(短編集)
魔少年
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一人の悪魔小僧を実は真のそれが背後で操ってたという着想は得やすいかもしれないがそれを現代社会に押しはめてここまで大胆かつ饒舌に描ききるというのは森村氏が稀代の書き手である所のいわゆる天才作家の証明であると思う。小難しい純文学は理解し終えた後妙な緊張感と肩のこりがあってうつ症状にさえなる事があるが森村氏の作品はそういう所が全く無い。その全く無いという所に文学的評価の一段高い所をもって遇すべきだと思うしこのような事は文学というものを考える上で重要な事だと思う。 | ||||
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まず想像していたよりまともな状態で、それだけで感謝です。内容は、人間の不気味さに戦慄させられるのが当時と同じ。素晴らしい作品は、本当に月日の風雪に耐えるものだと感じました。 | ||||
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本書は、1976年12月に講談社文庫から初出版されたものですが、収録作は、すべて発表済みのものです。「燃えつきた蝋燭」は、「肉食の食客」(講談社1974年12月)に、それ以外の作品は、すべて「残酷な視界」(講談社1974年6月)に収められています。それらを再編集したものです。その後、角川文庫から再出版され、2013年7月17日にkindle化されています。 「魔少年」 大野宗一は、将来大人になったら恐ろしい犯罪者になると言われるほど、子供のいたずらにしては、悪辣ないたずらをした。例えば、横断遊びと称して、他の子供に走って来る自動車の直前ギリギリのところで道路を渡らせる。女の子が飼っていた猫を、生きたまま焼却炉に放り投げ、知らずに点火してしまった人によって焼き殺される。火事の発生しやすい季節に、クラスメート四人の女の子の自宅へ、火事見舞いの葉書を送りつける。送られてきた家では、火を付けられるのではないかと、不安でいっぱいになってしまう。熱帯魚が大好きな男の子に、良い餌が有るからと殺虫剤入りの配合餌を渡し、知らずに水槽に入れた男の子が飼っていた熱帯魚が全滅してしまう。これだから、大人たちも宗一には、とても用心していた。宗一は、父子家庭で、父は、交通事故の後遺症で身体に不自由があった。同じ町に住む、相良が宗一の父親を会社の守衛として拾ってあげた。拾われたと思っている、宗一の父親の働きぶりは、陰ひなた無かった。相良の息子、正男も宗一と同じ学校へ通い同じクラスだった。正男は、成績も優秀で品行も良く、誰からも認められていた。ところが、正男は、宗一を脅迫していた。お父さんに言いつけて、宗一の父親を会社から辞めさせてやると。正男は、ライバルの子供たちに悪戯をすべく、アイデアを考え出し宗一に実行させていたのだ。余りにも悪意に満ちたいたずらなので、捜査に乗り出した刑事によって、近所では優秀だと評判だった正男の本性が暴露される。 「空白の凶相」 井沢は、息子が三才になった頃から夫婦の営みに変調を来すようになった。その理由は、明らかで、襖一枚隔てた隣の部屋にいる息子が、起きているのではないかと感じるからだ。襖を細く開けて覗かれている様な錯覚を起こす。すると、たちまち不能になってしまうのだった。その原因は、過去に井沢が幼少の頃に受けた辛い体験によるものだ。実は、井沢は、幼少の頃に、両親の営みを見てしまったのだ。初めは、プロレスでもしているのかと思った。だが、奇声を発し、醜悪な動物が絡み合った様な図は、子供でも違う事がすぐに分かった。そのシーンが強烈に記憶として焼き付いてしまった。だが、その湧き出てくる記憶には、絡み合っている両親の顔が無いのだ。それがグロテスクな様を倍加させた。だから、今でも妻との交わりの最中に、少しでもその気配があると、顔の無い男女の絡み合いが、瞼の裏に表れ不能に陥ってしまうのだ。狭くて、まったくプライバシーが保証されなかった、古い日本式の住宅で起こる悲劇。 