ブルックリン・フォリーズ

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ブルックリン・フォリーズの評価:

4.68/5点 レビュー 44件。 A ランク

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平均点4.68pt

Amazonレビュー一覧

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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全82件 41〜60 3/5ページ
No.42
(5pt)

単純な幸福物語では終えられない現在

訳者あとがきで柴田さんが「オースターの全作品のなかでもっとも楽天的な、もっとも「ユルい」語り口の、もっとも喜劇的要素が強い作品」と書いている通りだな、と思う。
登場人物たちはそれぞれに問題、というか、人生に引っ掛かりのようなものがあって、それぞれが世の大半の人々と同じくフォリー=愚者の対応・態度をとってしまうのだけど、それが微笑ましかったり身につまされたりする。
語り口からはオースター原作/脚本の映画『スモーク』を、挿話からは彼が編んだ『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』を思い浮かばされ、そういう意味ではオースターらしい作品なのかもしれない。
ハッピーエンドなんだろうなと感じながら読んでいたが、最後の最後で9.11に触れられていて、驚いた。
そう、なじんだ街や受け容れた人生を一瞬にして吹っ飛ばす、出来事。
この作品に登場する愛おしい愚者たちとテロという愚かしい行為の落差に、単純な幸福物語では終えられない現在を感じる。
それでも、多様であり、かつそれを認めていくことで未来に希望を抱くことができる、とも思う。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.41
(5pt)

単純な幸福物語では終えられない現在

訳者あとがきで柴田さんが「オースターの全作品のなかでもっとも楽天的な、もっとも「ユルい」語り口の、もっとも喜劇的要素が強い作品」と書いている通りだな、と思う。
登場人物たちはそれぞれに問題、というか、人生に引っ掛かりのようなものがあって、それぞれが世の大半の人々と同じくフォリー=愚者の対応・態度をとってしまうのだけど、それが微笑ましかったり身につまされたりする。
語り口からはオースター原作/脚本の映画『スモーク』を、挿話からは彼が編んだ『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』を思い浮かばされ、そういう意味ではオースターらしい作品なのかもしれない。
ハッピーエンドなんだろうなと感じながら読んでいたが、最後の最後で9.11に触れられていて、驚いた。
そう、なじんだ街や受け容れた人生を一瞬にして吹っ飛ばす、出来事。
この作品に登場する愛おしい愚者たちとテロという愚かしい行為の落差に、単純な幸福物語では終えられない現在を感じる。
それでも、多様であり、かつそれを認めていくことで未来に希望を抱くことができる、とも思う。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.40
(5pt)

いい本

オースターらしい、ユーモアのある、いい小説だった。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.39
(5pt)

いい本

オースターらしい、ユーモアのある、いい小説だった。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.38
(5pt)

<おろかさ>に苦笑い。<やさしさ>に涙して

なんという間抜けな悲劇の、幸せなハッピーエンドでしょう。
ハッピーエンドの四十六分後にまた、悲劇が始まるというのに!

愚かな行為が結果的に、賢い行為であったことに気付くという、
なんとも愚かで、同時に賢い人々の物語。

空のガソリンタンクに、自動販売機のコーラをいっぱいに詰め込んで、
車を走らなさせた少女の <愚行> は、
修理工場での調査でブレーキパッドが完全にすり減っていることの発見につながり、
三人の命を救ったのです。<愚行>が突然、<賢い行為>に変身する!

愚かな行為は、笑うしかありません。
一見、賢い行為や正しい行為は、時に危険な行為にもなり得ます。
この本の物語は、こんな風にコメントしているように思います。

おもしろかった。なんて面白いんだろう。
人生半分終わって棺桶に片足入っているような男がしみじみ、熱く語ります。

「舞台にずらりと並ぶ女性たちの歌と踊り」(訳者あとがき)のショーみたい。
若い女性だけでなく、少女もいれば、結構お年の人生を経験した熟年女性たちも登場する
なんとも面倒くさいでショー。

男たちは入れ代わり立ち代わり登場するが、はかなくも、すぐ退場する。
そんなミュージカル・ショーのような、しょう・せつで、おもしろかった。
笑いと涙のドタバタ劇。人生の悲喜劇を描いていて、楽しくも悲しい。

人生そんなもんよ、肩の力抜いてみてください、と感じさせる脱力の力作。
救急車で運ばれてきたのに、こっそりたばこで一服する愚かな人間の幸せ。
何て言ったらいいのか。複雑すぎて、変顔になって笑える傑作。

鋭い目付きの <スクイーズ・プレイ> で人生に切り込んできたオースターさん。
デッドボールで出塁の、イテテの珍プレイみたいな切れ味のよい気の毒なストーリー。

本書では、<万事塞翁が馬>がテーマかも?
正邪の判断幅が広く浅く、珍妙で、優しくもユルい語りくちに好感を持ちました。

でも、そこはやっぱりベテランのオースターさんでした。
猫も杓子も、どいつもこいつも、お馬鹿で間抜けでドジでボケな人間たちの
抱腹絶倒のドタバタ喜劇。「樽入りの猿たち」(60頁)の物語には終わらせません。

幸せを感じさせるハッピーエンド。その、わずか四十六分後に起こった悲劇のことを
捨て台詞のように予告しています。
時間が来て、いったん幕が下ろされただけみたいなエンディングは、へたうまの風情。

