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迷宮



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【この小説が収録されている参考書籍】
迷宮
迷宮 (新潮文庫)

迷宮の評価: 3.56/5点 レビュー 18件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.56pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全18件 1~18 1/1ページ
No.18:
(4pt)

欠損されたナルシシズム

たぶん、この本はおもしろいのだろう。わたしは、読めていない。内容と文体が撚り合ったようなかたちで、内容が入ってくることは、文体が入ってくること、文体が入ってくるとともに内容も入ってくるという感じでは読めていないので。約めて言えば、ナルシシズムにとらわれた者(紗奈江という女性)が、欠損された、欠けたナルシシズムにおおわれている者が、この世で生きていくことの不可能性――社会はそういう存在を許さない、そんな存在を受け入れないように徹底的にスクラムを組んでいる。人権派弁護士などと言う空けた存在が、そんな徹底的にスクラムを組まれた社会に彼ら自身が生きられないことの隠蔽のように、特権的だと誤解している(なぜなら彼らは法律を知っているのだから)社会の空中庭園のようなへりから「寄り添って」くれるだけだ――を描いていると言えるかも知れない。爪に火をともすようにがりがりにまで追い込んだように、心の線を萎縮したように小さく細く、(紗奈江という)女をとらえ、それに呼応するような、あるいは、そういう女にぎりぎりのところで交差できるような(僕という)男を配しながら。そして、彼女らの、彼らの心の中を描くのに、大がかりな迷宮事件をフィールドとして、その上を徹底的に転げまわすというように。しかし、上記のようなちぐはぐな読みしかできていないわたしには、うまくつかめていないと言った方がいいに違いない。
 ただ、レヴューでどなたかが仰っているが、これは恋愛小説なのだ。わたしもそう感じる。行き違いなどは必ずある。彼らはお互いに惹かれあうが、根本的なところでそっぽを向いている。根本的なところでそっぽを向いていたって、結婚して、もしかしたら、仲睦まじく過ごすことができるかも知れない。そんな意味で、恋愛小説だ。もちろん、仲睦まじく全うしないかも知れない。それは分からない。
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4101289557
No.17:
(4pt)

恋愛小説

迷宮入りした不可解な一家惨殺事件。両親と長男が殺害され、死体の周りには多くの折り鶴が置かれていた。生還したのは、睡眠薬で眠りについていた長女だけ。

「折鶴事件」と呼ばれてから22年後、主人公は、偶然出会った長女と関係を持つようになる。訪ねてきた探偵に、彼女の出自を聞かされた主人公は、折鶴事件を調べ始めるのだった…。

壊れそうな男が、壊れてしまった(?)女に出会い、謎に囚われていく相変わらずの暗いお話である。

自身の中に他者の存在を感じる主人公、殺害されることを望む「折鶴事件」の生還者、彼女を殺害し望みを叶えようとする元カレ…。登場人物それぞれの不安定な精神状態に、読み進めながら、暗澹たる気分を味わうこととなる。それでも著者の作品を読んでしまうのは、中毒性があるのだろう。

ミステリの傾向が強い作品で、ラストは謎が謎を呼んだ事件の真相に主人公が辿り着く。ここで、はたと、本作品が恋愛小説であることに気づいてしまった。
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No.16:
(3pt)

読む人の好みが別れる感じですね

私には複雑過ぎた感じでした
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No.15:
(3pt)

人の内面の迷宮

主人公が12歳の時に起きた迷宮入りの密室殺人事件、それが話の中心、核になっています。

もちろん最後にはその当事者からトリック?真相も明らかになるのですが、その後に主人公がある推測をして終わる。という形になっています。

流れとしてはいわゆるミステリー小説のソレなのですが、どうしても高評価が付けられない理由として卑猥な感じの部分や、異常な部分があるためです。
そして、それもまた小説の核となっている。

はっきり言って異常者が多く、本当にどうしようもない、まさに「迷宮」なのです。
そういった意味では高く評価できる作品ではありますが、内容が内容なので人にはオススメできない、そういった一品です。
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No.14:
(5pt)

非常に良いセラー!

