風の影

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評判

風の影の評価:

4.23/5点 レビュー 92件。 B ランク

Amazon書評・レビュー点数毎のグラフです

平均点4.23pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全103件 81〜100 5/6ページ
No.23
(5pt)

全ての本好きへ!

とある本をきっかけに進行する小説は確かにいくつかある。そしてそれらのほぼ半数(これは日本の作家になるものではなく海外の作家から生み出されたもので、それらは途方も無い競争に晒されて我々日本人の手に届くからかも知れないが)が確かに面白い。
今回の『風の影』は、本の装填や背表紙を見る限り、そしてその題名さえもが言葉は悪いが陳腐であり、読書家であれば在るほど一度手に取ってさっと裏を眺め、すぐ元の場所に戻すようないでたちの本だ。
だが、中身は相応に深い。バルセロナと言う、サッカー以外にはほぼ知らない土地で繰り広げられるいかにもと言った場面設定ではあるが、プロットが複雑で濃厚。他の本と重ね読み出来ないくらい多数の特徴ある登場人物が重なり合っているが、最後には元いる場所に辿り着く。
これ以上説明の必要の無い、”絶品”の一種である。
風の影 (上) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (上) (集英社文庫)より
4087605086
No.22
(5pt)

緩やかな悲劇

上巻では、主人公ダニエルの恋やフリアンの過去、フリアンの本を燃やす「悪魔」ライン・クーベルトとの対峙などが、まだベールに包まれたあやふやな形で描かれていましたが、下巻に入ると、ダニエルと元ホームレスの友人フェルミンの探偵活動が活発になっていきます。
フリアンの恋が始まったと同時に、緩やかに悲劇が始まっていたことがわかっていきますが、親友ミケルがそれに対して心を砕いたことも感じられます。フリアンとミケルの友情、ミケルのやさしさが行間にあふれ、思わず涙してしまいました。
読み進める間、ずっと、「フリアンは生きているの?」「これからダニエルはどうなるの?」という気持ちが胸を占め、本を手放せませんでした。
上巻、下巻を通して、登場人物の息吹、感情が満ちているのもこの物語の魅力です。中でもフェルミンの存在は大きい。ダニエルと物語を、そして読者を回転のいい頭と口で導いていってくれます。
風の影 (下) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (下) (集英社文庫)より
4087605094
No.21
(5pt)

父と息子の物語

今、読了しました。書店にあふれる書物から、この一冊を選び取った瞬間に、そこは「忘れられた本の墓場」となり、あなたはダニエルになります。
生き生きとした登場人物と、巧緻なプロット。物語や書物、万年筆などの文具を愛してやまない人にこそ、この本を読んでいただきたいと思います。
また、満ちあふれる警句や、あたかも詩歌のような美しい修辞にも心を奪われます。
そしてなにより、この物語の核は、父と息子の物語であると思います。大切なものが父から息子に継承されることの美しさが、何よりも心を打ちます。
本を読む喜びに浸ることができる、文字通りの傑作です。
風の影 (下) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (下) (集英社文庫)より
4087605094
No.20
(5pt)

怒涛の下巻

下巻を3分の1ほど読み進めるや,「七日後に,ぼくは死ぬことになる」とダニエルが告げる。ここからの一週間が,まさに急展開だ。
 彼が出会った人物の一人が遺した手記が,下巻の中心に据えられる。これまでダニエルが調べ回った人物の一人一人が,少しずつほどけるように繋がってゆく。やがてダニエル自身にも・・・
 謎の作家フリアン自身も知らなかった秘密,怨念,それぞれに宿る動機が明らかになるにつれ,物語は終焉に向け加速度を増す。エピローグを読みつつ,涙が頬をつたうのに気付いた。
 人は本を読むことで真の自分自身と出会い,向き合う。それは本を読むことでしかできない。そんなことが本書のどこかに書いてあった。
風の影 (下) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (下) (集英社文庫)より
4087605094
No.19
(5pt)

嵐の前の静けさ(上巻)

