暗闇のスキャナー

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長編
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あらすじ

1991年10月31日 暗闇のスキャナー (創元SF文庫)

どこからともなく供給される麻薬、物質Dがアメリカ中に蔓延していた。覆面麻薬捜査官アークターは、捜査のため自らも物質Dを服用、捜査官仲間にも知らさずに中毒者のグループに潜入し、彼らと日々を共にしていた。だがある日、彼は上司から命じられる。盗視聴機を仕掛け、アークターという名のヤク中を―彼自身を監視せよと。彼はその命令に従うが…。ディック後期の傑作。(「BOOK」データベースより)

評判

暗闇のスキャナーの評価:

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暗闇のスキャナーの総合評価:

8.35/10点 レビュー 17件。

感想一覧

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Amazonレビュー

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

No.17
(5pt)

一生に一度の大傑作だと思う。そうディック本人に語らせた反ドラッグ小説。

ヤバい。ウケる。翻訳一つでまさかハードSFの印象があるディック小説がこんなゲスい作風になるとは! (不適切発言 笑)
だけど、どこからともなく供給されるドラッグ「物質D」がアメリカ中に蔓延している未来社会が舞台で、皆んながラリパッパなので、これでOK。最っ高。

主人公は覆面麻薬捜査官のボブ・アークター。
ヤク中の様なナリで、ヤク中の様な話し方をし、ヤク中仲間の二人と共に、カリフォルニア州オレンジ郡の一軒家で暮らしている。捜査官あるあるとでもいうか、アークターは物質Dの常用者になっていた。
アークターは、複数人の売人から物質Dを買い付けていた。売人が仕入れ金額を賄えないくらいになって、上部とアークターとの直取引を望む様にするために取引量を増やしていっていたが、売人の中でも、ドナ・ホーソンに絞り込んでいた。何故なら調査を始めればしょちゅう会わなければならないし、なによりアークターはドナを自分の女にしたかったからだ。

彼ら覆面捜査官は、表だった場所に出る際にはスクランブル・スーツというものを身につける。このスーツを着ると周囲からはぼやけたもやの様にしか見えなくなり、声まで変わる。正体がバレない様にだが警察署内でも同様で、仲間や上司も皆スクランブル・スーツを着ているので、お互いがもやっている訳だ。
スーツ着用時の彼は、フレッドと名乗った。
或る日、フレッドは盗視聴機(スキャナー)を仕掛けてアークターを監視せよと上司から命令を受ける。情報提供者からのタレコミがあって調べたいと言うのだ。
命令に従うフレッドだかアークターだかだったが、その彼に事件が重なり始める。
そして、やがて彼自身の意識に異常が起こってきた。それは、物質Dによる副作用だった。

英国SF協会賞受賞、ディック後期の傑作と名高い本作は、『スキャナー・ダークリー(A Scanner Darkly)』として、リチャード・リンクレイター監督により2006年にアメリカで映画化された。
主演のキアヌ・リーブスには興味は湧かないが、ウィノナ・ライダーが演じるドナはちょっと観てみたい。
尚、ヤク中たちの言動や妄想などは、アークター同様、ヤク中たちと共同生活をし、麻薬を常用していた頃のディックの体験に基づくのだそうだ。

で、読後感だが、ディック作品としては異例の作品ではないか。訳には関係なく。
ディックお得意の「これは現実か」「何が真実か」といった虚構と現実のせめぎ合いや、形而上学的な展開もない。ましてやスクランブル・スーツの存在を除けば、殆どSF的でもない。
稀有な一作ではあるが、しかし、ディックが自ら評した様に、本書が最大の傑作だということには異存がない。
暗闇のスキャナー (創元SF文庫) Amazon書評・レビュー: 暗闇のスキャナー (創元SF文庫)より
4488696090
No.16
(5pt)

地面から伸びてくる死という物質。

現在30代以上の人にとって「スキャナー」は「スキャナー・ダークリー」ではなく、山形浩生(あるいは飯田隆昭)の訳した「暗闇のスキャナー」である。
2006年に映画になったときには、こんなヘンな小説がよく映画になったなあ、と不思議に思っていた。というのは、SF的でありながら、麻薬中毒を題材に扱った(ディックもその仲間たちも当事者だった)、深刻な、悲しい小説だからである。

登場人物は、とにかく遊ぶ、後先考えず、麻薬に手を出す。脳ミソや内臓にダメージを与えようが、使用する。たとえ身近に死人が出ても。

ディックは、「この小説に教訓はない。ただ結果がどうなったかを書いているだけだ」と書き残している。かつて、ドラッグこそがすべてを変える、などとアホらしい戯言に騙され、いろんな麻薬が消費された。ヘロインやコカインでいくら死人が出ても、人々はやめようとしなかった。

「ぼくは見た。死が地面からのびのびと生えているのを見た。」このセリフは、忘れることができない。

ディックは、統合失調症になり、内臓に回復不能のダメージを被り、50代で死んだ。彼の「仲間たち」も、みんな不治の病で死んだ。

あんまりに悲しい小説である。でもそれをいうなら、ディックの小説はほとんどすべてが悲しく、残酷で、救いがない。
そんな状況の中、人物は懸命に生きている。廃人になって死ぬのが落ちなのに。狂ってしまうのに。