静かな死に場所をさがす「私」の、どこまでも続きそうな、どうしようもない悲劇です。
320頁ほど読み終わってみれば、美しくも物悲しいハッピーエンドです。
なんともしまりの悪い、ホッとする悲劇。じゃあなくて、まるっきりの喜劇でした。

甘口と辛口がアンバランスに配置された、しっちゃかめっちゃかの味わい深い食い物のような物語。
切れ味もクソもあるかと言わんばかりの(言っちゃってる)ストーリー展開です。
パンチが効いていて心が痛いエピソード、手に汗握らないけれど涙が出る幸せな人間模様。

老いた「私」ネイサン(名前です。男です)がしみじみと語る物語。
主人公は、若きヒーロー、ネイサンの甥のトム。

トムは「私」の亡き妹の息子なんです。「私」の甥というわけです。
大学院までいった学者なのに、ちょっと人生につまずいて下町ブルックリンに住むことに。

本書『ブルックリン・フォリーズ』を読むと、
人生の悲劇は喜劇であり、喜劇は悲劇でもある、と思えてくるから奇妙です。
裏が表に、のマジックのような小説。マジックのような人生。

悲劇と喜劇を同時進行させ、より合わせられて、渦を巻くように
メリハリのある人間模様が描かれます。
本書に登場するのは、ありふれた、普通の日常を送る人間たちばかりなのに、
それぞれがそれなりに、悲喜こもごもありながら、もごもごと
ドラマチックな人生を送っています。

この小説のテーマは「沈黙」だ! と、宇宙に向かって心の中で叫びました。
アチャー。

テーマは、他にもいろいろあるでしょうに……
男と女の愛というより、人と人の間の愛とか、
人を自由に開放する言葉と人を拘束する言葉の両方とか、
男と女の結婚の意味とか、遺産相続の対象とか、心の傷とか、
刺青で思い出す過去の記憶とか、……

《備考》
<主な登場人物>

「私」こと、 
ネイサン・ジョゼフ・グラス。Nathan は、Nathaniel Hawthorne から?
元保険外交員。肺ガン患者。娘レイチェルの父親。
トムの伯父。ナット伯父さん。元妻(ネイサン自身による名前削除)とは離婚。
『人間の愚行の書』を執筆中。盆暗(ぼんくら)の愚者ネイサン。
涙もろくなったただのじいさん。
愛人はジョイス。そして、いろいろあったけど、現在位置(X)では幸せ。

「レイチェル」こと、 ネイサンの娘。

「テレンス」こと、 レイチェルの夫。

「イーディス」こと、 ネイサンの元妻。レイチェルの生みの親。

「トム」こと、 
トミー、トム・ウッド。ネイサンの甥。元学者。ネイサンはトムをドクター・サムと呼ぶ。
一時、ニューヨークのタクシードライバー。その後、古本屋ブライトマンズに勤める。
三十歳の若者。二十キロ太り過ぎ。ローリーの兄。

「ハリー」こと、 
ハリー・ブライトマン(偽名)。ハリー・ドゥンケル(本名)。古本屋のオーナー。
ベットの元夫。フローラの父親。
元悪党。元美術商。元シカゴ市民。シカゴの画廊ドゥンケル・フレールの元オーナー。
オカマ。自分を「あたし」と呼ぶ。心臓発作で2000年に死亡。
遺産はトムとルーファスに半分ずつ。

「ベット」こと、 ハリーの元妻。金持ちドンブロウスキーの娘。フローラの母親。

「フローラ」こと、 ハリーとベットの間の娘。神経衰弱。躁病。計算が得意。

「ヴァレリー」こと、 
ヴァレリー・デントン・スミス。画家スミスの妻。
スミスの死後、シカゴに戻ってきて、スミスの贋作を発見。

「ドライヤー」こと、 ゴードン・ドライヤー。スミスの死後、スミスの贋作者となる。
ホーソンの自筆原稿の贋作計画でハリーともめて、ハリーの心臓発作死の原因となる。
ナイフもピストルも使わない<殺人>。

「ルーファス」こと、 
ルーファス・スプレーグ。ジャマイカ人。二十六、七歳の若者。オカマ。
男の子の体をした女の子。自分を「あたい」と呼ぶ。
ハリーによる三年間の金銭援助を感謝しながらも、ハリーの死後は、
おばあちゃんのいるジャマイカに戻る。
ハリーは遺産の半分をルーファスにのこす。
ハリーの灰をまく公園の森での、ルーファスのキャバレー・パフォーマンス。
「完全な沈黙」(236頁)を保ったまま、ポータブルCDプレーヤーに合わせ
「口パク」で歌うキャバレー・ソングの<絶唱>には、思わずなみだ。
おもいっきり泣きながら笑えました。
ルーファスは、完全なる女性<ホステス>としての美しさを披露した。

「ハニー」こと、 トムの妻。押しの強い、前向きな押しかけ女房。トムと正反対の性格。

「ジューン」こと、 ジューン・ウッド。<笑う女の子>。ネイサンの妹。トムの母親。

「BPM」こと、 
ビューティフル・パーフェクト・マザー(美しき完璧な母親)とトムが呼んでいた女性。
「ナンシー」・マズッケリのこと。アクセサリーを制作販売。ジョイスの娘。
容貌は父親トニーから。ローリーと女同士の恋人に。

