愚者の階梯
- 時代ミステリー (53)
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昭和10年の「満州国皇帝」溥儀の初来日と歌舞伎観劇、天皇機関説事件といった二・二六事件前年の戦争前夜(あるいは初期)の世相を背景にした時代小説である。 劇場の舞台裏の大道具や舞台下の仕掛けが用いられているところは『オペラ座の怪人』を連想させるが、連続殺人事件のミステリーというよりも天皇機関説事件に象徴される暗い世相が主題となっているようだ。 歌舞伎十八番の『勧進帳』の弁慶の台詞が「不敬」に当たるとは荒唐無稽の極みだが、著者によると実際に戦時中は勧進帳の台詞が書き換えられていたという。 しかし、著者はこの導入部の事件を天皇機関説事件と重ね合わせて描いており、当時の通説であった美濃部達吉東大教授の国家法人説と天皇機関説が「不敬」と糾弾された荒唐無稽さと、にもかかわらずそれがほとんど反対も抗議もされずに通用していく戦争前夜の世相の恐ろしさを強調しているのである(著者インタビューでは先般の学術会議委員任命拒否事件を念頭に置いているとのこと)。 著者は、帝国陸軍の戦勝に浮かれる人々に対し、「戦争というのは常にあっけなく始まるんだよ。始まったら最後だれも止められない。始める連中は、あとのことなんか何も考えちゃおらんのさ」という宇津木のシニカルな言葉を対置しているが、これが愚者たちが梯子を転げ落ちていくという本書のモチーフにつながっていくのである。 なお、本書の舞台となる築地の「木挽座」は歌舞伎座、関西に本拠を置く興業主の「亀鶴」は松竹、その社長の「大瀧」は松竹創業者の大谷竹次郎を容易に連想させるが、モデルとフィクションの境が気になるところである。 | ||||
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歌舞伎の事なら何でも知っている著者がものした、大戦前夜の歌舞伎座を舞台にした歴史探偵小説である。 連続殺人事件の謎解きなぞの展開は、見事に失敗していて、面白くもおかしくもないが、松竹の快進撃や芝居業界の裏事情などの蘊蓄は、随所にふんだんに散りばめられていて、さすがと思わせる。 美濃部達吉の「天皇機関説」が不敬だとして葬り去られ、治安維持法によってマルクス主義者や自由主義者たちが徹底的に弾圧され、阿呆莫迦軍部が阿呆莫迦政治家どもを駆逐して独裁体制を敷いていく道行は、現代日本の陰鬱な時代状況と折り重なるように描写されているので、現今、「新しい戦前」、いつか来た道を辿りつつある我々読者の心胆を、時折寒からしめるのである。 | ||||
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松井今朝子を読むのは「江戸の夢びらき」(2020/4月)以来になります。"引きずる哀しみと足る歓び"、絶品でした。「愚者の階梯」(集英社)を読み終えました。 天皇機関説に揺れる昭和十年。亀鶴興行の専務・川端が<木挽座>の舞台で首を吊ったという事件が起こります。警察が現場で自殺の動機を聴取した結果、浮上したのは不敬問題にからんだ一連の騒ぎ。そのきっかけは満州国「溥儀皇帝奉迎式典」の余興として上演された『勧進帳』のセリフが不敬に当たると或る講師が指摘し、以来<木挽座>に苦情や抗議の投書が相次ぎ、果ては壮士の乱入騒ぎまでが起こります。それらがこの事件にどう繋がるのか?果たして、川端は自殺だったのか? 捜査は警部から刑事・薗部に任されることになり、主人公であり、大学講師の桜木がそれらの世界を熟知するが故に巻き込まれていきます。 著者が熟知する歌舞伎界。「扇屋」、女形、六代目荻野沢之丞。華やかに舞う沢之丞の孫、宇源次。 方や、歌舞伎を超えてエンタメを席捲しようとする「活動写真」、「キネマ」。二枚目スター、宇津木が登場し、桜木の妻の従妹であり駆け出し女優・大室澪子の視点から、その頃の映画製作が語られ、歌舞伎界と映画がどうシンクロしていくのか?そして、物語の鍵は<木挽座>の”大道具方”の存在にありますが、物語を詳述するのはここまでにしたいと思います。 「溥儀皇帝奉迎式典」に導かれる歌舞伎とキネマとパズラー。そのパズラーのロジックは少し弱いと感じたりもしました。しかし、タイトル「愚者の階梯」をシンボライズしながら語られる物語の神髄は、この国の「誰も責任を取ろうとしない」在り様にあるのだと看破していることにあります。疫病が蔓延し、海の向こうで戦争が起こり、天変地異に多くの命が失われ、脅かされ、かつての元首の暗殺が簡単に起きてしまうこの国の今もまたその頃と何も変わらない。 学ばない国・日本は、いつになっても愚者の階梯を上がり続ける。華やかな世界の裏側にある虚無を提示しながらも希望を見つめられる時代は、本当に終わってしまったのかもしれませんね。 | ||||
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