ダニエルの目を通して描かれる上巻。謎の作家フリアン・カラックスの足跡を辿るうち,ダニエル自身の運命も衝き動かされ,形を変えてゆく。
 思春期の淡い恋心,飽くなき探究心,そして心の友との出会い。前半はダニエルの成長を見守りつつ安心して読める。フリアンの著書を片っ端から焼き払う謎の男についても,ある程度予想できつつもその動機については未だ明らかにされない。
 口達者なホームレス,フェルミンが物語に果たす役割も大きい。彼の前歴については下巻で明らかにされるが,ダニエルの彷徨える感情を明確なビジョンに導く導師として,存在感はより大きくなる。
風の影 (上) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (上) (集英社文庫)より
4087605086
No.18
(5pt)

重なり合う過去・未来と明かされる謎

成長し、恋に溺れながらも、フリアン・カラックスの影を追うダニエル。

そんな彼をそれぞれの思いで見守る多くの人たち。

フリアンに一体何があったのか?

なぜ、彼の本は燃やされなければならなかったのか?

ライン・クーベルトと名乗る人物の正体は?

ダニエルの恋の行方は?

ある事件をきっかけに明らかになった数々の事実。

その後の急展開には意識がくぎづけになり、最後まで一気に読んでしまいました。

これだけ壮大な物語をまとめ上げた筆者の筆力には脱帽です。
風の影 (下) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (下) (集英社文庫)より
4087605094
No.17
(5pt)

読み始めたら止まりません

久しぶりに、読み始めたら止まらない本に出会いました。
主人公のダニエルは本屋の息子。
本好きにはたまらない設定です。
ぜひ。
風の影 (上) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (上) (集英社文庫)より
4087605086
No.16
(4pt)

読み直すとまた発見がありそうな小説です

ボリュームがある上に、多くの登場人物や場所が微妙につながっているので、読んでいるうちに「この人いつ出てきたっけ?」と気になって前に戻ることが多々あります。それでも見落としている部分があるかもしれないので、全編を一度読み終えてから再度読み直すと、また新たな発見がありそうな気がします。
この本を特定のジャンルに分けるのは、本当に難しいです。すべてのジャンルの要素が含まれているようにも思えます。主人公ダニエルが成長するにつれて少しずつ明らかになる『風の影』の作者、フリアン・カラックスの過去。上巻を読み終えた今は、壮大な迷宮に迷い込んでしまったという感じですので、早く下巻を読んでスッキリしたいです。
風の影 (上) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (上) (集英社文庫)より
4087605086
No.15
(4pt)

読み直すとまた発見がありそうな小説です

ボリュームがある上に、多くの登場人物や場所が微妙につながっているので、読んでいるうちに「この人いつ出てきたっけ?」と気になって前に戻ることが多々あります。それでも見落としている部分があるかもしれないので、全編を一度読み終えてから再度読み直すと、また新たな発見がありそうな気がします。

この本を特定のジャンルに分けるのは、本当に難しいです。すべてのジャンルの要素が含まれているようにも思えます。主人公ダニエルが成長するにつれて少しずつ明らかになる『風の影』の作者、フリアン・カラックスの過去。上巻を読み終えた今は、壮大な迷宮に迷い込んでしまったという感じですので、早く下巻を読んでスッキリしたいです。
風の影 (上) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (上) (集英社文庫)より
4087605086
No.14
(5pt)

今年一番の収穫といえる書

バルセロナの少年ダニエルは、古書店を営む父と二人暮らし。ある日、「忘れられた本の墓場」と称する場所に案内され、そこでフリアン・カラックスという作家の書「風の影」を見つける。この作家の作品を他にも読みたくなったダニエルだが、調べるうちに彼の作品がすべて市場から姿を消してしまっていることを知る。やがて彼を、見知らぬ影がつきまとい、「風の影」を手放すようにと迫るのだが…。

 今年一番の収穫ともいえる書です。ミステリーでもあり、冒険小説でもあり、そして恋愛小説でもあり、と様々な要素を見事に融合させた物語ですが、それでいてこの「風の影」は単なるエンターテインメント小説に終わることはありません。少年が大人へと成長する過程をたくましく描く教養小説ならではの、実にすがすがしくも懐かしい読後感を与えてくれます。

