(短編集)
裂けた風雪
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本書は1975年10月に講談社文庫から出版されました。収録作は、すでに発表されたもので、短編集「レジャーランド殺人事件」「殺意の接点」から選ばれ再編集されたものです。 「裂けた風雪」 長野県O市の菱井銀行O支店に勤める緒方正弘は、初めに入社した時、東京都心の支店に配属されたが、彼の性格が災いして、この地方に飛ばされた。緒方は、人からものを頼まれると断れない性質を持っていた。都心の支店の時、支店長が顧客から受け取った手形が不渡りになった。支店長が、裁量貸出しと言われる、自分の貸金の枠から貸し付けたものだ。支店長は、不渡りの通知を受けると緒方呼び「これは君が、騙されたことにしてくれ」と因果を含めた。その結果、緒方は、O市へ飛ばされたのだ。ところが、緒方は、学生時代からやっていた登山が、やり易くなったと喜ぶほどの、おめでたさだった。その支店に、二宮豪造から緒方宛に集金の依頼が来た。O市は、後立山連峰の登山口として知られている。二宮は、北アルプスG岳に樽ヶ岩山荘を経営していた。登山ブームによる登山人口の増加で山小屋は、大きく増収していた。山小屋は、宿泊を求められたら断れない。宿泊を断ったら、人命事故にもなりかねないからだ。横になるどころか、座れれば良いほうで、立って寝ている者もいるほど満杯になった。その高峰にある山小屋の大金を、回収に行くのが緒方の仕事だったのである。元々、緒方は、登山の経験があり、仕事半分趣味半分の気さくな対応から、二宮から信頼されていた。支店長も、そういう事情から緒方に許可を出した。ところが、通常なら一泊二日の日程で集金に行くのだが、この日は、「午後二時までに来てくれ」と二宮は言う。いつもよりも少し集金日が早いな、と思いながら、二宮から集金した売上金を持って帰社した。そして翌日知ったのは、その日、O市駅前で旅館を経営している有力実業家堀田英作がG岳に通じる砂防ダムから落ちて死んでいたと言う事だ。堀田は、山荘経営にも食指を伸ばし、厚生省の許可を得て、いよいよ来年にも建設が始まる予定だった。新しい山荘が出来たら二宮も困るだろうなと思っていた緒方は、まさかと思った。警察も山荘建築を妨害する動機を持つ二宮に事情を聞く。だが、二宮は、その時間に緒方と会っていてアリバイがある。断れない性格が、アリバイ作りの証人まで引き受けてしまった。 「殺意の接点」 上野発、仙台行の寝台列車“新星”の車掌、砂村儀助は、午前五時の車内パトロールの時、異常に気が付いた。通路の左端に、赤黒い粘着状の物を捉えたからである。死亡していたのは、日本最大芸能プロダクション“キクプロ”のコミックバンド「バースターズ」リーダー葉村実だった。地方出の佐竹浅次は、東洋映画の新人募集に合格し、俳優の名が付いたが、陽の目を見ることは無かった。大部屋のメシを食いながら、馬から落ちたり、崖の上から落ちたり、そんなシーンの代役を務めていた。佐竹を唯一励ましたくれたのは、同郷で妹の様な朝日奈リカだった。誰しも幼少の頃は、たった数才年上なだけで、その人に憧れてしまうことがある。リカも正に、そうだった。「大人になったら浅次さんのお嫁になる」と言って周りの大人たちを微笑ませた。リカは女学校を終えると、浅次を頼って上京する。内面の優しさと知性を備えていたリカは、(浅次は、あまり気乗りしなかったが)彼の口利きでファッションモデルクラブ“ビューティー企画”へ入った。入会すると、たちまちリカの知的な美貌と、日本人離れした均整のとれた肢体で、同クラブ若手随一のホープになったのである。更に、大手化粧品メーカーのCMに起用され、それが好評で国民的スターとなった。浅次は、リカが遠い処へ行ってしまったのを感じずにはいられない。そんなリカに食指を伸ばしたのが、人気絶頂のコミックバンド、バースターズのリーダー葉村だ。葉村にとって、右も左も分からないリカを、手玉に取ることなど、赤子の手をひねるよりも簡単だった。二人は、隠れて交際した。ところが、葉村は、リカを同乗させた車で大事故を起こしてしまう。リカは、タレント生命を失うほどの重症を負った。浅次は、テレビでそのニュースを知り、もう我慢できなかった。佐竹に激しい殺意を抱く。上野発、仙台行の列車と群馬県沼田行の列車は、ホームも別々で、3分差で出発するが、浅次は、二つの車両が大宮で別れる直前、貨物線上で並行して走るという接点を知っていた。また自分は、スタントのプロでもある。その時に、このトリックを考えたのだ。 