(短編集)
雪の蛍
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本書は1977年6月に光文社から初出版されました。その後、角川文庫(1981年)中公文庫(1997年)廣済堂文庫(2002年)からも再出版されています。2015年には、角川文庫でkindle化されています。 「凶原虫」 夏子から空き巣が入って、三十万円の現金が盗まれた、と聞いた時、菅野は、もう一つ大事な物が盗まれていないか心配になった。菅野は、大手都市銀行の人事部長を務めていて、夏子は、銀座のフラブで知り合ったホステスである。地位も有り経済力も有り金がある。なにも不自由は無かった。だから、菅野がスポンサーになり、夏子のためにマンションを買ってあげた。そのマンションに空き巣が入ったと夏子が電話してきた。菅野は、その大切な物が盗まれていないか聞いても、取り乱していて要領を得ない。会社には、急用を断って、夏子のマンションへ行った。確かめると、それは、やはり無かった。その物とは、一冊のアルバムである。そこには、二人の濃密に絡み合った姿の写真がファイルしてあったのだ。お互いの興奮を高めるためのオモチャだった。地位も経済力もあった菅野は、アルバム一冊で、すべてを失ってしまう。 「凶家」 香取建設は、町場専門の零細建築会社である。棟梁の香取大造が社長になって、町の小住宅の新築、修理を専門に行う“一人親方”と言われる建築屋であった。大手建設業者の仕事は、入ってこない。町場から、どんな小さな仕事でも集める必要があった。だから、施主も足元を見て工事費を叩く。言い値で出来なければ他へ頼む、と言うのは、常套句だ。不当に叩かれた値でも、引き受けざるを得ない。当然、叩かれた分が手抜きという形に建物に跳ね返された。外見だけ、注文通りに完成した建物でも、中身は、欠陥資材を使った、手抜き工事の積み重ねなのだ。その香取大造が、行方不明になり、家族から捜索願が出された。それは、数日前に東京と埼玉で起こった、少し大きめの地震の後だった。狩野正作は、その地震で家を失い、妻子が怪我を負った。狩野の念願だった、マイホームを建てたのは、香取建設だった。 「溯死水系」 サケやマスは、生まれた母川に帰って産卵することで知られている。この頃は、河川の汚染によって戻ってくるサケやマスは壊滅していた。だが、最近では、河川の汚染に関心が集まった事と、工場排水が処理され、一般家庭の排水も下水処理場の完成によって、昔ながらの清流を取り戻しつつあった。この日は、北海道石狩町にある、サケ、マス研究所で、ある実験が行われていた。石狩川は、鮭の川と言われるほど有名である。実験は、A川へ戻ってきたサケを捕らえて、臭覚、聴覚、視覚、触覚、味覚の神経を切断して、A川とB川の別れる手前で再放流する。そして、母川のA川へ戻れるかを調べる実験だった。A川上流で待機していた研究員は、異常に気が付いた。実験魚は、神経を切断され行き先がわからななった可能性もあるが、この日は、何故か実験魚でない未処理魚も一匹もA川へ戻らなかった。何か、サケの忌避物質が、上流から流された以外に考えられなかった。何気なく、その話を聞いた刑事が、今回の殺人事件の真相を知る事ができたのである。 「雪の螢」 泉田家は、北奥の都市に、大きな郷土料理店を数軒経営している、町では素封家である。業績も好調で、社主の泉田耀造は、東京へ支店を出すのを夢としていた。妻と栄子との間に、子供は無かった。病院で検査した結果、栄子に欠陥がある事が分かっていた。増やした資産も一代限りと分かりながらも、耀造は、東京での出店のため、定期的に東京へ出張していた。そんな矢先、耀造が脳溢血を起こして、死んでしまったのだ。親族が集まり、話した合った結果、栄子が社長となり、今まで通り経営する事になった。板前や従業員は、定着しているので、経営上は何も支障は無い。こうして、栄子は、本店と合わせた六店と従業員数百名の経営と、泉田家の莫大な財産を継ぐ身となった。夫から受け継いだものが、彼女の社会的地位を変えた。