赤い砂塵



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初公開日(参考)2001年02月
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長編小説

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赤い砂塵 (ハヤカワ文庫NV)

2001年02月01日 赤い砂塵 (ハヤカワ文庫NV)

元軍人の画家チェイスは、武器商人の妻シェンナの肖像画を描くため、荒野に建つ武器工場をかねた邸に招かれた。武器商人の三人の前妻がみな肖像画の完成後に不審な死を遂げていることを知り、チェイスはシェンナを救う決心を固めていた。画を描くうちに二人は心を通わせ、非情かつ危険な夫からの脱出を謀る。ヘリコプターを奪い逃亡した二人に、武器商人の執拗な追手が迫る。情熱的な愛とアクションにみちた傑作冒険小説。(「BOOK」データベースより)




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愛の深さを知る

2000年発表の本書はあの怪作『ダブルイメージ』の後に書かれた作品であったので、こちらも変な捻りが加えられた作品かと思ったが、さにあらず、絶大な力を持つ悪の首領に囚われの身となった美貌の姫を救いに悪の巣窟へ乗り込む、昔ながらの英雄譚をモチーフにした潜入及び脱出行の物語だ。

デリク・ベラサーという武器商人をCIAが挙げるべく、かつて軍のヘリコプター操縦士で名の知れた画家であるチェイス・マローンがその巣窟に潜り込み、彼が依頼された肖像画のモデル、ベラサーの妻シェンナを救出する。しかしそこからは絶大な権力を持つ男からの男女2人の果てしない逃亡が繰り広げられる。

このデリク・ベラサーという男が実に強烈だ。
圧倒的な威圧感を持ち、先祖代々からの武器商人で決して足を出さず、世界中にコネクションを持ち、武器を売りさばいて戦争を起こしている男。そして自分の欲望を満たすためには手段を選ばない。妻の肖像画作製の依頼をマローンが断ると、家と土地を買い取り、彼のお気に入りのレストランも買い取り、更に彼の作品を扱う画商も作品ごと丸ごと買い取り、マローンの作品を世に出さぬために倉庫に入れようとする。

更に彼が異常なのは美しいものに異常な執着を持ち、妻が年齢によって美貌の衰えを見出すと肖像画と裸体画を残して事故死を装って殺害し、新たな美しい妻を手に入れる。まさに現代の青ひげである。

彼のこの異常な執着は彼の妹で、30歳の時にホテルのバルコニーから転落死したクリスティーナ・ベラサーに起因している。

またこの男、61歳でありながら40歳後半ぐらいにしか見えない若々しさと、反動の大きく、元軍人のマローンでさえ扱うのが困難な威力の強い機関銃をやすやすと使いこなし、逆に銃が壊れるまで撃ち続けることが出来る頑強な肉体を持つ。

更に気に食わない者には簡単に暴力を振るう、しかも徹底的に。

ただしそんな完璧主義の彼も唯一弱点があり、それはインポテンツであるということだ。従って美しい妻を持ちながらも決して夜の生活は共にしない。男性性を遺憾なく発揮する精力溢れるこの男がなぜこのような弱点があるのかは明示されないが、恐らくは上に書いた妹クリスティーナが原因のようだ。

ベラサーは両親を早くに亡くし、14歳で1つ下の妹クリスティーナと愛人関係になる。毎日パーティ三昧の日々を送るが、クリスティーナは自由奔放な女性でベラサー以外の男とも寝ており、それを発見したベラサーが怒りのあまりにホテルのバルコニーから彼女を突き落としたのだ。愛が深すぎるがゆえに裏切られたことを知った時の怒りは倍増だ。彼は感情が強すぎるため、愛情も深く、また憎しみも深くなる。

だから彼は妻が美しくなくなるとその反動で憎しみが増し、殺してしまうのだ。

そしてもう1人鮮烈な印象を残すのはその妻シェンナだ。本書の原題“Burnt Shenna”は彼女の肌の色、赤褐色を指す。

このマローンをして、今まで見た中で最も美しいと称されるこの妻はかつてはトップモデルであったが、その境遇は不遇だ。

イタリア系アメリカ人の両親の許で生れた彼女はイリノイ州にいたが12歳で両親を亡くし、引き取られた叔父のところではセックスを強要され、ある日それが嫌で家を飛び出し、シカゴでモデル学校に入り、モデルの仕事を始め、一躍トップモデルになる。暴力を振るうボーイフレンドとコカインでボロボロのところをベラサーに引き取られ、病院で手当てを受けた後、結婚したが、初夜でベラサーが上手く行かなかったときから、彼女は単なる彼にとっての威光と商談をまとめるためのマスコットに成り下がった。一人で外出は許されず、ベラサーとのみ外出が出来る、まさに城に囚われた美しき姫君だ。

