ハーモニー

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評判

ハーモニーの評価:

4.16/5点 レビュー 253件。 A ランク

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平均点4.16pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全394件 301〜320 16/20ページ
No.94
(4pt)

人であることの痛み

「誰も病気で死ぬことがない世界」
ある年齢になるとWatchMeというソフトウエアを体にインストールし、体内の恒常性を常時監視する。
それはメディケアシステムと繋がっており、異常に対して万全の予防を自動的に行う。
アルコールもジャンクフードもタバコもない世界。
太りすぎもやせ過ぎもない世界。
この社会が唯一是とするのは生命至上主義。
すなわち社会の成員全員が自分の/他人の健康を最大限に尊重すること。
テクノロジーによる高度医療社会は一見ユートピアにも思える。
一切の痛みのないからだが、すっかり「わたし」と切り離された世界で繰り返し問われる“人間は、なぜ人間なのか”

人間が動物である部分と社会的な存在であることの折り合いって難しい…。
上質なSFは哲学的なトーンになるものです。

もうしばらくはこの小説のいわんとしていることをじっくり考えたいと思います。
ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)より
415208992X
No.93
(4pt)

人であることの痛み

「誰も病気で死ぬことがない世界」
ある年齢になるとWatchMeというソフトウエアを体にインストールし、体内の恒常性を常時監視する。
それはメディケアシステムと繋がっており、異常に対して万全の予防を自動的に行う。
アルコールもジャンクフードもタバコもない世界。
太りすぎもやせ過ぎもない世界。
この社会が唯一是とするのは生命至上主義。
すなわち社会の成員全員が自分の/他人の健康を最大限に尊重すること。
テクノロジーによる高度医療社会は一見ユートピアにも思える。
一切の痛みのないからだが、すっかり「わたし」と切り離された世界で繰り返し問われる“人間は、なぜ人間なのか”

人間が動物である部分と社会的な存在であることの折り合いって難しい…。
上質なSFは哲学的なトーンになるものです。

もうしばらくはこの小説のいわんとしていることをじっくり考えたいと思います。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.92
(5pt)

ライトノベル感覚でありながら、本格的SFの感覚

シンプルな白一色の装丁が、逆に期待を膨らませる「ハーモニー」文庫版。

近未来、体内に埋め込まれたナノマシンにより、大人たちは未然に病気を防げる世界。

理想的ともいえる超福祉・健康管理社会において、子供たちがとった反抗。

html記述のような文体で綴られる物語には、ライトノベル的な読みやすさと、本格的なSF的展開が同居しています。

この文体自体にも伏線が張られているところも見事です(これ以上は未読の方に悪いので伏せますが)。

ライトノベル的、という意味では、ヒロイン達のDQNネームの斜め上を行く名前もそうですが、実在するライトノベルをネタにしたようなセリフもあり、その部分もオマケ的に楽しめます。

所々にドキッとさせられるセリフ、そして現在進行形のIT技術の進化の果てを予測したような未来の社会。

読了後に「ハーモニー」というタイトルが、何を指しているかが分かったとき、ちょっと背筋が寒くなりました。

気軽に読みはじめ、深く考えることもできる1冊です。
ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)より
415208992X
No.91
(5pt)

ライトノベル感覚でありながら、本格的SFの感覚

シンプルな白一色の装丁が、逆に期待を膨らませる「ハーモニー」文庫版。

近未来、体内に埋め込まれたナノマシンにより、大人たちは未然に病気を防げる世界。

理想的ともいえる超福祉・健康管理社会において、子供たちがとった反抗。

html記述のような文体で綴られる物語には、ライトノベル的な読みやすさと、本格的なSF的展開が同居しています。

この文体自体にも伏線が張られているところも見事です(これ以上は未読の方に悪いので伏せますが)。

ライトノベル的、という意味では、ヒロイン達のDQNネームの斜め上を行く名前もそうですが、実在するライトノベルをネタにしたようなセリフもあり、その部分もオマケ的に楽しめます。

所々にドキッとさせられるセリフ、そして現在進行形のIT技術の進化の果てを予測したような未来の社会。

読了後に「ハーモニー」というタイトルが、何を指しているかが分かったとき、ちょっと背筋が寒くなりました。

気軽に読みはじめ、深く考えることもできる1冊です。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.90
(5pt)

