残像に口紅を
評判
残像に口紅をの評価:
3.92/5点 レビュー 99件。 C ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全193件 41〜60 3/10ページ
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残像に口紅をの評価:
3.92/5点 レビュー 99件。 C ランク
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1989(平成元)年4月に中央公論社から単行本で出たこの『残像に口紅を』が、およそ30年が経過した令和の今、大きな注目を集めています。2017年11月に放送されたテレビ朝日系バラエティ番組『アメトーーク!』の中で、「読書芸人」としても知られるカズレーザー(お笑いコンビ「メイプル超合金」のボケ担当)が紹介したことがきっかけだそうです。
私は番組を見てはいませんが、文庫本『残像に口紅を』が確かに大型書店でも長期に渡って平積みされているのを目にしてきました。
主人公が自分は所詮、実世界では存在していないことをわかっていて、だからこその摩訶不思議な、突飛な実験で自らを縛っていくという奇想天外な話です。使用を禁止する音声の順番は恣意的なのかと思いきや、作者・筒井康隆氏による計画立案の課程は巻末に簡単に触れられていますので、それを読了後の楽しみにして読んでみるのも良いでしょう。(そういえば、シャーロック・ホームズの『踊る人形』とポーの『黄金虫』のどちらもが、英語の文字で一番使用頻度が高いのは「e」の文字だと言っていたのを思い出しました。ですから、使用を禁止されても困らない日本語音声が何かをある程度解明したうえで書き始めたことは容易に想像がつきます。)
さて、日本語の音声の半分近くを削っても、物語はさほど描写や会話に困窮することがないので意外に感じました。使われていない音声が相当量にのぼっていることに、言われなければ気づかないほど、そこに書かれている日本語は一向に窮屈さを感じさせていきません。
ようやく3分の2を越えたあたりから、変化が顕著になってきます。使えない音声が多いので、同じ対象を表現する上で、使える音声を最大限活かして見慣れない単語に置き換えていく努力が続けられます。「こなたを睨む」「タクシーの天蓋」「眼下の展開が大観可能」など、戦前の日本文学を読んでいるような錯覚に陥ります。
主人公の佐治勝夫もさすがに弱音を吐き始めるのが第29章あたりからです。
「音が失われていくにつれ、誰のことばもどんどん遠回しになり何回になっていくようだと勝夫は思う」(191頁)
そして制限された日本語によって紡がれる物語はというと、混迷を深めていく一方です。描かれる内容が人類の真実を映し出していくような深化を見せるということはなく、奇妙奇天烈さがいや増していくばかり。そういえばこの小説のかなり早い段階で作家・佐治自身がこんなふうに嘯(うそぶ)いていました。
「記号としての言語が表現する意味内容なんて、実にいい加減なもんだ」(17頁)
あえて言うなら、言語を制限することによって生まれる物語の無味乾燥ぶりを露呈させることを目的とした小説、といえるのかもしれません。それを思うと、この小説の4年後(1993年)に断筆宣言をした筒井康隆氏の思想がすでにここに表れていたと捉えることもできなくはないかもしれません。
厳格な言語記号ルールにもとづいて描く特異な物語を最後にひとつ紹介しておきます。
◆泡坂妻夫『 しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術 』(新潮文庫)
:230頁もの間、とてつもない企みが目の前で常に展開されていながら、私自身、全く気がつかなかったことに大きな驚きを味わいました。たとえて言うならば、まつ毛が目に映らないかのような、その見事なトリックに呆然としました。
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