「燃えつきた蝋燭」 中野区弥生町の老朽アパートが全焼した。その焼け跡から、一人の焼死体と一つの動物の焼死骸が発見された。焼死体は、島本正和(20才)、動物は猫だと分かった。島本が、猫を救うため、火の燃え盛る中へ飛び込んだまま、一緒に焼け死んだと思われた。だが、事実は、全く違っていた。島本は、大工の見習いだった。親方に奉公して住宅新築修理の作業を手伝っていた、親方は、島本をすじがいいと可愛がり、二十才になったのを期に、一人の大工として認めた。大工としての手間賃をくれるのと同時に、建て方、組み立ての一切を任された。島本の父は、町工場を経営していたが、激しい経済競争に敗れ、工場は閉鎖し、間もなく死んだ。これまで、一家は、間借りの生活しかしたことが無く、島本は、一家の住めるマイホームを建てるのが夢だった。この日は、二十才を祝う式典が、区の会館で行われた。他の成人たちは、晴れ着を競い合い、盛り場へ繰り出して行ったが、島本は、老母と妹が待つアパートへ直帰した。そこで、アパートが火の海になっているのを見て、二人を助けるために飛び込んだのだ。佐倉辰二は、若い頃、散々悪い事をした罰か、身体がめっきり弱くなった。仕事は、勿論、身の回りの事もする気が起きず、寝床に寝たきりでいる。娘が一人いるが、二十三才の時、仲居をしていた女に産ませた子供である。三才に成った時、別の女ができた。家を出ようとするのを、行かないでと泣いて頼む母娘を足蹴にして家を飛び出した。妻や子を守れない男は、落ちる時は、落ちるところまで行ってしまう。その女とも、続かなかった。競馬のノミ屋、ポン引き、ソープランドのマネージャー、ヌードスタジオの経営、ブルーフィルムの撮影から、その演技者もしたこともあった。人として人生の底辺以下へ落ちた時、若い頃に捨てた、妻と娘の元を訪ねた。佐倉が離れた事で、疫病神が去ったのか、運が付いたようで、母親は、裕福な材木商と再婚し、娘は、都心で名の売れたレストランを経営していた。二人は、佐倉と再会した時、お前なんか人間じゃない、早く死んでしまえとニベも無かった。こうして、何もせず、寝床で寝ているだけの生活をしていた。佐倉という人間の存在は、社会生活に於いて認められていなかった。だから、佐倉が若い青年に、火事の中から救い出された事も知られなかった。島本の母と妹は、安全な場所に避難していて無事だった。 「雪の絶唱」 フィルムトリックもの。妻子のいる男と、不倫している女が妊娠した。生みたい気持ちはあるが、男からは、堕せと言われる。初め、自分ひとりで育てていく事を考えた。だが、堕すことにした。それは、男の妻も妊娠した事を知ったからだ。青春を犠牲にした愛を、裏切った男の正体を、見破ったのからだ。自分だけと言いながら、妻とも情交していたのが許せなかった。そして、女は、復讐する事にした。堕すのを認める条件として、男を飛騨の高山への旅行に誘い出した。男も美肉を、頬張り過ぎた税金のつもりで同行した。女は、人目を忍ぶため、行きも帰りも別の列車で移動しようと提案する。旅行から帰った男は、女が、まだ帰って来ていないのを不審に思う。そして、女が、飛騨高山の“飛騨の里”の中で、殺害された事を知った。女が所有していたカメラを現像してみると、明らかに男が女を殺害したと思える写真が出てきた。女は、旅行中、男に気付かれぬ様、巧妙に男が犯人であるかのようなスナップを撮っていたのだ。そして、殺された様に装って自殺したのである。列車を別けたのもそのためだ。命を賭けた復讐劇。 「死を運ぶ天敵」 三田は、大学農学部の研究室で、画期的な研究に成功した。リンゴやナシの害虫を駆除する、天敵となる良虫の開発に成功したのだ。大手化学肥料会社が、それを大量に生産する様になると、農薬に頼っていた、果樹園の経営者も、皆、この無害な“生きた農薬”を使い始めた。その事が、時の研究として、もてはやされ、三田は、マスコミの媒体から、たくさんの取材を受ける様になった。しかし、三田の過去には、どす黒い影があった。まだ、学生の頃、失恋したショックを癒すため、酩酊するまで酒を飲み、挙句の果て、たまたま居合わせた知らない男と意気投合し、路上に停めてあった車を盗み、運転して人を轢いてしまったのだ。