「ジョイス」こと、
「美しき完璧な母親」ナンシーの母親。美女ではない。
59歳でなくなった亡夫はハンサムなトニー(ジミー・ジョイス)。
ネイサンのプロポーズを笑って受け止める分別の女。
ネイサンとは性格が正反対。ブルックリン訛り。

「サム」こと、 ナンシーの息子。三歳。しゃべれない。あたりまえ。

「ジム、ジミー」こと、 ジェームズ・ジョイス。
サイレント映画の時代は終わったのに、仕事は映画の音づくり。

「マリーナ」こと、 
マリーナ・ルイーサ・サンチェス・ゴンザレス。
コズミック・ダイナーのウエイトレス。ネイサンの憧れの人。
ネックレスをプレゼントして、ネイサン、彼女の夫とのゴタゴタ。

「オーロラ」こと、 オーロラ・ウッド・マイナー。ネイサンはローリーと呼ぶ。
ネイサンの妹ジューンの娘、すなわち姪。甥トムの妹。ルーシーの母親。
左の肩に大きな鷲(ワシ)の刺青。ポルノ雑誌やポルノ映画で金を稼ぐ。
狂信者の夫マイナーと住んでいたノースキャロライナからネイサンが救い出す。
ナンシーの下でアクセサリー作りで働く。似た者同士で、ナンシーと恋人に。

「ルーシー」こと、 
物言わぬ、九歳半の女の子。オーロラの娘。トムの姪。
父親はビリー・フィンチかグレッグのどっちか不明。
養父は、マイナー。

「デイヴィッド・マイナー」こと、 デイヴィッド・ウィルコックス・マイナー。
オーロラの元夫。元ヒッピーから更生。正し過ぎる狂信者。
オーロラとは離婚命令書で離婚。

《追伸》
<人間の愚行を賢く観察した物語>
著者ポール・オースターは、
ブルックリンに住む男と女の愚行(フォリーズ)の数々を賢く観察し、
ひとつの物語としてまとめています。
ブルックリンに限らず、世界中の人たちも似たり寄ったりの愚行。
老いも若きも、白人も黒人も、大人も子どもも、親も子も、犬も猫も、レズもゲイも、
心の赴くままに、自由に、とらわれず、結婚などの古い因習からのがれ、
何かの因果だけを頼りに、寄り添うように支え合うように集まって、
過去の人生を忘れてしまったかのようなふりをして、傷口には決して触れないで、
みんなが身の丈でそっと優しく新しい生活を生きている。
そんな街みたいですね、ブルックリンは。
それにしても、人間って、なんて愚かなのでしょう。
永遠の愛を誓ったというのに、
たった三十三年でそれぞれ反対方向に歩き去るなんて。憎しみを残したままで。
離婚をするくらいなら、初めから結婚しない方がいいのでは、とも思いました。
愚かながらも優しくなれるし、不思議な心のひろさも身につけることもできるけれど、
愚かな行動を何度も何度も繰り返しながらも、何も学ばないというバカみたいな人生。
賢い人たちの犯す愚かな行動や過ちは、もっとたちが悪い、危険でもある。
戦争をなくすための戦い。
本書の主人公のネイサンの元妻のイーディスなど、
「序」では「イーディス」(8頁)と名前が明記されているものの、
最後の方では「(名前削除)」(408頁)とされている。あわれ。
ブルックリンに住む人たちは、寛大な心の持ち主が多いみたい。
古本屋のゲイのオヤジの「ハリー」も、そんな人間のひとり。
「辛口の科白(せりふ)を連発」(42頁)するものの、
「途方もない矛盾を平然と抱え込」む、仏のような度量を身につけています。
ネイサン自身が
「すごく女に惹かれるから、女が女に惹かれるのも納得できるんだと思う」(432頁)
などと、新しい生活を始めたジョイスに言う。
「あんたって豚よ、ネイサン。そういうのに興奮するのね」(432頁)
とネイサンはジョイスから言われる。
そう言いながらも、ジョイス自身が、
自分の娘とネイサンの姪とのレズ関係を何とか受け入れて抱え込む努力をしています。
豚のネイサンの年の功かも。
ジョイスもジョイスで、ネイサンからプロポーズされても、
結婚というかたちにとらわれない自由な心で生活したいとネイサンに答えます。
これも年の功というか、<今の時代の愛のかたち>への知恵なのでしょう。
新型コロナの時代が始まり、
これまでの旧来の形にこだわっていては生きていけない時代となりました。
ブルックリンだけではなく、世界中が新型コロナで変わろうとしています。
《追追伸》
文庫化に当たっては、せめてタイトルくらい意訳して変えて欲しかったです。
例えば、ですけれど、
<ブルックリンに住む人々の愚行(フォリーズ)の数々、おばか人生大全集>とか、
<忘れてしまいたい、恥ずかしい、アホで間抜けな過去の失敗の詳細記録>とか、
<あまりにもバカバカしくて、全文削除したくなる愚行暴露の書>とか……
面白すぎて、幸せになって笑っちゃう喜劇です。
お馬鹿すぎて、泣いちゃう悲劇でもあります。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.37
(5pt)

<おろかさ>に苦笑い。<やさしさ>に涙して

なんという間抜けな悲劇の、幸せなハッピーエンドでしょう。
ハッピーエンドの四十六分後にまた、悲劇が始まるというのに!

