モンマルトルのメグレ
評判
モンマルトルのメグレの評価:
4.50/5点 レビュー 4件。 - ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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モンマルトルのメグレの評価:
4.50/5点 レビュー 4件。 - ランク
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残念なのは、シムノンが書いたおそらくもっとも極悪人といってよい謎の男が、その過去はいつもながらにきっちり明かされるとはいえ、モンマルトルの豪華な隠れ家、その屋内でも二重生活をしているらしい、おそろしく孤独なその相貌が結局のところ、具体的に描写されていないところです。なぜかれは周囲の目にみえなかったのか(わたしには『男の首』の、あたかも『罪と罰』のラスコリーニコフに匹敵したその犯人像を越えるものと、ちょっと期待させられました。ちなみに『サン・フォリアン』はドストエフスキーでいえば『悪霊』です。シムノンは自覚的にやっているでしょう)。そしてなぜ娘の密告沙汰をすばやく知ることができたのか。ミステリーとして一編の核となるこの謎を、シムノンはあっけらかんと省略してしまうのです。
とはいえ、わたしにとってこの作品がいまでも強く印象ぶかくあるのは、いわば本庁刑事らにたいする、所轄の街警察のいち刑事の人間描写がじつにみごとだから。いつも本庁のメグレに殺人事件を取りあげられて、もちまえの沈痛な顔つきに不遇の屈託をかくしている所轄の刑事ロニョンがそれです。
《(メグレも本庁刑事の)同僚たちも、もっとロニョンに親切にしてやってもよさそうなものだが、こればかりはどうにもならない面がある。いつも破局のにおいを追いかけているような、彼の悲痛な表情を目にすると、ついつい肩をすくめてやりすごすか、ニヤリとしてしまいたくなるのだ。彼がいつのまにか悪運と不機嫌にたいする嗜好を持ちはじめているのではないかと、メグレは心ひそかに憂慮していた。それがいつとはしれず悪癖となってしまい、たとえば老人が愚痴のたねにするために気管支カタルを温存するように、後生大事に、その悪癖をかかえこんでしまっているのではないか。》
メグレがその一因を、ロニョンの細君が「彼の生活を愉快なものにする内助の役に立っていない」からだと思案したりするわけですが、だからといってなにか忠告したりするわけでははない。ただしメグレの認識では、ロニョンとじぶんとの決定的な差異は、内助にある(だけ)としていることです。こういうシムノンの眼には、どくとくに酷薄で親身なものがあります。そしてこの作品を忘れがたくする決定打がラストの一文です。モンマルトルの街角で小雨に濡れそぼって寒さに凍えるその姿が、悲痛げで滑稽で。