そしてその絶大なる美貌ゆえにマローンとの逃亡行においても常に注目を浴びることになり、逃亡先ではメキシコ軍人の大佐に目を付けられ、身体を求められたりもする。

そして主人公のチェイス・マローン。
元軍用ヘリコプターの操縦士で、小さい頃から絵を描いていたことから退役後画家になり、その独特な生命力溢れる風景画はたちまち世間の耳目を集め、作品が高額で取引されるようになり、絶大なファンも生まれ、その1人クリント・ブラドックは彼の逃亡のために気前よく100万ドルを貸し与える。

元軍人であるから銃火器の扱いにも長け、また格闘術も心得ている、まさに絵に描いたようなヒーローなのだが、人に利用されたり、人から命令されたりすることが嫌いで、CIAの作戦協力のみならずベラサーと、とりわけその部下アレクサンダー・ポッターとも常に反目する。

この辺はいわゆる聖人君子ではない男をヒーローにする作者のキャラクター造形だろうが、いちいち素直に話を聞かない、指示に従わない彼の姿にいささか辟易させられた。

またマレルは彼を設定上の画家にせず、彼の作風や創作風景を丹念に描いている。私はそこが実に興味深く読めた。

シェンナの肖像画を描く前に何百枚ものスケッチを描き、キャンパスではなく薬液を塗りつけたベニア板に絵を描くテンペラという画法、卵の黄身からモデルの最たる特徴である赤褐色の絵の具を作る一部始終など実に専門的で面白い。

また人の絵を描くことはそれ自身無言の対話だ。画家は絵筆に対象の内面を描こうとまるで心の中まで見透かすかのようにじっと見つめる。
一方モデルはたった1人の男にそれまで経験したことがないほどじっと見つめられる。今まで隠していた心の在り様すらも見られるかのように。
それはいわば直接的接触のないセックスに似ているのではないか。純粋に対象を見つめ合い、お互いを理解し合う、この絵を描くという行為は精神的に最も深く愛情を感じるひと時なのかもしれない。

従ってマローンとシェンナもまた恋に落ちる。
ヘリコプターを奪い、しつこく追ってくるベラサーを振り切り、ニースまで出て指定されたカフェに入るが既にCIAはいなかった。なぜならベラサーによってマローンによく似た体格の身元不明の死体が打ち上げられ、更にマローンの家は既に跡形もなくなっていたからだ。

しかしどうにか元相棒のジェブに連絡が付き、アメリカへ渡り、CIAの隠れ家で一息つくが、そこにベラサーの追手が駆け付け、再び逃亡が始まる。CIAの中にベラサーへの内通者がいると睨んだマローンはしばらく隠遁生活を送るためにバハカリフォルニアに辿り着くが、そこのメキシコ軍の大佐に目を付けられ、身元調査をされた痕跡から再びベラサーに居所を知られるところになり、リンチに遭った後、シェンナは連れ去られる。

満身創痍の中、ジェブに拾われたマローンは自分のファンから貰った100万ドルを元手にジェブとその傭兵仲間を雇い、ニースのベラサー邸へシェンナを救いに向かうのだ。

なんとも目まぐるしい展開だ。いや寧ろこのような展開こそが今の小説には必要なのかもしれない。
マレルの描く冒険小説は上に書いたように昔からよくある英雄による美しき姫君の救出劇であり、悪人は現代の青ひげとも云える精神異常者なのだ。この古来からある設定に冒険活劇と起伏あるストーリー展開を肉付けした、純然たる冒険小説と云えるだろう。

少年ジャンプの三原則は友情、努力、勝利だったが、このマレルの作品はまさにこの三原則に沿って書かれた物語だ。
友情は即ちマローンをCIAの作戦に誘った元副操縦士で戦友のジェブ・ウェインライトだ。彼はどんな時もジェブを見捨てず、最後はCIAの身分を離れてマローンの一私兵としてベラサー殲滅に協力する。最後にマローンの許を訪れるのも彼だ。

そしてこの三原則に大人の読み物であるので、ここに男女の愛情が加わるわけだが、実はこの愛情こそが本書では最も濃い。

ベラサーの美しい妻に対する強い執着は自分で亡き者にしてしまった妹に対する終わらぬ愛情が歪んだ形で残ってしまったゆえの物である。

そして主人公のチェイスがシェンナに抱いた愛情はこの上なく濃いものとして終わる。

題名に冠せられたシェンナの美しさはただマローン一人だけのもの、そしてその美しさは、ベラサーが30歳で期限を切ったが、マローンにとって永遠なのだ。

本書が平成最後に読み終わった本となった。
評価は7ツ星だが実は7.5ツ星と少し高い。典型的な冒険活劇の中にちょっぴり苦く切ない男女の恋の結末が含まれていたのが収穫だった。


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