ところが、耀造には、東京に囲っている女がいたのだ。さらに、その女の体の中には、耀造の種が仕込まれていた。そして、弁護士から、子の認知は、死亡後でも可能である事を知らされるのである。実子の相続分は三分の二である。そのため、栄子は、受け継いだ財産を一分でも人に与えず、すべてを手に入れる手段を考えた。 「連鎖寄生眷属」 その老婆が、秋村家の門の前で苦しんでいるのを見つけたのは、中学校から帰って来た、娘の華子だった。普通の身なりをして、怪しいことは無さそうだった。取りあえず放っておく事にした。だが、夜になって、会社から帰って来た夫の孝平に、庭に誰かいると言われ、まだいたのかと驚いた。どうしたのか?と聞くと、少し休ませてもらえば治るから大丈夫ですと言う。しかし、その後、雨が降り始めた。そうなると、放っておけない。玄関に招じ入れようとすると、一度は断ったものの、助かりましたと言って、玄関で休み始めた。服も濡れていたので、サイズは合わなかったが代えてやった。この位は、当たり前の親切だとも思っていた。そうこうしている内に、夕食の時間になった。老婆を放っておいて、家族だけで食事をしてもよいか?という思いもあり、老婆に食事を勧めた。今度も、一度は断るが、結局、頂かせてもらいますという事になる。そして、その後、老婆は、秋村家に少しずつ侵入し始めるのだった。風呂から布団まで与えられ老婆は、満足気であった。この時、老婆は、いわゆる“上がり込み”と言う手口の、親切な家に寄生しながら渡り歩いている女だと分かった。だが、もっと悪い事は、その老婆に寄生している悪い虫が付いていたことだ。 「殺意を抽く凶虫」 S県H市に、地元の人からは、青沼と呼ばれる、地図には無名の沼があった。そこは、季節が良くなり日が暮れると、アベックが来て、痴態を繰り広げていた。八溝は、覗きが趣味だった。自慢できる訳では無いが、アベックに危害を加えない正統派の覗きだと自負していた。その沼で、女の死体が発見された。身元は、飯山マキ(三十一才)。アパートを経営していた。死体の傍には、お土産に買ったと思われるケーキが落ちていた。それも証拠品として検査される事になった。ケーキは駅前のケーキ店の包装紙で包まれ、中味は、一番人気のあるケーキだと分かった。だが、それ以外にも分かった事があった。ケーキの包装紙には、数匹の蚊が付着していた。良く調べると、腹が赤く、人の血を吸った跡があった。犯人のものである可能性もあるので、血液が採取され、検査された。そして、すぐ飯山マキの交際相手が、蚊の腹の血液型と同じ事がわかり、容疑者として浮かんだ。しかし、容疑者は、完全に否認している。新聞でその記事を読んだ八溝は、違和感を持った。青沼では、かねてより蚊が大量に発生して、近隣の住居が蚊の害に悩まされていたため、徹底的に青沼のボウフラの駆除をしていたのだ。その日も、覗きをしていて蚊には、悩まされなかった。従って、この蚊は、青沼の蚊では無い。ケーキと一緒に何処からか運ばれて来たのだ。八溝が、それを警察に話したことで事件の解明に繋がった。 「神風の殉愛」 大崎富夫は、学徒出陣に加わり海軍に出願した。飛行専修予備学生に応募して、土浦海軍航空隊の門をくぐった。戦局は、悪化し敗戦の色を濃くしていた。そこで待っていた訓練とは、使い物にならない練習機で爆弾を抱えて、相手の艦船に突撃する訓練だった。それ以外にも、帝国海軍精神論として、意味の無い暴力が加えられた。指導官は、顔が広く、目が細く、それでいて残忍そうに白く光っている、出っ歯剥き出しの兵藤中尉だった。気ちがいじみた理不尽なシゴキぶりから、皆は、鬼兵と言って嫌った。そのシゴキの模様は、実にグロテスクに表現されています。幸い、二人は、運よく生き延びる事ができた。そして、終戦後、三十年振りに、二人は、まったく立場が逆転して再会する事になるのだ。本作、冒頭の戦闘機による空戦の記述は、圧巻です。「紺碧からの音信」に次ぐ特攻隊もので、後の長編「火の十字架」の前作品です。 | ||||
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