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夢幻花



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【この小説が収録されている参考書籍】
夢幻花(むげんばな)
夢幻花 (PHP文芸文庫)

夢幻花の評価: 7.79/10点 レビュー 14件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.79pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全8件 1~8 1/1ページ
No.8:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

負の遺産に向き合う者もいる

本書でも書かれているが、飲料会社のサントリーが青いバラを開発して話題になったが本書では現在存在しない新種の黄色いアサガオを巡るミステリだ。
そしてタイトルの夢幻花もこの黄色いアサガオの異名から採られている。追い求めると身を滅ぼすという意味でそう呼ばれているらしい。

しかし黄色いアサガオはかつては存在したようで、本書にも取り上げられているように江戸時代にはアサガオの品種改良が盛んで黄色いアサガオの押し花が現存している。
ではなぜ現代では無くなったのか。それもまた興趣をそそる。本書ではその謎についても書かれているが、それについてはネタバレ感想にて。

そんな花にまつわる謎を孕んだミステリは一見関係のなさそうな2つのプロローグから始まる。

まずは東京オリンピックを控えた時代で、1人の生まれたばかりの娘を持つある夫妻に訪れた突然の災禍が語られる。

そして次に語られるのは思春期を迎えた中学生蒲生蒼太が、家族恒例の行事で朝顔市に行ったときに出遭った伊庭孝美という同い年の中学生との淡い恋と失恋のエピソード。
その2つを経てメインの事件である新種の花を巡った殺人事件が語られる。

まず一番胸に響いたのは冒頭のエピソードの中学生蒲生蒼太のエピソードだ。
毎年恒例の家族行事となっている朝顔市で出逢った同い年の中学生伊庭孝美に一目惚れし、メアドの交換を行って頻繁に出逢う様子は私も経験したことで当時を思い出して胸を温かくしたが、父親にメールを見られ、交際を禁じられた直後に彼女から突然の別れを切り出される件はさらに胸に響いた。
これも自分に同様の経験があるからだ。あの時の苦くて苦しい思いが甦り、とても他人事とは思えなかった。

各登場人物の設定も興味深い。とくに本書では2つの家族がメインとなって物語に関わる。

主人公の秋山梨乃はかつてオリンピック代表として将来を有望視されていた水泳選手だったが、原因不明の眩暈に襲われたことで水泳を辞め、大学と高円寺のアパートを往復する無為な日々を送っている。

また冒頭従兄の鳥居尚人は成績優秀、スポーツ万能、多種多芸な、何をやっても一流という理想の人物であり、大学を中退してプロのバンドになる道を選び、その夢も実現が間近に迫っていながら突然自殺してしまう。

さらに彼女たちの祖父秋山周治はかつて食品会社の商品開発の研究部に携わっていたが、そこで新種の花の開発を行っていた。そして退職して6年後、黄色いアサガオの開花に成功した矢先、何者かによって殺害されその鉢を奪われてしまう。

もう1人の主人公蒲生蒼太の家庭も特異な状況な家族構成である。

要介と蒼太という2人の年の離れた兄弟がおり、父親の真嗣は元警察官。そして妻志摩子という典型的な4人家族だが、実は要介は前妻との間に出来た息子であり、蒼太は後妻である志摩子との間の息子であった。従ってどこか蒼太は父親と要介に距離を感じており、それがもとで東京の家を出て大阪の大学に通っている。

更に捜査を担当する所轄署の早瀬亮介も被害者秋山周治とは縁があった。息子の裕太が巻き込まれた万引き事件で冤罪を晴らしてくれたのだ。
しかし彼は自身の浮気がもとで現在は妻と息子とは別居中という身。しかし裕太から自分の恩人を殺した犯人を絶対に捕まえてほしいと頼まれ、それが彼の行動原理となっている。つまり妻に愛想を尽かされたダメ親父の奮起の物語の側面も持っているのだ。

メインの物語はこの早瀬亮介側の捜査と秋山梨乃と蒲生蒼太の学生コンビの捜査が並行して語られるわけだが、とにかく秋山梨乃と蒲生蒼太の人捜しの顛末が非常に面白かった。今どきの学生らしくメールやグーグルなどのITツールを駆使し、友人のネットワークを使って秋山周治の死に関係する黄色いアサガオの謎と蒼太の初恋の女性伊庭孝美の行方を追っていく。特に秋山梨乃の大胆さには蒲生蒼太同様に驚かされた。