絶望的なユートピアと無謀な試みに、彼の魂は救われたのか

わたしという一人称で語られる、人類という種が到達し得る一つの絶望的なユートピアの姿を描いた類稀なるSF小説です。ゼロ年代ベストとの評価は妥当だと思います。

詳細はネタバレになるので避けますが、時代とテクノロジーの流れとしては『虐殺器官』から繋がっていてより未来の話になっているものの、人間の社会とテクノロジーある種のロジカルな発展をしていった末の姿としての違和感はなく、それゆえに恐ろしくもあります。一人称が女性になったせいか、物語の雰囲気としては前作よりも物静かに感じますが、取り扱っているてテーマはより人間という動物の進化に対する深い仮説から成り立っています。

色んな作品へのオマージュに作者の遊びゴコロを感じつつも、作者が実生活で死を見据えた病と格闘する中で記したこの小説が、構成員がみな健康的に生きられる社会と自分の意識の死というものを救い得る物語をそれらに対して否定的な『わたし』の視点から書いているところに、作者自身の死に対する距離感をもった諦観や解放などの感情と、意識を失うことへの憧れと恐怖、を感じてしまいます。

さらに言うなれば、『わたし』の消失を『わたし』が記録することは、体験できる死が常に誰かの死でしかないように原理的には不可能なので、この『わたし』による記録という形式でこの小説を書いたことは、自分の死を描こうとしているような無謀なトライアルに筆者がのぞんでいるように思えてなりません。ひょっとしたら、その無謀な試みにこそ読者は感動させられるのかもしれません。

この絶望的なユートピアと消失する『わたし』を描くことで、少しでも彼の魂が救われたことを切に願ってやみません。
ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)より
415208992X
No.89
(5pt)

絶望的なユートピアと無謀な試みに、彼の魂は救われたのか

わたしという一人称で語られる、人類という種が到達し得る一つの絶望的なユートピアの姿を描いた類稀なるSF小説です。ゼロ年代ベストとの評価は妥当だと思います。

詳細はネタバレになるので避けますが、時代とテクノロジーの流れとしては『虐殺器官』から繋がっていてより未来の話になっているものの、人間の社会とテクノロジーある種のロジカルな発展をしていった末の姿としての違和感はなく、それゆえに恐ろしくもあります。一人称が女性になったせいか、物語の雰囲気としては前作よりも物静かに感じますが、取り扱っているてテーマはより人間という動物の進化に対する深い仮説から成り立っています。

色んな作品へのオマージュに作者の遊びゴコロを感じつつも、作者が実生活で死を見据えた病と格闘する中で記したこの小説が、構成員がみな健康的に生きられる社会と自分の意識の死というものを救い得る物語をそれらに対して否定的な『わたし』の視点から書いているところに、作者自身の死に対する距離感をもった諦観や解放などの感情と、意識を失うことへの憧れと恐怖、を感じてしまいます。

さらに言うなれば、『わたし』の消失を『わたし』が記録することは、体験できる死が常に誰かの死でしかないように原理的には不可能なので、この『わたし』による記録という形式でこの小説を書いたことは、自分の死を描こうとしているような無謀なトライアルに筆者がのぞんでいるように思えてなりません。ひょっとしたら、その無謀な試みにこそ読者は感動させられるのかもしれません。

この絶望的なユートピアと消失する『わたし』を描くことで、少しでも彼の魂が救われたことを切に願ってやみません。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.88
(5pt)

「完全なるユウトピア」の可能性

芥川龍之介は「人間性そのものを変えないとすれば、完全なるユウトピアの生まれる筈はない。人間性そのものを変えるとすれば、完全なるユウトピアと思ったものもたちまちまた不完全に感ぜられてしまう」と書いた.ならばさらに徹底的に人間性を変えて,「不完全に感じ」る能力すらなくしてしまえばどうか?

人為的に人の感情をなくすことが出来たらという想定に基づいて書かれたのが本作.人為的に人の感情を増幅させることが出来たらという想定に基づいて書かれた『虐殺器官』とちょうど表裏をなす.
ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)より
415208992X
No.87
(5pt)

「完全なるユウトピア」の可能性

芥川龍之介は「人間性そのものを変えないとすれば、完全なるユウトピアの生まれる筈はない。人間性そのものを変えるとすれば、完全なるユウトピアと思ったものもたちまちまた不完全に感ぜられてしまう」と書いた.ならばさらに徹底的に人間性を変えて,「不完全に感じ」る能力すらなくしてしまえばどうか?