死亡人身事故のうえ、酒酔い、無免許、盗難車と交通四悪を犯していたのだ。行きずりの犯行だったため、その時は、捕まることは無かった。一緒の男も、誰だか分からない。ところが、マスコミに頻繁に登場する三田の顔を見て、その時の男が思い出してしまったのだ。男は、害虫の様に、三田に纏わりつき脅迫した。三田の研究が、天敵を呼び寄せてしまったのだ。 「殺意開発公社」 公共用地取得を目的に設立された、開発公社を巡る不正取引問題を扱った話。二つのストーリーに別れる。この手の公社では、余りにも真面目過ぎて、頑固一点張りの者は、上役からは、嫌われるものである。そんな男、吉沢を懐柔するため、理事長と専務理事が共謀する。吉沢は、若い女が雨の日に傘を差し出してくれたので驚いた。妻しか知らない彼は、美しい女の魂胆を知らない。そして、真面目人間が、悪の仲間に入り込まされてしまう。二つ目。理事長グループは、31万平方メートルの土地を、相場より10倍も高く買い取った。それが、市民の投書によって発覚してしまう。理事長グループは、仲介会社を通して巨額のマージンを受け取るつもりだった。取引を実行した者に、捜査の手が伸びた。自分たちが関与している事が、表沙汰になっては困る。そこで、都合の良いように、殺されるか自殺してくれないかと考える。現実にもありそうな事。 「殺意中毒症」 永立薬品の経理課長、平松は、部下の行った仕事でも、完全に自分がチェックしなければ納得できない完全主義者だった。そのため、早朝出勤、深夜帰宅は、当たり前。休日まで返上して出社し、さらには、布団を持ち込んで、会社に寝泊まりするほどの異常さをみせた。だが、それは、一種の職業病で“働き中毒(ワーカ・ホリック)”である事が分かる。仕事を止めると、猛烈な不安に襲われる。その強迫症状から、逃れるために、仕事を止めることが出来なくなっていたのだ。永立薬品社長の妻、早苗は、夫に宛てられた、大量の私的な贈答品や文書の返礼書きをするため、休日には、社長室でその作業をすることを許されていた。社長室だと、送り主と会社との関係が調べ易かったからだ。だが、あろうことか早苗は、労働組合の書記長と親密な関係になってしまうのだ。大胆にも、社長室のフカフカなソファーの上で、奔放な宴を繰り返していた。平松も当然出社している。しかし、ある日、平松の部下が、平松のバックの中から盗聴器の様な物を発見して、社内は、大パニックになってしまう。 | ||||
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本書は、1976年12月に講談社文庫から初出版されたものですが、収録作は、すべて発表済みのものです。「燃えつきた蝋燭」は、「肉食の食客」(講談社1974年12月)に、それ以外の作品は、すべて「残酷な視界」(講談社1974年6月)に収められています。それらを再編集したものです。その後、角川文庫から再出版され、2013年7月17日にkindle化されています。 「魔少年」 大野宗一は、将来大人になったら恐ろしい犯罪者になると言われるほど、子供のいたずらにしては、悪辣ないたずらをした。例えば、横断遊びと称して、他の子供に走って来る自動車の直前ギリギリのところで道路を渡らせる。女の子が飼っていた猫を、生きたまま焼却炉に放り投げ、知らずに点火してしまった人によって焼き殺される。火事の発生しやすい季節に、クラスメート四人の女の子の自宅へ、火事見舞いの葉書を送りつける。送られてきた家では、火を付けられるのではないかと、不安でいっぱいになってしまう。熱帯魚が大好きな男の子に、良い餌が有るからと殺虫剤入りの配合餌を渡し、知らずに水槽に入れた男の子が飼っていた熱帯魚が全滅してしまう。これだから、大人たちも宗一には、とても用心していた。宗一は、父子家庭で、父は、交通事故の後遺症で身体に不自由があった。同じ町に住む、相良が宗一の父親を会社の守衛として拾ってあげた。拾われたと思っている、宗一の父親の働きぶりは、陰ひなた無かった。