(短編集)
シビュラの目
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短篇集というものは割と奇抜なものに出会い易い。長篇作とは異なり、作者も何かしらのチャレンジを行なうのにハードルが低いのだ。 初っ端の『待機員』がその一つ。舞台設定自体がふざけていて、コンピュータが大統領を勤める未来の合衆国で、主人公は失業者から一転して、コンピュータに故障や破損があった際に代理を果たす役目である大統領待機員に任命された男である。登場人物たちが皆マヌケでテキトー。ディック作品では珍しいコメディ・タッチでスゴく楽しい怪作だ。 続く『ラグランド・パークをどうする?』が、まさかの続篇でびっくりだ。主要人物たちが登場し、静かな争いを各々に企てる中、新たにサイオニック能力者が現れて、そのユニークな能力を発揮していく。 『宇宙の死者』は、人間の死後には半生状態が暫く続くことが判明し、超冷温で保存された棺を介して脳波との会話が出来る時代に起きた異様な事件を扱ったミステリーSFで、なかなか気色が悪い。そして作中で1968年のニクソンの奇跡の大統領選復活が予言されているのはご注目だ。 本邦初訳の『聖なる争い』は、突然とある地域の小さなガム工場を標的に定め、全面攻撃を発令しかけたコンピュータと、その動作の原因を探る為にFBIに叩き起こされた修理屋の話だが、コンピューターと人間間の論理的な探り合いが面白い。そして訪れるバッドエンド。 『カンタータ百四十番』は中篇で、本作には、『待機員』と『ラグランド・パークをどうする?』に出ていた、主人公ではないが主要キャラクターではある人物が再々出演している。世界観は前二作とは随分変わっている様だ。白色人種よりも「カル」と呼称されている有色人種の人口の方が多くなった世界。仕事にあぶれたカルが大勢眠りに入って政府倉庫に保管されている時代。その時、初めてカルが大統領になるかもしれない選挙戦が行なわれており、その大統領選が物語の主軸となっている。タイトルはバッハ作曲でキリストの再臨を歌うもの。そして物語は時代の変わり目を物語る。 表題作『シビュラの目』は、巻末の解説によると、1974年に強力な神秘体験に見舞われた直後に書かれたもので、主人公の売れないSF作家はディック本人を模していると思われるが、古代ローマと現在と未来が絡み合う不思議な作品で難解だ。生前未発表だったのも頷ける。 収録作品 『待機員 Stand-By』 『ラグランド・パークをどうする? What’ll We Do with Ragland Park?』 『宇宙の死者 What the Dead Men Say』 『聖なる争い Holy Quarrel』 『カンタータ百四十番 Cantata 140』 『シビュラの目 The Eye of the Sibyl』 | ||||
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ディックならではの、ひねりのきいたSF風味の短編が楽しめる。 「待機員」「ラグランド・パークをどうする?」における、政治の風刺は失笑を抑えられない。そもそも大統領選出の仕組みがエンターテインメントであるアメリカならではの作品だ。それに政治は、国や時代を問わず常に滑稽な面を持つ。 「宇宙の死者」ではSF的なアイデアがビジネスで運用されているという背景のうえで、超常現象を扱っており今でも斬新な感じがする。 「聖なる争い」この作品が一番好きだ。読んでいて、作中人物同様なかなか謎が分からなかった。一種のミステリとして楽しめる人間とコンピュータの心理劇と言えるだろう。 「カンタータ140番」はじめの2作に登場する人物が出てくる、続編というか連作である。個人の欲望を制御できなくなった未来社会の様子と、その中でも過去と同じ個人の愛憎が繰り広げられるという現実的な話だ。結末を改変した長編があるそうで、是非読みたいところ。 「シビュラの目」タイトル作である。異質な作品だ。過去と未来が呼応する不思議な作品。 それにしても、ディックの作品集は常に満足を与えてくれる。それはテクノロジーやプロットに頼ることなく、人間の葛藤を描いているからだろうか。優れたSF的発想に負けない描写というのが彼の持ち味だと思う。 | ||||
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