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片想い



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【この小説が収録されている参考書籍】
片想い
片想い (文春文庫)

片想いの評価: 5.89/10点 レビュー 9件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点5.89pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全3件 1~3 1/1ページ
No.3:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

男と女。ダバダバダ…

今回東野圭吾氏が扱ったテーマはトランスジェンダー。まず大学のアメフト部の女子マネージャーが男に性転換して現れるところから始まる。

つまり彼女、日浦美月は性同一性障害だったわけだが、他にも男性の性器と女性の性器を併せ持つ真性半陰陽や女性なのにY染色体を持つ女性がいることなどが語られる。

これには2つのケースがあって、1つは精巣性女性化症。これは精巣を持っていながらもそれを受け入れる受容体がないため、男性ホルモンは出ても肉体が男性化しない女性のことだ。
もう1つは性腺形成異常症。これは胎児期の早い時期に精巣が死んでしまう病気で、逆に男性ホルモンが分泌されないが染色体は男性であるというもの。特に両性具有体である真性半陰陽が実在するとは驚きだった。
そしてそれらの女性がスポーツ界で男性顔負けの体格を得てオリンピックなどに出場している事実。確かにアメリカや中近東の選手に男かと見紛うような選手がいるが、もしかしたらこの類かもしれない。いやあ、実に勉強になるなぁ。

そしてこれらの人間の謎こそが今回のミステリと云えよう。最初は男として生活していた日浦がストーカーを殺した事件を探る話だったが、哲郎たちの捜査は性同一障害者たちのある壮大な計画へと繋がっていく。

男と女。

二つの性があるからこそ愛が生まれ、またお互いの考え方が違い、文化が生まれる。男には男の、女には女の世界があり、価値観がある。
だからこそ世界は面白いのだが、一方でその狭間で苦しむ人間たちもいる。男の身体に宿る女の心を持つ者。女の身体に男の心を宿す者。遺伝子は女なのに両方の生殖器を持つ者。そんな彼ら彼女らに男と女の定義は空しい限りだ。しかしその定義が彼ら彼女らの世界を縛り付けている。
それ故彼ら彼女らは過去を消し去り、新たな自分を、真になりたかった自分の人生を生きようとする。お姉系キャラとして性同一障害者がTVで堂々と振舞っている現在からみれば、隔世の感を覚えるかもしれないが、本書が発表された2001年は確かにまだ認知度が低く、異端として見られていた。
物語に幾度となく登場する、知らない方がいい、そっとしておいてやれ、という言葉はまさに本来取るべき方法だろう。
しかし本書はミステリ。謎は解かれなければならない。読んでいる最中、行き着く結末は決してカタルシスをもたらすものではなく、寧ろやはり知るべきではなかったという思いが去来する結末に向かうだろうことは予想できた。
毎回東野作品の結末は何とも云えない切なさを感じてしまうが本書もまたそうだった。

そして男だからこうだとか、女だからこうだとか、また男の心を持っているから女を好きになるだとか、その逆もまたそうだとか、単純に二元化できないのも事実。男が男らしさに憧れ、理想に近い同性に惚れるように性同一性障害の人々もまたそうなのだ。
本書で男と思っていたら実は女だった、または女だと思っていたら実は男だったというジェンダーが反転する趣向が繰り返されるにつれ、一体男とは女とは何なのだろうと思わざるを得ない。

さらに東野氏が上手いのはこの男と女の話を、すれ違いを繰り返して夫婦生活が冷え切った主人公西脇夫妻のサイドストーリーと絡めていることだ。
お互いの職業を尊重しながらもいつしか夫婦として機能しなくなり、ただ一緒に暮らしているだけになった2人。その心の行き違いが実は二人が付き合いだした大学生の頃のある事件から起因していたことを明かされる部分はお互いがそれぞれ抱いていた男性観、女性観にいかに縛られていたのかをまざまざと思い知らされる。
これが本書の主題と上手く絡み合って実に上手いなぁと感じるのである。

そしてこの西脇夫妻は当時女性の社会進出が台頭し、結婚適齢期が遅くなり、また共働きで子供を作らなくなった夫婦の典型でもある。それが今に至り、少子化問題に繋がっているわけだが、これも当時の世相を反映していて興味深い。
その他巨乳ブームなども触れられていて実に懐かしくも感じたのだが。

そして本作の題名『片想い』の意味。正直云って物語の序盤は全くこの題名が頭を過ぎらなかった。つまりこの言葉とは無関係の内容で物語が進むからだ。しかしその意味は物語の1/3辺りで唐突に出てくる。
東野圭吾は何とも切ないテーマを持ってきたものだ。

また特徴的なのは本書で頻繁に挿入される哲郎たちアメフト部のエピソード。大学を卒業して13年にもなるのに毎年11月の第三金曜日に集まっては酒宴を開いている。そんな仲間たちのエピソードと、美月の問題に何時でも駆けつける絆の深さが心に響く。
つまり彼らは同じ時間を共有し、ともに汗を流し、苦楽を共有した者たちだけが持つ繋がりを随所に感じさせてくれる。

哲郎はフリーライターで決して捜査のプロではない。そんな彼を助けるのが元アメフト部の仲間たち。そして哲郎の捜査の前に立ちはだかるのもまた同じ仲間の1人であり、さらに事件の中心人物も仲間なのだ。
選手とマネージャーと云う関係で付き合っていた哲郎と理沙子、そして中尾と日浦。一歩引いた立場で哲郎を手伝う須貝。日浦の窮地を救う哲郎たちに立ちふさがるのが早田。
最後まで読むに至り、この物語は帝都大アメフト部たちの物語なのだと解る。
だからこそこの物語は始まりも終わりもOBたちの飲み会なのだ。

心の解放と一抹の寂しさ。得た物の代償として喪った物は大きく、そして喪っただけの者もいる。
男と女の幸せとは一体何なのだろうか?
そんな他愛もないことを読後考えてしまった。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.2:
(7pt)

男と女と人間と

性同一性障害と友情をテーマにした「ミステリー展開」の問題提起小説。男である、女であるというのは、どこで判断するのか? 人間には男と女以外は存在しないのか? などなど、人間存在の根源を問い掛けるテーマを読みやすいミステリー仕立にして完成させたところは、さすがに東野圭吾だと思った。
ただ、殺人犯をかくまって警察の裏をかこうとする「捜査ものミステリー」として読むと、かなり物足りなさを感じたのも事実である。

iisan
927253Y1
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]  ネタバレを表示する

片想いの感想


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ぴよくみ
4WLMRKM9

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