わたくし率 イン 歯ー、または世界

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わたくし率 イン 歯ー、または世界の評価:

2.84/5点 レビュー 32件。 D ランク

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平均点2.84pt

Amazonレビュー一覧

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全28件 21〜28 2/2ページ
No.8
(4pt)

お口の中と世界の結婚

そこに存在する人の、他の誰とも代わり得ない「たったひとつのそこにある視力」。作中、この「視力」は「痛み」と並んで、私はどこまでも私、という自同律の象徴。人の顔は毎日露出しているから大事な所が薄れるのかも、という語り手の疑惑は、奥歯への執着に導かれる。普段は眼差しから隠されているが、口を開け、鏡に映して自分で見るなり、他人に見せるなり出来る、奥歯。彼女が歯科の前に化粧品売り場で働いていた話は、女性性という角度から、他者の「視力」と存在認知の関係を匂わせるし、カタストロフ的場面で彼女が、自らは無頓着でいた容姿を「ブス」と批難される必然性にも繋がる。
歯は、開いた口から現れるという点で、言語を連想するし、呑み込む器官、口は、世界と他人を呑み込む点で、自意識に似ている。冒頭での語り手と歯科医の遣り取りは、自意識の奥の言語を取り出して治療する、精神分析のよう。作中、歯が「印象」と呼ばれる型でコピーされる存在である事が語られるのも、実は歯すら確固とした<私>の所在地たり得ない、表層に過ぎない事を暗示しているように感じる。だが、一人称の、わたくし率100%で突っ走った表題作が、三人称へ、つまり主語を持たぬ語りへ移る場面は、歯の「無い」を浮かび上がらせる「印象」も、オリジナルたる歯が最初から不在ならば単なる無でしかあり得ない不安をも示している。
『雪国』冒頭の文章には主語が無い、という話や、その事態を表す「純粋経験」という言葉は、永井均『西田幾多郎 <絶対無>とは何か』が念頭にあった筈。

真っ赤な表紙が挟む白いページが、歯茎の間の歯のように見える装丁は、紙のツルツル感と光沢も手伝って、本が入れ歯に見え、幻覚的。白いカバーが少し小さめで、赤い表紙をチラ見せしていたり、ミニマルだが細かい演出が利いている。
わたくし率 イン 歯ー、または世界 Amazon書評・レビュー: わたくし率 イン 歯ー、または世界より
4062142139
No.7
(4pt)

お口の中と世界の結婚

そこに存在する人の、他の誰とも代わり得ない「たったひとつのそこにある視力」。作中、この「視力」は「痛み」と並んで、私はどこまでも私、という自同律の象徴。人の顔は毎日露出しているから大事な所が薄れるのかも、という語り手の疑惑は、奥歯への執着に導かれる。普段は眼差しから隠されているが、口を開け、鏡に映して自分で見るなり、他人に見せるなり出来る、奥歯。彼女が歯科の前に化粧品売り場で働いていた話は、女性性という角度から、他者の「視力」と存在認知の関係を匂わせるし、カタストロフ的場面で彼女が、自らは無頓着でいた容姿を「ブス」と批難される必然性にも繋がる。
歯は、開いた口から現れるという点で、言語を連想するし、呑み込む器官、口は、世界と他人を呑み込む点で、自意識に似ている。冒頭での語り手と歯科医の遣り取りは、自意識の奥の言語を取り出して治療する、精神分析のよう。作中、歯が「印象」と呼ばれる型でコピーされる存在である事が語られるのも、実は歯すら確固とした<私>の所在地たり得ない、表層に過ぎない事を暗示しているように感じる。だが、一人称の、わたくし率100%で突っ走った表題作が、三人称へ、つまり主語を持たぬ語りへ移る場面は、歯の「無い」を浮かび上がらせる「印象」も、オリジナルたる歯が最初から不在ならば単なる無でしかあり得ない不安をも示している。
『雪国』冒頭の文章には主語が無い、という話や、その事態を表す「純粋経験」という言葉は、永井均『西田幾多郎 <絶対無>とは何か』が念頭にあった筈。

