ブラック・プリンス



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    初公開日(参考)1985年07月
    分類

    長編小説

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    ブラック・プリンス〈上〉 (光文社文庫―海外シリーズ)

    1989年03月01日 ブラック・プリンス〈上〉 (光文社文庫―海外シリーズ)

    ―1938年9月、戦雲垂れこめるベルリンに集結した各国謀報機関の代表は、謀報員どうしの身の安全を保証する聖域を作ることに合意し、〈アベラール・サンクション〉の契りを結んだ。―敬愛する義父エリオットに育てられた孤児のソールとクリス。だが、成人した二人は養父の恐るべき陰謀を知る。養父の罠にかかり、消されかけたソール。アベラールの掟を破り、組織から追われるクリス。二人は血の復讐を誓った。(「BOOK」データベースより)




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    ブラック・プリンスの総合評価:7.50/10点レビュー 2件。Cランク


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    全1件 1~1 1/1ページ
    No.1:
    (7pt)

    このBL臭は今こそウケるかも?

    1984年発表のマレルの手によるこの作品は義兄弟である二人のCIA工作員ソールとクリスがその育ての親のある陰謀により、罠にはめられ、世界の諜報部員たちのお尋ね者になる物語である。
    しかし物語の構造はスパイ小説の例に漏れず複雑で、単純な復讐劇にはならず、彼ら2人の能力の高さを買って利用しようとするKGB高官なども加わってくる。

    そしてこの物語にはもう1つ特徴がある。それはアベラール・サンクションなる施設の設定だ。
    このアベラール・サンクションとは、第二次世界大戦前の1938年にヨーロッパ各国が抱える諜報機関の要人が極秘裏に集まって定められた、各国のスパイのための不可侵状態の避難所のことを指す。このアベラールとは1118年に弟子を孕ませた廉で追い出され、その後避難所を設立したノートルダム大聖堂の参事会員ピエール・アベラールの名に因んでいる。

    アベラールの避難所は世界に7か所あるが、その上級施設が安息の家と呼ばれる物。これは引退したスパイたちが行き着く場所でもあり、もしくは政治的に抹殺され、行き場の無くなった官僚たちの隠れ家でもあった。

    そこは不可侵であり、娯楽、女性、美食と望む物は金さえあれば全て手に入る楽園なのだが、唯一ないのが自由。安息の家はその実求められない自由に絶望した者たちが自ら命を絶つ墓場でもあった。しかしその事実は歴代の所長は隠し通しておかねばならない。
    アベラール・サンクションはスパイたちの安息の地を提供しながら、そこを一歩出ると再び命を狙われる修羅場と化す。つまりアベラール・サンクションはスパイたちにゲームオーヴァーを告げるシステムと云える。何とも皮肉な話だ。

    こういった背景を踏まえて描かれるマレルのスパイ小説はアクション重視の、映像化を意識したかのような作品である。短い章立てで構成され、実にテンポよく物語が進む。
    現在の、例えばフリーマントルとかは1章当たりの分量が20ページくらいか。対してこの『ブラック・プリンス』は平均10ページ未満と実に短い。そういえばバー=ゾウハーも短かったように記憶している。昔のスパイ小説は情報過多に陥らず端的な描写に終始して、スピード感を重視し、それがまたある種の緊張感を生み出しているように感じる。対してフリーマントルは権力者たちがいかに優位に立つかに腐心しており、お互いの権威を保つためのディベートで構成されているから1章当たりの分量が否が応でも増すのだろう。同じスパイ小説でも書き手によればこれほどまでに書き方が違うのか。

    上下巻に及ぶこの物語には孤児院に育てられたソールとクリスがどのように腕利きの工作員として育てられたかも語られる。その中で強い印象を残すのは彼らに武道を指導する元柔道世界チャンピオン、石黒ユキオの存在だ。
    彼は二人に武道の心得、すなわち武士の魂を説く。恥をかくならばいっそ死を選べという高潔なる精神をソールとクリスに教え込む。切腹などを教える辺りはおよそ新渡戸稲造の『武士道』からの引用だと推察され、いささか時代錯誤の感も無きにしも非ずだが、この石黒ユキオとの交流の件はトレヴェニアンの『シブミ』を連想させられた。
    『シブミ』の発表が1979年。本書が1984年だから、この頃はもしかして日本の武士、侍、忍者のブームがアメリカでは興っていたのかもしれない。