愚かな行為が結果的に、賢い行為であったことに気付くという、
なんとも愚かで、同時に賢い人々の物語。

空のガソリンタンクに、自動販売機のコーラをいっぱいに詰め込んで、
車を走らなさせた少女の <愚行> は、
修理工場での調査でブレーキパッドが完全にすり減っていることの発見につながり、
三人の命を救ったのです。<愚行>が突然、<賢い行為>に変身する!

愚かな行為は、笑うしかありません。
一見、賢い行為や正しい行為は、時に危険な行為にもなり得ます。
この本の物語は、こんな風にコメントしているように思います。

おもしろかった。なんて面白いんだろう。
人生半分終わって棺桶に片足入っているような男がしみじみ、熱く語ります。

「舞台にずらりと並ぶ女性たちの歌と踊り」(訳者あとがき)のショーみたい。
若い女性だけでなく、少女もいれば、結構お年の人生を経験した熟年女性たちも登場する
なんとも面倒くさいでショー。

男たちは入れ代わり立ち代わり登場するが、はかなくも、すぐ退場する。
そんなミュージカル・ショーのような、しょう・せつで、おもしろかった。
笑いと涙のドタバタ劇。人生の悲喜劇を描いていて、楽しくも悲しい。

人生そんなもんよ、肩の力抜いてみてください、と感じさせる脱力の力作。
救急車で運ばれてきたのに、こっそりたばこで一服する愚かな人間の幸せ。
何て言ったらいいのか。複雑すぎて、変顔になって笑える傑作。

鋭い目付きの <スクイーズ・プレイ> で人生に切り込んできたオースターさん。
デッドボールで出塁の、イテテの珍プレイみたいな切れ味のよい気の毒なストーリー。

本書では、<万事塞翁が馬>がテーマかも?
正邪の判断幅が広く浅く、珍妙で、優しくもユルい語りくちに好感を持ちました。

でも、そこはやっぱりベテランのオースターさんでした。
猫も杓子も、どいつもこいつも、お馬鹿で間抜けでドジでボケな人間たちの
抱腹絶倒のドタバタ喜劇。「樽入りの猿たち」(60頁)の物語には終わらせません。

幸せを感じさせるハッピーエンド。その、わずか四十六分後に起こった悲劇のことを
捨て台詞のように予告しています。
時間が来て、いったん幕が下ろされただけみたいなエンディングは、へたうまの風情。

静かな死に場所をさがす「私」の、どこまでも続きそうな、どうしようもない悲劇です。
320頁ほど読み終わってみれば、美しくも物悲しいハッピーエンドです。
なんともしまりの悪い、ホッとする悲劇。じゃあなくて、まるっきりの喜劇でした。

甘口と辛口がアンバランスに配置された、しっちゃかめっちゃかの味わい深い食い物のような物語。
切れ味もクソもあるかと言わんばかりの(言っちゃってる)ストーリー展開です。
パンチが効いていて心が痛いエピソード、手に汗握らないけれど涙が出る幸せな人間模様。

老いた「私」ネイサン(名前です。男です)がしみじみと語る物語。
主人公は、若きヒーロー、ネイサンの甥のトム。

トムは「私」の亡き妹の息子なんです。「私」の甥というわけです。
大学院までいった学者なのに、ちょっと人生につまずいて下町ブルックリンに住むことに。

本書『ブルックリン・フォリーズ』を読むと、
人生の悲劇は喜劇であり、喜劇は悲劇でもある、と思えてくるから奇妙です。
裏が表に、のマジックのような小説。マジックのような人生。

悲劇と喜劇を同時進行させ、より合わせられて、渦を巻くように
メリハリのある人間模様が描かれます。
本書に登場するのは、ありふれた、普通の日常を送る人間たちばかりなのに、
それぞれがそれなりに、悲喜こもごもありながら、もごもごと
ドラマチックな人生を送っています。

この小説のテーマは「沈黙」だ! と、宇宙に向かって心の中で叫びました。
アチャー。

テーマは、他にもいろいろあるでしょうに……
男と女の愛というより、人と人の間の愛とか、
人を自由に開放する言葉と人を拘束する言葉の両方とか、
男と女の結婚の意味とか、遺産相続の対象とか、心の傷とか、
刺青で思い出す過去の記憶とか、……

《備考》
<主な登場人物>

「私」こと、 
ネイサン・ジョゼフ・グラス。Nathan は、Nathaniel Hawthorne から?
元保険外交員。肺ガン患者。娘レイチェルの父親。
トムの伯父。ナット伯父さん。元妻(ネイサン自身による名前削除)とは離婚。
『人間の愚行の書』を執筆中。盆暗(ぼんくら)の愚者ネイサン。
涙もろくなったただのじいさん。
愛人はジョイス。そして、いろいろあったけど、現在位置(X)では幸せ。

「レイチェル」こと、 ネイサンの娘。

「テレンス」こと、 レイチェルの夫。

「イーディス」こと、 ネイサンの元妻。レイチェルの生みの親。

「トム」こと、 
トミー、トム・ウッド。ネイサンの甥。元学者。ネイサンはトムをドクター・サムと呼ぶ。
一時、ニューヨークのタクシードライバー。その後、古本屋ブライトマンズに勤める。
三十歳の若者。二十キロ太り過ぎ。ローリーの兄。

「ハリー」こと、 
ハリー・ブライトマン(偽名)。ハリー・ドゥンケル(本名)。古本屋のオーナー。
ベットの元夫。フローラの父親。
元悪党。元美術商。元シカゴ市民。シカゴの画廊ドゥンケル・フレールの元オーナー。
オカマ。自分を「あたし」と呼ぶ。心臓発作で2000年に死亡。
遺産はトムとルーファスに半分ずつ。