非常に良いセラー!
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No.13:
(4pt)

共感できる人は疲れるかも

200ページほどの本なので、2~3時間あれば読めていしまいますが、そのわりにとても内容は濃いと思いました。
というのも登場人物はみんな病んでいて、集中して読んでいるとそこに引きずりこまれるような怖さもありましたので…。
自分の中のある部分が登場人物に共感してしまうことに戸惑いを感じつつ、少し読んでは日常に帰り、気持ちを整えてからまた読み始める、の繰り返しで、結構しんどかったです。
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No.12:
(3pt)

グイグイ読ませるダーク小説

中村文則の作品は初期から大体読んでいるが、暗い文体は健在だ。近年はミステリー仕立ての作品を書き、本作もそうだが、グイグイと読ませる文章力はさすがである。200頁ほどあるが、あっという間に読ませる。
ただ、紗奈江は美人らしいが、読んでいてそれほど魅力的あるいは魅惑的な女性だとは思えず、何故主人公が惹かれるのかよくわからなかった。設定が東日本大震災後になっているらしいが、震災を描く意味はこの作品からは感じられなかった。著者は学生時代を福島で過ごしたので震災に対する思いはあるだろうが、この作品ではまだうまく描こうとしていないと感じる。
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No.11:
(5pt)

そこらの恐怖体験談なんて子供だまし!!本物の恐怖を味わえる

普通に生きる、とはどういうことだろう。日常と非日常の境目はどこで線引きされるのだろう。本物の狂人や、 恐ろしいものとはどういうものなのか。いわゆる普通に生きている、生きることができる人は、これらの疑問を持たないのかもしれない。

 いや、立ち止まって考えてはいけないのかもしれない。普段、僕は誰かと会話をする際、わかっていて敢えて相手を怒らせてみたい、当惑させてみたい、と考えたことはなかった。まあ、実行してしまったら後々めんどくさくなるし、考えないほうがいいのかもしれない。自分からわざわざ不都合な環境を作るのは、馬鹿か狂っているかのどちらかでしかない。でも、どんな人間でも時には一切をかなぐり捨てて、自分の中に鬱積した塊を掻きだしたくなるのではないだろうか。何の躊躇もなく、それができる人間を社会では狂人とか、異常などというのではないか。僕の頭の なかで、今、様々な憶測と疑問がパスを出し合い、手探りのなか正しいゴールへと向かおうと奮闘しているのがわかる 。 中村文則はいつだってフィールドとゲームを提供してくれる。だが、そこで僕や貴方がどのようにプレイするのかは、それぞれに委ねられているので、結果もそれぞれになる。その結果が出るまでを楽しめるのが中村文則の楽しみ方だと僕は勝手に思っている。

 この本は、法律事務所で働く主人公新見と、迷宮入りした一家殺害事件「折鶴事件」の生き残りである紗奈江の出会いから始まる(冒頭の新見の回想については敢えて触れません。個人的に恐怖をそそられて、たまらないんだけどね)。彼女と会ったことをきっかけに、新見は自分でもはっきりした理由がわからないまま、事件を探るようになる。元刑事の探偵、会社での不正経理がばれて失踪する 紗奈江の男、事件にかかわった老弁護士にフリーライター。物語にはさまざまな「狂気じみている」人間が壇上に現れる。

 僕たちの多くは、普段狂気というものを恐ろしいものとして忌み嫌っている。でも、人によっては快楽を与えてくれる何がしかを意味している(酔狂という言葉があるように)。新見に接触してくる、自分をおかしい奴と訝しがる人間たち。彼らは社会人としては何ら問題はなく、普通という名の檻からは全くはみ出てはいないだろう。本当に恐ろしいのは、自分が狂っているとわからない、自覚していない(またはそれが弱い)人間ではないか。僕にとって、本作品中で立派な狂人といえるのは、新見と 紗奈江だった。特に彼女は危険極まりなく、本を持つ手の震えが止まらなかった(あと、おしっこちびりそうになりました)。 事件の真相が、 紗奈江の口から開かされる後半の頁をめくっていくと 、彼女の家族(彼女含め)が、4人とも異常すぎて、恐怖と嫌悪感に襲われる。なぜこの家族はいびつになってしまったのか。頁をめくってもめくっても理解ができない。わからないから恐ろしくなる。途中で嫌悪感に耐えられなくなり、僕にこの本を閉じるようきつく警告を発してくる。でも、物語から伸びてくる無数の手が僕の腕や指をつかみ、無理やりにでも頁をめくらせようとする。本というものに対し、ここまでおびえたのは初めてだ。 巷にあふれる恐怖体験本などが、子供だましに思えるほどの一冊なので、真夜中のお供としておススメですよ。
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No.10:
(4pt)

