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石の結社



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【この小説が収録されている参考書籍】
石の結社
石の結社 (光文社文庫―海外シリーズ)

石の結社の評価: 5.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点5.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(5pt)

設定の意外性やアクション満載なのになぜか薄味感

マレル8作目の本作は西洋の古の歴史が絡む、ある暗殺組織の物語。

主人公のドルーことアンドルー・マクレーンは幼き頃に大使館員だった父をテロで亡くし、その後亡父の友人であるレイに引き取られ、彼に連れられて国を転々とし、各々の国の武術を身に着け、そしてテロを未然に防ぐために作られた組織スカルペルの工作員になった男。しかし彼はある任務に天啓を見出し、突如スカルペルを脱退し、彼の友人で同じくスカルペルの工作員であるジェーク・ハーデスティーによって社会的に抹殺されたことになり、厳格な修道院カルトジオ会に入院し、29歳にて隠遁生活を送る男だ。

物語はドルーと彼の協力者で恋人のアーリーン、そして謎の協力者スタニスロー神父ら3人が行方不明のジェークの捜索と、彼が隠遁生活を送っていたカルトジオの修道院を襲った者の正体とその復讐がテーマとなっている。

まず導入部が素晴らしい。
厳格な礼拝形式のカルトジオ修道院での静謐かつストイックな日々が語られる。それ以上でもそれ以下でもない淡々とした描写にふと訪れるドルー襲撃の影。
この静から動への移り方が非常に上手い。

さらに安息を求めて神父へ助けを求めると、神父たちは海兵上がりだったりベトナム帰りだったりといずれも屈強な元軍人たち。そんな彼らがドルーの命を狙うという、いわゆる西洋宗教には疎い日本人にしてみれば予想外の設定と展開が待っている。
まさに息をつく間もないエンターテインメントだ。

デビュー作の『一人だけの軍隊』がそのタイトル通り、一人対集団の物語だったのに対し、本書はドルーとその協力者2名と謎の組織への戦いという小集団対組織へのチーム戦になっている。よくよく考えるとこれは前作『ブラック・プリンス』でもそうであり、しかもそのうち一人が女性であること―しかも両者とも特殊訓練を受けた戦闘能力が高い女性!―も共通しており、この辺はエンタテインメントとしての華やかさも考慮したマレルの演出だろう。
こういった構成はやはり映像化を強く意識した作りだと感じてしまう。

ただ自身の両親をテロで亡くしたドルーが対テロ組織の暗殺組織スカルペルでずば抜けた能力を発揮していたにもかかわらず、突然組織を辞める理由がなんともあやふやな感じがしてしまった。それは自分のミッションで殺した相手の中になんとテロで両親を亡くした頃の自分そっくりの子供を見出したことにより、今の自分こそ幼き頃に激しく憎んだテロリストそのものであるという天啓を得たというもの。
この辺はなんとも首肯しがたいものがある。ドルーが見たのは幻覚だったのか?それとも敢えて組織はこのミッションをドルーにさせることで次なるステップアップを目論んだのか?

そしてタイトルにもある「石の結社」についても触れておかねばならない。その正体は最後の方になってようやく明らかにされる。

またタブーの存在である「石の結社」が物語の結末を予想外の方向へ持っていっている。
まさかこのような結末になろうとは思わなかった。最後の最後でタイトルに冠せられた組織の恐ろしさが見える結末となっている。

しかし『ブラック・プリンス』もそうだったが、現在のテロ組織なり、諜報活動なりが我々が歴史で学んだ出来事なり人物、組織と絡ませるのがマレルのスパイ小説の特徴のようだ。スパイは人類で二番目に最も古い職業と云われているから、このような語り口は実に面白い。これはマレル作品の味だと云っていいだろう。
ただ何かが足りないような気がしてしまう。もっと心に残ってもいいのに、何かが足りない。恐らくはキャラクターの強さだと私は思うのだが。
この辺りはこれからの作品で確認していくことにしよう。


▼以下、ネタバレ感想

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