人為的に人の感情をなくすことが出来たらという想定に基づいて書かれたのが本作.人為的に人の感情を増幅させることが出来たらという想定に基づいて書かれた『虐殺器官』とちょうど表裏をなす.
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.86
(5pt)

NGワード:ゼロ年代/セカイ系/ラノベ/携帯小説

完全に余談になりますが、
SFとして、また作家の評判から手に取った人には「ラノベ臭せー、セカイ系っつのコレ? エヴァ好き?」と言われ、
かといってそれを真に受けてラノベを求めている人に読ませりゃ「文多いし挿絵ないし無理」と言われよう、
そんな本って多いですよね。
ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)より
415208992X
No.85
(5pt)

NGワード:ゼロ年代/セカイ系/ラノベ/携帯小説

完全に余談になりますが、
SFとして、また作家の評判から手に取った人には「ラノベ臭せー、セカイ系っつのコレ? エヴァ好き?」と言われ、
かといってそれを真に受けてラノベを求めている人に読ませりゃ「文多いし挿絵ないし無理」と言われよう、
そんな本って多いですよね。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.84
(5pt)

細けえことはいいんだよ面白きゃ

40過ぎたSF好きのおっさんでも十分面白く読めましたよ。まあ年と共に細かな瑕疵や甘さなんかは生温かく見過ごせるようになってきたこともあるが。今高校生位の奴らがその年齢でこの本が読めるのは幸せだろうなと思う。時にこれラノベなの?あんましライトじゃない気もするけど、ラノベ読んだこと無いから分かんねえんだよな。中3の娘に読ましてもいいかな?ちょっと早いか?
ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)より
415208992X
No.83
(5pt)

細けえことはいいんだよ面白きゃ

40過ぎたSF好きのおっさんでも十分面白く読めましたよ。まあ年と共に細かな瑕疵や甘さなんかは生温かく見過ごせるようになってきたこともあるが。今高校生位の奴らがその年齢でこの本が読めるのは幸せだろうなと思う。時にこれラノベなの?あんましライトじゃない気もするけど、ラノベ読んだこと無いから分かんねえんだよな。中3の娘に読ましてもいいかな?ちょっと早いか?
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.82
(4pt)

「小説としての前提を否定する小説」という発想

伊藤計劃が優れた作家であるのは認める。だが、エンターテインメントとしてうますぎる事が小説としての出来にマイナスに働くように感じられるので個人的にはあまり好きな作家ではない。しかし、それでも本書はかなりいい線をいっていると思う。

『虐殺器官』は読みやすくて面白い小説ではあったが、内容は納得いかなかった。表現は正しいが内容は間違っていると感じた。本作『ハーモニー』は読みにくいしプロットもそれほど効果的とも思えない。だが、洞察は実にするどい。表現は間違っているが内容は正しいのだ。ミシェル・フーコーの思想をこれだけ的確に物語に組み入れた小説は他にない。私は『虐殺器官』より『ハーモニー』の方を高く評価する。

ただ、本書が小説として面白いかとなると今一歩の感がある。深い小説ではあるが、傑作ではない。各所で高評価されているが、過大評価ではないだろうか。ちなみに、伊藤氏の作品で一番出来がいいのは、中編の『The Indifference Engine』だと思う。
ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)より
415208992X
No.81
(4pt)

「小説としての前提を否定する小説」という発想

伊藤計劃が優れた作家であるのは認める。だが、エンターテインメントとしてうますぎる事が小説としての出来にマイナスに働くように感じられるので個人的にはあまり好きな作家ではない。しかし、それでも本書はかなりいい線をいっていると思う。

『虐殺器官』は読みやすくて面白い小説ではあったが、内容は納得いかなかった。表現は正しいが内容は間違っていると感じた。本作『ハーモニー』は読みにくいしプロットもそれほど効果的とも思えない。だが、洞察は実にするどい。表現は間違っているが内容は正しいのだ。ミシェル・フーコーの思想をこれだけ的確に物語に組み入れた小説は他にない。私は『虐殺器官』より『ハーモニー』の方を高く評価する。