 フリアンの小説をこの世から抹殺せんとするその謎の背景に、ある人物の、運命と呼ぶにはあまりにも痛ましく哀しい過去があることが描かれます。その人物の、この世の森羅万象を激しく憎み、生きることそのものを忌み嫌う、苛烈な厭世観が置かれているのです。
 しかし他方で、ダニエルの人生によって打ち出されるのは、人生はそれでも生きるに値するものであるという力強い信念です。ダニエル自身も、最初は迷いや焦りを山ほど抱えた、人生のとば口に立ったばかりの少年として登場します。その彼が「その人物」の人生を期せずしてなぞりながら、生きることの意味を勝ち得ていく姿に、心打たれざるをえません。

 上下巻あわせて800ページを超える大部の書ですが、その厚みを感じさせないのは作者サフォンのストーリーテリングの見事さとあわせて、翻訳者・木村裕美氏の大変優れた技能に負うところが大きいでしょう。
 書を読む愉悦にどっぷりと浸ることのできた一冊です。


風の影 (下) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (下) (集英社文庫)より
4087605094
No.13
(4pt)

謎がドンドン明らかになる下巻

上巻の後半から話が盛り上がり下巻では次々に謎が解き明かされていった。
一つひとつの話がドンドンつながっていき、一つの大きなストーリーとしてつながった。
関係者が次々と死んでいき残酷さがとても強く感じられたが、最後には平穏で幸福な日々へとつながるというところはよい意味で期待を裏切ってくれた。
上巻を最初読み進めていったときはあまり面白くないかなという気持ちも少しあったが、下巻に進むと読み応えのあるものへと変わった。
風の影 (下) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (下) (集英社文庫)より
4087605094
No.12
(3pt)

後半に盛り上がりがありそうな予感。。

翻訳書だからか前半は非常によみづらさを感じた。
訳し方これでよいのかなぁ?会話でこんなのないでしょ?といったぎこちなさが目立ったが中盤くらいから少しずつなれた。
「上」の後半から少しずつ話が盛り上がり「下」に期待してしまいます。
カラックスとなんだか似ているダニエルが「下」巻でどういうふうに巻き込まれていくか楽しみです。
風の影 (上) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (上) (集英社文庫)より
4087605086
No.11
(5pt)

ネオ古典文学と言っていいかも。

そして1954年。19歳になったダニエルは、親友トマスの妹ベアトリスと恋に落ちる。許婚のいるベアトリスとの道ならぬ恋が燃え上がる一方、フリアン・カラックスの謎に満ちた生涯も、ベールが剥ぎ取られていく。意外な人物から語られるフリアン・カラックスの劇的な生涯。そして、その人生に深く関わるもう一人の人物、刑事部長フメロ。

ダニエルの心強い見方フェルミンもまた、その過去においてフメロと浅からぬ因縁があった。フメロの思惑の前にダニエル父子の古書店が治安警察の暴威に晒される。

ダニエルはそれと知らぬうちに、自身の人生がフリアン・カラックスの人生をなぞっていることに気が付く。カラックスとは何者?カラックスの存在を抹消しようとする男は何者?フメロとカラックスの因縁は?そして、ダニエルの運命は!?

ストーリーそのものは通俗的であるし、カラックスの秘密が明かされる手法も、あまり褒められたやり方ではない。だが、カラックスとダニエルの人生がシンクロしていく運命の妙を味わわせる構成力は見事なものがある。ダニエルとカラックスの人生が、二重螺旋のように一つの結末に向かっていく。その運命を手繰るのが、悪玉のフメロである事がなんとも上手いのだな。

読み進めていけば、オチは大体読めてしまうのだが、それでもなお、ラストのカタルシスは堪えられない。卓抜した構成力に加え、登場人物造詣を丁寧に緻密に行っているからだ。

