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失踪者



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失踪者の評価: 4.31/5点 レビュー 16件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.31pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全15件 1~15 1/1ページ
No.15:
(4pt)

孤独な魂の表白

最近ようやく「失踪者」(元は「アメリカ」と呼ばれていた)を読み、へえ、カフカって人もまともな小説を書こうとしたことがあったのだな、と一瞬思った。
 主人公はカール・ロマンスという十七歳のドイツ人。女性から「可愛いわね」と何度か言われるところからすると、美少年らしい。おかげで、三十代の女中に誘惑されて、孕ませてしまい、両親に家を追い出されて、アメリカへ赴く。カフカ自身はこの新大陸へ行ったことは一度もなく、従ってこの地の描写は読んだり聞いたりしたことから作者がこしらえたものだが、かなりのリアイティを感じさせるのはやはり才能と言うべきだろうか。
 ここで主人公はしょっちゅういさかいばかり起す。招待されて行った銀行家の邸宅では、そこの令嬢と取っ組み合いの喧嘩さえして、しかも負けている(もっとも、勝っていたら、若い女性に暴力を揮ったということで、もっとやっかいなことになっていたろう)。
 そんなこんなで、彼はやっと落ち着いたかな、と思えた場所から必ず追い出される。最後に調理長(女性)の好意で就けたホテルのエレベーター・ボーイの職も逐われる。この部分の筋立ては、濡れ衣を着せられる話で、その経緯はちゃんとわかるように描かれている。
 だから主人公に感情移入しやすいのだが、この作品中の男性たちは、非人間的なまでに厳しく、自分のルールを一方的にカール君に押しつけてきて、しまいには彼を捨ててしまうので、どうも幸福な結末は見えてこない。
 カフカは、チャールズ・ディケンズ「ディビッド・コパフィールド」のような小説が書きたい、と友人のマックス・ブロートに言っていたらしい。これに限らず「オリヴァー・ツイスト」や「大いなる遺産」など、ディケンズの青少年主人公の周りには、悪人も出てくるが、それ以上に親切な人々がいて、主人公を助けるので、彼らは最後には幸せになる。
 どうも都合がよすぎる、いわゆるご都合主義だ、なんて言うのは野暮というもの、それはそういうフィクション(作り事)として楽しむしかない。
 カフカは、読むときはそれでいいとして、自分では書けなかった。才能より、世界観の問題として。だからカール君は、しまいには広大なアメリカ大陸の中で、失踪してしまう、つまり、一定の結末にたどりつく前に消えてしまう。

 さらに言うと、近代の長編小説は、ハッピー・エンドではなくても、首尾一貫した世界を、言葉で構築するものだ。なになにという男/女がいて、かれこれやって、これこれの結末に至る、と。小説だけではなく、一般人でも、自分の体験を人に説明するように求められた時には、嘘をつくつもりはなくても、できごとを取捨選択して、整理して言うので、「事実」とは微妙に違った何かになってしまう。そこまで踏み込むと収拾がつかなくなるので、やめよう。
 とりあえず、バルザックを初めとするリアリズムの大作家たちは、自分から見た世界とは例えばこういうものだ、という雛形を示して見せた。それがどの程度に「事実」に基づくか、作家の頭の中でこしらえたものかは、二次的以下の問題でしかない。ただ、物語全体が、必然性、と感じられるものに貫かれていないと、文字通り話にならない。
 言い換えると、小説とは、普段は現実世界に埋没している一般人に、ある「見通し」を与えるものだと言えるだろう。この場合、作者はいわば神の視点に立つわけで、それ自体が欺瞞と言えば欺瞞だ。なんて言うと前と同じ野暮になる。イヤなら読まなければいいだけの話なんだし。

 でも、自分ではそんな見通しは持てない、と思いつつ、読むだけに止まらず、物語めいたものを書こうとするとどうなるか。
 その一つの実践例が、カフカの三つの長編小説(これを「孤独の三部作」と命名したのは例によってブロート)で、すべて未完になるしかなかった。

