』によるミステリでもあります本書の核心は一見すると退屈なジョージ・スミスの独白にあるのですが、ここにすべての複線が巧妙に仕組まれています。問題の手紙の内容も、ジョージ・スミスの「倒錯したセメ?㡊!??ス」の内容も最後になるまで明らかにされません。この意味で、きわめて質の高いミステリに仕上がっており、ジャンルミックス・ミステリや「信頼できない語り手」による叙述ミステリに興味のある方にはお勧めの一品です。
きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)Amazon書評・レビュー:きみの血を (ハヤカワ・ミステリ 1147)より
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