大昔、フランソワ・ヴィヨンという人が「質草は放っておけ、現金をつかむんだ。」と言った。けど、その現金が小銭程度で、質草が自分の一生だったら、そうはいかない。

1994年に、あるミュージシャンがヘロイン中毒で自殺した。彼もおそらく、ディックのいう「仲間たち」だろう。「こいつらは遊んでばかりいてけしからんとは言わない。ただ結果がどうなったかを書いているだけだ」。

1949年、ある小説家が入水自殺した。やはり彼もディックのいう「仲間たち」だったか。その作家は「罪の反対語は蜜さ」と書いていて、酒と麻薬に溺れた。

「罪があるとすれば、彼らが永遠に遊んでいたいと願った、ということだ」とディックは言う。ドラッグの濫用は病気ではなく、決断だ、とも。でも、そういう「決断」をする人は、麻薬があろうとなかろうと、走っている自動車に飛び込んでしまうのだ。彼らを癒し矯正する手段はない。そういうアドラー的人間は、そもそも麻薬で死のうと轢かれて死のうと、知ったことじゃないのだ。どこにでもそういう人はいる。彼らは死んでも、幸せになったり救われたりしない。「死と呼ばれるものは最後の苦痛にすぎない」。
暗闇のスキャナー (創元SF文庫) Amazon書評・レビュー: 暗闇のスキャナー (創元SF文庫)より
4488696090
No.15
(5pt)

ハヤカワ版よりこっち!

私は先に浅倉久志訳のハヤカワ文庫SF版を読んでいたのですが、こちらの山形浩生訳の方がずっと良いと思いました。やや生硬な浅倉氏の訳に対して、山形氏の訳はドラッギーで、ラリラリで、独特のトリップ感があります。ただ、「女」を「ナオン」と表記しているのは如何なものか、と思いますが。バブル期に出た翻訳だからでしょうか。

話はディックにしては破綻が少なく、まとまっていますが、やはり鬼才ディックの長編なので一筋縄ではいきません。ディック未体験の方は、「ユービック」か「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」あたりを先に読んで、「ディック慣れ」しておいた方が良いかもしれません。一応、SF要素はありますが、ディックの実体験をかなり盛り込んでいるため、普通小説のような色合いが強いです。

それにしても、悪夢のような物語です。全く救いがありません。ディックはかつて深刻な麻薬中毒に侵されており、多くのジャンキー仲間をドラッグによって失ったこと、そしてディック自身も麻薬中毒の後遺症で寿命を縮めたこと・・・これらに対する自己批判が本書の執筆動機なのかもしれません。

長らく絶版になっており、一時期価格が高騰していたようですが、現在ではかなりお求めやすい価格になっています。有難いことです。
暗闇のスキャナー (創元SF文庫) Amazon書評・レビュー: 暗闇のスキャナー (創元SF文庫)より
4488696090
No.14
(5pt)

ハヤカワ版よりこっち!

私は先に浅倉久志訳のハヤカワ文庫SF版を読んでいたのですが、こちらの山形浩生訳の方がずっと良いと思いました。やや生硬な浅倉氏の訳に対して、山形氏の訳はドラッギーで、ラリラリで、独特のトリップ感があります。ただ、「女」を「ナオン」と表記しているのは如何なものか、と思いますが。バブル期に出た翻訳だからでしょうか。

話はディックにしては破綻が少なく、まとまっていますが、やはり鬼才ディックの長編なので一筋縄ではいきません。ディック未体験の方は、「ユービック」か「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」あたりを先に読んで、「ディック慣れ」しておいた方が良いかもしれません。一応、SF要素はありますが、ディックの実体験をかなり盛り込んでいるため、普通小説のような色合いが強いです。

それにしても、悪夢のような物語です。全く救いがありません。ディックはかつて深刻な麻薬中毒に侵されており、多くのジャンキー仲間をドラッグによって失ったこと、そしてディック自身も麻薬中毒の後遺症で寿命を縮めたこと・・・これらに対する自己批判が本書の執筆動機なのかもしれません。

長らく絶版になっており、一時期価格が高騰していたようですが、現在ではかなりお求めやすい価格になっています。有難いことです。
暗闇のスキャナー (創元SF文庫) Amazon書評・レビュー: 暗闇のスキャナー (創元SF文庫)より
4488696090
No.13
(5pt)

見失わなければ気づけないこと

迷わなければたどり着けない場所。さらけ出さなければ守れないもの。

ディック作品というだけでなくて、あらゆる小説の中で一番好きな作品。

傑作って言うよりも、ケッサクって感じか?と思いきや、ちゃんと傑作。

人間ってバカで単純な、愛すべき生き物だって思えるときも少なくない。
けどそいつらが群れ暮らす「社会」ってものになってくると、
こんなにも複雑で難解になってしまうのはなんでだろう?

落ち込むことや怒りや憎しみにわれを忘れてしまうようなことに
満ち満ちているのはなぜなんだ?

ディックって、本人が意図している以上に意欲的なテーマに
作品で取り組んでしまっている。それが、ここまで広く支持を得ている
理由のひとつだと思う。

もしこの作品を気に入られて『ゴールデン・マン』をまだお読みでないとしたら
ぜひ手に取っていただきたい。前書きが本当に素敵なんです(いや、もちろん
各短編も本当に面白いです)。あれにはつらいとき、何度も救われた。
この「暗闇のスキャナー」とともに、おすすめします。
暗闇のスキャナー (創元SF文庫) Amazon書評・レビュー: 暗闇のスキャナー (創元SF文庫)より
4488696090

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