「ベット」こと、 ハリーの元妻。金持ちドンブロウスキーの娘。フローラの母親。

「フローラ」こと、 ハリーとベットの間の娘。神経衰弱。躁病。計算が得意。

「ヴァレリー」こと、 
ヴァレリー・デントン・スミス。画家スミスの妻。
スミスの死後、シカゴに戻ってきて、スミスの贋作を発見。

「ドライヤー」こと、 ゴードン・ドライヤー。スミスの死後、スミスの贋作者となる。
ホーソンの自筆原稿の贋作計画でハリーともめて、ハリーの心臓発作死の原因となる。
ナイフもピストルも使わない<殺人>。

「ルーファス」こと、 
ルーファス・スプレーグ。ジャマイカ人。二十六、七歳の若者。オカマ。
男の子の体をした女の子。自分を「あたい」と呼ぶ。
ハリーによる三年間の金銭援助を感謝しながらも、ハリーの死後は、
おばあちゃんのいるジャマイカに戻る。
ハリーは遺産の半分をルーファスにのこす。
ハリーの灰をまく公園の森での、ルーファスのキャバレー・パフォーマンス。
「完全な沈黙」(236頁)を保ったまま、ポータブルCDプレーヤーに合わせ
「口パク」で歌うキャバレー・ソングの<絶唱>には、思わずなみだ。
おもいっきり泣きながら笑えました。
ルーファスは、完全なる女性<ホステス>としての美しさを披露した。

「ハニー」こと、 トムの妻。押しの強い、前向きな押しかけ女房。トムと正反対の性格。

「ジューン」こと、 ジューン・ウッド。<笑う女の子>。ネイサンの妹。トムの母親。

「BPM」こと、 
ビューティフル・パーフェクト・マザー(美しき完璧な母親)とトムが呼んでいた女性。
「ナンシー」・マズッケリのこと。アクセサリーを制作販売。ジョイスの娘。
容貌は父親トニーから。ローリーと女同士の恋人に。

「ジョイス」こと、
「美しき完璧な母親」ナンシーの母親。美女ではない。
59歳でなくなった亡夫はハンサムなトニー(ジミー・ジョイス)。
ネイサンのプロポーズを笑って受け止める分別の女。
ネイサンとは性格が正反対。ブルックリン訛り。

「サム」こと、 ナンシーの息子。三歳。しゃべれない。あたりまえ。

「ジム、ジミー」こと、 ジェームズ・ジョイス。
サイレント映画の時代は終わったのに、仕事は映画の音づくり。

「マリーナ」こと、 
マリーナ・ルイーサ・サンチェス・ゴンザレス。
コズミック・ダイナーのウエイトレス。ネイサンの憧れの人。
ネックレスをプレゼントして、ネイサン、彼女の夫とのゴタゴタ。

「オーロラ」こと、 オーロラ・ウッド・マイナー。ネイサンはローリーと呼ぶ。
ネイサンの妹ジューンの娘、すなわち姪。甥トムの妹。ルーシーの母親。
左の肩に大きな鷲(ワシ)の刺青。ポルノ雑誌やポルノ映画で金を稼ぐ。
狂信者の夫マイナーと住んでいたノースキャロライナからネイサンが救い出す。
ナンシーの下でアクセサリー作りで働く。似た者同士で、ナンシーと恋人に。

「ルーシー」こと、 
物言わぬ、九歳半の女の子。オーロラの娘。トムの姪。
父親はビリー・フィンチかグレッグのどっちか不明。
養父は、マイナー。

「デイヴィッド・マイナー」こと、 デイヴィッド・ウィルコックス・マイナー。
オーロラの元夫。元ヒッピーから更生。正し過ぎる狂信者。
オーロラとは離婚命令書で離婚。