特に、悪玉フメロの憎憎しさのディテールと運命論的な壁の役割に対し、生き生きと軽妙に、生の謳歌を歌い続けるフェルミンの存在が素晴らしい。ダニエルより遥かに年上でありながら、親愛と忠誠を尽くす友人にして従者という立ち居地はクラシックである。

だが、その行動原理に人間が本能的に持つ善性がるからこそ、陰惨な運命論的物語を大団円に軌道修正するある種の力技を、素直に感動に結びつけるのである
風の影 (下) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (下) (集英社文庫)より
4087605094
No.10
(5pt)

古典浪漫文学を読むような、人間賛歌の物語

1945年6月のある早朝、10歳のダニエル少年は古書店を営む父親に連れられ、バルセロナ市街のとある秘密めいた場所に連れて行かれる。そこは「忘れられた本の墓場」と呼ばれる、古書の迷宮のような場所であった。そこで一冊だけ好きな本を選べと父に促されるダニエル少年。様々な書き手や持ち主の思いの込められた本の迷宮から選ばれた一冊は、決して失われないよう、生涯を賭けて守らなくてはいけないのだ。彼が選んだ本はフリアン・カラックス著「風の影」。多くが謎に包まれた作家の失われた一冊を中心に、ダニエル少年の人生は数奇な運命を描いていくのであった。

情感たっぷりの導入部だが、ボルヘスやダニング調の「書を巡る運命」を期待すると大きく外れることになる。本作は、書物そのものではなく、それを書いた人間、読んだ人間の運命を綴る物語なのだ。

独裁政権下のバルセロナでのダニエル少年が少年から青年に至るプロセスが、上巻の主要な内容だ。大手古書店主の一人娘、盲目の美女。。。年上の女。。。への激しくも切ないダニエルの初恋の行方に見え隠れする禍々しい人物たち。。。フリアン・カラックスの著作を全て焼き尽くそうと画策する謎の男、冷酷で粗暴な治安警察の刑事部長フメロ。そしてダニエルを暖かく見守る父親や友人たち、ダニエルに助けられて生きる活力を得た元浮浪者にして生涯の親友となるフェルミン。

これら登場人物たちが織り成す物語は、はっきり言って通俗的である。だが、それ故に一度読み出したらもう止められなくなる。それは一重に、丁寧なキャラクター造詣の成せる技である。登場する全てのキャラクターがそれぞれのドラマを感じさせ、陰鬱な時代に鮮やかなきらめきを放つ。魅力ある登場人物のおりなす一大ロマンは、古典的物語を現代に再構築したとも言えるだろう。それは人の営みや感情の普遍性を顕にする。だから、面白いのだ。
風の影 (上) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (上) (集英社文庫)より
4087605086
No.9
(5pt)

人生とは他者に読まれるための物語である

「われわれはね、自分の愛する人間を、宝くじみたいに思っていることがあるんですよ。わしら自身のばかげた夢を実現するために、愛する者が存在していると、勘違いしておるんだな」。
 思わず自戒を促される言葉である。そして、多くの人間が、自分と他者の関係をこのように勘違いしていることだろう。では、そうではない関係とは何か?
 「誰かがわたしたちのことを覚えているかぎり、わたしたちは生きつづける」という言葉がその答えであり、本書の主題でもあるように思う。“自分を中心として他者が存在するのではなく、他者の中に存在することではじめて自分が存在する”という考え方。あるいは、「あなたの目をとおして、世界を見直すことを学んでいった、そして、あなたという存在のなかに、かつて少年だった自分をよみがえらせようとした」っていう関係性。本書は、“人生とは他者に読まれるための物語である”ことを教えてくれる。
 下巻は、主人公ダニエルの初体験後のシーンから始まるんだけど、ここら辺の思春期の少年の描写がいいんだよなぁ。「たった一時間で世界を征服したと思いこみ、つぎの一分でなにをうしなうのかもわかっていない、すぐに見透かされそうな、単純な少年にすぎない自分」とかね。思春期って全能感と無力感が躁鬱病のように入れ替わるもんね。それと、友や恋人を裏切ってしまうダニエルの意気地なさ、狡さ、弱さ、臆病さ、かっこ悪さが素直に描かれている。勇敢さをストレートに描くことよりも、こうして大事な人を裏切った後悔の気持ちを描くことのほうが、勇気の大切さが身に沁みて伝わってくるのだ。
風の影 (下) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (下) (集英社文庫)より
4087605094
No.8
(4pt)