ただ、本書が小説として面白いかとなると今一歩の感がある。深い小説ではあるが、傑作ではない。各所で高評価されているが、過大評価ではないだろうか。ちなみに、伊藤氏の作品で一番出来がいいのは、中編の『The Indifference Engine』だと思う。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.80
(4pt)

人間の行きつく先

久しぶりにSFにはまりました。究極の医療社会を設定していますが、それはすなわち、人間の意識さえも不必要な社会である。科学を発達させどんどん便利になって行くが、その先に一体なにが待ち受けているのか。筆者が病床で命と真摯に向き合い到達した一つの世界。
 この作品のおかげでまたSFにはまりだしました。
ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)より
415208992X
No.79
(4pt)

人間の行きつく先

久しぶりにSFにはまりました。究極の医療社会を設定していますが、それはすなわち、人間の意識さえも不必要な社会である。科学を発達させどんどん便利になって行くが、その先に一体なにが待ち受けているのか。筆者が病床で命と真摯に向き合い到達した一つの世界。
 この作品のおかげでまたSFにはまりだしました。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.78
(4pt)

この小説はナンセンス

この本はナンセンスである。
ここでナンセンスというのは「つまらない」ということではない。
記述不可能なことを記述しようとしていて、言葉が「意味をなさない」のである。

物語は、世界中から「わたし」が消滅することで終わる。
自我とか、自己意識とか、「わたしはわたしだ」という、そういう「わたし」なるものが、世界中から消える。
そしてそれは世界の調和、つまり「ハーモニー」を意味する。

主人公は世界で最後の「わたし」であり、この小説は、その最後の「わたし」によって語られた「記録」ということになる。

もちろん、「わたし」が消えたからといって人類が滅亡するわけではない。
これまで通り人々は生まれ、育ち、老い、死ぬ。人間の思考力も、これまでと変わらない。
何一つ変わることなく、世界は存続する。ただ、そこに「わたし」だけが存在しないのである。

このように奇妙な世界の到来を、本作は描ききっている。
良質なSFはすべからく哲学的トーンを帯びるものだが、この『ハーモニー』もまた例外ではない。

しかし、である。このような「出来事」は、本当に語られ得るのだろうか?
「わたしから「わたし」が消えた」、このような命題を語っているのは、一体誰なのか?

物語の語り手たる主人公は、最後まで「わたし」として物語を語る。
それは、「わたし」が「わたし」であることが何かを「物語る」ための条件だからである。
物語には、「語るわたし」がいて、「聞くわたし」がいる。たとえそれが形式上の「しきたり」に過ぎなくとも、物語はその枠組なしには語られ得ない。
だから、この物語は、「わたし」の消滅に「臨んでいる」こと、「今まさに「わたし」が消滅しようとしている」ことは語れても、
「わたしが消えてしまった」ことは語れない。「わたし」の非存在に、語りは届かない。

この小説は、「言語の限界」に向かって肉薄している。
そしてそれゆえに、その試みは決定的に失敗している。

この小説は決して(つまらないという意味で)ナンセンスではない。
読んで感銘を受ける私のような読者がいることが、それを証明している。
しかし、ここで語られたことはやはりナンセンスなのだ。意味をなさないのだ。

では、私たちは一体何に感銘を受けたというのか?
おそらく、それはこの小説が「語り得なかったこと」について、であろう。

伊藤計画氏は間違いなく一時代を画する希有な書き手である。夭折が惜しまれる。

付記
誤解のないように(あるいは、さらなる誤解を招くように?)云っておきたい。
世界から「わたし」なるものが消え去っても、相変わらず人間達は自分の一人称を「わたし」と呼ぶだろう。
消え去ったのは、「わたし」という語によって語られている対象としての「わたし」ではなく、その「わたし」を「わたし」と自覚する「わたし」の方である。

それは、もし自分とまったく同じクローンを生み出したとしても、コピーすることのできないような唯一無二の「わたし」であり、実は「わたし」という普通名詞では名指すことのできないような、超越論的なわたしである。
ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)より
415208992X
No.77
(4pt)