真っ赤な表紙が挟む白いページが、歯茎の間の歯のように見える装丁は、紙のツルツル感と光沢も手伝って、本が入れ歯に見え、幻覚的。白いカバーが少し小さめで、赤い表紙をチラ見せしていたり、ミニマルだが細かい演出が利いている。
わたくし率 イン 歯ー、または世界 (講談社文庫) Amazon書評・レビュー: わたくし率 イン 歯ー、または世界 (講談社文庫)より
4062767104
No.6
(4pt)

著者自身へのレクイエム

わたくし(自分の本質)が奥歯にあると決め込んだ精神錯乱気味の歯科助手の物語で、個々の読者にとって様々な多様性を持って働きかけてくる、とても読み応えのある小説だと思います。

主人公はつきあっている(と想定している)仕事で忙しくて会えない彼への想いを、未来の自分の子供に向けた日記に綴り、歯科では女性医師に苛められますが、既に耐性ができていています。なぜなら少女時代にもっと陰惨ないじめに合っていたから。

そうして、彼の浮気現場で、疾風怒濤の想いを、情緒を含む鋭利な大阪弁でぶちまけ、浮気相手にこれまた鋭利な憎しみを込めた大阪弁で反撃され、、、そして、その足で歯医者に向かい、わたくし=自分の本質=奥歯を、、、して、現実の世界へ舞い降ります。

これは、虚構の「わたくし率イン歯―」の世界から、現実の「わたくし率イン世界」への主人公の成長の物語です。

著者はその日記「そら頭はでかいです。世界はすこんと入ります」で、少女時代に働けど貧しい母親を見て、自分は生まれるべきでなかったと想い悩んで来たと吐露していますが、恐らく本作は、彼女自身が彼女の為に書かざるを得なかった、自分自身へのレクイエムだと思います。
わたくし率 イン 歯ー、または世界 Amazon書評・レビュー: わたくし率 イン 歯ー、または世界より
4062142139
No.5
(4pt)

著者自身へのレクイエム

わたくし(自分の本質)が奥歯にあると決め込んだ精神錯乱気味の歯科助手の物語で、個々の読者にとって様々な多様性を持って働きかけてくる、とても読み応えのある小説だと思います。

主人公はつきあっている(と想定している)仕事で忙しくて会えない彼への想いを、未来の自分の子供に向けた日記に綴り、歯科では女性医師に苛められますが、既に耐性ができていています。なぜなら少女時代にもっと陰惨ないじめに合っていたから。

そうして、彼の浮気現場で、疾風怒濤の想いを、情緒を含む鋭利な大阪弁でぶちまけ、浮気相手にこれまた鋭利な憎しみを込めた大阪弁で反撃され、、、そして、その足で歯医者に向かい、わたくし=自分の本質=奥歯を、、、して、現実の世界へ舞い降ります。

これは、虚構の「わたくし率イン歯―」の世界から、現実の「わたくし率イン世界」への主人公の成長の物語です。

著者はその日記「そら頭はでかいです。世界はすこんと入ります」で、少女時代に働けど貧しい母親を見て、自分は生まれるべきでなかったと想い悩んで来たと吐露していますが、恐らく本作は、彼女自身が彼女の為に書かざるを得なかった、自分自身へのレクイエムだと思います。
わたくし率 イン 歯ー、または世界 (講談社文庫) Amazon書評・レビュー: わたくし率 イン 歯ー、または世界 (講談社文庫)より
4062767104
No.4
(5pt)

