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(短編集)

黒笑小説



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【この小説が収録されている参考書籍】
黒笑小説
黒笑小説 (集英社文庫)

黒笑小説の評価: 7.00/10点 レビュー 4件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全4件 1~4 1/1ページ
No.4:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

さらに笑度が上がってます

東野圭吾のブラック・ユーモア作品集第3弾だが、本書ではそれまでの『~笑小説』シリーズとは趣向が変わっており、1作目の「もうひとりの助走」から続く「線香花火」、「過去の人」、「選考会」が連作短編集となっている。共通する舞台は灸英社なる出版社が関係する各種の文学賞の話である。

まず「もうひとりの助走」は作家歴30年のベテラン作家寒川心五郎の5度に亘る新日本小説家協会から送られる文学賞の選考結果を複数の出版社の担当者たちが待ち受けるひと時を描いた物。
実際直木賞や芥川賞など名誉ある文学賞の選考結果を待つ状況とはこういったものだろうなと思わせる、妙なぎこちなさや緊張感が伴った状況が面白おかしく語られる。特に受賞の見込みの薄い作家と選考結果の電話を待ち受ける状況は実に気まずい空気なのだろう。各出版社の本当の思惑も放つ言葉とは裏腹にかなりネガティヴなのが面白い。

続く「線香花火」は新人賞を受賞した素人作家が歩む過ちを描いた作品。
現在星の数ほどあるという新人賞。しかし在野の素人作家が横行する昨今、それでもいずれかの新人賞を受賞すれば作家への道が開けると日々研鑽を積む人々がいることだろう。この作品はそんな新人賞を受賞した素人が陥る勘違いと過ちを描いている。

次の「過去の人」は文学賞の授賞パーティを舞台にしたもの。
またもや勘違い新人作家熱海圭介登場。今度は授賞パーティに招かれ、前受賞者として新人賞受賞者に的外れなアドヴァイスをしたり、名刺を作って配ったりと更なる勘違いぶりを発揮。こういう新米作家は実際にいるのだろう。

「選考会」は東野氏らしい捻りが効いた作品。
ここでは「過去の人」で受賞作となった『虚無僧探偵ゾフィー』なるミステリの選考会の様子が描かれる。
なんとも痛烈な皮肉が効いており、これを読んでジョークだと思えない作家もいるのではないだろうか?

さてここからはノンシリーズ物。「巨乳妄想症候群」はある日突然丸みを帯びた物が巨乳に見えてしまう症状に罹った男の話。
いやあ、実に面白い。最初の一行、「冷蔵庫を開けたら巨乳が二つ並んでいた」からもう笑いが始まってしまった。
肉まんから始まり、カップラーメンの器、パソコンのマウスにはたまた管理人の禿げ頭まで―これが一番可笑しかった―が巨乳に見える症状に始まり、最後は全ての女性が巨乳に見えるという男にとっては何ともうらやましい症状に落ち着く。また作中に織り込まれた巨乳に関する歴史的考察も実に面白い。

下ネタ系が続く。
次の「インポグラ」は友人の科学者が発明したインポグラなるアンチバイアグラ、つまりインポになる薬。
一見役に立たないと思われる薬もアイデア一つで役に立つ。まずはレイプ班に飲ませて犯罪抑制に役立てるというアイデアに始まり、オナニーばかりして勉強に精が出ない受験対策として、遺産目当てで結婚した年の差夫婦の夜の生活防止を経由して最終的に夫の浮気防止薬としてヒットするという着想の流れが見事。この話を読んでポスト・イットの開発話を思い出した。


「みえすぎ」は世の中に蔓延する微粒子がある日突然見えることになった男の話。
これも塵埃が普通以上に見えるというワンアイデアからエピソードを膨らまして物語としている。ただ展開は普通かな。

「モテモテ・スプレー」は男性ならばぜひとも欲しい一品だ。
星新一+ドラえもんのような作品。最後はスプレーなどに頼らず、その一途な人柄でアユミのハートをゲットしたかと見せかけ、やはり友達で終わる皮肉なラストにさらにもう一捻り加えている。

