(短編集)

真夜中に捨てられる靴



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    初公開日(参考)2007年04月
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    真夜中に捨てられる靴 (ランダムハウス講談社文庫)

    2007年04月28日 真夜中に捨てられる靴 (ランダムハウス講談社文庫)

    深夜、決まって教会前に捨てられるひと揃いの靴。真新しい紳士靴やハイヒール――毎夜、靴を回収するうちに、やがて靴と犯人探しの虜になってしまった警官を描く表題作『真夜中に捨てられる靴』ほか、謎の箱を死守する南米の将校、若さを渇望する老脚本家、瀕死の父を冷凍保存する息子など、「妄執」とテーマに、狂気に堕ちていく主人公たちを描いた全8篇。エルロイ、キング、クーンツが絶賛する、マレルの奇妙な短篇集。(「BOOK」データベースより)




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    真夜中に捨てられる靴の総合評価:8.20/10点レビュー 5件。Bランク


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    全1件 1~1 1/1ページ
    No.1:
    (9pt)

    マレルの短編は極上だ

    アクション冒険小説の雄デイヴィッド・マレルの手による短編集。
    意外や意外。内容は奇妙な味の短編集だ。

    冒頭を飾る「まだ見ぬ秘密」はクーデターによって国を追われた某国の指導者のために腹心の部下が木箱を命令のまま運ぶという話。
    マレルによる解説では本作は実話らしい。まさに現実は小説よりも奇なりである。

    続く「何も心配しなくていいから」はホラーテイストの話。
    娘を亡くした父親の狂気とも云える執念を描いた作品なのだが、それに加えて娘の霊が抱く恐怖の謎を上手く絡めている。この霊が存在することを前提にしているのが本書のミソだろう。この辺の仕掛けは実に上手い。
    さらに娘を助けるために特別高圧電流の流れる鉄塔に登って娘を救おうとする父親の狂気の姿を描いた最後まで全く気が抜けない作品。上手いなぁ。

    全編会話文で構成されているという特殊な作品が「エルヴィス45」。エルヴィスマニアの教授がエルヴィスの講義を開講したが次第に狂っていくという物語。
    正直これはマニアックすぎてよく解らない作品だ。会話が次第に狂気を帯びていくことは解るのだが。

    「ゴーストライター」はハリウッドの歪みを描いた作品だ。
    冒頭のマレルの説明にモートと同じ境遇の脚本家がいたことが告白される。恐らくはその脚本家がモートのモデルなのだろうが、マレルの姓名を逆転させてもじったような名前なのが興味深い。

    次は感動の一作「復活の日」。
    マレル自身がライナーノーツで書いているように彼自身初めて書いたSF小説。放射能事故で現代医療では治す手立てのない父親を冷凍保存してその方法が確立する未来まで延命させるというのは使い古されたテーマだが、本書が特別なのは父親の維持費を払う遺された家族の苦難を詳細に、そしてドラマチックに描いた点にある。
    本作に書かれたように残されたまだ女盛りの過ぎていない母親にとっていつ訪れるかもしれない“その日”のために一人息子を育て、孤独を凌ぐのは並大抵の苦労ではない。しかも法律上はその間でさえ夫婦であり、再婚さえできないのだ。
    加えてその維持費。当初は事故を起こした研究所の負担だったが、世論が冷凍保存技術に疑問を投げかけるや、研究所はもはや可能性は無いとして維持費の支払いを拒否する。しかし父親の復活を信じるアンソニーは大学生ながら働いてその維持費を工面し、そして自ら父親の治療法まで編み出すのだ。
    物語の設定はシンプルなほど素晴らしい物になるというが本書はまさにそのお手本のような作品だ。
    プロットは別段珍しいものでもなく、恐らく誰もが思いつくような内容だが、シンプルさゆえに感動を誘う。これが個人的ベストだ。

    次の「ハビタット」は低予算TVドラマ用にマレルが書いた脚本のようだ。とにかく主人公の女性の「約束が違う!」という狂気の繰り言と挟まれるブザー音とサイレンとが行間から実際に鼓膜に響き渡るようで神経的にもささくれ立ってくる作品だ。