不思議な感覚に浸れます

なんとも不思議な読後感だった。一息ついてストーリーを追い直してみる。統合失調症患者の妄想のような一見、支離滅裂な話が続く。自分の奥歯に自我があると「決めた」女が、まだ宿してもいない自分の子どもと中学時代に「自分が知りたい秘密」を教えてくれた男の子へ向けて手紙を書く。その内容は正しく妄想そのもの。しかし、この本のテーマである、わたし、自己意識、自我についての考えは実に深い。哲学の独我論にも通じる。アルバイト先の歯医者でも妄想が続くが、これは自らの影を見ていると思える。そこへ実物のその男が患者としてやってくる。女は男をアパートへ訪ね、怒涛のわたくし論をブっぱなし「奥歯(男の自我)ちょうだい」とたたみかける。それに対峙する男の部屋から出てきた女が、読んでいて笑えるまでに痛快な現実を突きつける。これがクライマックス。後半の展開も興味深い。奥歯を麻酔なしで抜きながら頭に浮かぶのは過去に受けた陰湿ないじめの光景か。最後の3ページには、すべての始まりを予感させるエピソードがこの部分だけは全く普通の文体で書かれている。このリズムはハマる。人物の心を生々しく描写する著者の力はすごい。
もう一つの「感じる専門家 採用試験」での、妊婦の葛藤の描写も妙にリアルで素晴らしい。子どもを生んだことはないだろうに。
「乳と卵」も是非読みたい。
わたくし率 イン 歯ー、または世界 Amazon書評・レビュー: わたくし率 イン 歯ー、または世界より
4062142139
No.3
(5pt)

不思議な感覚に浸れます

なんとも不思議な読後感だった。一息ついてストーリーを追い直してみる。統合失調症患者の妄想のような一見、支離滅裂な話が続く。自分の奥歯に自我があると「決めた」女が、まだ宿してもいない自分の子どもと中学時代に「自分が知りたい秘密」を教えてくれた男の子へ向けて手紙を書く。その内容は正しく妄想そのもの。しかし、この本のテーマである、わたし、自己意識、自我についての考えは実に深い。哲学の独我論にも通じる。アルバイト先の歯医者でも妄想が続くが、これは自らの影を見ていると思える。そこへ実物のその男が患者としてやってくる。女は男をアパートへ訪ね、怒涛のわたくし論をブっぱなし「奥歯(男の自我)ちょうだい」とたたみかける。それに対峙する男の部屋から出てきた女が、読んでいて笑えるまでに痛快な現実を突きつける。これがクライマックス。後半の展開も興味深い。奥歯を麻酔なしで抜きながら頭に浮かぶのは過去に受けた陰湿ないじめの光景か。最後の3ページには、すべての始まりを予感させるエピソードがこの部分だけは全く普通の文体で書かれている。このリズムはハマる。人物の心を生々しく描写する著者の力はすごい。
もう一つの「感じる専門家 採用試験」での、妊婦の葛藤の描写も妙にリアルで素晴らしい。子どもを生んだことはないだろうに。
「乳と卵」も是非読みたい。
わたくし率 イン 歯ー、または世界 (講談社文庫) Amazon書評・レビュー: わたくし率 イン 歯ー、または世界 (講談社文庫)より
4062767104
No.2
(5pt)

想像力を駆り立てて読めました

理解しようと思って読むと、読み進めるのが困難かもしれませんが、細かいことを気にせずに読み流していくと、リズムがあって読みやすく、インディーズ映画のようなポップな映像を思い浮かべることができました。不自然な句読点や無意味そうな表現も、その映像に音響効果や特殊効果をもたらしました。映画にするとかっこよさそうな描写が多くあり、楽しめました。下手に詳しく書かれていない分、想像力を駆り立てて読めました。一方で、自分を見失い、生きる意味を探し求める主人公は、深く描かれており、共感するところも多くありました。帯にあった「ほいでもって泣くで」のコピーは、かなり正しいと思われます。
わたくし率 イン 歯ー、または世界 Amazon書評・レビュー: わたくし率 イン 歯ー、または世界より
4062142139
No.1
(5pt)

想像力を駆り立てて読めました

理解しようと思って読むと、読み進めるのが困難かもしれませんが、細かいことを気にせずに読み流していくと、リズムがあって読みやすく、インディーズ映画のようなポップな映像を思い浮かべることができました。不自然な句読点や無意味そうな表現も、その映像に音響効果や特殊効果をもたらしました。映画にするとかっこよさそうな描写が多くあり、楽しめました。下手に詳しく書かれていない分、想像力を駆り立てて読めました。一方で、自分を見失い、生きる意味を探し求める主人公は、深く描かれており、共感するところも多くありました。帯にあった「ほいでもって泣くで」のコピーは、かなり正しいと思われます。
わたくし率 イン 歯ー、または世界 (講談社文庫) Amazon書評・レビュー: わたくし率 イン 歯ー、または世界 (講談社文庫)より
4062767104