「シンデレラ白夜行」はあの有名な童話「シンデレラ」の東野圭吾ヴァージョン。
美談として世に知られるシンデレラのお話も東野氏に手に掛れば実に計算高い女性の話に早変わり。タイトルにつけられた「白夜行」の文字が悪女の話だと暗示しているのはこの作者だけの武器か。

「ストーカー入門」は奇妙な味わいの作品。
女心は解らないというが、これは当事者では解らない話だろう。いきなり分かれて欲しいと持ち出され、数日後に別れて欲しくなかったら自分をストーカーしろ!という何とも理不尽な話。彼女がストーカーを強いることで何か主人公に不幸が訪れることを予想していたのだがこの結末は全く予想外だった。ただ正直主人公が私ならブチ切れてそのまま放置してますが。

子を持つ親なら一度は通るのが、TVヒーローのキャラクターグッズ購入。「臨界家族」はそんな日常を綴っている。
なんとも身に詰まされる話だ。わが身に近いことなので、単に感想以外の事も浮かんだがそれについては後述する事として、一見離婚の危機を迎えているような夫婦を指しているかのようなタイトルの意味が最後に解るが秀逸。これには唸らされた。
しかしとても他人事とは思えない話だ。

「笑わない男」は笑わない男を笑わそうという話。
お笑い芸人を主人公に持ってくることは実は小説としてはかなりハードルが高い。今まで読んだその手の小説ではどうしても作中に出てくるギャグやコント、ボケ、ツッコミが笑いを誘うところまでに至らないからだ。お笑いとはやはり同じ場の空気を共有して生まれる雰囲気ゆえが大いに作用しているのがその要因だと思うが、本作ではその高いハードルをしっかり越えていることが凄い。
東野氏が描く売れない2人の芸人の仕込みやボケ、ツッコミはなかなかに面白く、映像的でもあり、多分TVで観れば思わず笑ってしまうだろう。
それほどなのに笑わないボーイ。彼の存在がまた実に面白い。そして最後の一行が実に皮肉に効いている。いやあ、実に上手い。

最後の「奇跡の一枚」も誰しもあるであろう、妙に映りのいい写真の話だ。
なぜかいつもよりも妙に見栄えのする写真というのが撮れることがある。これはそんな誰しもあるような話から、これまたウェブでやり取りしていたメル友からある日どんな人か写真を見たいと申し出されるという云わば当然の流れが生じ、見栄を張ってその奇跡とも云える見栄えのいい写真を送って、ぜひ逢いたいとなってあたふたするというのもまた普通の展開だが、最後のオチはちょっとゾッとした。


東野氏の『~笑小説』シリーズ3作目の本書では前2作よりも作家と出版社との関係を抉ったブラックな内容が濃く出ている。

特に連作短編となっている冒頭の4作品では出版界の内幕が繰り広げられ、出版社の担当者の思惑や新人賞を受賞し、作家専業となった人間たちの過ちを滑稽に描いており、これからも出版社とのお付き合いをしていかなければならない東野氏が果たしてこんなことを書いていいのだろうかと笑いながらも心配してしまうほど、露骨に描いている。
まあ、これが他の作家が書かないであろうことまで書いてくれる東野氏のこの辺の思い切りの良さなのだが。

その4編以降はいつも通りのノンシリーズ短編が並ぶ。

それら各短編は基本的にワンアイデア物なのだが、それを実に上手く膨らましていて笑いに繋げている。

ある日突然色んな物が巨乳に見えたり、空気中に漂う塵埃の微粒子までもが見えたり、はたまたインポになる薬が発明されたり、女性にもてるスプレーが発明されたりとたった一言で説明できるものだ。そこから東野氏は巧みにエピソードを次々とつぎ込んで見事なオチに繋げている。それらはどこか星新一氏のショートショートに似て、作者からのリスペクトも感じる。

