流
評判
流の評価:
3.76/5点 レビュー 158件。 B ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全158件 61〜80 4/8ページ
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物語の中心は、50年代後半生まれの主人公が過ごす台北だ。祖父の死を探る、というミステリーが軸にはあるものの、それは全体の舞台回しに過ぎない。まだアジアがずっとずっと熱かった時代、人々が理性や情報の洪水よりも、もっと身近な人たちとのぶつかり合いの中に生きていた人生を、青春を、恋を描く大河小説が展開される。主人公は替え玉受験の替え玉役になったことがバレて進学校を退学になり、レールから外れる。幼なじみはやくざの舎弟になり、家族はそれぞれに欠点や秘密を抱える。今風に言えばみんな負け組なのかも知れないが、その一刻一刻を真剣に生きる感情は本物だ。
台湾出身の作者は5歳で日本へ渡ったというから、自伝的小説ではないのだろう。だが、それでもこの青春から大人になるまでの台湾と時代とを描き出す丁寧さ、虚実が入り交じる世界なのに圧倒的なリアルさを描き出す筆致は、自らの経験もふんだんに託した「生涯一度きりの作品」という思いが伝わってくる。
台湾、あるいは中国に触れたことのある人は、ある趣の郷愁を抱くかも知れない。本書から吹き出てくる熱さは、もう今日となっては現地からですら失われながらも、一方でその名残を現地の人たちが今も語りたがる世界だからだ。中でも、色濃く残るのは国民党と共産党、そして日本軍が戦っていたあの戦争の記憶だ。祖父の死にからむミステリーも戦争に行き着くのだが、老人たちはその憎しみをもちろん抱きつつも、「あの戦争はガキの喧嘩みたいだった」と付き合う「大人のすべ」も身につけている。
本書は2015年の直木賞を受賞した。日本社会がほとんど忘れかけていた時代の台湾を描いた小説が、こんにち選考委員の圧倒的な支持を受けたという事実。それは、熱い時代のことなど忘れたこの近隣地域の指導者たちが幼稚とも思える態度でいがみ合うばからしさに、フィクションであるはずの本書がむしろ真実性をつきつけたからでは、とも思える。文庫版の帯は「20年に1度の傑作」と北方謙三氏の評をひいた。人を選ぶけれど、その言葉に恥じない本だ。