高校時代に友人の伝手で伊庭孝美の所属する大学と研究室を突き止めた蒼太がその後の行動に悩んでいたところ、いきなり研究室に行ってドアを開けて孝美のことを尋ねる行動力。
そしてアドリブでテレビ番組の取材だと云いのける不敵さ。
梨乃の突飛な考えと行動はこの物語にある種ユーモアをもたらしている。そしてこの若い2人の探索行が読んでいて実に愉しい。もし自分が彼らと同世代だったらこのように行動できただろうかとそのヴァイタリティに感心してしまった。

そんな2人の探索行も含めて思うのは相変わらず東野氏は物語運びが上手いということだ。次から次へと意外な事実が判明してはそれがまた新たな謎を生み、ページを繰る手が止まらなくなる。
以前私はある東野作品を謎のミルフィーユ状態だと評したが、本書もまさにそうだ。従って上の概要もどこで区切ったらいいのか解らないほど魅力的な謎がどんどん出てきて、ついつい長くなってしまった。

後半になってもその勢いは止まらず先が気になって仕方がない。
祖父の死をきっかけに彼の遺した黄色いアサガオの写真の謎を追うと、謎めいた男蒲生要介と出逢い、捜査を辞めるように忠告され、それがきっかけで蒲生蒼太と出逢い、ひょんなことから彼の初恋の相手を捜すようになる。そして足取りを辿っていくとなんと蒼太自身の母親の出生に関わる連続殺人事件に行き当たるという、まさに謎の迷宮に迷い込んだかのような複雑な様相を呈してくる。

そして秋山梨乃と蒲生蒼太側が追いかける謎も殺人事件が解かれると共に蒲生要介によって明かされる。

あまりにスケールが大きすぎて読後の今でも消化できないでいる。

しかし改めて思うが、実に複雑かつ壮大な物語である。一見無関係な要素を無理なく絡ませて読者を予想外の領域に連れていく。実に見事な作品だ。

このような複雑な謎の設計図を構築する東野氏の手腕はいささかも衰えを感じない。識者が作成したリストによれば本書は80作目とのこと。これだけの作品を重ねてもなおこんなにも謎に満ちた作品を、抜群のリーダビリティを持って著すのだから驚嘆せざるを得ない。
特にそれまで東野作品を読んできた人たちにとって過去作のテーマが色々本書に散りばめられていることに気付くだろう。原子力の件では『天空の蜂』が、被害者秋山周治の実直な性格は『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の浪矢雄治の面影を、秋山梨乃と蒲生蒼太のコンビやホテルの描写では『マスカレード・ホテル』の舞台と山岸尚美と新田浩介の2人の影を感じるなど、それまでの蓄積が本書でも活かされている。

本書は特に年末に開催される各ランキングでは特段話題に上らなかったが、それが不思議でならないほどミステリの面白さが詰まった作品だ。
実際、『流星の絆』や『マスカレード・ホテル』、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』など『このミス』ランク外の東野作品の方が面白く感じる。恐らくはあまりに映像的なストーリーゆえに投票者がミーハーだと思われるのを避けて敢えて選ばなかった結果かもしれない。
本書もまたドラマにするのに最適な題材であるが、この面白さはもっと正当に評価されていいだろう。

印象に残るのは蒲生蒼太と伊庭孝美の恋の結末だ。
大人になって謎が全て解かれて、ようやく彼女はそれまでの経緯を話す。中学の時に一目惚れし、突然消えた伊庭孝美。その後も現れては消え、消えてはまた意外な場所で姿を見かける彼女は蒲生蒼太にとっての夢幻花だった。だからこそ2人はお互いの出逢いをいい思い出にしたのだろう。

2014年10月10日、サントリーが青いバラに続いて黄色いアサガオの再現に成功するというプレスリリースがなされた。はてさてこの夢幻花に対して警察はどのように動くのか。
本書を読んだ後では手放しで喜べなくなる。そんな錯覚を覚えてしまうほど面白いミステリだった。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.7:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

夢幻花の感想

理系の筆者らしい作品
最初の二つの伏線が良い

mick
M6JVTZ3L
No.6:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

評価は辛めになりがち?

