火の路
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種別
長編
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あらすじ
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評判
火の路の評価:
0.00/10点 レビュー 0件。 B ランク
火の路の総合評価:
8.82/10点 レビュー 39件。
感想一覧
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
Amazonレビュー
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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本文庫は、「松本清張記念館監修・長編ミステリー傑作選」と銘打つ新装版である。
この下巻は、主人公・高須通子がイランのテヘラン空港に降り立ったところから始まる。
本作の新聞連載が開始された昭和48年を起点とすると、この物語はイラン革命(1978年/昭和53年)が始まる5年前あたりが舞台となる。
周知の通り、革命前のイランはパーレビ国王の元での親米政権だった。
したがって、本作で描かれるイラン各地や人々の様子も、イスラム教的な雰囲気は少ない。
通子が空港で待ち合わせをした、通訳を務めるテヘラン大学の女子学生シミンの姿も「言葉は英語で、黒眼の大きな・・・はっきりとした顔だちで、花模様のワンピースだが、裾はミニに近かった」という描写になっている。
現在のイランでは、満9歳以上の女性は外国人・異教徒であっても公共の場所ではヘジャブとよばれる頭髪を隠すためのスカーフと、身体の線を隠すためのコートの着用が義務付けられている(外務省・海外安全ホームページより)ので、隔世の感がある。
また本作では、日本人の女性が一人(と女性通訳)で見知らぬ土地を平気で旅するし、イランの僻地で日本の商社マンが商魂たくましく汗をかいている様子も描かれている。
とりあえずは平和で、物騒な雰囲気は見て取れない。
そういう点で本作は、革命前のイランを多少なりとも伝える物語でもある。
そのイランが現在(2024年4月)、イスラエルとの危険なやり取りをしている。
遺跡を巡る観光旅行どころか、貴重な歴史的遺物が失われる危機も迫っている。。。
さて、上巻のレビューで俺は、本作のキモは高須通子(≒松本清張)による論考だと述べたが、もう一つ、歴史研究における封建的な学界の姿や、遺物売買の実態をあぶり出しているという点も重要だ。
若き研究者・高須通子は広い視野や先進性を持つがゆえに、保守的な教授や先輩たちに煙たがれる。
彼女は、大学の教授等を頂点とするピラミッド体制の底辺にいた。
松本清張の自伝『半生の記』でもうかがい知れるが、彼は権威や権力にあぐらをかいている連中を憎む。
作家であると同時に在野の研究者やジャーナリスト的側面も持つ彼は、学閥や権威は学問の発展や進歩の妨げにしかならないと信じており、その信念が今回“作品という形での論文”を書かせた。
なお、この“論文”の間違っている部分については、本下巻の「解説」で森浩一氏が指摘している。
この事は重要で、文春文庫編集部の誠意が感じられるし、この事が清張を貶めるものではもちろんない。
権威(松本清張自身が文学界の重鎮だった)への忖度は、清張が最も憎むところだったからである。
そしてこれも上巻のレビューで述べたが、歴史、とりわけ古代史は、遺物や史料の発見等により、塗り替えられたり修正されたりすることはよくある事。
清張もそんなことは知悉していたはずで、本作執筆時点で清張が推論(あるいは確信)していた事であっても、将来その推論が間違っていると指摘される可能性もあるかもしれないという事は、頭にあったに違いない。
彼が主張したかったのは、“権威や権力に寝そべらずに、または間違いを恐れずに、新たな地平を拓け”という事だったろう。
ミステリー作品というくくりなので、本作では事件も殺人もキッチリ起きる。
「論文が中心でミステリー部分は付け足し」と評されることが多い本作だが、俺はそうは思わない。
高須通子の苦悩や海津信六の哀しみはよく描かれているし、それを描くことで、主題である清張の古代史論考と学界批判がこれでもかと読者に提示されるのである。
彼女・彼らが物語の終幕へ至る路は、火を崇めるゾロアスター教が長い年月と距離を経て我が国へと伝わり、神道や仏教や慣習へと習合されていった路とも重なる。
この火は埋火(うずみび)のように我々の歴史に残っているのだろう。
彼女・彼らが灯した小さな火は、やがて大きな真実をあぶりだしてゆくかもしれない。。。