自分の中の闇に迷う

この小説は、私にとっては非常に感想を書くのが難しい小説だった。
一度読み終わって、この「迷宮事件」の謎が一応の答えに辿りついていたとしても、それが何を意味するのか、一度読んだだけではわからなかった。
もっと言えば、なんのために中村さんがこの小説を書いたのか、その理由がわからなかった。それで、もう一度、最初から読み直す必要があった。
再読しながら、少しずつ、この小説の意味を探った。私自身が迷宮で迷わないように。作者が、いや人間が抱えている闇の温度というものがいったいどんなものなのか、知りたいと同時に自分がそれに惑わされないように、注意しながら読み進めた。その中で、この感覚には覚えがあると実感しながら、そこにある感触が悪を引き寄せるのだろうかと探った。

「どこか他人とズレている自分を常識に合わせなければならない」
そんなふうに思うことは誰にでもあるのではないか。
そして、幸福の価値基準も、世間に合わせなければならない。そこに歪みを感じながら、それでもなんとかやり過ごして普通を装っている、そんな日常を憎みながら。
でもそんな価値基準なんて、突然の天災で奪われてしまうということを私たちは知ってしまった。あるいは、それはテロなのかもしれない。戦争かもしれない。
天災だろうと人災だろうと、一個人なんて簡単にひねりつぶしてしまうような暴力が存在していて、それがいつ起きるかわからないのに、私たちは世間が定めている基準に合わせて、生の自分を殺して生きている。それに何の意味があるのか。

この小説の主人公は、幼少の頃、世界と自分を合わせられずに内面の世界に閉じていた。それは親との関係が上手くいっていないことがベースにある。
幼い頃というのは、自分一人では生きられない非力な存在であり、世界は恐ろしい存在である。その幼い自分を守る唯一のものは親の存在である。その親が、自分を守ってくれなかったら、自分を愛してくれていなかったら、その子は最初に覚えるべき「信頼」という感覚を知ることができない。信頼すべき存在がなかったら、その子は常に不安に苛まれ、人に対して疑心暗鬼になってしまう。
自分が存在できる場所であるはずの「家庭」がもし安定を欠いていたら、そこに居ることを望むことはできず、自分を不安に追いつめる何かを排除したいと思うようになるかもしれない。
主人公も、主人公が出会った折鶴事件の遺児である紗奈江も、親との関係が歪だった。家庭が安らぎの場所ではなかった。そういうなかで自我を形成していくとき、人はかよわい自分を守るために何か強い存在を自分の中に創り出そうとするのかもしれない。それが、小説のなかでは「R」であったり、「ヒーロー」であったり、「多神」だったりするのかもしれない。

主人公と紗奈江が惹かれ合うことになるのは、自分の存在価値への不安が根底にあるからであろうか。自分の駄目な部分を刺激する存在、同じ傷を内面に隠している存在、それが互いを惹きつけたのだろうか。

「迷宮」とは、迷宮入りした殺人事件の謎という意味もあるのだろうが、これは人が陥る人生の迷宮という意味もあるのだろう。どんなふうに「生きる」ことが、その人にとって幸福なのか。そもそも「幸福に生きる」ことが生きていることの目的なのか。人はなんのために生きるのか。
結局、答えなんてみつからない。この小説も答えを導き出してはいない。
ただ、自分の内面の不可思議な衝動と向き合ってみただけだ。
この小説は、中村さんの初期作品の臭いがする。自分が抱えているドロドロしたものと、距離を置かずに向き合っている。だから、何か酔ったような感覚を覚え、なんだか気持ち悪い不安定な粘りが体に纏わりつくのかもしれない。

結局、うまく感想を書けないことに気づく。申し訳ない。
またしばらく時間を置いて、再読することにしよう。
これ以上、酔っているわけにもいかないだろうから。
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4101289557
No.9:
(3pt)