普通の作者がいきなりこのような本を出せば満点評価をつけたいところだが、ここは東野圭吾。
ほとんどハズレ無しの良作を世に出し続けているので、読む度に最高傑作の「容疑者X」や「白夜行」とどうしても比べてしまう。
植物とミステリーなんておよそ融合しない事柄を見事に組み合わせて、一つの物語を誕生させてしまう構成力は流石だし、
黄色いアサガオの序盤のプロローグが後半になり見事に絡み絶妙だし、第一読み易いし欠点など無いように思える。
最後のほうに「あーそうだったのね」と読者の知らない事実を突きつけられることが、唯一の欠点と言えば欠点か。
前にもそんな酷評を書いたことがあったような気がする。
なので東野さんの作品なので、評価がどうしても辛めになりがちだが、良作であることは間違いない。

yoshiki56
9CQVKKZH
No.5:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

さすがに巧みな構成力

雑誌連載を下敷きにした書き下ろし長編作品。タイトルから想像できるように、花の幻覚作用をテーマにした、軽快なミステリー小説である。
水泳のオリンピック候補に挙げられていながら挫折した大学生・秋山梨乃の従兄弟・鳥井尚人が自殺した。プロ目前のミュージシャンとして夢を持っていたはずの尚人は、何故自殺したのか? さらに、梨乃の祖父・秋山周治が殺害される事件が起きた。単純な強盗殺人のように見えた事件だったが、周治が気にかけていた黄色い花の鉢植えが無くなっていることを不思議に思った梨乃が調査を始めてみると、その花には何かが隠されているような疑問が次々に出て来るのだった。謎の黄色い花の正体は何か? 祖父の殺害犯人は誰か? 動機は?
プロローグが1と2の2つあることから、両方の事件の関係者の間に因縁があるだろうという想像はつくのだが、その因縁は最後の最後まで明かされることが無く、物語のテーマとして読者を引っ張って行く。最後の種明かしはやや強引ではあるが、ストンと収まって行く巧みな構成で読後の満足感は高い。登場人物の設定が上手いし、話の展開もテンポがよく、相変わらずのストリーテラーである。
東野圭吾ファンはもちろん、重苦しくないミステリーを読みたいというファンにはオススメだ。

iisan
927253Y1
No.4:3人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

夢幻花の感想


▼以下、ネタバレ感想

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松千代
5ZZMYCZT
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

夢幻花の感想

これぞ東野ミステリー!!と言ったお話。
一気に読み終えました。
ストーリーはもちろん、今回のお話は出てくる登場人物がみんな魅力的でした。

▼以下、ネタバレ感想

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ぺこりん12
M5MH63SF
No.2:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)
【ネタバレかも!?】 (1件の連絡あり)[]  ネタバレを表示する

夢幻花の感想

この作者にはもう1つ2つ期待してしまいますが、十分楽しめます。

Ralph
YYNH4PU8
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

夢幻花の感想

久しぶりの東野圭吾の本。本格ミステリを好んで読んでいる者にとっては、やはり彼の本は通俗小説のように映る。殺人事件は一件。殺された老人の孫が知り合った男と二人して老人の周囲の不可解さを追求していくストーリー。
しかし、いろんな人物が登場していろんな角度からひとつひとつの謎を解いていくと黄色いアサガオに繋がっていくようになっている。この辺の構成というか物語の作り方はベテランらしい上手さで読者を魅了する。
謎の中心が自然界に存在しない黄色いアサガオという設定が良い。だから自分も興味を惹かれて読んでみたわけで。ファンには申し訳ないが他の作品には興味が湧かない。
でも、この作品はベテランらしい筆致で安心して読めるがどうもテレビの2時間ドラマのような印象も持ってしまう。それは謎解き以外の部分の人間関係にいろいろと盛り込む所為だろう。
こういったスタイルを好む人が大多数だろうけれど、「読み易い文章と人間ドラマの面白さプラス謎解き」のミステリは自分は今は距離を置きたい。
ただ、この本は面白かった。それは黄色いアサガオの着想の良さに尽きるけれど・・・。

ニコラス刑事
25MT9OHA

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