いろんな要素が盛り込まれた、壮大な迷宮のような物語

17言語、37カ国で翻訳出版され、500万部を突破したという世界的なベストセラーとあって、早速読んでみた。文庫にして上・下巻あわせて831ページにも及ぶ、読み応えのある大作である。

時は1945年。舞台は内戦の傷跡が残るスペインのバルセロナ。少年ダニエルは「忘れられた本の墓場」で手にした小説『風の影』にたちまち魅了される。やがて彼は作者のフリアン・カラックスの謎めいた生涯に興味を抱き、取り憑かれたようにフリアンの過去の探求を始める。

「呪われた本たち、それを執筆した男、その本を燃やすために小説のページから抜けだした人物、裏切りや、失われた友情の物語だ。風の影のなかに生きる愛と、憎しみと、夢の物語なんだよ。」

真実を探るうちに浮かび上がってくるのは、登場人物ひとりひとりが背負っている悲哀に満ちた過去。純愛、憎悪、情欲、嫉妬、呪われた血脈・・・。そしていつしかカラックスの悲劇的な過去が、ダニエル自身がたどっている不思議な歳月・運命と微妙にシンクロしてくる。

本書は、歴史、恋愛、冒険、青春、ホラー、ミステリー、サスペンス、ゴシックロマンと、いろんな要素が盛り込まれた、壮大なイリュージョンである。私のような“小説好き”にとっては十分楽しめる、重厚な迷宮のような作品だった。

風の影 (下) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (下) (集英社文庫)より
4087605094
No.7
(4pt)

いろんな要素が盛り込まれた、壮大な迷宮のような物語

17言語、37カ国で翻訳出版され、500万部を突破したという世界的なベストセラーとあって、早速読んでみた。文庫にして上・下巻あわせて831ページにも及ぶ、読み応えのある大作である。

時は1945年。舞台は内戦の傷跡が残るスペインのバルセロナ。少年ダニエルは「忘れられた本の墓場」で手にした小説『風の影』にたちまち魅了される。やがて彼は作者のフリアン・カラックスの謎めいた生涯に興味を抱き、取り憑かれたようにフリアンの過去の探求を始める。

「呪われた本たち、それを執筆した男、その本を燃やすために小説のページから抜けだした人物、裏切りや、失われた友情の物語だ。風の影のなかに生きる愛と、憎しみと、夢の物語なんだよ。」

真実を探るうちに浮かび上がってくるのは、登場人物ひとりひとりが背負っている悲哀に満ちた過去。純愛、憎悪、情欲、嫉妬、呪われた血脈・・・。そしていつしかカラックスの悲劇的な過去が、ダニエル自身がたどっている不思議な歳月・運命と微妙にシンクロしてくる。

本書は、歴史、恋愛、冒険、青春、ホラー、ミステリー、サスペンス、ゴシックロマンと、いろんな要素が盛り込まれた、壮大なイリュージョンである。私のような“小説好き”にとっては十分楽しめる、重厚な迷宮のような作品だった。

風の影 (上) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (上) (集英社文庫)より
4087605086
No.6
(5pt)

