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彼女について知ることのすべて



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彼女について知ることのすべての評価: 4.00/5点 レビュー 10件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.00pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全10件 1~10 1/1ページ
No.10:
(5pt)

(2025-11冊目) 事件によって左右された人々の人生の揺らぎを詳細に描いていくドラマ

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 1984年、ロサンゼルス五輪が開催された年の夏のある夜、小学校教師の鵜川(うかわ)勤は人を殺しに車を走らせていた。だが、突然の停電によって進路を阻まれてしまう。その間に、鵜川を抜きにして事態は展開してしまっていた……。

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 佐藤正午の1995年の長編小説です。
「その夜わたしは人を殺しに車を走らせていた」という不穏きわまりない一行で幕を開けた物語は、1984年の出来事を回想する8年後(1996年)の鵜川勤の一人称で語られていきます。
 語られていきます、とは言ったものの、佐藤正午の作品は一筋縄ではいきません。物語はそもそもの始まりから語られるわけではなく、事が起こってかなりの時間が経過した時点から説き起こされるため、登場人物相互の人間関係も曖昧なまま進行しますし、過去に発生して現在に大きな作用を及ぼしている事件なり事故なりはおぼろげに言及されるばかりです。事件の発生経緯なり手口なりが描かれるのが真正のミステリだとすれば、この小説はまさに何が起こったのか、起こっているのかを解明していくミステリといえます。
 いえ、これはミステリ小説というよりは、事件によって左右された人々の人生の揺らぎを詳細に描いていくドラマ作品であり、そしてその芯は男女のひりひりするような性愛の物語なのです。
 
 一小学校教師である鵜川の人生には様々な人々が出たり入ったりします。同僚教師の笠松三千代、その学生時代の後輩である看護師の遠沢めい、教え子で家出少女めいた時田直美、その母である圭子、父の弟子にあたる競輪選手の杉浦洋一、遠沢とは切っても切れない縁にある真山光男、真山の使い走りの富永、事件を担当する弁護士の稲村京子、造園業者の神田老人、下宿人となる高校生の里子――名前を覚えるだけでも大変な数の人々がふたつの時系列で入れ替わり立ち代わり鵜川の人生と交錯していきます。

 佐藤正午の小説をかなり読んできた私は、佐藤作品は「縁(えにし)の文学」だと考えています。人間は生まれてきた瞬間にはせいぜい両親や祖父母、兄弟姉妹といった身近な家族としか縁がありません。長ずるにつれて思いもよらなかった人々との友情や知己を得て転換していくのが人の一生です。この小説の鵜川も、校舎内の職場の同僚という円を超えて縁付いていった人々との間に、厄介でありながら切り離し難い関係を結んでいき、どんどんと人生はねじれ、よじれていきます。
 気付いたときにはもうあの頃には戻れないところまで来ています。犯罪に手を染めようが染めまいがです。

「人生は多く試み多く取った者の勝ち」(178頁)
「人に与えられた時間は同じだから、少しでも眠る時間を短くして、目覚めていれば、それだけ大勢の人に会えるチャンスをつかめる」(同頁)

 そんな人生の真相をするどく読者につきつけてくる佐藤作品が好きでたまりません。

 あれから8年が経過した今に生きる鵜川が、この先の8年、16年をどう生きるのか/生きたのか。読者に託される最終場面が実に美しい幕切れです。
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彼女について知ることのすべて (光文社文庫)Amazon書評・レビュー:彼女について知ることのすべて (光文社文庫)より
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No.9:
(4pt)

ストーリーよりも、巧みなプロットに妙

順序だてて説明してしまえば、短編になってしまうかもしれない痴話殺人話。

だけど話の筋が断片的に倒置されているから、全体像を把握するのに手間がかかる。そして、この手間が面白いと思わせるのがこの作家の真骨頂でにも通じるものがある。

ストーリーよりも、巧みなプロットに妙があるのだ。
彼女について知ることのすべて (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:彼女について知ることのすべて (集英社文庫)より
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No.8:
(2pt)

うだうだ感

「身の上話」が良かったので、楽しみにしてましたが、うだうだした主人公に魅力を感じられず、読み進めるのが、若干苦でした。
彼女について知ることのすべて (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:彼女について知ることのすべて (集英社文庫)より
4087470083
No.7:
(5pt)

不思議な魅力、なのかな 魔力?