起伏が小さく退屈であった

迷宮入りした事件を巡り被害者と親しくなる主人公。 徐々に事件の核心に迫るが意外な事実が浮かび上がる。 全体的にストーリーに起伏が小さい印象。 このため、何度か挫折しそうになった。 ただ、著者の独特の文章は少し惹きつけられるものがあり今後の作品に期待。
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No.8:
(2pt)

到達点までの過程、一つの習作か

美女と、病的な社会不適合感と、抑圧された悪への欲望と・・・さえあれば魅惑的な物語が成立するというわけではない。 と思った。
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No.7:
(5pt)

こんな小説を待ち望んでいたのかもしれない

友人が「絶対お前に合うと思うから読んでみろよ」と勧めてくれて初めて読んだ中村文則作品が『迷宮』である。友人は私を何か狂人のように(いい意味で?)みなしているようだが、この作品を読んで自分がどれほど「正常」かを思い知らされた。それは安心とともにほんの少しの落胆をもたらした。はっきり言って作者は狂人である。恐ろしい「自分という存在」を内に秘めている。だからこそある意味作者の本心の吐露であろう『迷宮』という作品は蠱惑的で、読んだ人の中に潜む「何か」を刺激し目覚めさせる。
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No.6:
(4pt)

全編に漂う危うさ、狂気と重苦しい空気…

『迷宮』というタイトルが示す通り、迷宮入りした一家惨殺事件と主人公を始めとする登場人物の心の中の迷宮を描いた小説である。

弁護士事務所で働く主人公の『僕』は、一家惨殺事件…日置事件と一家惨殺事件の唯一の生き残りの紗奈江に魅入られながら、事件の闇に近付いていく。

全編に漂う危うさ、狂気と重苦しい空気は、著者の文庫解説にあるように著者の東日本大震災で受けたダメージに由来するのか…東日本大震災を直接描いた小説よりも、余程、当日の日本人が心に受けた傷の深さを伝えているかのようだ。
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No.5:
(3pt)

文学の「進歩」

読んでみて若いころの大江健三郎の小説を思い起こした。
ただ、これもあくまで「青春小説」で、
もし、文学の「進歩」というものがあるなら、
文学は「進歩」していないといわざるをえない。
文学が読まれなくなった理由はそこにもあるのではないか?

このテーマを深めようとしたら、
とてもこの薄さではたりなくて、
原稿用紙1000枚くらいでねっとりと物語として展開してほしい。
たんにひとくみの男女カップルの話に収れんできるほど
軽い内容の小説ではない。

あいかわらず、中村は、ラストをハッピーエンドで終わらせるのだが、
これは、中村の「現実肯定」の側面だろう。
もちろん、「地獄を見た」あとの「肯定」だが、
「肯定」は「肯定」でかわりない。

たとえば、大江の「万延元年のフットボール」の結末とくらべれば、
そのカタルシスのある/なしは、徹底的に問われるべきだろう。
現実をここまで拒否しておきながら、結局は、
ベタな現実によりそうのは、ちょっと軽い。

あと、物語の構成で言うと、
後半は、たんなる「謎解き」になっていて、
ちょっと三流推理小説のようだ。

狂気を扱う場合、
それを個人のものとして扱うか、あるいは
集団のものとして扱うかがあるだろう。
個人のものとして扱えば「迷宮」になるし、
集団のものとすれば、「俺俺」になる。

ぼく自身としては、小説として
「俺俺」のほうが成功していると思った。
現実の日本を描いている、と(もちろん「寓話」として)。

ただ、中村が第一線の小説家であることは間違いないので、
これからも、作品を期待している。
唯一無二の作家として、これから、中年にさしかかるなか、
どう、自分の「独特のもの」を描くか。
彼の「成功」はそれにかかってると思う。
(そういえば、彼の小説には中年や年寄がほとんどでてこない。それも弱点だと思う)。
迷宮Amazon書評・レビュー:迷宮より
4104588059
No.4:
(3pt)

作者が言う新しさとは?