    世紀末の1990年代に“Millennium”という1900年代から10年代、20年代、と特定の年代を舞台に世界の終末を描くというテーマのアンソロジーのため、ダグラス・E・ウィンターという作家が様々な作家に依頼したそうだが、マレルがそのために1910年代をテーマに書いたのがこの「目覚める前に死んだら」だ。
    最近新型インフルエンザで話題にもなったスペイン風邪の猛威をモチーフに作られた作品。次から次へ急速に広がっていく殺人風邪の恐ろしさをマレルは一医者を主人公に克明に描く。
    パンデミック物はその見えない脅威という意味で鉄板の怖さを見せるが本書もまたその例外に漏れず、実に恐ろしい作品だ。
    実際当時は死ぬか生きるかの瀬戸際で生き残った人々の意識に選民思想が浮かぶのもおかしくないほどのすごい病気だったことが解る。ここに書かれていることは決して誇張ではない。
    そして一医者のスペイン風邪との苦闘の日々として描くことで実に読み応えがあった。そしてその医者も極限状態に曝され、狂気の淵に立たされてしまうのはマレルの持ち味か。

    最後は表題作。
    原題は“Rio Grande Gothic”。毎夜靴が道路に落ちている日常の奇妙な謎が恐ろしい殺人鬼兄弟の巣窟へと辿り着く。
    読み終われば原題が的確に内容を要約していると感じるが、何が起こるか解らない発端を抑えた邦題もまた興味を誘う。しかし邦題は実にシンプルすぎてインパクトに欠けるか。
    毎夜落ちている靴に関心を持った一警官が周りの理解を得ずに孤立していく様、そして家族が離れ、孤独の中、自分を信じて真実を追いかける様、危難に陥り、命を奪われようとする様など典型と云えば典型だが、読ませる。特に敵役の農場兄弟よりもヒーロー然としておらず、どこかどん臭く、不器用な主人公のロメロの方が狂気を感じさせるのが特徴的。


    マレルといえば数々のアクション、スパイ物が有名で、その派手派手しい演出はあざといまでに映像化を狙ったような作品が多いが、短編では趣を変えた奇妙な味と云える不思議な味わいを持った作品ばかりだ。

    とはいえ長編に比べると刊行されている短編集はわずかに2作。しかも1作目『苦悩のオレンジ、狂気のブルー』は文庫化されておらず、単行本も既に絶版状態。従って彼の短編を読むには本書を読むことで渇望を癒すことになる(しかし本書も既に絶版状態なのが哀しい)。

    さて収録された物語は歴史物、ホラーにSFとヴァラエティに富んでいるが、共通するのは自失と狂気の物語だろうか。しかもライナーノーツのように全編の冒頭にマレル自身による作品に関する説明が施されており、そのどれもが実際に彼の身の回りで見聞きし、経験したことがその作品のアイデアに繋がっているという中身となっている。

    そして著者あとがきで語られるマレルの母親のエピソードが実に興味深い。決して幸せではなかった彼女の人生を目の当たりにしてきたマレルが幼少時代の彼の心に落としたのは何かを盲信しないと人は生きていけないという翳ではなかったか。
    不幸な生い立ちを辿った母親に育てられ、成人して作家として成功しながらも最愛の息子を亡くすという大きな不幸に見舞われたマレル。そんな彼だからこそ一風変わった余韻を残す物語がこれほど生まれたのではないか。

    特に息子を亡くしてからのマレルの作風はガラリと変わったと聞く。彼が襲われた最大の不幸のために彼の中に一種狂気に似た感情が宿ったに違いない。
    ここに書かれた作品に登場する不屈の精神を持つ主人公たちはその執着心の強さゆえにどこか壊れた印象を受ける。

    アクション物の長編では短い章立てでテンポよく物語を展開する作品であるが、短編ではじっくり書き込んで読み応えを促す真逆の作風であるのが特徴的だ。
    そして長編のイメージを持っていた私はマレルがこれほどヴァラエティに富んだアイデアを持ち、濃密な話を書けるとは思えなかった。恐らく誰もが思うようにマレルは長編よりも短編の方が面白い。

    こうなると『このミス』ランクインした前述の『苦悩のオレンジ、狂気のブルー』の復刊が望まれる。どこかの出版社で文庫化してくれないだろうか。


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    No.4:
    (5pt)