《追伸》
<人間の愚行を賢く観察した物語>
著者ポール・オースターは、
ブルックリンに住む男と女の愚行(フォリーズ)の数々を賢く観察し、
ひとつの物語としてまとめています。
ブルックリンに限らず、世界中の人たちも似たり寄ったりの愚行。
老いも若きも、白人も黒人も、大人も子どもも、親も子も、犬も猫も、レズもゲイも、
心の赴くままに、自由に、とらわれず、結婚などの古い因習からのがれ、
何かの因果だけを頼りに、寄り添うように支え合うように集まって、
過去の人生を忘れてしまったかのようなふりをして、傷口には決して触れないで、
みんなが身の丈でそっと優しく新しい生活を生きている。
そんな街みたいですね、ブルックリンは。
それにしても、人間って、なんて愚かなのでしょう。
永遠の愛を誓ったというのに、
たった三十三年でそれぞれ反対方向に歩き去るなんて。憎しみを残したままで。
離婚をするくらいなら、初めから結婚しない方がいいのでは、とも思いました。
愚かながらも優しくなれるし、不思議な心のひろさも身につけることもできるけれど、
愚かな行動を何度も何度も繰り返しながらも、何も学ばないというバカみたいな人生。
賢い人たちの犯す愚かな行動や過ちは、もっとたちが悪い、危険でもある。
戦争をなくすための戦い。
本書の主人公のネイサンの元妻のイーディスなど、
「序」では「イーディス」(8頁)と名前が明記されているものの、
最後の方では「(名前削除)」(408頁)とされている。あわれ。
ブルックリンに住む人たちは、寛大な心の持ち主が多いみたい。
古本屋のゲイのオヤジの「ハリー」も、そんな人間のひとり。
「辛口の科白(せりふ)を連発」(42頁)するものの、
「途方もない矛盾を平然と抱え込」む、仏のような度量を身につけています。
ネイサン自身が
「すごく女に惹かれるから、女が女に惹かれるのも納得できるんだと思う」(432頁)
などと、新しい生活を始めたジョイスに言う。
「あんたって豚よ、ネイサン。そういうのに興奮するのね」(432頁)
とネイサンはジョイスから言われる。
そう言いながらも、ジョイス自身が、
自分の娘とネイサンの姪とのレズ関係を何とか受け入れて抱え込む努力をしています。
豚のネイサンの年の功かも。
ジョイスもジョイスで、ネイサンからプロポーズされても、
結婚というかたちにとらわれない自由な心で生活したいとネイサンに答えます。
これも年の功というか、<今の時代の愛のかたち>への知恵なのでしょう。
新型コロナの時代が始まり、
これまでの旧来の形にこだわっていては生きていけない時代となりました。
ブルックリンだけではなく、世界中が新型コロナで変わろうとしています。
《追追伸》
文庫化に当たっては、せめてタイトルくらい意訳して変えて欲しかったです。
例えば、ですけれど、
<ブルックリンに住む人々の愚行(フォリーズ)の数々、おばか人生大全集>とか、
<忘れてしまいたい、恥ずかしい、アホで間抜けな過去の失敗の詳細記録>とか、
<あまりにもバカバカしくて、全文削除したくなる愚行暴露の書>とか……
面白すぎて、幸せになって笑っちゃう喜劇です。
お馬鹿すぎて、泣いちゃう悲劇でもあります。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.36
(5pt)

きれい

気になるほどの使用感もなく、きれいな状態で届きました。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.35
(5pt)

きれい

気になるほどの使用感もなく、きれいな状態で届きました。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.34
(5pt)

良い感じです。

まだ読み切ってないですが、雰囲気があり、よさげです。
続きが楽しみであります。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.33
(5pt)

良い感じです。

まだ読み切ってないですが、雰囲気があり、よさげです。
続きが楽しみであります。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.32
(5pt)

結局は...*ネタバレあります!

散々色々な人物が登場し、悲喜こもごも人生のあらゆるシーンが描かれていますが、最後の最後人類でも最大級の愚行が行われ、たった数ページでそれらミクロ(私達)の人生なんて、マクロな出来事の前では足し算にも引き算にもなっていないんだ、個人の空間認識や時間軸は資本主義や国家という実態のない存在にいともたやすく変動させられてしまう。そんな世界のありのままの真実が描かれていた気もします。

とはいえ、話しの大半はオースターの全作品の中でも、かなり上位の明るい部類に入る方で(幻影の書やリヴァイアサンは暗い方、ガラスの街や写字室の旅は答えがどっかにぶん投げられる系。全部好きなんですが)どっちかと言うと映画化されたスモーク、ブルーインザフェイスに近い世界観です。

登場人物の大半はにくめないというか愛らしい人ばかりでオースター初心者の方にも勧めやすい作品だと思います。ネイサンがジャックレモン、トムがまんまトムハンクスとかで映画になってたら観てみたかったな、なんて妄想してしまいますね。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.31
(5pt)

結局は...*ネタバレあります!

散々色々な人物が登場し、悲喜こもごも人生のあらゆるシーンが描かれていますが、最後の最後人類でも最大級の愚行が行われ、たった数ページでそれらミクロ(私達)の人生なんて、マクロな出来事の前では足し算にも引き算にもなっていないんだ、個人の空間認識や時間軸は資本主義や国家という実態のない存在にいともたやすく変動させられてしまう。そんな世界のありのままの真実が描かれていた気もします。

とはいえ、話しの大半はオースターの全作品の中でも、かなり上位の明るい部類に入る方で(幻影の書やリヴァイアサンは暗い方、ガラスの街や写字室の旅は答えがどっかにぶん投げられる系。全部好きなんですが)どっちかと言うと映画化されたスモーク、ブルーインザフェイスに近い世界観です。

登場人物の大半はにくめないというか愛らしい人ばかりでオースター初心者の方にも勧めやすい作品だと思います。ネイサンがジャックレモン、トムがまんまトムハンクスとかで映画になってたら観てみたかったな、なんて妄想してしまいますね。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.30
(4pt)

久しぶりのポール・オースター。最後のオチが予想外。

久しぶりにポール・オースターを読みました。大好きな映画の1つ、「スモーク」の舞台でもあったニューヨークのブルックリン。結論としては、面白かったです。しかし、人間関係が複雑で、誰と誰が兄弟で、誰が誰の奥さんで、といったあたりが、なかなか覚えられず、また、ストーリーも幾つかの話が並行して走る複雑なストーリーなので、前半は読むのが結構辛かったです。柴田氏の翻訳も、本作に関しては読み易いとは言えないと思います。
それでも読み進めるうちに登場人物達の次の展開が楽しみになり、ルーシーが出てきて、「ホテル・イグジステンス」に泊まったあたりから本格的に面白くなりました。そのため、前半は少し我慢が必要ですね。最後のオチは、ハッピーエンドとバッドエンドのミックス。全く予想していなかったオチで、不意打ちでした。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.29
(4pt)