相良の息子、正男も宗一と同じ学校へ通い同じクラスだった。正男は、成績も優秀で品行も良く、誰からも認められていた。ところが、正男は、宗一を脅迫していた。お父さんに言いつけて、宗一の父親を会社から辞めさせてやると。正男は、ライバルの子供たちに悪戯をすべく、アイデアを考え出し宗一に実行させていたのだ。余りにも悪意に満ちたいたずらなので、捜査に乗り出した刑事によって、近所では優秀だと評判だった正男の本性が暴露される。 「空白の凶相」 井沢は、息子が三才になった頃から夫婦の営みに変調を来すようになった。その理由は、明らかで、襖一枚隔てた隣の部屋にいる息子が、起きているのではないかと感じるからだ。襖を細く開けて覗かれている様な錯覚を起こす。すると、たちまち不能になってしまうのだった。その原因は、過去に井沢が幼少の頃に受けた辛い体験によるものだ。実は、井沢は、幼少の頃に、両親の営みを見てしまったのだ。初めは、プロレスでもしているのかと思った。だが、奇声を発し、醜悪な動物が絡み合った様な図は、子供でも違う事がすぐに分かった。そのシーンが強烈に記憶として焼き付いてしまった。だが、その湧き出てくる記憶には、絡み合っている両親の顔が無いのだ。それがグロテスクな様を倍加させた。だから、今でも妻との交わりの最中に、少しでもその気配があると、顔の無い男女の絡み合いが、瞼の裏に表れ不能に陥ってしまうのだ。狭くて、まったくプライバシーが保証されなかった、古い日本式の住宅で起こる悲劇。 「燃えつきた蝋燭」 中野区弥生町の老朽アパートが全焼した。その焼け跡から、一人の焼死体と一つの動物の焼死骸が発見された。焼死体は、島本正和(20才)、動物は猫だと分かった。島本が、猫を救うため、火の燃え盛る中へ飛び込んだまま、一緒に焼け死んだと思われた。だが、事実は、全く違っていた。島本は、大工の見習いだった。親方に奉公して住宅新築修理の作業を手伝っていた、親方は、島本をすじがいいと可愛がり、二十才になったのを期に、一人の大工として認めた。大工としての手間賃をくれるのと同時に、建て方、組み立ての一切を任された。島本の父は、町工場を経営していたが、激しい経済競争に敗れ、工場は閉鎖し、間もなく死んだ。これまで、一家は、間借りの生活しかしたことが無く、島本は、一家の住めるマイホームを建てるのが夢だった。この日は、二十才を祝う式典が、区の会館で行われた。他の成人たちは、晴れ着を競い合い、盛り場へ繰り出して行ったが、島本は、老母と妹が待つアパートへ直帰した。そこで、アパートが火の海になっているのを見て、二人を助けるために飛び込んだのだ。佐倉辰二は、若い頃、散々悪い事をした罰か、身体がめっきり弱くなった。仕事は、勿論、身の回りの事もする気が起きず、寝床に寝たきりでいる。娘が一人いるが、二十三才の時、仲居をしていた女に産ませた子供である。三才に成った時、別の女ができた。家を出ようとするのを、行かないでと泣いて頼む母娘を足蹴にして家を飛び出した。妻や子を守れない男は、落ちる時は、落ちるところまで行ってしまう。その女とも、続かなかった。競馬のノミ屋、ポン引き、ソープランドのマネージャー、ヌードスタジオの経営、ブルーフィルムの撮影から、その演技者もしたこともあった。人として人生の底辺以下へ落ちた時、若い頃に捨てた、妻と娘の元を訪ねた。佐倉が離れた事で、疫病神が去ったのか、運が付いたようで、母親は、裕福な材木商と再婚し、娘は、都心で名の売れたレストランを経営していた。二人は、佐倉と再会した時、お前なんか人間じゃない、早く死んでしまえとニベも無かった。こうして、何もせず、寝床で寝ているだけの生活をしていた。佐倉という人間の存在は、社会生活に於いて認められていなかった。だから、佐倉が若い青年に、火事の中から救い出された事も知られなかった。島本の母と妹は、安全な場所に避難していて無事だった。 「雪の絶唱」 フィルムトリックもの。妻子のいる男と、不倫している女が妊娠した。生みたい気持ちはあるが、男からは、堕せと言われる。初め、自分ひとりで育てていく事を考えた。だが、堕すことにした。それは、男の妻も妊娠した事を知ったからだ。