何か今年の8月はうんざりした陽気、に似合った展開、私の若い頃の風景のよく知ってる、私の全然知らない風景のよく知ってる作家、のうだうだした展開こんな展開うんざりだと思い思い、お盆の前後からこれまで読んでしまった記録的な雨の8月。の中でもこれは読みごたえがあった。
少しおごったくらいでは人はこんな話してくれないから、連休にすこし何か買ってみたくなった私の買い物としては良いのか悪いのか。映像にしたらとても出せない、読んだだけでも、きかせられない当時の常識というか、反常識。お皿にものせられない事柄の思い 、の重み。うだうだと行きつ戻りつ、のはなしの内に、時おりピーンと澄みきってくる細々。時おり、ほんの時おり、振り返ってみてしまう。そんなお話。魅力、なのかな。
彼女について知ることのすべて (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:彼女について知ることのすべて (集英社文庫)より
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No.6:
(5pt)

佐藤正午ワールドの好きな人へ

佐藤正午ワールドが好きな人でないと、読むのがつらいかもしれません。私は、この独特のドライな感じの文体が好きですのでとてもおもしろく読みました。以前、新刊の時にも読んだと思うのですが、今回あらためて読みました。
彼女について知ることのすべて (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:彼女について知ることのすべて (集英社文庫)より
4087470083
No.5:
(3pt)

面白いはずなのだが

この本をわかりにくいとする人がいるであろう。 小説に描かれた舞台の地理と時代の理解はこの本を「楽しむ」のに必須である。 多くの離島によって構成される長崎県を想定すれば,地方中核都市と離島との関係,教員の離島勤務,生徒の下宿の意味も容易に理解できる。 1984年のロサンゼルス・オリンピックと8年後の1992年のバルセロナ・オリンピックを同時代として経験した人であれば,時代の切り替えもわかりやすい。 私はこの2つの理解の条件を満たす。 めったに小説を読み通せない私に読了させてしまったのだから,著者の力量は大変なものであろう。 しかし,面白いという読後感がないのはなぜか。
彼女について知ることのすべて (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:彼女について知ることのすべて (集英社文庫)より
4087470083
No.4:
(4pt)

買って良かったです。

ヒューマンな基調が良い。 人間愛は常に持ち続けないとと思います。
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No.3:
(5pt)

佐藤正午さんのベストです

どちらかというと、エンタテイメントの方に行ってしまった佐藤正午さんですが、この作品は、佐藤正午さんがもともと持っていた純文学性をいかんなく発揮された作品だと思います。確か、この後に「Y」や、「ジャンプ」といった、名作が書かれたものと記憶しています。
本作品は、面白くはありません。
読み終わってスカッとするようなオチ、というか辻褄が一気に混ざり合うようなエンディングがあるわけでもありません。
ただ、一人の男のことが、克明に、丁寧に描かれています。そして、この男がどうしようもなく惹かれてしまった女のことも。
いつしか、自分もこんな恋に巡り合うことができるのでは、いや、巡り合ってみたい、と思わせる話です。
少し危険な恋ではありますが。

王様の結婚に納められた「青い傘」や、短編集「夏の情婦」が好きな方であれば、気に入っていただける作品です。

男の、どうしようもなさが、どうしようもなく丁寧に描かれています。

重厚な、純文学です。
彼女について知ることのすべて (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:彼女について知ることのすべて (集英社文庫)より
4087470083
No.2:
(2pt)

「身の上話」の後に読んだので・・・。

時制がはっきりせず、展開が読めず、良く判らなかった。「身の上話」は素晴らしい本だったので、それ以前に書いた本にも期待しましたが、
残念ながら外れました。どんなに読んでも、訳が分からず、読み切っただけの本になってしまいます。作者はそれが狙いだったのでしょうが、
拘りが強すぎた感は否めません。
彼女について知ることのすべて (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:彼女について知ることのすべて (集英社文庫)より
4087470083
No.1:
(5pt)

知ることのすべて

 過去に単行本と文庫で出版済みの作品だが、今回装いも新たに光文社文庫で帰ってきた。以前読後に頭の中に広がっていた雪の光景が、今回は表紙を飾っている。
 冒頭「人を殺しに」という言葉の入った一文で始まり、殺人事件に関わった主人公の話かと思わされるのだが、実際殺人事件よりも彼が関わった人々や彼のたどった道のりが展開されていく。目次を見てみれば「冬・春・夏・秋」と季節を順にめぐった1年の話のようであるが、実はその季節季節を数年生きてきたあれこれが入っていて、主人公が些細なことで過去を思い出し、また現在に戻るというような、実際生きていて過去を反芻し続ける日常のように綴られていくのである。
 地味に予定通りの人生を送ったかもしれない主人公が、ほんとうに些細なきっかけでどんどん人生の道を違えていく様子はあざやかで、誰にもどんなことにも些細な事が影響しているんだと思わされる。いつもと同じ日と思っても、噂話に行ってみた場所から始まる恋もあるかもしれないし、ほんの一瞬に決心したことが未来をつくるかもしれない。そんな人生の不思議を感じながら、主人公の思いを全編で感じ取れる小説だ。
彼女について知ることのすべて (集英社文庫)Amazon書評・レビュー:彼女について知ることのすべて (集英社文庫)より
4087470083

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