 カフカは、この世は不当で不条理な権力構造に支配されているけれど、正当な秩序を与え、善と悪の根拠を、罪と罰の真の照応を、さらには救済をもたらす何か(やっぱりベースはユダヤ教かなあ)はあると信じた、あるいは信じたがっていた。「失踪者」含めて、彼の長編の試みは、すべてこの信念の表白なのである
失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)Amazon書評・レビュー:失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)より
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No.14:
(5pt)

失踪者──アメリカ

ロードノベルのような体裁のおかげでカフカの長編作品の中でも
読みやすくとても楽しく読める作品です。
移動が多いのでわくわくする展開が非常に多いです。
一章の火夫からカフカ特有のすばらしくうまい孤独の描写が始まり、
アメリカに到着して客が下りたあとの船内の空気がすっと変わる瞬間は圧巻です。
どこにいても主人公には不安と孤独が付きまとい、
シュールな笑いとグロテスクな人びとや不穏な気配の描写があります。
他の小説にも出てくるようなコミカルな登場人物も顕在で
この失踪者にもやはり二人組が出てきます。

失踪者も例にもれずカフカでは当然のような未完の作品ですが、
そんなものまったく気にならず最後まで楽しく読めてしまいます。
カフカの作品はオチなどより、読んでいる瞬間がとても楽しいです。
まだ読みたい、まだ読んでいたいと思っているうちにいつの間にか最後のページになり、
読後も物語はいつまでも続いているような不思議に高揚する気持ちにさせてくれます。
とても好きな作品です。
失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)Amazon書評・レビュー:失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)より
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No.13:
(4pt)

カフカ的ロマン小説

"カール・ロスマンは、いましも汽船が速力を落としてゆるゆるとニューヨークの港に入って行ったとき、ずっと前から目をそそいでいた自由の女神の像がとつぜん一段とつよくなった日光にまぶしく照らし出されたような気がしたものだ。"1927年発刊の本書は『孤独の三部作』中、最も具体的な物語。

個人的には著者の長編、いわゆる『孤独の三部作』のうち『審判』『城』は既読であったので、マックス・ブロート刊行時『アメリカ』、現在は著者の予定していた『失踪者』と呼ばれる本書も手にとってみました。

さて、そんな本書は著者の実際の【従兄弟のエピソードに着想を得て書かれた作品で】年上の女中に誘惑されたばかりに、両親にやっかいばらいにされた16歳の美少年、カール・ロスマンが故国ドイツから未知なる新世界アメリカへと渡る事になり、ニューヨークの裕福な叔父にしばらく面倒をみてもらうも一転、何とも【不可解な理由で追い出されて】放浪の旅を続けることになってしまうのですが。。

まず、他の二作『審判』や『城』あるいは『変身』といった他の代表作のイメージから、同じく【抽象的、明確に語られない世界観】かと思いきや、著者が【ディケンズ風のロマン小説(!)を書こうと意識した】とも言われる本書。映画タイタニックを何故か彷彿とさせるような、いかにも"新世界で冒険が始まるぞ!"という冒頭からの現実的な描写、また、他の長編二作の『記号的なK』に対して【善良で正義感溢れる】理想的な主人公カール・ロスマンといった主人公の人物設定には戸惑いと、率直に言えば(自分の求めている)【カフカ作品はコレじゃない】と強烈な違和感を感じました。

また一方で、せっかく他の長編二作にくらべて、理想的であり古典的でもある主人公を登場させているにも関わらず【取り巻く登場人物に関してはやはりカフカエスク(不条理)】で、主人公に心情を重ねながら読み進めると【異様にストレスフルな展開】なんですが(しかも未完)どこか『あっ、こちらはカフカらしい』と安定感を覚えてしまうのは良いのか悪いのか?いずれにしろ【インディーズのパンクバンドが突然、王道ポップバンドに路線変更したような】戸惑い続けた読後感でした。

抽象的な一般イメージとは一味違う作品として。また著者の『想像力だけで描かれたアメリカ』の描写に興味ある方にもオススメ。
失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)Amazon書評・レビュー:失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)より
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No.12:
(4pt)

カフカを堪能できます。

「変身」、「審判」、「短編集」などにいつもある、カフカ独特の「ゾクッとさせられる感性」をこの小説でも堪能できました。
失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)Amazon書評・レビュー:失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)より
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No.11:
(4pt)