覚えてくれている人間がいるかぎり、ぼくらは生きつづけることができる

この小説をひと言で表わす言葉が文中にある。「呪われた本たち、それを執筆した男、その本を燃やすために小説のページから抜けだした人物、裏切りや、失われた友情の物語だ。風の影のなかに生きる愛と、憎しみと、夢の物語なんだよ」。
 この小説は、『風の影』という一冊の本と運命的に出会った主人公による、その本と作者の影をめぐる“喪失と不在の物語”である。この小説では、本は人生の、人生は本のメタファーだ。『風の影』の作者は“本のなかに生き”“魂は、彼自身の物語のなかにある”。つまり、物理的に生きているかどうかなんてことは問題ではなく、「誰かしら覚えてくれている人間がいるかぎり、ぼくらは生きつづけることができる」ってことなのだ。まるで、本が誰かの手に取られることで、初めて登場人物たちが活き活きと動き出すように。
 こう書くと、観念的で小難しいような誤解を与えるかもしれないけど、思わず頁をスルスル繰ってしまうエンターテインメントなのだ。主人公の少年ダニエルの恋愛エピソードも、自分も年甲斐もなく追体験させてもらってるリアルさで、甘酸っぱい気持ちにさせてくれるし、なんといっても主人公の書店で働く、“アナーキーな自由主義思想”の持ち主、フェルミンのシニカル・トークが最高。
 随所にちりばめられているアフォリズムもナイス。例えば、「本は鏡とおなじだよ。自分の心のなかにあるものは、本を読まなきゃ見えない」とか、「人生なんて、せいぜい三つか四つのことのために生きる価値があるんであって、それ以外のことは、畑にまく肥やしみたいなもん」とか、「なにかを相手にあたえられるかじゃなくて、どれだけ譲れるかってことが、時にたいせつ」とかね。
 「この物語も墓場ではじまって、墓場でおわる。もっとも、きみが想像するような墓場じゃない」って予言どおりの結末が果たして待っているのかどうか、期待しつつ下巻へ。
風の影 (上) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (上) (集英社文庫)より
4087605086
No.5
(5pt)

忘れていた読書の楽しさ

休日の午後にでも、たっぷり時間を取って読みたい本です。
通勤電車の中でちまちま読むにはもったいない!

最近は小説も客を飽きさせないためか、衝撃的な素材、性急な展開、盛り沢山の要素を少ないページ数に詰め込んだものが主流になってきた気がします。でもそんなTVや映画のようなやり方をしなくても別の、本来の方法があったんだ、と忘れていた読書の楽しさを思い出させてくれる作品。
子供の頃夢中になって読んだ「レ・ミゼラブル」や「モンテ・クリスト伯」。あの楽しさを現代の小説で感じられるとは。小説の中でヴィクトル・ユーゴーの万年筆が象徴的な小道具として使われていますが、19世紀文学へのオマージュとして書かれたであろう、この作品の象徴にもなっています。

歴史小説であり、恋愛小説であり、ミステリーでもあるこの作品に、今風のジャンル分けは似合いません。全ての要素が一本の流れの中に取り込まれ、豊かな物語世界を形作っています。そして、ストーリーテリングの滑らかさの上に、最初ファンタジーやホラーまでも取り込んでいるのか?と思わされた事項まで、最後にはきちんと説明されるあたりはさすが。作者の並々ならぬ力量と、読者を裏切らない誠実さに感服しました。

本がテーマで、19世紀文学的味わいがある話、と言うと何かしら地味で古臭い印象を持たれるかもしれませんが、そんな心配は無用です。これは現代のエンターテイメント。逆に文学作品として歴史に残るかどうかは後世の判断、と思わせる小説です。140年前に「レ・ミゼラブル」がそうであったように。

風の影 (上) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (上) (集英社文庫)より
4087605086
No.4
(4pt)

一冊の本から全てが始まるミステリ

翻訳小説といえば英米のものばかりなので、スペイン発の本書になじめるかどうか一抹の不安があったが、それは杞憂に終わった。翻訳文がとても読みやすいのもその一因か。物語の大枠はミステリなんだけれど、新潮クレスト・ブックスにセレクトされるような味わいが文章にある。上巻前半のあるエピソードは「朗読者」を彷彿とさせる叙情を感じた。もしかしたら一番の謎は主人公の少年が「風の影」という幻の本と邂逅する舞台「忘れられた本の墓場」かも知れない。村上春樹が描くところの羊男が登場してもおかしくない雰囲気に満ちている。真夏の夜の夢なのだろうか。バルセロナに旅行に行った折には立ち寄ってみたくなる。
風の影 (上) (集英社文庫) Amazon書評・レビュー: 風の影 (上) (集英社文庫)より
4087605086