またそれら寓話的な題材ばかりではなく、我々の生活に非常に身近な事柄も作品になっている物もあり、ただのお話のように感じない物もある。
例えば「臨界家族」では某TV局の某アニメシリーズが目に浮かぶかのようで他人事とは思えない話。作中の台詞にあるように確かに現代では商品化も視野に入れてTVヒーローの武器は案出されており、話が進むにつれて新キャラクターやそれに伴う新しい武器や道具が登場し、その登場した回が終わるや否や次のCMでそのおもちゃが紹介されている。
幸いにしてわが子はそこまで耽溺していないため、出るたびに買わされることはないのだが玩具コーナーで品切れ状態の張り紙を見ると餌食になっている親がいるのだなぁと思ってしまう。

思わず自身の身の回りのことまで思いが及んでしまった。閑話休題。

個人的なベストは「巨乳妄想症候群」と「臨界家族」。次点で「笑わない男」。
「巨乳妄想症候群」は丸い物がある日突然巨乳に見て出すというそのあまりにもアホらしい、しかし実に面白い設定を買う。「臨界家族」は前述のようにとても他人事とは思えない話であり、オチが予想の斜め上を行っているところが見事だ。「笑わない男」は最後の一行の素晴らしさ。これぞブラック・ユーモア。

しかし「巨乳妄想症候群」と云い、「インポグラ」といい、いやあ、男ってホントしょうもない生き物だなぁと思ってしまう。

本書に収められた作品はいずれもが『世にも奇妙な物語』の一短編として実に面白い作品が出来そうな題材だ。恐らく未見のこの番組の中に既に映像化された物があるのかもしれない。

今までの『~笑小説』シリーズには正直笑劇ばかりが収められていたとは云えなく、中にはほろりと涙を誘う感動物もあったが、本書は全てがユーモアやスラップスティックとお笑いに徹している。
しかも笑いのエネルギーは衰えるどころかさらにその技巧が上がっており、笑顔どころか思わず笑い声を発する事が何度もあった。本書の冒頭の4作品のように、ある意味作家生命なんのそのと云わんばかりの冒険をしてまで笑いに徹するその姿勢を買いたい。

逆に現在出せばベストセラーという状況だからこそ、どんな所にも踏み込んで書ける知名度の高さを利用して、怯むことなくもっと我々を笑わせてくれることを心の底よりお願いするとしよう。


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Tetchy
WHOKS60S
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

黒笑小説の感想

笑シリーズ3作目。
1編10分程度で読めてしまう全13編の全くミステリ要素のない短編集ですが、作者の意外性を見たっていうか、短編集は作家の実力が出るなぁって実感しました。
良品が目白押しです。
個人的には白夜行雪穂を主人公にした「シンデレラ白夜行」が好きですね。

梁山泊
MTNH2G0O
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

第3弾

東野圭吾の悪ふざけしりーず第3弾。
最初の作家シリーズは実は物語が繋がってる感が面白い。
ストーカー入門は東野圭吾の性格の悪さが
滲み出ている面白い作品。
個人的に一番面白かったのは笑わない男。
短編で一気読みする必要はないのはわかってるのに
どんどん読まされました。
短編集は作家の実力がモロに出るものといってもいいでしょう。
面白かったです。

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マビノギオン
ETOPY8N1
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

東野圭吾の意外な一面(非ミステリー)

ブラックユーモア・シリーズの第3弾。お得意の文壇ものから童話のアレンジまで、バラエティに富んだ13作品を収録した短編集である。
なかでは、売れない作家と編集者の文学賞を巡るせめぎ合いがテーマの前半の4作品が面白い。デビューをしたものの長く不遇の時代を過ごした売れっ子作家ならではの冷静な目と乾いたユーモアが秀逸。
売れないお笑い芸人とホテルマンの一夜の攻防を描いた「笑わない男」も、オチが効いていて面白い。

iisan
927253Y1

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