この小説はナンセンス

この本はナンセンスである。
ここでナンセンスというのは「つまらない」ということではない。
記述不可能なことを記述しようとしていて、言葉が「意味をなさない」のである。

物語は、世界中から「わたし」が消滅することで終わる。
自我とか、自己意識とか、「わたしはわたしだ」という、そういう「わたし」なるものが、世界中から消える。
そしてそれは世界の調和、つまり「ハーモニー」を意味する。

主人公は世界で最後の「わたし」であり、この小説は、その最後の「わたし」によって語られた「記録」ということになる。

もちろん、「わたし」が消えたからといって人類が滅亡するわけではない。
これまで通り人々は生まれ、育ち、老い、死ぬ。人間の思考力も、これまでと変わらない。
何一つ変わることなく、世界は存続する。ただ、そこに「わたし」だけが存在しないのである。

このように奇妙な世界の到来を、本作は描ききっている。
良質なSFはすべからく哲学的トーンを帯びるものだが、この『ハーモニー』もまた例外ではない。

しかし、である。このような「出来事」は、本当に語られ得るのだろうか?
「わたしから「わたし」が消えた」、このような命題を語っているのは、一体誰なのか?

物語の語り手たる主人公は、最後まで「わたし」として物語を語る。
それは、「わたし」が「わたし」であることが何かを「物語る」ための条件だからである。
物語には、「語るわたし」がいて、「聞くわたし」がいる。たとえそれが形式上の「しきたり」に過ぎなくとも、物語はその枠組なしには語られ得ない。
だから、この物語は、「わたし」の消滅に「臨んでいる」こと、「今まさに「わたし」が消滅しようとしている」ことは語れても、
「わたしが消えてしまった」ことは語れない。「わたし」の非存在に、語りは届かない。

この小説は、「言語の限界」に向かって肉薄している。
そしてそれゆえに、その試みは決定的に失敗している。

この小説は決して(つまらないという意味で)ナンセンスではない。
読んで感銘を受ける私のような読者がいることが、それを証明している。
しかし、ここで語られたことはやはりナンセンスなのだ。意味をなさないのだ。

では、私たちは一体何に感銘を受けたというのか?
おそらく、それはこの小説が「語り得なかったこと」について、であろう。

伊藤計画氏は間違いなく一時代を画する希有な書き手である。夭折が惜しまれる。

付記
誤解のないように(あるいは、さらなる誤解を招くように?)云っておきたい。
世界から「わたし」なるものが消え去っても、相変わらず人間達は自分の一人称を「わたし」と呼ぶだろう。
消え去ったのは、「わたし」という語によって語られている対象としての「わたし」ではなく、その「わたし」を「わたし」と自覚する「わたし」の方である。

それは、もし自分とまったく同じクローンを生み出したとしても、コピーすることのできないような唯一無二の「わたし」であり、実は「わたし」という普通名詞では名指すことのできないような、超越論的なわたしである。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.76
(5pt)

拍手、そして合掌

2008年発表。 34歳で惜しくも夭折してしまった伊藤計劃の最終作にして、幼年期の終り (ハヤカワ文庫 SF (341))、ブラッド・ミュージック (ハヤカワ文庫SF)に次ぐ、新たなる人類の到来を描いた傑作。意識ある私たちは偉業に拍手し、そして合掌しよう。
ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)より
415208992X
No.75
(5pt)

割り引いても星五つ

下記のように瑕疵はあるのですが、割り引いても星五つ。一気に読まされました。

1.ミァハはチェチェンで酷い目にあってから、日本に来てトァンに出会う。この時間軸に、微妙に無理押しな感がある。ロシア兵士って、この年齢の子に欲情するかな?とか、銃を口に云々が借りて来たエピソードみたい、とか。日本に来て数年だと、もう少し帰国子女っぽさというか何かありそう、とか。

2.トァンは、双方の陣営に泳がされていたということで、双方の筆頭格のイデオローグと対話を交わすことが出来る。
このうち、特にトァンの父が無防備に出てきて 比較的あっさりと殺されてしまう。双方の陣営が、互いの監視下で泳がせていると、お互いに承知の状態で、トァン父のような立場の人が こういう形で出てきて殺されてしまう事に違和感を感じた。

 ああ、もう一冊読みたかったなぁ。
ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) Amazon書評・レビュー: ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)より
415208992X