「“自殺”殺人事件」 兜町の二流の部類に入る、証券会社に勤める中川栄子は、意地の悪い女だと言われていた。デパートの特売所で、血眼になって特価品を漁っている母親を見つけては、子供を誘い出して、別の売り場に置き去りにし、母親が半狂乱する姿を見るのが、面白くて仕方がなかった。栄子は、同じ会社に勤める藤木武男と交際していた。すでにオールドミスと言われる栄子だったが、藤木が顧客から預かったお金で思惑(会社に預けないで、自分の判断で株式を売買すること)を張ったところ、大損を出してしまった時に、経理担当の栄子が穴埋めの資金を貸したのが切っ掛けとなり、男と女の関係になったのだ。藤木は、安サラリーで、借金を返せない。そこで、考えたのが栄子を懐柔して、借金をうやむやにしてしまおうという事だ。その事により、二人の交際が始まったのである。だが、悲劇は、藤木が日本橋の貿易会社に勤める、水原則子との出会いから始まる。則子の父親は、区立の中学校の教頭で資産家では無いが、間違いのない相手だ。両家にも異存は無く、半年ほど後に婚約が成立した。藤木は、これで困った事になってしまった。栄子の存在である。そこで、栄子は絶対殺さなければならないという巨大な思想が頭の中に膨らんできた。そして、完璧な殺害方法を考え出し、栄子のアパートに行くのだ。ところが、扉を開けるとロックもしていない。不審な気持ちで中に入ると、栄子は目を開いていたが、冷たくなった体で横たわっていた。死んでいたのだ。勿論、藤木は、何もしていない。ところが、捜査官が部屋の隅々まで調べると、藤木が殺害に関与していた証拠が次々と発見されるのだ。藤木は、そう言われても全く覚えが無い。詳しくは控えます。栄子は、藤木の裏切りを知り、藤木が自分(栄子)を殺したという証拠を数々残して自殺したのです。 「供血殺人事件」 佐橋忠太と大井正造が、殺し合いの喧嘩をして死んでいるのが発見された。佐橋は、“佐橋供進協会”の会長で、大井は、そこのタレントだった。社会事業団体の様な名前であるが、事業内容は、人間の生き血の斡旋である。勿論、現在では廃止されている。昭和二十六年、手術などの時に、必要な血液を確保する目的の商業血液銀行が発足した。当時の主な供血方法は、売血(血液を金銭で買い取る)である。通常は、供血してくれる人を待って血液を入手するのだ。だが、佐橋は、独特の営業政策を行っていた。それは、自分の自宅の隣にプレハブの寮を建てて、そこに供血者(佐橋は、タレントと呼ぶ)を住まわせるのだ。そのプレハブは清泉寮と呼ばれ、6人のタレントが住んでいた。仕事は、何もしなくてよい。その代わり、血液が必要になった時、供血に応じればよいのだ。その上、金銭の授与もある。普通の人なら考えられない事だが、彼らは、金銭を得ることは勿論だが、供血する際に注射を打たれ、血を抜かれていく瞬間に快感を覚えるといった、マゾヒスティックな一面も持っていた。血を取る者と、血を与える(売る)者の両者が争った跡は、まさに血の海と言う形容がぴったりの凄惨な状況だった。その後の警察の捜査によって、二人の醜い憎悪が露見されていく。 「レジャーランド殺人事件」 那須高原八百メートル地点にある、那須レジャーセンターは、大手私鉄資本が建設した、東日本最大の総合レジャーセンターである。そのレジャーセンターで圧倒的な人気を博しているのが“ファンタマラ=ファンタスティック・パノラマ”だった。全長700メートルの水路に導かれ、二人乗りの小舟(ゴンドラ)で巡る洞窟体験が幻想的な世界を創り出し、特に若いカップルにうけた。秋のシルバーウィーク期間であったため、家族連れやアベックで大混雑していた。小栗ヨシノが、そのゴンドラを見た時、終電を乗り過ごした酔っ払いが乗っているのかと思った。だが、よく見ると、ゴンドラの下が真っ赤に染まっている。殺傷力のある凶器で殺されたのは、一目瞭然だった。ファンタマラは、屋内型の施設で、外部から入って犯行を行うのは不可能だ。ゴンドラの乗り降りは、小栗ヨシノが、流れてくるゴンドラを待っては、次の客を順序良く乗せていくので、途中で割り込んだりは出来ない。駆け付けた警察によって、残された乗客が調べられたが、犯人と疑われる人物は、存在しなかった。そこで、世にも奇妙なファンタマラ全体が密室となった、殺人事件の捜査本部が設置されるのだ。この話は、密室殺人のトリック崩しもの。現在とは、かなり状況も違っているので、トリックの良し悪しは考えても意味が無い。素直に楽しみたい。 | ||||
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