久しぶりのポール・オースター。最後のオチが予想外。

久しぶりにポール・オースターを読みました。大好きな映画の1つ、「スモーク」の舞台でもあったニューヨークのブルックリン。結論としては、面白かったです。しかし、人間関係が複雑で、誰と誰が兄弟で、誰が誰の奥さんで、といったあたりが、なかなか覚えられず、また、ストーリーも幾つかの話が並行して走る複雑なストーリーなので、前半は読むのが結構辛かったです。柴田氏の翻訳も、本作に関しては読み易いとは言えないと思います。
それでも読み進めるうちに登場人物達の次の展開が楽しみになり、ルーシーが出てきて、「ホテル・イグジステンス」に泊まったあたりから本格的に面白くなりました。そのため、前半は少し我慢が必要ですね。最後のオチは、ハッピーエンドとバッドエンドのミックス。全く予想していなかったオチで、不意打ちでした。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.28
(5pt)

人間の愚かさと愚行の愉快さ

タイトルからして、ブルックリンの都会の粋な物語と思いきや、様々な場所での様々な人種と人間が織りなす愚行の詰合せ物語である。主役は、人生が半分以上終わりを迎え、心臓ガンを患い、生死を彷徨い、何とか生き延びたナット伯父さんだ。人生をある意味達観した彼は、日々日常に起こりうる様々な愚行を"ブラックユーモア風の珍事"として書き留めることを思いつく。
 楽天的かつ悲壮的な愚行が日常生活の中にぎっしりと奥深く折り重なう。人生とは冒険であり、様々な要素が複雑に偶然に絡み合った奇妙で不可解なドラマである。残酷で不条理な現実に生きるも、そんな現実に背を向け、夢を妄想を追うも、人の勝手である。そのギャップで揺れ動く微妙な心理と駆け引きが、人生に深い闇と奥行きを生み出す。
 勝ち組であろうが、英雄であろうが著名人であろうが、その華々しい人生でさえ、いつかはケチをつけられ、歪められ、事実すら省かれ、最後には消滅する。人間は忘れる生き物。だから、長年の積もり積もった不安と疲労と苛立ち、それに何時までも払拭できない失望と後悔に、何とか耐えられる。忘れる事で生き延びれるのだ。
 人生とは失うもの。失ったものを埋め合わせする為に、周囲で起こりうる様々な愚行を取り入れる必要がある。人間は生きてるうちに、いろんな愚行を繰り返す。愚行という何気ないイベントが、深く暗い人生の闇の中に光を灯し、単調で色味のない筈の人生に、多才な色どりを醸し出し、神秘なる奥行きを与えてくれる。
 この作品でのメインステージは、勿論ブルックリンだが、舞台は全米中に散らばってる。様々なステージで、そこに棲み着く様々な人種と人間の、それに見合った愚行が用意されてる。まるで、WRCのチャンピオンズモードみたいで、癖のあるステージごとに癖のある登場人物がいて、奇想天外な落とし穴とドロ臭い物語が待ってる。
 ポール・オースター氏の引き出しの多さと深さには全く感服する。それが、プロットの多彩さと奥行きにつながり、長編モノでも全く読者を飽きさせないし、間延びさせる事もない。観察力と洞察力が高い次元で融合してる事の証だ。
 笑えそうで笑えないこの愚行記は、人生を愉快に生きる上で、最高の贅沢になりうる。金がなくても、愚行という贅沢は可能なのだ。歳を食っても、愉快で爽快な充実した人生は送れる。肉体も精神も性欲も年齢とともに衰えるが、好奇心や知識欲は衰えを知らないどころか、益々増幅する。人は誰でも、何か変わった事が、面白い事がないかなって、無意識に妄想する。だから、何かが起こりうる可能性が充填してる都会が大好きなのだ。
 一見、笑って済ませるようなありふれた愚行が、人生の大きな転機になるのを、ビッグチャンスに化けるのを、大衆は期待し、夢を見る。そんな夢を見てる間は、誰でも幸せになれる。夢が冷めても、過ぎ去った愚行を語り合う事で、赤の他人同士が見えない何かで結ばれる。コミニュケーションとは、そうあるべきだろう。
 しかし、それらのゴマンと繰り返されてきたであろうありとあらゆる様々な場所での様々な人間の愚行は、いつかは忘れ去られ、消滅する。だから、愚行記というものが必要なのだ。著者が言うように、かくも本とは偉大なのである。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.27
(5pt)