カフカの長編は読みやすい

章ごとに強弱があって読みやすい、難しく読む必要はない 長編三部作の中では一番読みやすくライトだと思う ハードな読書家には軽すぎるような気もする 後半に気がつくと妙に湿った世界に巻き込まれる、それはやはり幻想的で変わっている世界
失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)Amazon書評・レビュー:失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)より
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No.10:
(4pt)

解釈を超えて読者を惹きつけるテキスト

カフカの作品について解釈したり解釈を述べたりするのはやはりとても難しいと思った。
あれれ、あれあれ、と思っているうちに読了。主人公はこのままどこに落ち着くともなく転がり続けていくのだろう。
その意味で、池内紀氏が言うように、この小説は未完なのではなく終わりをもたないというのも納得できた。

カフカはこれまで『変身』『訴訟』『流刑地にて』くらいしか読んでいないが、
彼のすごいところは、彼の頭の中のイメージとユーモアのセンスからそのまま出てきたかのような物語の断片が、
たとえ整理されていなくとも、そのままで独特の作品世界がおぼろげに形成されていること、
またテキストが特定の解釈を拒む一方で、その世界観がどういうわけか無意味という意味を何らかの形で含意しているように感じられることではないかと思う。
後続の作家に彼の影響を受けた人が大変多いのも、彼の作品が不毛で不条理な現実をある意味ユーモラスに映し出しているからなのだろう。

確たる解釈には未だたどり着かず、作品世界をそのまま受け止めようとしてみたが受け止めきれない状態である。
しかしカフカは読めば読むほど興味の湧く作家だ。
引き続き『城』や『断食芸人』も読みたいと思う。
失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)Amazon書評・レビュー:失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)より
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No.9:
(4pt)

終わりなき失踪の物語

『失踪者』は、両親から追い出されたカール・ロスマンがアメリカを旅する物語です。主人公が理不尽な理由で何度も集団から排斥されたり、物語に明確なオチがなく唐突に終わったりするところがいかにもカフカらしいと思います。
カフカはもともとこの小説に『失踪者』という題名を付けていましたが、友人のブロートがこの小説を独断と偏見で編集して『アメリカ』という題名を付けたことが知られています。

作中では、サービス業が発達したアメリカの都市がけっこう批判的に描かれています。カフカは実際のアメリカにあまり詳しくなかったそうですが、カフカのイメージが生み出したアメリカはとても現代的な発展を遂げています。物語の主な舞台がアメリカだということもあり、他のカフカ作品とは違った英米文学のような情景描写や会話を堪能できる異色な作品でした。アメリカ人ではないヨーロッパ人の立場から、アメリカ的な現代の都市を相対的に見る視野が得られる作品だと思います。
巻末解説によると、「失踪者」という言葉には、「行方を絶ち、法的に失踪を宣告された者」というニュアンスがあるそうです。明確な身分を持たず、システム(カフカらしい言い回しを用いれば「掟」)から外れた主人公の生き様が、「失踪者」という名前にふさわしいと思いました。
失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)Amazon書評・レビュー:失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)より
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No.8:
(5pt)

文句なし

カフカもヴォルフも素晴らしい。カフカの小説は例によって不可思議。アメリカをさ迷う男。「ライ麦畑」とは似ていませんが。翻訳もいいでしょう。
失踪者/カッサンドラ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-2)Amazon書評・レビュー:失踪者/カッサンドラ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-2)より
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No.7:
(4pt)

でも生きるのだ

『失踪者』
この小説はカフカの中では異色である。
『変身』のグレゴール・ザムザも『審判』のヨーゼフ・Kも、
『城』のKも、厳しい現実に翻弄され、あきらめ、折り合いをつけていく。
主人公の17歳のカールは、もう笑えないほど理不尽にボロボロにされるのだけれども、
決してあきらめない。いつも前向きで、希望に満ちている。カフカにしては珍しく。
そう、これは青年が社会にもまれ、成長していく青春小説なのだ。
カフカが書いた唯一の青春小説、といえるんじゃないかな。

