アンドロギュノスの裔(ちすじ)
評判
アンドロギュノスの裔(ちすじ)の評価:
5.00/5点 レビュー 4件。 - ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全6件 1〜6 1/1ページ
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さて、渡辺温の代表作は、各種アンソロジーを見ても、「父を失う話」「可哀相な姉」「兵隊の死」の3作品ということで衆目は一致するでしょう。このうち、「兵隊の死」は、着眼点の面白さが生命のショート・ショートですが、残り2作品は、メルヘンチックなうわべとは別の、意外に難解な作品といえます。
「父を失う話」は、わずか6ページの短編小説で、ある朝、髭を剃り、新しい麦わら帽、赤色のネクタイのいでたちの青年紳士である父に連れられて、10歳違いの息子(?)が波止場に行きますが、だんだんと親子関係がアヤフヤになって、父だけがサクソニヤ号という船に乗って颯爽と去っていくという、だれもが呆気にとられるシニカルなストーリーの作品です。謎の父の正体は、出奔の欲求が抑えられない主人公の少年の<10年後の自分>といった趣きがあります。
一方、「可哀相な姉」は、聴覚障害者の姉が身を売って、弟である主人公を育てますが、成長して大人になった弟が、つけ髭をつけて恋人とデートするようになり、ついには邪魔になった姉を罠にかけて裏切るというピカレスクな短編小説です。コミュニケーション障害を逆手に取ったかたちのラストには批判もあるはずですが、作者の主眼は、親のような姉との間に生じた弟の葛藤を描くことにあります。
両作品とも、<髭>がキーワードになっていて、<大人になることは、親の血と肉を食べることと同じだ><しかし、成長し、恋をするのはだれにも止められない>という少年側の苛立ち・哀しみをシュールな筆致で描いたものだ、といえます。渡辺温のその筆致には、大人になりきれない、ニセの<髭>をつけた永遠の少年が書き散らしたような才能のきらめきがあって、それが彼の作品の独特な魅力となっています。