(短編集)
ウォー・ゲーム
※タグの編集はログイン後行えます
【この小説が収録されている参考書籍】 |
■報告関係 ※気になる点がありましたらお知らせください。 |
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点0.00pt |
ウォー・ゲームの総合評価:
■スポンサードリンク
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
現在レビューがありません
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
ディックが1950年代に執筆した短編集、つまり1928年生まれの彼が24歳~31歳の時期に書いた短編を集めたものです。 若書きながら、どの作品にも、すでに後の巨匠デイックを予想させる創意と筆力を感じました。 全10編のアウトラインと感想を記します。 「自動砲」・・・完膚なきまでに破壊され荒廃し尽くした無人の惑星に残る巨大な長距離砲。地球から宇宙船に乗って飛来した探検チームの一行はこの自動砲に攻撃されながらも辛うじて不時着し、巨砲が守るこの星の文化遺産を入手したあと、巨砲を解体して去るのだが・・・。荒廃した惑星の描写と、住民を失ったあとも住民の生んだ文化遺産をひたすら守る自動砲の孤独、そして驚きのラストが既にディックです。 「偉大なる神」・・・壊滅的な核戦争のあと中世の生活へと退化した人類の部族がその存亡をかけて毎年、神〈グレートC〉へ問う3つの質問。選ばれた一人の若者が神への使者として1年かけて部族で考え抜いた難問(?)を暗記し、奥地に鎮座まします神〈グレートC〉と対決するのだが、神はあっさり難問を解き、生きて再び戻ってきた若者はいない。悲愴なドラマっぽいけど、神への質問が、部族全体で丸1年ウンウン考え抜いたわりには現代人なら誰でも即答できるレベルの質問で、読みながら思わず笑ってしまった。〈グレートC〉のCはComputerの略か。 「ドアの向こうで」・・・やや思いやりに欠ける夫が妻に贈ったカッコウ時計のプレゼント (せこく値切って買ったもの)。それでも妻は15分ごとに時を告げに顔を出すカッコウが気に入り愛玩する。逆に夫とカッコウとは反りが合わない。ある日、妻が友人の男とカッコウ時計に興じているところに帰宅した夫は激怒して妻を家から叩き出す。気に食わないカッコウ時計 (でも身銭をきって買ったので手放せない) と二人ぼっちになった夫は小扉の中のカッコウに毒づき、腹いせにハンマーで叩き殺そうと小鳥が時を告げに出てくる時刻を待つが、やがて正時になり、出てきたカッコウは・・・。ファンタジー プラス ホラーの好短編。 「パッドへの贈物」・・・前作と違って優しい夫からの妻パトリシア (パッド)への贈りもの。それはガニメデ星出張の土産である小さな〈神〉だった。この神は全能をふるえる範囲が半径10メートル以内くらいと限られていて・・・。全能の神に振り回されて、主人公エリックは有能な同僚のトマス・マトスンをカエルにされ、妻を石にされ、あやうく会社をクビになりかけるが、最後は全てが丸く収まる。次々に起こる悲惨なシチュエーションにもかかわらず、どこかユーモラスな好編。 「有名作家」・・・有名作家の生活エピソードかと思いきや、160マイル (約257km) をたったの5歩にワープできる四次元トンネルの話。まだ試作段階の四次元トンネル (ジフィ=スカットラー)を社命で毎日出勤・退社に利用しているヘンリー・エリスは、トンネルの途中で次元の裂け目に現れた小人たちから古代ヘブライ語で書かれた小さな手紙をもらう。それからというもの、エリスは、会社の行き帰り、ヘブライ語の手紙をもらっては、会社のコンピュータに解読させ返信までヘブライ語で書かせて四次元トンネルの中の小人たちに渡すという日々が続いた。けっきょく、エリスは会社の高価なコンピューターをそんな ”個人的" な趣味のために使ったことが原因で会社を解雇されてしまう。しかし、四次元トンネルの中で遣り取りした膨大な往復書簡は、古代ヘブライ人が書物にして後世に残していた・・・。「有名作家」という表題と四次元トンネル。とうてい結びつきそうもない2つのものが、最後にみごとピタッと結びつく、これぞディックだ! 「萎びたリンゴ」・・・17ぺージ (ただし最後のページは2行) ほどのショートショート。夫と義父と3人で暮らす。若妻ロリがある日、窓を叩く木の葉の合図に誘われて、丘の上の廃農園にある老樹に会いに行く・・・。SFならぬ何ともファンタジックな掌編。廃農園における老樹とロリとの、神秘的でどこかエロティックな触れ合いが読後つよく印象にのこる。帰り際に老樹の贈った萎びたリンゴを食べたのが原因でロリは死んでしまうのだが、老樹と若い女との妖しい触れ合いといい、萎びたリンゴといい、掌編ながら象徴性に富み文学的香気さえ漂う好編だと感じた。文豪ヘンリー・ジェィムズに、こんな雰囲気の短編があったような気がする。 「スーヴェニール」・・・これは前作と打って変わり銀河系を舞台にしたSF。