『カッサンドラ』
ギリシア神話の知識が全くないぼくには正直とっつきにくかった。
しかも、文体も独特。しかし、読み進めるにつれてその文体に慣れ、
そのわかりづらさがむしろ味わい深くなり、神話の世界もおのずと理解ができてくる。
小説であるが、美しい叙事詩をきいていたかのような、すばらしい作品なのである。
ただ『失踪者』を読んでそのままの流れで読むと、
文体と世界が違いすぎてしばらく入れないので、一呼吸おくのがいいですね。
あと、ギリシア神話の知識があればもっと楽しめただろうな。
『オデュッセウス』や『アガメームノン』を読んでたらよかった。せめて映画の『トロイ』でも観とけばよかったかな。

祖国を出ざるを得なかったカール、祖国に残らざるを得なかったカッサンドラ。
その二人の共通点は、自分の所属する国がどうなろうが、それに侵されずに自分の良心に従う純粋なる魂。
国がどうなろうが、環境がどうなろうが、生きるのだ。ただ、自分の良心にのみ従って。
国や共同体が揺れている現在に、ぼくは彼らのように誇り高く自分の良心に従って行動ができるのだろうか。
考えさせられる良書であった。
失踪者/カッサンドラ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-2)Amazon書評・レビュー:失踪者/カッサンドラ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-2)より
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No.6:
(5pt)

失踪者が良かった

若い時に「変身」を読んで、
絶賛されるほどの感興を覚えなかったことから、
なんとなくカフカを遠ざけていたような気がする。

久しぶりに読んだ失踪者は、明らかに未完ではあったが、
自分なりに人生の年季を積んでカフカを読んだからか、
生きることの理不尽さや寂しさ、出所不明の不安を、
実感を伴って読みとることができた。そして、
若かったころの右往左往を幾度となく思い返した。

だからと言ってこの小説は、
決して人間の卑小さを笑った物語ではない。むしろ、
油断も隙もない世界に、同意なく産み落とされたことを了知せよと、
警鐘を鳴らしてくれているかのような温かみすら感じた。
陰気で奇抜な読み物ではなく、生への発奮を促される小説だった。

現実離れした展開も、カフカの筆力によって、
荒唐無稽な感じは全くない。

カッサンドラは、少し難しかった。
人物相関図をメモリながら、読み進めるのがいい。
失踪者/カッサンドラ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-2)Amazon書評・レビュー:失踪者/カッサンドラ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-2)より
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No.5:
(5pt)

危機と自己解放のプリズム

「カッサンドラ」誤解だったとしても後ろを振り向いても自然を美しいと思っても人間が醜いと思っても自分自身の語りは大人の現実を踏まえていて疾走感も昂揚感も天に届きそうな透明感もある 守れたことないとしても繁栄の手ごたえがなくても まぎれもない自分だけの心に万歳し
沸騰する泡のように心象風景が自分自身だけの雄叫びが矢継ぎ早に繰り出される 凶暴が忌まれなかった古代世界を動かす力に乗って
自分自身のやるせなさを よどみなく颯爽と高音で孤独も時代も突き抜ける心の影や闇を悟り 性にも暴力にも自失せず
呪われてもなり下がらず歌い上げていく 冒頭はフランス系文学に近いのかと思って読み進んだが
フランス系女流作家たちが得意とする自意識と想像力の浮き沈みのなかで 憧れ 咲き誇る瞬間も問いつめられる瞬間も錯綜する
闇に騙されず 自分ならではの光であっても他者と対話できる余地があり 生きることの恐怖を読者とともに乗りこえる
狂気との競演 自分らしさの由来と現実との融合が 実人生の不幸を来世(後世)的至芸にまとめ上げるのではない
どちらかと言えば 本書は他者も状況も本質的に一面的にとらえ 現実との接点を探り 殉教的とさえ言えるかも知れない
ドイツ的な禁欲 心の闇も攻撃的すぎないけれど 政治も女心も わたしには なんだか骨組ばかりに思える
カッサンドラは自分が持っているものを台無しにしない理性があり すべてと距離を置き すれ違い 愛憎を叫ばず 義務をこなす優等生
勝気であっても内面を協調に整え 大自然に深呼吸し 悟るカッサンドラ 数多の人格の 人生の危機を他者を理解しつつ
いかに平静で柔軟な内面を保つかという独白文学
フランス系文学では傷だらけの孤独から普遍性にたどり着くが 本書は 極力 孤立をさけ 理性に踏みとどまっている
失踪者/カッサンドラ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-2)Amazon書評・レビュー:失踪者/カッサンドラ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-2)より
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No.4:
(4pt)