    さていささか陳腐な題名に感じられる題名『ブラック・プリンス』は薔薇の名前を指す。CIA高官テッド・エリオットは手塩に育てた弟子、CIA工作員に薔薇の名前を準えて呼んでいる。クリスとソールの二人は黒に限りなく近い深紅の花びらを咲かせる品種<ブラック・プリンス>に因んでいる。

    しかし原題は“Black Prince”ではなく、“The Brotherhood Of The Rose”、すなわち直訳すれば『薔薇の兄弟』となる。つまり原題も邦題も同じモチーフで語られているのだが、もし『薔薇の兄弟』ならば少女マンガ風と捉えられるか、もしくは同性愛専門誌『薔薇族』に因んで、BL小説風に捉えられるかと、妙な誤解を生むという懸念があったのではないだろうか?
    例えば中間を取って『ローズ・ブラザー』とすればちょっとはマシになったのではないだろうか。いや五十歩百歩か(この感想は解説やあとがきを読む前に書いているのだが、訳者があとがきで同じことを書いているのには思わず笑ってしまった)。

    閑話休題。

    しかしこのような昔のスパイ小説を読むことは案外収穫がある。なんせ冷戦時代の教科書では習わない各国の暗闘が知識として得られるからだ。
    今回はMI-6の高官であり、さらにCIAの創立に手を貸しながら、その実ソ連のスパイだったキム・フィルビーの一連の事件が本書の登場人物に深く関わりがあり、それがこの物語の最も深い謎として語られる。
    恥ずかしい話だが、このキム・フィルビーという人物は本書を読むまで全く知らず、調べてみるとかなり有名な人物で、そして彼の亡命は当時かなりセンセーショナルな事件だったことを初めて知った。
    まさにこれは収穫以外何物でもない。教科書では教えられてない歴史の勉強とはまさにこのことだ。

    しかしこのクリスとソールの奇妙な友情は義兄弟という生死を共に分かち合った者たちしか解らない世界なのだろうが、今ならば一種BL小説のテイストもあると云えるだろう。今復刊すると意外な方面から反響があるのではないだろうか。

    育ての親エリオットへの憎悪が単なる憎しみと嫌悪から成り立たないソールとエリオットの関係性は、スパイ育成がその人物の人生の根幹まで深く入り込んでいく行為だと知らされ戦慄を覚える。幼き頃に刷り込まれた恩情はなかなか憎しみだけで乗り越えられるものではない。最後のエリオットの対決が大いに心理戦であったのは実に興味深く感じた。

    しかし前時代的ではあるが全然今読んでも遜色ない。しばらくマレルの作品を読んでいこう。


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    No.1:
    (4pt)

    兄弟のような仲の諜報員の悲劇

    二人のまるで兄弟のような諜報員。
    彼らは彼を育ててくれた養父を慕っていました。
    養父に仕えることこそ、彼らの喜びでした。

    だけれどもその絆は
    ある事件により崩壊の憂き目を見ることになります。
    それは彼らの間に結ばれた「掟」を破ってしまったから。

    だけれども、だんだんと彼らも
    逃亡し、さまざまな追っ手と戦っていくうちに
    自分たちのその喜びが
    まやかしであったことに気がついていくのです。

    終盤には彼ら二人の
    過去が描写されています。
    そして気づくことでしょう。
    青少年期の体験は
    恐ろしいほど人生に影響を与えるのです。
    それがよいことであろうと、悪いことであろうと。

    下巻がどうなっていくのかが楽しみなところです。
    ブラック・プリンス〈上〉 (光文社文庫―海外シリーズ)Amazon書評・レビュー:ブラック・プリンス〈上〉 (光文社文庫―海外シリーズ)より
    4334760252



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