中村文則の作品を何作か読んだあることのある者からすれば、作者があとがきで言っている新しさとは何なのかがよく分からなかった。迷宮入りしたある事件の真相に迫るというミステリ的要素のことを言うのならば必ずしも否定はしないが、そうではあるまい。エンターテイメント性で言えば『掏摸』の方が上である。また、自己と社会に乖離を持ちながら、外面的には何とか調子を合わし、内面的には反抗しつつ、そこに存在する違和感が表出する寸前という主人公の危うさが、ある出会いによって、一般的な意味で言う救いのある方向に向かうという意味で考えれば、『何もかも憂鬱な夜に』の方がより明確であったような気がする。いずれにせよ新しさを感じなかったのは、私が迂闊な読者であることの証左なのか。
中村文則の作品では、出生から過酷な経験をした者や、内的な矛盾と社会との埋めようのない溝を前に冷笑したり、そのわだかまりを快楽で発散させようとしてたじろぐ者や、更には内面的な反社会性がふとした契機で表出していく者など、現代社会では考察を避けることが出来ない人物が描かれており、それを決して異物とは感じさせない、強いて言えば共感さえも呼び込むだけの筆力がある。今作でもそれは中村文則的な水平線上に描かれている。ただ、この作者が今後どういう境地を拓くのかを期待して待つ者にとっては、いささかじれったいという感は否めない。
迷宮 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:迷宮 (新潮文庫)より
4101289557
No.3:
(2pt)

良い作品であるとは思えません

猟奇的な一家殺害事件の生き残りであった女と深い仲になった若い男を語り手として、
物語が展開されていく。
一読した際の正直な感想は「良くない」である。その理由について考えてみる。

ここには「悪事」が書かれている。
だが、その事に接触する語り手の立場は、あくまで傍観者の領域から超えていかない。
この物語には、悪事に関わった当事者が一切登場してこないため、読み手は物語の核心に入り込んでいくことができない。

語り手が抱えている心の問題(Rと名付けられた、語り手の内面に潜む別人格)や、女に向けて語られた内面の苦悩が、
読み手としての自分の心に響いてこなかった。頁によっては、ある種の白々しささえ感じさせた。

後半、殺人事件の遺児となった若い女が事件を語る構成となっているが、事件の猟奇性があまりにエキセントリックで、
読者としてついていけなかった。また、女の言動が病的であるため、感情移入できない。

浮かんだ事柄をそのまま書き記していくと、このような感じになる。

初期作品と比較した場合、初期作品は、語り手が、明確な意思を持って行動しており、文体も、
語り手の明確な意思を反映したかのような緊張感と強度に満ちたものだった。
対して近作では、主人公の意思は脆弱で、常に動揺しており、文体も、それに見合った不安定なものになっている。
このこと自体に問題があるとは思わない。だが、近作に見られる作風は、時として、掴みどころのない、
どこかわけのわからない印象を読者に与えてしまうような、悪しき傾向を備えているように思う。
迷宮 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:迷宮 (新潮文庫)より
4101289557
No.2:
(4pt)

火花のような黒が、胸奥深くの迷宮を彷徨う自我を照射する

弁護士事務所に勤める34歳の新見。バーで知り合った彼女と親交を重ねるうちに、解決不可能とされた事件のことを知り、深く飲み込まれてゆく。

似たような人生を歩む、似るはずのない他人。
ときに狂気と隣り合わせになりながら、近代人が常に悩まされてきた、見つかることのない人生の意義。すなわち、迷宮からの出口。

後半、彼女によって、事件の真相が一気に語られる部分は安易な気もするが、迷宮を彷徨う自意識の救済策が、日常にこそ存在することを人が発見する物語として、意義深い作品だと思う。

個人的には、加藤さんのたたみかけるような重い言葉(p134)が、新見の人生を穏やかな領域へと差し向ける一助になることと信じたい。
迷宮 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:迷宮 (新潮文庫)より
4101289557
No.1:
(3pt)

かなり気味の悪い話

「掏摸」「王国」シリーズとは全く関係のない話。

とある迷宮入り事件の被害者と関係を持つ主人公。

その主人公にも、非常に特異な考え方が宿っており、次第に事件に引き込まれていく。

事件の昔の関係者等と接触したりして、事件の核心に迫っていくのだが。。。という話。

一面では密室事件ミステリー要素もあるのだが、基本的にはやはり「悪」を描いている作品。

但し、「掏摸」「王国」ほど、エンタテイメント性には富んでいない、との印象を受けました。

最初にこの本から入ると、「気持ち悪い」で終わってしまうかもしれません。個人的には、あまり好きではない内容でした。
迷宮 (新潮文庫)Amazon書評・レビュー:迷宮 (新潮文庫)より
4101289557

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