青春を犠牲にした愛を、裏切った男の正体を、見破ったのからだ。自分だけと言いながら、妻とも情交していたのが許せなかった。そして、女は、復讐する事にした。堕すのを認める条件として、男を飛騨の高山への旅行に誘い出した。男も美肉を、頬張り過ぎた税金のつもりで同行した。女は、人目を忍ぶため、行きも帰りも別の列車で移動しようと提案する。旅行から帰った男は、女が、まだ帰って来ていないのを不審に思う。そして、女が、飛騨高山の“飛騨の里”の中で、殺害された事を知った。女が所有していたカメラを現像してみると、明らかに男が女を殺害したと思える写真が出てきた。女は、旅行中、男に気付かれぬ様、巧妙に男が犯人であるかのようなスナップを撮っていたのだ。そして、殺された様に装って自殺したのである。列車を別けたのもそのためだ。命を賭けた復讐劇。 「死を運ぶ天敵」 三田は、大学農学部の研究室で、画期的な研究に成功した。リンゴやナシの害虫を駆除する、天敵となる良虫の開発に成功したのだ。大手化学肥料会社が、それを大量に生産する様になると、農薬に頼っていた、果樹園の経営者も、皆、この無害な“生きた農薬”を使い始めた。その事が、時の研究として、もてはやされ、三田は、マスコミの媒体から、たくさんの取材を受ける様になった。しかし、三田の過去には、どす黒い影があった。まだ、学生の頃、失恋したショックを癒すため、酩酊するまで酒を飲み、挙句の果て、たまたま居合わせた知らない男と意気投合し、路上に停めてあった車を盗み、運転して人を轢いてしまったのだ。死亡人身事故のうえ、酒酔い、無免許、盗難車と交通四悪を犯していたのだ。行きずりの犯行だったため、その時は、捕まることは無かった。一緒の男も、誰だか分からない。ところが、マスコミに頻繁に登場する三田の顔を見て、その時の男が思い出してしまったのだ。男は、害虫の様に、三田に纏わりつき脅迫した。三田の研究が、天敵を呼び寄せてしまったのだ。 「殺意開発公社」 公共用地取得を目的に設立された、開発公社を巡る不正取引問題を扱った話。二つのストーリーに別れる。この手の公社では、余りにも真面目過ぎて、頑固一点張りの者は、上役からは、嫌われるものである。そんな男、吉沢を懐柔するため、理事長と専務理事が共謀する。吉沢は、若い女が雨の日に傘を差し出してくれたので驚いた。妻しか知らない彼は、美しい女の魂胆を知らない。そして、真面目人間が、悪の仲間に入り込まされてしまう。二つ目。理事長グループは、31万平方メートルの土地を、相場より10倍も高く買い取った。それが、市民の投書によって発覚してしまう。理事長グループは、仲介会社を通して巨額のマージンを受け取るつもりだった。取引を実行した者に、捜査の手が伸びた。自分たちが関与している事が、表沙汰になっては困る。そこで、都合の良いように、殺されるか自殺してくれないかと考える。現実にもありそうな事。 「殺意中毒症」 永立薬品の経理課長、平松は、部下の行った仕事でも、完全に自分がチェックしなければ納得できない完全主義者だった。そのため、早朝出勤、深夜帰宅は、当たり前。休日まで返上して出社し、さらには、布団を持ち込んで、会社に寝泊まりするほどの異常さをみせた。だが、それは、一種の職業病で“働き中毒(ワーカ・ホリック)”である事が分かる。仕事を止めると、猛烈な不安に襲われる。その強迫症状から、逃れるために、仕事を止めることが出来なくなっていたのだ。永立薬品社長の妻、早苗は、夫に宛てられた、大量の私的な贈答品や文書の返礼書きをするため、休日には、社長室でその作業をすることを許されていた。社長室だと、送り主と会社との関係が調べ易かったからだ。だが、あろうことか早苗は、労働組合の書記長と親密な関係になってしまうのだ。大胆にも、社長室のフカフカなソファーの上で、奔放な宴を繰り返していた。平松も当然出社している。しかし、ある日、平松の部下が、平松のバックの中から盗聴器の様な物を発見して、社内は、大パニックになってしまう。 | ||||
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