独自の伝統や文化を許さず、全銀河系の星々に画一的かつ高度な文明の維持発展を強要する「銀河中継センター」と、あくまでも独自の古い伝統文化を守ろうとして、あえて銀河中継センターに戦いを挑んだ伝説の星の気骨ある子孫の話。戦いの結果は、圧倒的なハイテク軍事力を誇る銀河中継センターの圧勝。赤子の手をひねるようにいとも簡単に叩き潰され滅びてしまう伝説の星に、読む者の胸がキュンとなる壮絶なラストが印象的。ちなみに題名のスーヴェニール(Souvenir)は、お土産のこと。 「ジョンの世界」・・・・・・これは「人間狩り」(ハヤカワ文庫SFでは「変種第二号」) の続編かまたは姉妹編 (訳者あとがきによる) とも言える作品。本短篇集中最も読み応えのあった作品で65ページの分量にもかかわらず、あっという間に読了。訳者仁賀克雄氏あとがき中の要約を引用すると、 「未来の米ソ戦争で敗色濃かったアメリカは、戦闘ロボット〈クロウ〉を発明してて巻き返した。やがてクロウは自己増殖し、人間型ロボットを開発して人類に戦いを挑み、破れた人間たちは月の基地に避難する羽目になった。一方、地球に残った数少ない人類は、このクロウを退治するために、最後の手段としてタイムマシンで、過去にさかのぼり発明者の設計図を奪い、クロウの発明を阻止しようとする」 最初の方に主人公ライアンの息子である幻覚にとり憑かれたジョンという少年が出てきて、ジョンは父親や周囲の大人に必死になって幻覚は本当のことなんだ、と訴える。だが息子を幻覚から救いたいという父親ライアンの判断で前頭葉白質切断術(ロボトミー)を施してもらい、ジョンは結局もの静かで無表情な子供になってしまう。ところが、ライアンたちがタイムマシンで過去へ行き、クロウの発明者から設計図を奪って戻ったために変化した元の世界は、息子ジョンが幻覚に見ていた世界そのものだった・・・。未来を正確に予言していたばっかりにロボトミーを施され腑抜けみたいになってしまった少年ジョンが可哀そうで仕方がなかった。 「探検隊はおれたちだ」・・・「本物と偽物の区別のつかなさ」というディック生涯のテーマを前面に出した佳作。火星の厳しい任務から命からがら帰還した6人の宇宙飛行士。ようやく美味しいシャンペンや食べ物にありつける、街では軍楽隊や英雄パレードが待ち受けていると楽しみにしたのも束の間、彼ら火星探検隊を見た人々は、大人も子供もびっくりして逃げてしまう。そのあと、住民の通報で駆けつけたFBI局員により、6人の宇宙飛行士はあっさり焼き殺されてしまう。じつは、探検隊の6人は火星到着時に墜落し全員死亡していたのだ。にもかかわらず、その後、二、三ヵ月ごとに20回以上も6人の飛行士が帰還してきては、住民の前に姿を現すので、FBIはそのつど彼らを抹殺していたのだ。何とも背筋がゾッとするような話。宇宙飛行士たち火星からの帰還を、本当に心から喜び、シャンペンやパレードを楽しみにしているところがミソで、なぜ火星で苦労した自分たちがこんな酷い扱いを受けなければならないのか最後まで理解できずに死んでいくのが、何ともいえずやり切れない。 「ウォー・ゲーム」・・・表題作だけに含蓄がある。ガニメデ星人が作って輸出する創意あふれる玩具を審査する地球輸入基準局の人々の話。これが本当(?)なら、ガニメデ星人は玩具作りの天才だ。戦士と要塞との攻防戦「ウォー・ゲーム」をはじめとして、"Made in Ganymede" の玩具は極めて独創的で、一見して地球の子供たちへの知育や道徳教育的な効果も非常に期待できそうなのだが、一歩間違えると、地球に破滅をもたらす最終兵器になりかねないと地球輸入基準局の人々は疑心暗鬼となっている。玩具の巧妙な動きを長く観察していると、怪しそうにも見え、また教育的にも見えるという二面性を持っているように感じられて仕方がないのだ。このあたりの輸入基準局員のジレンマがとても面白い。後半には、敵にとって非常に都合のいい美徳(?)を涵養するモノポリー・ゲームまで出てくる。 ハムレットの有名な台詞のもじりではないが、罪のない単なる教育的な玩具なのか、地球 VS ガニメデ星における水面下での熾烈なウォー・ゲームなのか、それが問題だ! | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
[登録情報]の 「⇒目次を見る」の内容が『ちくま文庫版「ウォー・ゲーム」』の目次に入れ替わっています。 正しくは ウォー・ゲーム フヌールとの戦い 干渉者(メドラー) ハンギング・ストレンジャー ドアの向うで 萎びたリンゴ 矮人の王 よいカモ 根気のよい蛙 爬行動物 展示品 この(古い)短篇集でしか読めない短篇はありませんが、入手し難いことに変わりはありません。 もし未読短篇が有れば購入を考えても良いのでは? 『ハンギング・ストレンジャー』なんて今読んでも凄いサスペンスです。 訳者の仁賀克雄氏も言われるように「ディック短篇に凡作無し」です。 | ||||
| ||||
|
その他、Amazon書評・レビューが 2件あります。
Amazon書評・レビューを見る
■スポンサードリンク
|
|