人間の愚かさと愚行の愉快さ

タイトルからして、ブルックリンの都会の粋な物語と思いきや、様々な場所での様々な人種と人間が織りなす愚行の詰合せ物語である。主役は、人生が半分以上終わりを迎え、心臓ガンを患い、生死を彷徨い、何とか生き延びたナット伯父さんだ。人生をある意味達観した彼は、日々日常に起こりうる様々な愚行を"ブラックユーモア風の珍事"として書き留めることを思いつく。
 楽天的かつ悲壮的な愚行が日常生活の中にぎっしりと奥深く折り重なう。人生とは冒険であり、様々な要素が複雑に偶然に絡み合った奇妙で不可解なドラマである。残酷で不条理な現実に生きるも、そんな現実に背を向け、夢を妄想を追うも、人の勝手である。そのギャップで揺れ動く微妙な心理と駆け引きが、人生に深い闇と奥行きを生み出す。
 勝ち組であろうが、英雄であろうが著名人であろうが、その華々しい人生でさえ、いつかはケチをつけられ、歪められ、事実すら省かれ、最後には消滅する。人間は忘れる生き物。だから、長年の積もり積もった不安と疲労と苛立ち、それに何時までも払拭できない失望と後悔に、何とか耐えられる。忘れる事で生き延びれるのだ。
 人生とは失うもの。失ったものを埋め合わせする為に、周囲で起こりうる様々な愚行を取り入れる必要がある。人間は生きてるうちに、いろんな愚行を繰り返す。愚行という何気ないイベントが、深く暗い人生の闇の中に光を灯し、単調で色味のない筈の人生に、多才な色どりを醸し出し、神秘なる奥行きを与えてくれる。
 この作品でのメインステージは、勿論ブルックリンだが、舞台は全米中に散らばってる。様々なステージで、そこに棲み着く様々な人種と人間の、それに見合った愚行が用意されてる。まるで、WRCのチャンピオンズモードみたいで、癖のあるステージごとに癖のある登場人物がいて、奇想天外な落とし穴とドロ臭い物語が待ってる。
 ポール・オースター氏の引き出しの多さと深さには全く感服する。それが、プロットの多彩さと奥行きにつながり、長編モノでも全く読者を飽きさせないし、間延びさせる事もない。観察力と洞察力が高い次元で融合してる事の証だ。
 笑えそうで笑えないこの愚行記は、人生を愉快に生きる上で、最高の贅沢になりうる。金がなくても、愚行という贅沢は可能なのだ。歳を食っても、愉快で爽快な充実した人生は送れる。肉体も精神も性欲も年齢とともに衰えるが、好奇心や知識欲は衰えを知らないどころか、益々増幅する。人は誰でも、何か変わった事が、面白い事がないかなって、無意識に妄想する。だから、何かが起こりうる可能性が充填してる都会が大好きなのだ。
 一見、笑って済ませるようなありふれた愚行が、人生の大きな転機になるのを、ビッグチャンスに化けるのを、大衆は期待し、夢を見る。そんな夢を見てる間は、誰でも幸せになれる。夢が冷めても、過ぎ去った愚行を語り合う事で、赤の他人同士が見えない何かで結ばれる。コミニュケーションとは、そうあるべきだろう。
 しかし、それらのゴマンと繰り返されてきたであろうありとあらゆる様々な場所での様々な人間の愚行は、いつかは忘れ去られ、消滅する。だから、愚行記というものが必要なのだ。著者が言うように、かくも本とは偉大なのである。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.26
(5pt)

これまでになく暖かい

「静かに死ねる場所を探して」ブルックリンにたどり着いた主人公ネイサン、文学青年としての明るい将来を捨ててタクシードライバーを経て古書店員になった甥のトム、そしてトムの雇用主であり、詐欺で投獄経験のあるハリー。このいかにもイケていない男たちをめぐる再生の物語。
ただでさえ、オースター作品は読む手を休められないのだけれど、この物語での語り口は、彼にしては軽快で喜劇的なものだから、寝不足と引き換えに二日で読み切った。
堕ちてゆく男たちについては、これまで何度か取り上げられているが、本作での目線はこれまでになく暖かい。まだまだイケるよ、と背中を押しているかのように。実際、ネイサンは確実に成長した。根っこが蝕まれてさえいなければ、誰でも再生できるチャンスがあるんだよ。そう語りけているかのような、人間への、いや、もっと言うと、中高年への応援歌にも読める。
ところで、この物語では伯父ネイサンと甥トムが完全に同士になっている。そこには目上・目下の感覚はなく、互いを尊重しつつ目の前の問題に取り組んでゆく。こういう素敵な関係が日本で書かれるのは簡単でないだろう。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.25
(5pt)

これまでになく暖かい

「静かに死ねる場所を探して」ブルックリンにたどり着いた主人公ネイサン、文学青年としての明るい将来を捨ててタクシードライバーを経て古書店員になった甥のトム、そしてトムの雇用主であり、詐欺で投獄経験のあるハリー。このいかにもイケていない男たちをめぐる再生の物語。
ただでさえ、オースター作品は読む手を休められないのだけれど、この物語での語り口は、彼にしては軽快で喜劇的なものだから、寝不足と引き換えに二日で読み切った。
堕ちてゆく男たちについては、これまで何度か取り上げられているが、本作での目線はこれまでになく暖かい。まだまだイケるよ、と背中を押しているかのように。実際、ネイサンは確実に成長した。根っこが蝕まれてさえいなければ、誰でも再生できるチャンスがあるんだよ。そう語りけているかのような、人間への、いや、もっと言うと、中高年への応援歌にも読める。
ところで、この物語では伯父ネイサンと甥トムが完全に同士になっている。そこには目上・目下の感覚はなく、互いを尊重しつつ目の前の問題に取り組んでゆく。こういう素敵な関係が日本で書かれるのは簡単でないだろう。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.24
(5pt)

素敵な話

この本を読んで、ポール・オースターのファンになりました。翻訳もとても読みやすいです。柴田元幸さんの翻訳は素晴らしい。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.23
(5pt)

素敵な話

この本を読んで、ポール・オースターのファンになりました。翻訳もとても読みやすいです。柴田元幸さんの翻訳は素晴らしい。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151