    号泣

    沢山は語らなくても、良質なものは、受け入れられると信じることができる。著者の作品はすべて読んだが、"復活の日"はシンプルでありストレートに心に届く。是非一人でも多くの人に手にとって頂きたい。大人の男として。
    真夜中に捨てられる靴 (ランダムハウス講談社文庫)Amazon書評・レビュー:真夜中に捨てられる靴 (ランダムハウス講談社文庫)より
    4270100966
    No.3:
    (4pt)

    短編の名作

    最近、短編集を読む機会が多くなってきたけど、その中でも面白い部類に入る一冊でした。
    全8篇からなるマレルの短編集なんですが、ジャンルにとらわれず作品ごとに全く違った世界観を描いているのが凄いです。
    個人的には娘を殺された父親の気持ちを表した【何も心配しなくていいから】と未知なるウィルスの恐怖を描いた【目覚める前に死んだら】の2本が好きです。
    全作品にいえる事なんですが人間の心理面を深く描いているので考えさせられるところもありました。
    短いページの中でこれだけ濃厚な物語を作るマレルは素晴らしい作家やと再確認しました。
    真夜中に捨てられる靴 (ランダムハウス講談社文庫)Amazon書評・レビュー:真夜中に捨てられる靴 (ランダムハウス講談社文庫)より
    4270100966
    No.2:
    (4pt)

    妄執−さまざまな人間の性(さが)。

    映画『ランボー』の原作者で冒険小説作家として『トーテム』でホラー小説家としての顔を持つ巨匠マレルの幻想中短編集。妄執というテーマで括られる良くも悪くも人間存在の為し得る不可思議な性情を、作者一流の人間ドラマで迫真的に描き上げています。

    『何も心配しなくていいから』:猟奇犯によって娘を殺された父親が悲しみの中で犯人逮捕に執念を燃やす内に妻から見放され、やがて‘娘’が見えて話せるようになります。遂に犯人が捕えられた末に、彼が取った思わぬ行動とは?
    『復活の日』:息子が不治の病に罹った父を冷凍保存して未来で治療しようとする執念を描いて感動を呼ぶ、暖かいマレル流SF小説。
    『目覚める前に死んだら』:1910年代に地球を襲ったスペイン風邪の猛威に立ち向かった人類の記録を、ある医師夫妻の奮闘を通して感動的に綴ります。表題作『真夜中に捨てられる靴』:しがない刑事が、ある日気づいた夜毎に捨てられる靴の謎を追って、上層部からの非難にも屈せずに危険に身を挺して真相を突き止める。遂に暴かれた実相には、凶々しい狂気が潜んでいたのだった。

    全八編、各篇冒頭に著者自身の愛着のこもった紹介文がつけられ、結びでは著者の母についての回想が語られている、古くからのファンにとっては堪らない、とても興味深い内容の特別な一冊と言えるでしょう。
    真夜中に捨てられる靴 (ランダムハウス講談社文庫)Amazon書評・レビュー:真夜中に捨てられる靴 (ランダムハウス講談社文庫)より
    4270100966
    No.1:
    (3pt)

    マレルの短編集はもっと読みたい!

    印象深いのは老齢ゆえに業界から抹殺されようとしている往年の名脚本家が、青年を利用して巻き返しを

    はかろうとする「ゴーストライター」。難病に侵された父を冷凍保存して、自分の手で救おうとする男を

    描いた「復活の日」。歴史的事実である「ある出来事」を詳細に描き、その渦中にあって必死に事態を収

    拾しようとする男を主人公にした「目覚める前に死んだら」。そして、かつて「リオ・グランデ・ゴシッ

    ク」としてむさぼり読んだ「真夜中に捨てられる靴」の4編。

    他にも謎の箱を独裁者に届けんとする将校の狂気を描いた「まだ見ぬ秘密」や、娘を連続殺人鬼に殺され

    た父親の転落を描いた「何も心配しなくていいから」などラストが印象的な作品も目についた。

    残りの二作品の「エルヴィス45」と「ハビタット」は残念ながらとりたてて言及するまでもない作品だ

    った。マレルは短編、それも中編クラスの比較的長い作品に秀作が多い。安心して読めて、しっかり満足

    のいく仕上がりとなっている。いったい彼がどれだけの短編を書いているのか定かではないが、これから

    も彼の短編集が随時刊行されたら、これにまさる喜びはない。
    真夜中に捨てられる靴 (ランダムハウス講談社文庫)Amazon書評・レビュー:真夜中に捨てられる靴 (ランダムハウス講談社文庫)より
    4270100966



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