不条理大陸「アメリカ」の失踪者

旧角川文庫から出版されていた『アメリカ』とこの『失踪者』を読み比べてみて……
 カフカ作品は実に特有の不条理にて始まるのだが、本作でも「変身する」するように、「訴えられる」ように、アメリカにある意味「追放される」。そこは何の地図もない土地だ。『アメリカ』/『失踪者』を読んでみてまず感じることは、作者フランツ・カフカ自身、「アメリカ」という土地を全く知らなかったのではないか、ということだ。
 『失踪者』はその未知の大陸で、主人公カール・ロスマンがすったもんだの末(←稚拙な表現で失礼)、失踪し、物語(ないしはアンチ物語)はその中心を失って、漁網がほどけていってしまうかのごとく、終わる。
 話の大筋をいってしまえば、カフカ特有の不条理。
 だが、『失踪者』においては『審判』『城』といった作品に比べ、幾分、諧謔味があるといえよう。
 それがこの著書の楽しみではないか? ただ単に不条理なだけではなく、それが滑稽な・不器用な人間味として描かれている。
 カフカの他の長編より、むしろ短篇のテイストに近いのではないかと私は思う。
 故に『審判』『城』『変身』に「現代人間が抱え持つ悲運な運命」といったお堅い(←失礼)ものを見出し、本書を読むと、やや肩すかしを受けるのではないか、と思われる。
 が、ある種、新鮮なカフカ像(と、その作品像)をここにみることも可能ではないだろうか。
失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)Amazon書評・レビュー:失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)より
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No.3:
(4pt)

カッサンドラは良かった

世界文学全集の1冊。
ともにドイツ語圏の作家。
カフカは昔読んだことがあったが、これは初読。しかし、これはあまり好みではない。このシリーズに入れるのであれば、他にもあるような気がするが...
それよりもヴォルフの『カッサンドラ』の方が面白かった。トロイア戦争を題材にしたもので、預言者カッサンドラのモノローグで占められたこの小説は、元の話を知らない私でも。引き込まれていく魅力のある小説だ。
失踪者/カッサンドラ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-2)Amazon書評・レビュー:失踪者/カッサンドラ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-2)より
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No.2:
(5pt)

クリスタヴォルフ

是非クリスタヴォルフの”クリスタ・Tの追想”を再翻訳して欲しいです。
失踪者/カッサンドラ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-2)Amazon書評・レビュー:失踪者/カッサンドラ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-2)より
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No.1:
(5pt)

ざらついた現実を描いた冒険譚

以前、角川文庫などで『アメリカ』として知られたものの作者手稿による新訳。面白い。
いきなり「女中に誘惑され」、その女中に子供が出来たために、アメリカに旅立って自由の女神像を拝む冒頭から、下船する間際に上院議員の伯父に出会い、上流生活からアメリカ生活をスタート。しかし、急転直下、その伯父の気分を損ね風来坊に落魄れ、エレベーター・ボーイの職を得る展開が、お話としても面白く、そのくせ淡々としたカウリスマキの映画を観ているようだ。しかも、カフカには珍しくニューヨークやその郊外の匂いまで漂ってくる。
死後の焼却を願っていた作者にしてみれば、全ての長編が習作だったのだから、本作品などは習作も習作、ひょっとするとカフカのものとわからなければ、今日の出版すら覚束ないものかもしれない。しかし、不条理などといった手垢にまみれた言葉ではなく、まさにリアルな手触り、「他者」の気配がムンムンする。原田義人訳の『アメリカ』よりも、池内訳は全体的に緩い。それが、独特な雰囲気を醸し出していると、ドイツ語を解さない評者は勝手な感想を抱いた。

池内紀訳では、カネッティの『眩暈』が秀逸であった。勿論、これは原作の素晴らしさだろう。私見では『眩暈』はカフカの『城』を超える世界文学である。
失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)Amazon書評・レビュー:失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)より
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